焔真の来訪。陰陽師・綾部靖明
そして、時代はめぐる。
100年前にあった戦争に爪痕はいまだに残っているものの、戦争を知らない世代が増え、平穏な日々が続いた人々は、だんだんと戦争の傷よりも、目先の生活を気にするようになった。
豊穣神・金矢穂群女の不在により、日ノ本の第一次産業――農業・漁業・林業などといった生活にダイレクトにかかわる産業たちはことごとく打撃を受け、日ノ本の治世は小規模ではあるものの、慢性的な物資・食糧不足に見舞われることとなる。
暮らしていけないわけでもないし、飢えるわけでもないが……だが戦争以前と比べると、人々の生活は確かに苦しくなり始めていた。
だが、そんな中でも昔の生活水準を維持している場所が一つ。
日ノ本の中心……安条京であった。
日ノ本中から納税と称して多くの財が集まるこの都は、今も昔の生活水準のまま、貴族たちが安穏とした生活を送る、一種の日の本一平穏な場所となりつつあった。
当然、その裏には納税される物品の増量や、一部領地を運営する貴族たちの横暴が見え隠れしている。
だからこそ、人々は安条京を花の都ともてはやす裏で、自分たちを分かりやすく苦しめる贅の権化として恨んでもいた。
そして、その恨みが霊力に変貌をもたらし、形となって都を闊歩する。
長年維持され続けた器物は、夜になると騒ぎだし、
巨大な都の大路には、真っ暗な闇を切り裂く鬼火を伴った百鬼夜行が闊歩する。
日ノ本は確実に、大きな闇に包まれつつあった。
これはそんな時代を生きた人々の物語。
そんな中で、自分のありようをもがきながらも、再びつかもうとした、賢者の石の物語。
物語の始まりは、封印された賢者の石が目を覚ます、ほんの少し前にさかのぼる。
…†…†…………†…†…
「やすいよ、やすいよ~。奥さん! 今夜の御飯にどう? うちの野菜は新鮮だよ~」
「かつら~かつら。ひひ……かつらはいらんかえ~」
「待ちやがれ、このクソ餓鬼どもっ!!」
狼の耳をぴくぴくと動かしながら、八百屋の店主が元気に呼び込みをする。
その眼前を通り過ぎた亀獣人の老婆は、ボサボサの髪によって顔を隠し、どこから集めたのかもわからない、本物の髪の毛を使ったカツラを売り歩いていた。
さらにその奥では、ぼろ布を纏った姉弟らしき少年少女たちが、露店で売っていたと思われるまんじゅうを両腕に抱え、包丁を振りかざした店主から逃げている。
賑やか……というにはいささか物騒。
少しずつ……だが確実に、人の闇が見え隠れするようになった都の景色に、長椅子に座りながら足をぶらぶらさせ団子を食べていた、私――紅蓮の髪を持つ少女は鼻を鳴らす。
「ふん。この都も随分と変わったものだ……」
「まぁ、これでも、一言主が健在だった40年前よりかはましになったのですよ?」
そんな私の言葉に答えたのは、群青の着物を着用し、腰に剣を下げた理知的な雰囲気を持つ青年だった。
彼はいろいろ団子屋の店主から、この都の最近の噂について聞いていたのだが、どうやら求めていた情報はなかったらしく、どこか苦々しげな雰囲気が見て取れる。
「一言主の消滅を皮切りに、冠務の乱の際に、あの大鬼がしこんでいた、呪詛の大半が消滅しましたからね。狐獣人に対して無条件での嫌悪感を覚える呪いや、神々の下界降臨を妨げる呪詛も……。書家の少年と、《日ノ本最強》には感謝してもしきれません」
「おかげで私たちもこうして、異常事態の調査に踏み切れたわけだしな……。とはいえ、遅きに失した感がいなめんが」
――まったく、圏獄に来ていないなら、下界にて怨霊として目撃されていると思ったが、空振りだったか。と、私は傍らに置いてあったお茶を口に含み、
「…………」
