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明石閑話・女神の制限について

「う~ん」


「ど、どうだ?」


 俺――賢者の石は式板や無数の札を眺めながら、うめき声をあげる靖明に、おそるおそるといった様子で診断結果をきいてみた。


 靖明はそんな俺の心中を察してくれたのか、何かに悩んでいた様子の顔をすっとあげ、


「あぁ……取りあえず結果から言ってしまうとだな、賢気が創造の女神とやらに、かけられた制限というのは……」


 ようやく明らかになる、女神からの制限の正体を、俺は一切聞き逃すまいと、聞き耳を立てた。




…†…†…………†…†…




 なぜこんなことになっているのかというと、ことは数時間前にさかのぼる。


「よしっ! 本日の掃除終わりっ!!」


 グルグル渦巻く念動力で、屋敷に積もった細かいゴミを巻き上げ固め終った俺は、一心地つきながら、内心で伸びをするイメージをする。


 そんな俺の姿を見て、今日も今日とて仕事をさぼっていた靖明は、何とも言えない顔になり一言。


「そういえば最近、賢気の人間形態を見んなぁ……掃除も人の姿でしなくなったし」


 ギクッ!? と、俺の体が音を立てて固まる(石だから(以下略))。


「何か理由でもあるのかの? どうせ暇なのだし、小生が気になるから教えてもらえるとありがたいが」


「いや……その」


 正直言うのは気分が重い。というか、普通に恥ずかしい……。なぜならば、あの人型は俺の執念の結晶であり、普通の人間が見たら「え? そこまでしてやらないといけないこと?」と言われかねない、無駄の塊だからだ。


 だがまぁ、靖明には世話になっているし(代わりに家事もしているけど)……。無料で居候させてもらっているのも、俺の知識を貸すという条件があってこそだ。


 話さないわけには、いかなかった。


「なんというか、その……お前がその式操っているのを見て、萎えたと申しましょうか」


「ん? 式を?」


 なんでまた? と、靖明が首をかしげ視線を飛ばした先には、はたきを持って俺の仕事を手伝ってくれていた、真っ白なノッペラボウが立っていた。


 それは靖明が札に術式を刻みこみ、自立駆動させている人形だ。


 その姿は、俺が俺の人間形態と言い張るあれを彷彿とさせてしまい……。


「あれってさ……実は俺が遠隔で操っているだけの《力》の塊に、光で彩色を施して人間っぽく見せているだけなんだけどさ……」


「あぁ。あれはなかなかの出来栄えだと思うぞ?」


 ぱっと見実際の人間と区別がつかんからな。と、ほんの少し感心したような声を漏らす靖明に、俺は内心で小さく首を振る。


「でもさ、所詮それはどこまで言っても操り人形で……俺ではないんだよな」


「あぁ……。まぁ、気持ちはわからんでもないが」


 はたから見たら子供が操り人形を操って「これ俺! これ俺!!」と言っているに等しい。はたから見ればすんごい恥ずかしい光景だろう。


 おまけに、いままでその人型を使っていた作業の大半が、さっきみたいに人型にするよりも、違う形の念動力で行った方が、効率がいいというのが、また俺をなえさせた。


 というわけで、ようやく女神の制限を破ったとはしゃいだ俺は夢からさめて、これはないと自分の人型を封印したわけだが……。


「あぁ……でもやっぱ諦めきれん。人の姿がいる交渉事とかには積極的に使っていこうかな」


 と、未練ったらしくそんな言葉を漏らした。


 そんな情けない俺の姿を見てあきれ返ったのだろう。靖明は半眼になりながら、嘆息し、


「ではいっそのこと、その制限とやら調べてみるかの?」


「え?」


「そうすれば、抜け道の一つや二つくらい見つかるかもしれん」


「ま、まじか!? いや待て……俺だってここ数百年間、無駄に時間を過ごしてきたわけじゃないんだぞ!? お前には悪いけど、神であるこの俺が、必死こいて調べても大したことがわかんなかったのに……いまさら人間の術者に頼っても」


「何を言っておる、賢気朱巌命」


 これは小生の持論だが……。と、靖明は前置きをした後、


「自分で自分を観察するよりも、他人に自分を観察してもらった方が、わかることが多いに決まっておろう」


「……」


 何やら真理に一歩近づきかねない靖明の含蓄ある言葉に押されてしまい、結局俺は靖明の解析術式を受けることを承諾。


 というわけで、現在は一患者として靖明の解析陰陽術を受けることになったのだ。




…†…†…………†…†…




 で、その結果なわけだが……。


「う~ん。結局のところ制限を破るのは難しいということが分かっただけだの」


「まじか……」


 まぁ、予想はしていたけどさ……。と、俺はちょっとだけ落胆しながらも、まぁありえた話だとひとまず気持ちを切り替える。


「理由は?」


「端的にいうと……魂の設計がそういう風になっていないといったところか。獣が四足で走るように、肉食獣が誰に言われるでもなく肉を食らい、草食獣が誰に教わるでもなく草を食らうのと同じように、賢気の魂はもとより《制限事項ができないように設計された》痕跡が見える。まぁ、もともと魂の宿らん石に、無理やり魂を宿すという機能を拡張したようだしのぅ。機能を削ったというよりは、初めからそういった機能を搭載させなかったといった方が正解かもしれんが」


