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工房で作戦会議・えっ「向原」って何ですか <C252>

あてにしていた竹炭が没になりましたが、他から買うという手段で乗り切ろうとしています。

そして「向原」。超地元ネタですが、新百合をご存知の人はバスの行き先で聞いたことのある地名ですよね。


 お手伝いに来ている娘二人への指図が終わると、助太郎と義兵衛は打ち合わせに入る。

 とは言っても、部屋の奥の工作台を挟んで立つだけなのだが。

 白湯の入った湯のみを持ち、ゆっくりと湯をすすり喉を潤す。


「まず、昨日大丸村に行ってきた結果から説明しよう。

 秋葉さんの焼印を七輪につける方針はだいたい了解された。

 ただ、初穂料はいくらにするかは、実物を見てからの交渉となる。

 そして、大丸村の芦川家で、七輪と練炭を小売したい旨の希望が出た。

 登戸村の加登屋さんと同じ位置づけだ。

 ただ、販売領域は、大丸村周辺そこから北に行った府中街道を中心にしてもらう。

 ここでも蔵を借りれそうだ。

 また、代金は余力があれば米で支払うことの合意も取れている。

 金程村と大丸村の距離は約2里(=8km)なので、登戸村よりも近い。

 これが、大体の状況だ」


「そして今朝、今春竹炭窯は起せないという話を父・百太郎から聞いた。

 そこで、生産見込みを確認し、場合によっては他の村からザク炭を購入することを考えたい旨の申し入れをした。

 練炭作りのキモは、粉炭をねる時の配合と、型抜き作業と考える。

 今、ねた粉炭が潤沢にあるとして、型抜き作業は一日でどの程度の個数できるかを確認したい。

 ここを核にして、前工程を考え、必要な粉炭量を算出しよう。

 場合によっては、水車が軌道に乗るまで、人足をやとって粉炭を作れば良い」


「型抜き作業は、よねうめなら一人でだいたい100個は作れます。

 従い、今の人員で200枚はいけるでしょう。

 4枚重ねの普通版なら、寺子屋組で作業できます。

 使う粉炭は、そうですね、4俵(=60kg)という所でしょうか。

 ただ、4俵分の粉炭を一度に捏ねる作業は酷ですよ。

 型抜き作業より、粉炭を捏ねる作業を朝1俵、昼1俵としてそれぞれから半日で50個。

 一日の生産上限を薄厚100個として定めてはどうでしょう」

 失敗するものもあるので、標準寸法を16個、薄厚物を32個といった所だろう。

 一日2俵のザク炭を使うというのも衝撃的だ。


 考えながら数字を紙に書き出し、お互いの認識を揃える。

 登戸村の炭家で標準最低価格150文=3750円としたが、この場合村の取り分は7割の105文=2625円。

 計算しやすく、100文=2500円で考える。

 全部標準寸法で24個生産できると、2500文=約6万円の売り上げ分になる。

 対して、原料のザク炭は2俵で400文=約1万円。

 従い、ざっくりと一日2000文=5万円の利益と考えて良い。

 年間310日稼動させると、155両=1550万円になり目標達成できる。

 原料となるザク炭は620俵=9300kg、作られる標準寸法練炭は7440個(薄厚だと30000個程度)。

 なる程、助太郎の生産上限は妥当だ。

 最低価格でなく売れるのであれば、その分利益があがると見て良い。


 毎日2俵のザク炭を粉炭にするのに、水車を使わないとすると、大人が1日かかると見て良い。

 人手を借りて埋めると、一日あたり100~200文かかるが、計算しやすく省いた1個5文×20個で賄える。


「よし、他の村からザク炭をどんどん買い込もう。

 まずは、細山村からだろう。

 そして、粉炭を作る作業も、外から人を借りてこよう。

 名主・百太郎さんに相談して直ぐにでも動こう」

 義兵衛は具体的な数字がまとまったことを受けて、そう宣言した。


「ところで、七輪の生産のほうはどうなっている」

「七輪は、今のところ俺しか作れません。

 何もなければ、一日あたり2個は作れますが、こちらも原料不足になっています。

 作ってから5日以上たった七輪が10個~15個になったら、焼き上げることにしています。

 ところで、七輪はどれ位の値段にするのですか」

「難しいところだが、600文(=15000円相当)を狙っている。

