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本格稼動を始めた工房を背景に <C299>

98話目で総合評価が4000ポイントを越えました。ありがとうございます。

さて、この回は、夏向け製品を対象に工房での活動が軌道に乗り始めた、という話になります。

ただ、工房で起きるであろうトラブルと解については、書き始めるとおそらく数話(下手すると10話以上)になってしまうことや、反例を提示されると筆者の性格上実験確認したくなること、記述がごく一部の読者にしか受けないであろうこと、などなどの理由から割愛することとしました。ご容赦ください。

■安永7年(1778年)3月18日~20日 金程村・工房


「今日は新しい割り振りを考えたので、それに従って作業をしてもらう。

 まず、木炭を粉炭にする作業について、午前中は中止する。

 午後、昨日の寺子屋組の粉炭作りを担当した人だけで6俵分の粉炭を作ってもらう。

 その代わり、義兵衛さんが指導して七輪外殻・卓上焜炉の作成に従事してもらう。

 粉炭を捏ねる作業は左平治を担当とする。消費される量に気をつけて捏ねて欲しい。

 小炭団は昨日と同じように万福寺組の二人で作ってもらいたい。

 検査・乾燥室・製品収納庫の作業は、今まで同様に種蔵と金程の新人1人に頼みたい。

 米と梅は、七輪を作ってもらいたい」

 助太郎はこう号令する。

 そして、当の助太郎は、強火力練炭の作成に着手した。


 義兵衛は、細山村の新人3人と下菅村の新人2人の計5人の男を相手に、粘土を捏ねるところから指導を始める。

 細山から来た3人は焼き物を作った心得があるため、図面と見本を見せるとその通り卓上焜炉を作り始める。

 下菅村の2人については心得がないため、義兵衛が外殻作りを細かく指導した。

 一刻ほど作業をした後、一息入れて意見交換を行った。

 特に問題はないが、寺子屋卒業組は複数の作業を担当させるため一部担当の入れ替えを行った。

 そして、さらに一刻ほどたって大休憩に入る。

 午前中の成果を確認する。


・小炭団:1530個(12288文)内6個不合格

・卓上焜炉:12個(1200文)

・七輪:8個   (8000文)

・七輪外殻:6個

・強火力練炭:8個(1280文)

・消費木炭:15.3貫(3.9俵)


 まあ、充分な成果と言えよう。

 しかし、小炭団の数量は寺子屋組が入ってどれくらい増産できるかだ。

 賑やかな声で、寺子屋組の全員18人が入ってくる。


 大休憩の後、新しい割り振りに従って各自が作業を始める。

 取り分けた炭の量が少ない件は、特定の作業者が原因で、想定通り天秤が落ち着く前に通過させていたことが判明した。

 そして、天秤が落ち着くまでゆっくり心で十数える方法を伝えてから、改善された。

 午後の成果を確認する。


・小炭団:2484個(19872文)内76個不合格

・卓上焜炉:18個(1800文)

・七輪:10個   (10000文)

・七輪外殻:8個

・強火力練炭:8個(1280文)

・消費木炭:25.6貫(6.4俵)