 要するに、俺は種族的にそういったことができないようにされていたらしい。ソリャいくら頑張っても制限が破れるわけがない……。


「だがまぁ、制限の内容の詳細は分かったからの。これを利用すれば、あるいは……」


 そう言って靖明は立ち上がり、近くの書棚にあったメモ用の白紙の巻物を引き抜く。


 その際近くにあった巻物が巻き込まれ、音を立てて書棚から落ちるが、靖明は治す気配もなくこちらに戻ってきたので、俺は仕方なく床に落ちた巻物を念動力で戻しておいた。


「とりあえず、わかった制限事項の詳細を、わかりやすく記すとすると、こうだな」


 そんな俺の涙ぐましい努力を無視して、靖明は白紙の巻物にすらすらと文字を記していった。


――――――――――――――――――――――――――


《賢気朱巌命の制限事項》

・大規模破壊能力の使用禁止

 一定以上の出力のエネルギーを複数対象(二名以上)や、一定以上の空間(半径50糎以上)に放出しようとすると、制御ができなくなる。

 魂にもともとそういった機能が搭載されていないため起こる現象。端的に表すと、極端に拡散した霊力の制御をおこなう才能がないものと同列と扱った方がわかりやすい。

 また、例外的に体躯そのものが対軍級(3明取以上)の巨体を誇るものに関しても、敵の全身に力の伝播が行えず、大した被害は与えられない。

 なお、この制限は攻撃のみに適応されるものであり、防御や透視・遠視といった攻撃に利用できないものに関しては対象外。

 防壁が破られやすいのは、賢気の「対軍魔法の使用不可」という思い込みに霊力が反応したためと思われる。


・容姿――存在改変の禁止

 石という、自己の存在の根幹を忘れさせないために行われた制限と思われる。喋る、霊力を操る以外の《石》らしくない行動を徹底的に禁止している。

(移動禁止)

 石は自力で動くことがないために、制限されたものと思われる。自力で動く機能が魂から省かれているため、思考でそうしようと思っても行動が伴わない結果に陥っている。

(人化禁止)

 神々の基礎機能である人化をができない。もっとも石という存在根幹を忘れさせてしまうがゆえに、こちらは厳重にそれに代替される機能が発現しないように、能力を消されていた。

 そのため、何らかの素材を使って人形を作ることや、光で自分の姿を投影することは許されているが、そこに自分の意識を憑依させることは禁止されている。

(経年劣化の禁止)

 石というより、どちらかというと宝石の存在根幹。1000年の時を超えてなお、光り輝くことを義務付けられている。《破損する》という機能を魂から削られることによって受動的に発動。いかなる攻撃をもってしても、石を破損させることはでいない。(最近は例外として《砕神鎚》があるが、あれは石限定で魂に《破損する》という機能を付け足すことができる神器)。


 なお、上記の制限は、賢気の魂を本体の宝石につなぎとめるために絶対必要な、存在根幹を守るための物であり、下手に破ると本体と魂の剥離が起こり、賢気の意識が消滅してしまう危険性があることが確認された。


・死者蘇生の禁止

 封印。機能自体はあるが厳重に封印が施されている。

 段階的にこの封印はとけるようになっているらしく、この世界で一定の医療技術の発展があれば、それに合わせて封印が解け、使用できる医療技術が増えていくようになっている。


・番外封印

 解析不能。正体不明。何かとてつもなく大きな力を感じたため、下手に弄らないことをお勧めする。

 創造の女神とは違う形式の封印であったため、恐らくはこの封印は後天的な物。


――――――――――――――――――――――


 俺はその記載……とりわけ長かった、容姿改変――存在改変の禁止事項の最後の言葉に視線を走らせ、


「……………………あっぶねぇえええええええええええええええええええええ!?」


 ガチでビビった。


――や、ヤバかった。俺知らない間に命の綱渡りしていたっ!?


