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明石閑話・冠務の乱終結秘話

 賢者の石が行方不明となってから、50年の歳月が流れた。


「賢気様の行方はまだ分からないのか……」


 内裏の中では、逼迫した雰囲気を放つ6人の人間が車座に座り頭を抱えていた。


 ここは、いまの不毛な内乱を止めるために集まった6人の有識者たちの集まり。


 その中央で議長を務めるのが、疲れ切った顔をし、ずいぶんと年をとりもはや老境の域に至った、片胤親王。


 彼もこの内乱がはじまった当初は、理不尽に妹を奪われた怒りに燃え、仇敵討つべしと狐獣人たちを蹂躙してきた。


 だがしかし、この歳になるまで続いた内乱で、大切な存在を、殺し殺され……孫まで生まれてしまった彼はようやく悟れていた。


 こんな不毛な戦いは、いいかげんやめるべきだと。


 何をすれば妹が報われるのかもわからず、何のために始まった戦争かさえ忘れ去られたこの争い。


 人々はただ憎みあい、戦場で殺された大切な人間の仇を討つためにと、芋づる式に戦場に自らの身を投じる。


――何のために? そんな自問自答すらもはや日ノ本の住人はしなくなった。


 戦争で、精神がマヒしてしまっていた。


 仇を討つためだと自分に言い聞かせないと動けなくなってしまうほどに……。


「なんと、愚かなことをしてしまったんだ……」


 そう思ったからこそ、片胤はとうとう決意する。


 自らの父を、この手にかける決意を、


「片胤……何をしている」


「………………」


 いつのまにかこちらの背後にたたずんでいた、50年前とまるで変わらぬ姿をした父を……。


「貴様に預けた一軍を使い、あの化物どもを駆逐しろ!!」


――憎しみにまみれた声を放つ、年とらぬ化物と化した、我が父を討ち……この戦争を終わらせる。




…†…†…………†…†…




「本当に行かれるのですか?」


 万年稲穂の草原に、ずいぶんと苦労したあげく、かすれて見えないほどの姿でしか顕現できなかった兄――流刃に、流慰は天界から語りかける。


 草原は戦争の舞台になったというのに、いまだに変わらず健在だ。


 踏み潰された端から、焼き払われた場所から、稲穂が生えそろい変わらぬ姿を保っているから。


 この稲穂に隠れ潜んだ狐獣人たちとの戦いに、日ノ本神皇軍はずいぶんと苦戦を強いられている。


 まさしく神の守り。日ノ本随一の霊地の力。だが、


「変わったことも、やっぱりあるわな……」


 隠しきれない血臭に、稲穂がわずかに、血の赤みがはいっている。


 地面を踏みしめれば、稲穂と共に腐乱した獣人の死体が見つかり、グチャリと嫌な音を立てて、踏んだ存在の体重に耐えきれず潰れる。


 この黄金の稲穂の下に広がっているのは、まさしく地獄絵図なのだろう。


 そんな状態になるまで、何もできなかった自分たちに、流刃は歯噛みをする。


「兄様……仕方がなかったのです。人の神に対する総意の象徴である、神皇からは干渉を拒まれ、私たちを降臨させる術を持つ神祇官のほとんどが狐獣人……。このような状況で、狐獣人が追われてしまえば、私たちは無理を押して自力で下界に降臨するしかなかった。人間の姿になり本性を隠して活動しても、内乱の激しさのあまり神皇にも金矢穂群女さんにも接触できなかった……」