 まだ2日目だが、これで習熟度を上げていけばどうにかなりそうな感触だ。

 ならば、後は助太郎に任せよう。

「3月21日に、一度登戸村へ行く必要がある。

 七輪外殻と卓上焜炉、強火力練炭、小炭団を持っていこう。

 明日、出来上がった焜炉と七輪、外殻を焼いてくれないか」

「まあ、良いでしょう」

「ついでに、この騒動になる前に乾燥させていて出来上がったものがどれ位あるのか教えてくれ」

「製品収納庫・乾燥室にあるのは、次の通りです。


・普通練炭:16個

・薄厚練炭:336個

・炭団:3488個

・小炭団:1280個、乾燥中6183個

・強火力練炭:16個

・焼待七輪:18個、乾燥中七輪:21個

・焼済卓上焜炉:4個、乾燥中卓上焜炉:45個

・乾燥中七輪外殻:17個


 明日になると、焜炉15個と外殻3個は焼ける状態になりますよ」

「明日からは、畑関係の相談をするので工房へ来れないので、承知しておいてくれ。

 それから20日の午後には、持って行く数量を確認したい。

 あと、焜炉と外殻に秋葉大権現様の焼印を押しているが、この了解を取りに近々大丸村へ行く必要がある。

 今回は無理かも知れないが、助太郎も一度一緒に来てもらいたい。

 あそこは木炭加工以外のことでも大事な拠点になる可能性がある。

 僕が見るところ、切れ者の芦川貫次郎さんという方が居る。

 是非関係を深く結んでおくべきだ」

 義兵衛の言葉に助太郎は深く頷いた。


 そして、この後2日間で工房の作業は安定し、順調に生産を伸ばしていった。

 色々とゴタゴタもあったし、人の軋轢もあったようだが、助太郎と米が上手く抑えこんだ。


 最終的に20日の夕方には、製品収納庫には次のものが積みあがっていた。

・普通練炭:16個

・薄厚練炭:336個

・炭団:3488個

・小炭団:7463個、乾燥中15049個

・強火力練炭:16個、乾燥中16個

・七輪:21個、焼待:0個、乾燥中:34個

・卓上焜炉:19個、焼待:30個、乾燥中60個

・七輪外殻:3個、焼待:14個、乾燥中:16個

 小炭団はだいたい日産8000個できる感じで、習熟度が上がればもう少し増えそうだ。


 乾燥中のものも入れれば、小炭団は2万個と少しあり、3月末に10万個という生産目標は充分達成できそうだ。

 ただ、生産していない普通練炭、薄厚練炭、炭団はもう増えていない。

 ある程度目処が立てば、秋口に出す本命の練炭の方にもリソースを割り振らないといけないのだ。

 本格的になればなるほど減る木炭と、収入の目処がない金程村はキャッシュ・イン・フローがないまま原料確保を余儀なくされ、早晩、資金ショートして倒産する状態になる。

 これをなんとかするために、義兵衛は登戸に行き加登屋さんを頼ることになる。

 足を伸ばして、溝口や小杉、場合によっては江戸行きで知り合った、品川宿の大増屋さんの所に売り込みに行くことも考えよう。


 焜炉は、萬屋さんの戦略動向を気にする必要があるが、料理用七輪なら大丈夫なはずだ。

 今回、見本を持って行って、小料理店仲間に披露してもらう段取りを付ければいい。

 そこで見せる見栄えのする料理はどうしよう。

 もう殆ど意識は同化しているような感じだが、やはり思念を強くしないと義兵衛さんには伝わらないようだ。

『義兵衛さん、フライパンを使った料理はどうだろう。

 中華鍋の小型版で底が平たいものだが、これでオムライスを作って見せると面白いのじゃないかな』

「竹森様、フライパンとオムライスが判りません。

 料理道具なら鍛冶屋の所で、実際の料理なら加登屋さんの所で作ってもらえませんか」 


 オムライスは自分の手で作ったことがないので、何度か試す必要がありそうだ。

 ケチャップが無いけど、野菜を煮込んでソースを作れるかな。

 もしくは醤油でどこまでいい味が出せるか、だが結構難しそうだ。

 マヨネーズ、卵と酢と油が原料だけに作れる可能性が高い。

「もしもし、竹森様。

 判らない言葉が溢れてきていますよ。

 まあ、いいです。登戸で仲良くやっていきましょう。

 頼みますよ」


 順調に動き始めた工房を背景に、次のステップへ踏み出していくのだった。


新人と工程変更のトラブルや危険行為対策は、思い切ってカットしました。あと少し炭編が続きます。(本当にあと少しなのかは??です)

次回4月30日0時投下分は、100回目となります。そして登場人物整理の回とさせてください。

感想・コメント・アドバイスなどお寄せいただければ嬉しいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] オムライスにマヨ入れる人ですか。それはともかく、作ったばかりの鉄フライパンでオムライスは無謀です
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