 内、焼印で30文位は納める格好になるだろう。

 一応、1個あたり5文とは言ったが、売値の5分くらいは言ってくるだろうと覚悟している」


 大丸村で、江戸が狙いと風呂敷を広げた割りには、2桁位小さい数字で考えねばならないのは情けないことだ。

「七輪をもう少し、せめて倍の一日4個作るようにはできないかな」

「米か梅の手が半分空く感じになるので、3個までならなんとかなるかも知れない。

 寺子屋組の近蔵を、手伝い専門に持ってこれれば、まあ4個にはできるかも知れない。

 後、寝泊りを工房でしてもらうと、それだけでも助かるかな。

 食事は、家で5人分増やすことでなんとかできると思う。

 ただ、七輪を焼く燃料が不足してくる。

 乾燥までは、ここの工房で済ませて、焼くところは細山村にお願いできないかな。

 10個~15個単位で焼くのではなく、規模を大きくして25個~40個で1回焼くということでもいいと思う」

 10日毎に1回焼き上げして、30個平均して出てくるという感じなら、まあ良いか。


「細山村との共同作業が増えてくるなぁ。

 細山村で木炭を作っている山と、金程村で木炭を作っている場所は、実は結構接近しているんだよなぁ」

 助太郎のその言葉に閃いた考えを、俺は義兵衛に伝える。

 ギョッとしたように、義兵衛は直立・硬直した。

 その硬直を解いてから、義兵衛は助太郎に伝える。

「木炭を作る地域だけ、それぞれの村から出してくくり直し、共同地域という形で治めてはどうか。

 そう思兼命様が伝えてきた。

 『向原むかいはら』という地域名にしてはどうか、という指定まであった。

 そこでの原資や利益をどう村に分配するのかなど、難しい問題はあるかも知れないが、同じようなことを村単位で分けて作業するより起きるムダを省くことができるそうだ」

「それは、守り仏様のご神託かい。

 それは、ちょっとどうかなぁ。

 例えば、俺の家で食べるものは、毎月伊藤家から提供されていて、だからこそ安心して大工家業をすることができる。

 細山村のきこりや大工の家は、どうなっているのか解らないが、いきなり一緒になんてできないぞ」

 助太郎の言い分も解るし、その通りだろう。


「そりゃそうだ、僕もそうだと思う。

 いくら神託とは言え、薩摩芋と同じように直ぐということはないだろう。

 ただ、いきなりという話は無いだろうが、共同作業が増えてくると、そんな風に考えるのが妥当になるかも知れない。

 とりあえず今、この話を大人達に話すのは止めておこう。

 しかし、そういった目で観察しておいて欲しい。

 ところで、今、七輪と練炭の在庫はどの程度あるのかな。

 登戸村、大丸村、細山村、献上用に仕分けしてみたい」


「ハイ、少し驚いてしまいました。

 今、在庫は七輪6個、標準寸法48個、薄厚練炭144個あります。

 実は、昨日薄厚練炭を48個献上しています。

 そして乾燥送りになっている分は、昨日作った標準寸法24個、薄厚練炭96個です。

 ただ、寸法確認が終わっていないので、若干減ることを見込んだほうが良いです。

 今日は、清掃作業だけしていて、全然作れていません。

 原料のザク炭はあと8俵残っており、粉炭は約1俵分残っています」

 材料と半製品、製品はきちんと管理されているようだ。

 これなら、外への働きかけができる。


いきなり村を分割・統合する話が出てきましたが、まあ、将来の伏線ですがな。

今ある地名からの類推なので、地元民の方々、妄想とお笑いください。

次回は、竹炭以外の問題がという内容ですが、題名で丸判りなので、控えます。

感想・コメント・アドバイス(誤字指摘含む)を歓迎します。

勿論、ブックマーク・評価は嬉しいです。よろしくお願いします。


炭の株仲間の件で情報を提供頂きありがとうございました。

そして、大きな勘違いをしていることに気づきました。対象は江戸町内の商家に限定されています。

従い、郊外にある登戸村の炭屋や府中宿の炭屋は江戸町内に店を持たなければ株仲間である必要はありませんでした。取り返しがつかないところも多々あるので、既にある炭屋への配慮をしている、という風に見ていただければ助かります。

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