 私たちにはどうすることもできませんでした……。と、慰めの言葉を発してくれる流慰に、


「あぁ……。ありがとう、流慰。でも、どうしても考えちまうんだよ……賢者の石なら、きっと、もっとうまくやれたんじゃないのかって」


「兄様……」


 流刃の悲痛なつぶやきに、流慰は少しだけ物悲しそうな顔をして、いま行方不明となってしまっている、頼れる最高神の姿を思い出していた。


 岩守が現在全力で探しているらしいのだが、賢者の石は現在行方不明となっていた。


 最後に目撃されたのは内裏。みずからは移動できないという特性上、きっと遠くにはいっていないと思うのだが……どういうわけか見つからない。


「いったい、こんな時にどこで何をしているんですか……賢者様」


 地獄絵図のような戦場に、呆然とする流刃天剣主(しゅしん)流慰天瞳毘売(たいようしん)は、悲痛なつぶやきをもらし、自分たちの育ての親に、どうにかしてくれと縋りたかった。


 だが、今はそれができない。


 賢者の石はいないのだから……自分たちで、この不毛な戦いを終わらせなければならない。


「じゃぁ、いってくる……」


「ご武運を……」


 だからこそ、彼はその言葉を最後の弱音とし、この国を守る神々としての役割を果たすため、小康状態となった静かな戦場へと歩きだす。


 目指すは万年稲生穂の奥地。


 金矢穂群女が奉られる社にして、狐獣人軍が本拠地を置く、《穂村神社(ほむらじんじゃ)》だ。




…†…†…………†…†…




 そのころ、穂村神社ではわずかに生き残った狐獣人たちが、最後の抵抗をしようとある術式をくみ上げていた。


 朗々と響き渡る祝詞は、神の荒御霊を最大限まで引き出すもの。


 この戦争で編み出された、怨嗟が封入された呪詛文書。


 自らの最高神にその祝詞を唱え上げる神祇官たちの前では、ひとりに巫女が涙を流しながら地に伏していた。


「もうし、わけ……ありません。金矢穂群女さま……。豊穣の神であるあなたに……このような、このようなことを祈るなどっ!!」


「かまわん……。妾もいいかげん、この戦いを終わらせたいと思っておった」


 そんな呪いの言葉が空間を満たす社の中で、金矢穂群女はただ静かに伏せ、その時を待っていた。


「もう、我が血族もこれだけしか残っておらん……。せめてお前たちを生かすために、妾は自らの血肉をささげ、狂った神皇家に一太刀入れてくれよう」


 だから。と、金矢穂群女は小さくつぶやき、


「お前たちは……生きろ」


 最後に穏やかに笑う金矢穂群女の姿に、その場にいた獣人たちは涙を流しながらも、祝詞を止めることはなかった。


 自分たちの神の決意を……決して無駄にしないために。




…†…†…………†…†…




 穂村神社の入り口を守る、白い髪に金色の瞳をした美女は、神社の中から響き渡る祝詞に、涙を流しながら目の前に現れた存在を睨みつけた。


「遅い……遅すぎる。いまさら何をしに来たっ!!」


「すまない。だがようやくこられたんだ。せめて一度だけでもいい……金矢穂群女に合わせてくれ」


 頼りなく揺らぎ、かすれているが……その姿を見間違えるほど美女――霊暮は耄碌していなかった。


「流刃天剣主!!」


 50年続いた戦争が……ようやく、終わりに向かって動き出す。




…†…†…………†…†…




 内裏にて……。


「集ったか?」


 狐獣人たちに夜襲をかけるために組まれた部隊が出陣。


 そのまま踵を返し、都に隠れ潜んでいた反冠務勢力を取り込みながら、再び内裏へと入場した。


 先頭に立つのは甲冑を着込んだ老人――片胤。


 その横を、現在都に残っている六歌仙最後の一人――書家靖英が固めている。


 その姿には50年の歳月など刻まれていない。


 彼もまた、あの時代から人から外れた存在になった一人だった。


「靖英……すまんなぁ。六歌仙には無体を働いたというのに、このような場所に駆り出してしもうて……」


「いえ。日ノ本を守るのが、貴族の務めですので」


 50年たってもうだつ上がらない貧乏貴族ですが……。と、苦笑いをする靖英。


 本来なら、彼がこの場にいてくれることの方が奇跡と言えた。


 あの大罪狐の変以来、冠務は自愛をたきつけた主犯格でもあった六歌仙を、徹底的に弾圧したのだ。


 偉大なる歌仙をまもるために、処刑までは当時の臣下が辞めさせたが、出家していた紀泉法師はそのままはるか東の地へと飛ばされ、義貞も官位を取り下げられたのちに大罪府だざいふへ流刑。