無言でそのお茶をイスに戻し、男が持ってきてくれていた砂糖をほんのちょっとだけぶちこむ。
「あーあ。そんなに入れて。お茶は砂糖入れて飲むもんじゃないといっているでしょう……。そんなんだから、いつまでたってもちゃん付けが取れないんですよ」
「う、うるさい! 味覚の好みは人それぞれだろうがっ!?」
それを見て明らかに呆れきった雰囲気を発する青年――弥美の苦言に、私――焔真大王は顔をわずかに赤くしながら抗議の声をあげた。
そう。私たちは現在、真格であることを隠しこっそり下界に来訪中。
権能のほとんどの圏獄に残し、まるで人間と変わらぬ体を使って、あることを調査しに来ていた。
「ほ、ほら! このお茶を飲んだらさっさと行くぞっ! 聞き込みが空振りに終わった以上、あとは実地調査をするしかないしな……」
「はぁ、霊力を抑えた状態であそこに侵入するのは本気で勘弁してほしかったんですが……」
「いうな……。私だってこの状態で、あの日ノ本最強が守る、内裏に行くのは怖いんだ……」
神様だとばれると、この世界にはいてはいけないものだと霊力に認識され、私たちは自動的に圏獄へと戻されてしまう。
そのため神様権限は一切使えない私たちは、ため息とともに内裏に足を向けた。
日ノ本最強の存在のせいで、あらゆる侵入者が生きて帰れなくなってしまった、万魔殿に。
…†…†…………†…†…
「い、意外とあっさり入り込めたな……」
「悪意に反応する乖離殿にひっかかりませんでしたからね。あの最強は敵対勢力の感知をほとんど、あの宮殿に依存しているらしいですから、ある程度の侵入の容易さは予想していましたね……」
さすがは黄泉随一のできる男。と、私は弥美の言葉に感心しながら、内裏の中を闊歩する。
弥美にかけてもらった《隠行》の呪のおかげで、私たちの存在感は極限まで縮小。
内裏を忙しく駆け回る官吏達とすれ違っても、そのへんの石ころ程度にも気にかけられない存在となっていた。
だからこそ、私たちは割とあっさり目的地に到着する。
あの大罪狐が、最愛の女性を殺したあの場所へと。
「残滓は……やはり残っていますが、魂がどこに行ったかまではわかりませんね」
弥美はその場に手を当て、その場に残る歴史を読み取る神術を発動。無数の文章になったそれらを頭の中に入れながら、彼は小さく頭を振った。
「そうか……。魂の行方ぐらい見つかると思ったのだがな」
こうなると事態はさらにややこしくなる。と、私は眉をしかめ、懐から何とか圏獄から召喚した、《裁判帳》を取り出す。
開く項目に書かれているのは、二人の名前。
天華内親王と、鹿自愛だ。
双方とも生前の来歴は書かれているのだが、魂が圏獄にやってきた際記載される、求刑の一覧が空白のままになっている。
つまり、二人は死してなお圏獄に来ていない。特に大罪狐は分かりやすい罪人にもかかわらず……だ。
圏獄はじまって以来の異常事態だ。
「まぁ、天華内親王に関しては仕方がないか……。強力な呪詛によって封印隠蔽されているうえに、狐獣人虐殺のせいですでに魂が破壊された可能性すらあるし……ほとんど生存は絶望的と言っていいかもしれん」
「問題なのは、自愛の魂まで見つからないことですね……。本人自身は鬼につかれていたとはいえ、死亡の理由はごくごく平凡な自殺ですし……。慙愧や、一言主が圏獄にやってきたところを見ると、鬼の憑依が圏獄に落ちない理由ではなさそうですしね」
「あたりまえだ。高々雑霊上がりの木端風情に、どうこうされるような安い仕組みではないさ。圏獄の魂管理方法はな」
その割に私たちは、ガッツリ一言主の呪いの影響を受けていましたが……。と、一言余計な弥美の言葉をかろうじて流しながら、私は鹿自愛が死んだはずの場所を見つめる。