「まぁ、わかったのはこれくらいかの?」


「十分だ。というか早く気づけてよかった……」


 冷や汗を流しながら何度もお礼を言う俺に、満足したのか、靖明はフムと一つ頷いた後、


「とはいえ、容姿改変に関してはこれ以上弄るとまずいということが分かったからな。あとどうにかできるのは、対軍攻撃と、蘇生か」


「蘇生ねぇ……」


 まぁ、これに関しては今回の解析で結構光明が見えてきた。


 要するに、俺の現代知識的医学はオーバーテクノロジーすぎたから、女神自身が禁止したのだろう。


 封印ということは破ることも可能だし、最悪医療の発展を俺の知識を横流しすることで、早めてしまうことで、こちらはある程度何とかできそうだ。


「問題は対軍攻撃なわけだが……。どうしたもんか?」


「ふむ。大規模で強力な結界は張れると分かったのだし、その結界に攻撃性を持たせてみてはどうだ? 触れたら爆発するとか、敵の攻撃を吸収して、相手に返すとか」


「あ……それ面白そうだな」


――やってみるか。と、暇を持て余した俺と靖明は、思い立ったが吉日ということで、実験を行うための準備を始めることにした。




…†…†…………†…†…




 数時間後。俺と靖明は、俺が作り出した異空間の中にいた。


 どこまで言っても先が見えない、真っ白な大地。ここなら大規模な呪術戦を行っても、誰にも迷惑はかかるまい。


「まずは、爆発結界からだな。靖明! 攻撃用の式頼む」


「了解だ。ほれ」


 俺がイメージと同時に編み上げた、青色の薄い膜を見て靖明は二枚の札を取出し空中に投擲。


 宙を舞ったその札はみるみる間に二体の真っ白ノッペラボウに変貌し、同時に結界を殴りつけた。


 瞬間、ノッペラボウの一体が触れた個所が爆発し、もう一体の方は弾き飛ばされるだけに終わる。


「う~ん。術式自体は発動するみたいだが、同時に発動する個所は一か所だけか……」


 結局これでは、対軍攻撃とは言えない。便利そうだから、一応術式のストックに入れておくが、状況の打開というには、少々納得いかない結果に終わった。


「今度は吸収した敵の攻撃を跳ね返す奴だけど……」


 そして、俺は先ほどはった爆発結界の式を組み替え、結界はそのままに結界の内容をまるで違う者に変貌させる。


 それを見た靖明が「あぁ、それ面白いな……。結界の機能組み換えか」と、ちょっと新しい術の構想を思いついたらしいが、今は俺の実験中なのでこちらに集中してもらう。


「靖明! はよ攻撃」


「あぁ、了解だ。ほれっ!」


 そう言って再び投げられる札は、瞬く間に燃え上がり紅蓮の火柱を俺の結界にぶつけた。


 そして、その火柱が触れた端から、まるで底なし沼か何かのように飲み込んでいく結界。


――こ、これはいけるんじゃないかっ!? と、俺が初めて女神に対する反逆に成功した気になり、ほくそ笑みながら、


「さて、返すぞっ!!」


 意気揚々と、飲みこんだ炎を結界から吐き出させた瞬間!!



……俺の目の前にある結界の一部から、ちょろちょろと、まるでライターのような炎がともった。


「……………………」


 思わず無言になる俺に、靖明が痛ましげな視線を向けて一言。


「やはり攻撃に使うとなると、人一人に対する攻撃程度に抑えられてしまうみたいだな……。やはり創造の女神の名はだてではないというかの」


「えっと……つまり」


「おぬしに火力無双は永遠に無理ということだな……」


――い、異世界魔法のロマンの一つが。と、靖明にすげなく帰された俺が、おおいに凹んだことは言うまでもない。


 こうして、第1034回。俺の《女神に一泡吹かせてやるぜ! 制限は……破るためにあるっ!!》作戦はとん挫することとなった。


 そして、俺はこの時新たな決意をすることになる。


「靖明……」


「ん? なんだ?」


「おれ……医者の神になるよっ!!」


 そして、俺のチート染みた近代医療の知恵が使えるように、女神の制限を破って見せるんだっ!! と、俺は熱く語ったのだが、


「いや、医術の神はもう古参がおるし、何よりお主……神様廃業中だったのだろう?」


「…………そうでした」


 どうやら俺が女神の束縛から逃れられる日は、とっても遠いらしかった……。




…†…†…………†…†…




 そして、さらにもう一つ、おれには気になることが残った……。


「なぁ、靖明」


「なんだ?」


「この番外封印ってなに?」


「あぁ。女神とは違った形式の封印が一つあってな。いちおう警告がてらに書いておいたのだが、何分こちらも詳しくはわからん。それくらい強力な封印がされておったし、何よりその封印されているモノの雰囲気が、尋常ではないほどの威圧感を持っておってな。これはやばいと放置してきたのだが……まずかったかの?」


「え?」


 何それ怖い……。俺の中に一体何があるの!? と、ちょっとだけ俺は不安になったが、


「ま、まぁ……今まで平気だったし、変に触れないようにしよう。さわらぬ神にたたりなしだ」


「了解だ」


 まぁ、今は神様じゃないし、そのうち死んでもいいかと思っているから別にかまわんか。と、俺はひとまずその話のついて忘れることにして、心穏やかな生活に戻ることを決めたのだった。


今回は説明回になってしまいましたね……すいません。女神の制限リストアップしてくれと随分前の感想に書いてあったので、こんな話を作ってみました。


次あたりは現代の話やってから、ちょっとキングクリムゾンして金太郎の話をしようかと思います。

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[一言] キングクリムゾンッ‼︎
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