 小町と成片はそんな冠務の苛烈な罰に身の危険を感じ、いち早く自分たちから官位を返上した後、都から姿をけし流浪の身となった。


 残ったのはこの靖英だったが、実直かつ誠実、おまけに官位も貴族位も低かった彼は、大した仕事をしていたわけでもないので、罰を与える価値もないと捨て置かれた。


 代わりに、出世の道を一生断たれてしまい、今でもうだつ上がらない平官吏をしているのだが……。


 逃げることだってできたはずだ。むしろ逃げた方がよかった。幸いなことに、その時は首をとられるところまでは至らなかっただけで、冠務の気まぐれが起こってしまえば、たやすく命をとられてしまってもおかしくない立場だった。


 それでも、彼は都にとどまった。


 一人ぐらい……あの二人の恋を、語り継ぐ存在が都に必要だと。決して自愛は、巷で広まっているような極悪人ではなかったのだと……ただ一人主張するために。


 そんな誠実な彼の姿に、片胤はいまさらながら後悔の念を抱く。


「私たちも……靖英のように、あの二人の恋を信じていられたなら、こんな無様で醜悪な未来は、描かずともすんだのかもな」


「済んでしまったことは仕方ありますまい。今は一分一秒でも早く、この動乱の終止符を打たねば」


 わかっている。と、靖英とは反対側にたたずんでいた将軍の言葉に、片胤は小さく頷いたあと、


「では、参ろうか?」


 鬼退治じゃ。と、しわがれた老人の声が響き渡ると同時に、鬨の声をあげた兵士たちが、内裏の中を疾走し、一直線に冠務の居室へと向かう。


 だが、敵もそれは予想していたのか、


「この不届きも者どもが……」


 冠務は、そんなことをしなくても、内裏の中からさらりと姿を現した。


 真っ黒に染まった、甲冑を着込んで……。


「貴様まで余を裏切るのか……片胤ぇええええええええええ!!」


 怒号と共に出現する、鱗を纏った三本角の鬼神。


 突如神皇の体から出現したその異形の姿は、威圧と恐怖を振りまきながら、突撃した兵士たちを睥睨する。


 だが、


「裏切るのではありません……」


 兵士たちはひかなかった。


 この戦争で鍛えられ、生き延びた兵士たちは、この鬼以上に恐ろしいものを知っていた。


 戦場という狂気の世界を……。


 だから、それを終わらせるために立ち上がった彼らが、いまさら鬼ごときで引く道理などなかった。


「あなたの恨みに、引導を渡して差し上げるのです……父上」


 それが息子の私にできる、最後の手向けだ!! そう叫んだ片胤の声と共に、瘴気渦巻く人外魔境であった内裏が、瞬く間に明るい陽射しが差し込む平原へと変わる。


『――っ!?』


 闇の者として陽光がやや苦手なのか、まぶしげに顔を覆う鬼。


 それを見たこの世界を作り出した靖英は、陽光の美しさをたたえる歌を詠唱し、


「陛下を……殺せっ!!」


 軍人として、恥ずべき命令を下さねばならない自分に歯噛みをしながら、靖英の傍らに立つ将軍が叫ぶのを聞き、兵士たちは巨大な鬼神に襲い掛かった!