魂の残滓すら残っていない、記憶の残滓が残る程度の、綺麗な回廊を。
「現世にとどまっている……というわけではなさそうだ。私の魂鑑定眼からしてもそれは確か。少なくとも日ノ本の大地に奴の存在はない」
「ですが圏獄には来ていないのですよ? 天楽にも、高草原にも来ている様子はありませんし、転生した痕跡もない……。だったらもう現世以外に、彼がいる可能性はありません」
「そうなんだがな……」
どうなっている? と、私と弥美はそんなわけのわからない事態に、ため息を漏らしかけた瞬間だった。
「あぁ? 子供? こんなところで何してんだ?」
「「――っ!?」」
私たちの隠行を見破り、声をかけてきた存在が一人……。
そして、力を減衰させて顕現しているとはいえ、黄泉随一の術者と名高い弥美の隠行を見破れたということは、相手はそれ相応の実力者であるということ。
これが、あの日ノ本最強であるならば、ほんのちょっと霊力が強い一般人程度の実力しかもたない今の私たちでは、跡形もなく消し飛ばされるだろう。
それを理解しているがゆえに、私たちは全身に緊張を走らせ、背後を振り返り、
「っ!? お前はっ!!」
「……原来光!?」
「お、お? なに? こんな子供にも名前知ってもらえているなんて、俺もとうとう名前が売れ出した? よしっ! 俺があのクソジジイの椅子を奪うときが、刻一刻と迫りつつあるな!」
と、なにやら物騒な言葉を呟く、冠をかぶった虎獣人の優男。
だが、腰に下げられた小太刀と直刀。そして、隙のない雰囲気が、彼がただの軽いだけの男ではないと主張している。
圏獄でも最近有名な、めきめきと武術の頭角を現しつつある、日ノ本最強の後継と目されている男……原来光がそこにいた。
…†…†…………†…†…
鬼討伐数、現在10。
いまだに分類分けがなされていない、鬼以外の妖怪退治数2。
まだ齢15の少年としては、異例と言いていい妖怪の討伐数を誇る原来光は、もともと都の鬼門――北東の方角を守る武官の息子であり、幼いころから朝廷に害成す人物の討伐や、妖怪たちの撃退の手段を叩き込まれた、戦闘の専門家と言っていい存在だった。
そんな彼の腕が見込まれ、現在彼は征武大将軍となった《日ノ本最強》野洲中彦の直属の部下兼後任候補として、割と忙しい毎日を送っている……はずなのだが。
「あ、あの……いいんですか? 原殿はいろいろ忙しいのでは?」
「なぁに、困っているときはお互い様さ! それに、失せ物探しは大人数でやった方が見つけやすい」
そんな《時の人》は現在、私たちの失せ物探しに協力してやると、遠慮する私たちに、強引に同行してきた。
軽い、軽薄な雰囲気を持つくせに、根はお人よしなのだろう。なんとかその場を切り抜けるために、私が「私……お父さんがなくした大事なものを探しているの」と、恥を忍んで子供のふりをして言った言い訳を、この男は真に受けた。
正直勘弁してくれと、私は思う。
視線を隣に走らせると、弥美も似たような顔をしていた。
その心根は素晴らしいし、ありがたいのだが……実地調査まで空振りに終わった以上、私たちはいったん圏獄に戻り体勢を立て直してからの再調査に踏み切ることに決めていたのだ。
幸い、元黄泉の12人官吏の一人である『名前が言えない鬼神』が、そういった魂の気配に敏感な女だ。
あれを長期で下界に派遣して、大罪狐の魂の行方についてさぐらせるつもりだった。
だが、撤退しようにも、こうもべったり張り付かれてしまってはそうもいかない……。
