91 旅の終わりに
紛らわしいタイトルですが、旅はまだ終わりません……。
「俺にとって、マリアは特別な存在なんだ。マリアには必ず幸せになってもらいたいと思っている。今までずっと一緒にいたからとか、守ってもらったからとか、そういう理由ではなくて、本当にマリアが幸せになれる相手を、自分の目で見てしっかりと選んでほしい」
マリアは喜びの絶頂から奈落の底に突き落とされた。ルーファス以外の男を選ぶことは今のマリアにはとても考えられない。あまりの絶望で、彼女の身体は一気に体温を失った。
「……ルーファス……私を……見捨てる……の……?」
悲痛な表情でマリアはルーファスに尋ねた。またマリアが勝手に誤解しそうになっていることに気がついたルーファスは、重ねた手を強く握り直した。
「まだ、話は終わっていない。きちんと最後まで聞くんだ、マリア」
ルーファスの言葉に、マリアも不安をまぎらわすように、空いている方の手をさらに彼の大きな手に重ねた。
「マリアを泣かせてしまった俺に、こんなことを言う資格はもうないとわかっている。でももしも、マリアが旅の終わりになっても、まだほかに好きな相手が見つからなかったら……そのときは……」
彼はそこで小さく息をつき、優しい夜の海の瞳でマリアを見つめた。彼が纏う空気は凪ぎのように落ち着いていて、そのことが彼の真剣な気持ちを何よりも雄弁に語っていた。
「俺と一緒に生きていくことも考えてほしい。後悔させないように、命を懸けてマリアを幸せにする」
「ルーファスは……本当に……私でいいの……?」
最近のマリアは驚くことばかりで、頭がなかなかついてこない。ただ、彼の言葉の意味は鈍いマリアでもわかった。
「俺はマリアとしか考えられない。でもマリアは……俺のことをほとんど知らないだろう? だからこれからゆっくり考えてくれればいい。まだ時間はあるから、焦らないでほしい」
「確かにあまり知らないけど、もう好きになってしまったから、今さら何を言われても遅いのに……」
マリアはルーファスのことをずるいと思った。こんなに彼のことを好きにさせておいて、今さら昔のことを教えられても、もう諦められる訳がなかった。でもルーファスの言うことももっともで、マリアは彼と一緒に過ごしてきた時間のわりに、驚くほど彼のことを知らなかった。現に恋人がいるかどうかさえも知らなかったのだから。
「それに私はあなたとここまで来られて、とても感謝しているの。だって好きな人ができたんだもの」
そう言ってマリアはルーファスに口づけた。
「ルーファス、大好き」
彼に教えてもらった大人のキスをして、唇を重ねる度に2人は想いを深めていった。マリアが出してしまった手紙のことも、ルーファスも今だけは忘れて、甘いキスに溺れてしまいたかった。