…†…†…………†…†…




 杯に注がれる透明な液体は、酒。


 お神酒として自分の社に捧げられたそれを持ってきた流刃は、久しぶりに酒を飲み友との語らいを楽しんでいた。


 目の前に鎮座するのは、人の姿になり、狐の耳と尻尾をはやす豊穣神――穂群。


「思えば何年ぶりだ? お前とこうして盃を交わすのは?」


「さぁ、はるか昔のことゆえ妾は覚えておらん。少なくとも、ここ50年ほどはなかったことだけは確かであろう」


 違いない。と、痛烈な皮肉を含んだ穂群の言葉に、流刃は苦笑いしながら酒が飲み干された穂群の杯に、お代わりを注ぐ。


「なぁ、穂群。本当にやるのか?」


「仕方があるまい……もはや、我が一族が生き残るにはこうするしかない」


「思いとどまれよ……。内裏の方でもようやく反乱がおきた……。狂った冠務についていけないと、ようやく片胤が決意をしてくれたんだ。きっと戦争ももう終わる……だから!」


「で……また信じて、妾たちはそのあと皆に許されて祝福されて、元の生活に戻れるのか?」


「………………」


 さすがの流刃も、そんな都合のいい未来は保証できなかった。


 神との通信を補助してくれていた神祇官たちは、ほとんど狐獣人だったため死滅状態。


 こうして顕現することも、神々にはもはや難しく、昔のように降臨して、その意向を示し差別をしないよう呼びかけることは不可能に近い。


 結果、終戦後も残るのは狐獣人に対する蔑視と、恨み。


 たとえこの戦争が終わったとしても、狐獣人たちに待つのは、死よりひどい畜生以下の生活だろう。


 それがわかっているからこそ、流刃は黙るしかなかった。


 たとえ、この後穂群がやろうとしていることが、嘘をついてでも止めた方がいいのだとしても……。


「この戦いはいろいろなものを狂わせ……壊した。妾たちとお前たちとの友好も、狐獣人の平穏も……すべてだ」


 それらを形だけでも取り戻すために、もはや後戻りはできんのよ。と、諦めきった笑顔で笑う穂群に、流刃は奥歯を食いしばる。


「すまねぇ。賢者の石なら……もっとうまく」


「言うな。あ奴も今は苦しんでおるところだろう。信頼していた生徒に裏切られ、導くべき神皇に唾棄され……神としてはもう、あ奴の役割は果たせまい」


 きっと、こうなるように運命が定まっていたのだろう……。と、穂群は小さくつぶやく。


「運命……か」


「運命……じゃ」


 だとしたら、そんな運命を作り出した奴はクソだ。と、流刃はつぶやきながら最後の酒を飲み干し、立ち上がる。


「あくまで……この攻撃を行う気なんだな」


「応とも……。止めたくば、力ずくで妾を止めて見せよ?」


 そして、二人は先ほどまでのおだやかな空気をかき消し、一気に後ろに飛びずさり距離をとる。


 穂群はそのまま巨大な狐の本性に戻り、流刃は天剣を構えた。


 すべては……穂群のたくらみを防ぐため。


 自らの荒御霊――生命力の簒奪を、神術によって限界まで強化し、京域(近畿地方に相当)一帯を、数百年は農業に使えない荒野へと変える。


 結果として訪れるのは、京域一帯に訪れる大飢饉。


 それを見せしめとしてつかい、他の地域でもこのようなことをされたくなければ、狐獣人への差別をすべて忘れろと……穂群は都を脅迫するつもりなのだ。


 確かに、この内乱で熟成された怨念を払うには、それくらいの暴挙が必要なのかもしれない。


 だが、それでも、


「俺はこの国の主神として、それを許すわけにはいかない!」


「ならば妾を殺すがいい! 言葉の命令など聞かぬ。もとより妾は、貴様が妾より上であると……認めたことはないわっ!!」


 最後にそう吠え、一気に自らの荒御霊を解放する穂群。


 瞬く間に周囲にあった緑は枯れ果て、穂群を中心に茶色い荒野が広がり始める。


 それは万年稲穂すら瞬く間に食い荒らし、あれほど何度も生え変わった稲穂が、今度こそ死滅する。