神だとばらせば自動的に帰れると言えば帰れるのだが、それをすると今度顕現するときは、今回以上に面倒な術式を組まねばならないことが、とある神の経験からわかっている。一度騙されたと気付いた下界に、その神の偽降臨に対する耐性ができてしまうのだろうと、識者の神々は言っていた。
今後も下界に降りなければならない可能性がある私たちとしては、それは極力避けたかった。
「何とかして撒かないといけないな……」
「とはいえ、相手もこの歳でも天才の一人に数えられる実力者ですからね……。先ほどから隙を探っているのですが、その隙が見つからない」
どうしたものでしょう……。と、圏獄で無数の亡者たちを相手に立ち回ることすらできる弥美をもってしても、隙を見つけることができない来光。
そんな彼の存在に、いよいよもって焔真と弥美が進退窮まった時だった。
「おぉ、ここだ、ここだ!」
来光は、引き戸で仕切られたある一室の前で立ち止まった。
「ん?」
「おにいちゃん……なんなのここ?」
「ぶふっ!」
芝居を続ける私の言葉に、後ろで弥美が盛大に吹く音が聞こえたが……一度でもその事実を正しく認識すると、多分私は立ち直れないので、必死の背後は見ないようにする。
そんな私の内心を知ってか知らずか、来光は私たちの方を振り返り、
「いや、最近ちょっとした芸を披露して、特例として科挙試験なしで登用されそうな面白い術者のガキがいてな。そいつにアンタたちの失せ物探しの占でも読ませようと……何必死に笑いこらえてんだ、あんた?」
「い、いえ……。き、気にしないでください原殿」
若干震える弥美の声に、『あとで締める……』と決意を固めながら、私はとりあえず来光に話の続きを促す。
「術者? 神術者の人ですか?」
「いや。なんでも全く新しい呪術の形態なんだとか。本人が言うには、古今東西あらゆる術式のいいところをとった術式なんだと……確か名前は」
そう言いながら、来光は何のためらいもなくその引き戸を開け、
「陰陽道――ガキの名前は綾部靖明」
そして、扉が開く。
…†…†…………†…†…
部屋の中は無数の書籍と巻物が散らばる雑多な空間だった。
その中では、白い狩衣の下に、黒い着物を着つけた15歳くらいの人間の少年が、蝋燭を片手にその散乱した文献を読み漁り、嬉々としてそれを書き写しながら自身の考察を加えている。
「なるほど……この儀式はこういう風な意味合いを込めて使って。いや、でもこれだと神への祈りの伝達にわずかな無駄が見られるな。仙術のあの術式を組み込めば結構な効率化ができそうだし……。あぁ、くそっ! 宮の書物には宝物が多すぎるわ。小生を過労死させる気か?」
ふはははははははは! と、端正な顔立ちの中で異彩を放つ、吊り上った狐目を歪め、笑う少年の姿は、多くの罪人を見てきた、私の目から見ても逝っちゃっていた……。
――こやつ。多分圏獄に来ることになるんだろうな……。と、内心で割と失礼なことを考えながら、私はひとまず来光の背後に隠れ一言。
「お兄ちゃん……怖い」
「あぁ、確かに不気味な奴ではあるが、悪い奴ではないんだよ。不気味だけど」
「なんで二回繰り返すのですか?」
連れてきた張本人の来光ですら、顔をひきつらせてしまうその光景に、背後から弥美のツッコミが飛んだ。
だが、そんな私たちの度肝をさらに抜いたのは、
「ん? あぁ、来光殿。遅かったではないか……小生待ちくたびれてつい趣味の術式改良をしてしまっておりましたぞ」
振り返った少年――綾部靖明が、私たちの姿を視界におさめ、
「そしてそちらは、《全焼の王》と、《病める鬼人》でございますな? お待ちしておりました。小生、地上で術者などをさせていただいております……綾部靖明と申します」
「「――っ!?」」
私たちが最も警戒し、予防線をいくつも張っていた正体看破を、あっさりとやってのけた!
…†…†…………†…†…
瞬間、私たちが慌てて自分自身の体を確認するのを見て、少年――靖明は悪戯が成功したといわんばかりににやりと笑う。
「あぁ、心配めされるな。きちんと《神明隠し》の呪によって、あなた方の本性は隠し立ていたしましたから。この世界の規則ではまだあなたたちは『ただの人間』でございますよ」
「……驚いたな。私たちの名を隠すことによって、『神の正体露見』と言う事実を打ち消したのか」
「まさか一瞬でばれた上にこちらの補助までされるとは……少々意外でしたね」
いつのまにか取り出した扇で口元を隠し「ほほほほ」と笑う食えない少年に、私と弥美は思わず苦虫をかみつぶしたような顔になる。
そして、いつのまにか背後にまわり、こちらを面白そうに見ていた来光へと私は視線を飛ばす。
睨みつけの視線を……。
「そこの小僧も気づいていたのかな? 私たちの正体に」
「ジジイにばれる前に迎えに行ってくれと、靖明が言っていたからな。ある程度は把握していたよ。とはいえ、まさか《け……》」
「あぁ、来光殿。あなたはまだ《神明隠し》はできないのですから、小生みたいに名前を呼んではいけません。ごまかしがばれてしまうでしょうが」
「おっと……」
靖明からの鋭い注意に、来光は慌てて口を閉ざした後、
「どうやら俺がいると余計なこと言っちまいそうだ。仕事に戻ることにするよ」
「えぇ、そうしてください。さっき式板で、中彦様の占を見たらあなたが仕事さぼっているとえらい激怒しているみたいでしたし」
「それを先に言えよっ!?」
焼かれるッ!? と、冷や汗を流して慌ててかけていく来光を、私たちは呆れた顔で見送り、
「さて……では本題に入りましょうか。失せ物探しをする者同士、協力をしましょう」
「……そこまで理解しているのか、得体のしれんガキめ」
不気味な笑みを浮かべ、こちらをだまそうとせんばかりの人の悪い笑みを浮かべる靖明に、私は思わずため息をついた。
――人間というのはこれだから油断ならない。時折こういったやつが生まれてくるから……。
こういった罪人を裁くのは面倒なのだ。口八丁手八丁で、犯した罪をそのままにこちらを見事に言いくるめてくる。
まぁ、その場合は、こちらは単純な暴力で賢しい言い訳を殴りつぶすわけだが、この体ではそうもいかないので、私は弥美と視線で相談した後ため息交じりに煩雑な部屋に腰を下ろした。
――話を聞いてやる。そういった意思を示すために。
だが、そんな私の態度を見て靖明は一つ首を傾げた後、
「ガキはあなたもでしょう?」
「違うわっ!? 少なくともお前よりかは長生きしているわっ!!」
「まぁまぁ、えんまちゃん。その見た目ではそういわれても仕方ありませんから、ここはぐっと我慢して。我慢できたらあめちゃんあげますから」
「お前もお前で舐めているよな、ヤミィイイイイイイイイイイイ!? ちゃん付けはやめろと言っているだろうがぁああああああああ!!」
さきほど靖明が使った《名前を隠す》術を上回る出力で、読みをそのままに、名前を隠した状態にするという荒業を披露することにより、ほんの少し靖明を威嚇しながら、私たちは相談の席に着いた。
*綾部靖明=日ノ本近代呪術の基礎と呼ばれる《陰陽道》の開祖にして、確立者。
妖怪が闊歩する安条時代後期に、妖怪に対する無数の対抗手段を作った人物としても知られており、日ノ本でも随一の戦闘術式の使い手であったと目されている。
実際武勇譚には事欠かず、仰得山の酔天童子退治にも参加していたという話が……。
現在では《靖明神社》に奉られている呪術の神であり、交通安全や、術者としての大成が御利益としてあるんだとか……。
*陰陽道=近年では、式を使った大規模呪術や、システム化された確実性の高い神霊=霊力によって古代人が作った、術式サーバーへのコンタクト法などが目立つ術式として認識されているが、陰陽道のもっとも偉大な特徴は、日ノ本にあった無数の宗教を複合して生まれたという来歴から発展した、あらゆる宗教の術式を、陰陽道の術式として使役するように改造することができる、術式創造の自由度の高さだろう。
そのことは、第二次世界大戦時にはやった、個人単位での《創作術式》の基礎には、すべて陰陽道が使われているという事実から見ても明らか。
日ノ本が魔法大国と呼ばれ、年間数万近い新術式が創造される所以も、おそらくはこの陰陽道が深くかかわっている。