 流刃はそれを見て素早く天剣をふるい、


「天剣……神征っ!!」


 もはや、昔天剣八神に力を借りたときの比ではない、自分の霊力で賄い放ったその攻撃を持って、穂群の体に境界線を作り出し、その体を両断した。




…†…†…………†…†…




 内裏の中を埋め尽くしていた異空間が姿を消す。


 それと同時に現れるのは、うめき声を上げ倒れ伏す重症兵士の群れ。


 そして、


「っ――」


「……どう、安らかに。父上」


 鬼の鋭い爪によって胸を貫かれた片胤と、その片胤が手に持つ天剣によって、喉笛をかき切られた冠務がいた。


 一言も漏らすことなく倒れる冠務に、背後に控えていた鬼は舌打ちをもらし、姿を消す。


 消えたわけではない。きっと新しい宿主でも探しに撤退したのだろう。


 だが、追撃する気力はその場にいるだれもがなかった。


 靖英も将軍も、疲れ果て柱に背中を預けており、兵士たちの大半が重傷を負っている。


 たった一人でここまでの被害……。そんな惨状を作り出した自分の父の死体に、片胤は血反吐を吐きながら歩みより、


「あぁ……くそっ。そんな顔して死ぬくらいなら、なんでもっと早くに思いとどまれなかったのですか」


 安堵したような笑みを浮かべて眠っている冠務に、涙を流し、


「靖英……」


「はい……」


「私の後は、定昭(さだあきら)に……。あの子を助け、この壊れてしまった国の、再興を……」


 最後にそれだけいいのこし、神皇になれなかった親王は、最後の最後まで国を思ってこの世を去った。


 東歴943年。


 ちょうど安条中期のころ。


 一つの悲劇より端を発した、日ノ本を壊しかねない長い動乱は、こうして幕を下ろすこととなる。




…†…†…………†…†…




 そして、神々の方でも一つの決着がついていた。


 動かぬ躯となり、霊力の粒子となって消えつつある穂群に、縋りついて泣く狐獣人たち。


 そんな彼らを見つめながら、天剣を収めた瑠訊は踵を返し、社から出て行った。


「どこへ行く気よ……」


 そんな彼の背後から、声がぶつけられる。


 先ほどまで泣いていたと思われる、霊暮だ。


「下見だ。日ノ本中をうろついていた成片と小町をとっ捕まえて、狐獣人たちを受け入れられる、隠れ里を作った。多少不便を強いると思うが……差別されることはない場所だ」


「偽善ね……。結局、私たちを日陰者にすることに変わりはないじゃない」


「そうだな。だが、これが今の俺にできる精一杯なんだ」


 許してくれ。としか言えない……。そうつぶやいた瑠訊の声は震えていた。


 それを聞いたからこそ、霊暮もばつが悪そうに口を閉ざし、それ以上の追及はやめる。


 そして、そんな霊暮に、


「これは……せめてもの詫びだ」


「っ!?」


 流刃は振り返らないまま、一個の石を霊暮に投げつけた。


 慌ててそれを受け止めた霊暮は、その石に命があることに気付き驚く。


「これ……まさかっ!?」


「天剣神征で、穂群の体と魂に境界線を引いて分断した。体は死んじまったが、魂はその中に封印されている。霊力が戻れば、また神として復活できるだろう……」


 まぁ、信仰の源である万年稲穂が半分も削られちまったから、それが修繕されるのを待って、そのあと信仰を集めないといけないから、復活するのは数百年後か辺りになるだろうが……。と、一通りの自分の考察を述べる流刃に、霊暮はぽかんとした後、


「あなた……甘いわね。また私たちが同じことをするとは考えないの?」


「よく言われる。後顧の憂いはきちんと断てって……でも」


 流刃は最後にそうつぶやき、天剣神征を使った無理が祟ったのか、滅茶苦茶に姿をぶれさせながら、


「俺が人間の時からの友人を……殺すなんてことはできなかったよ」


 情けない神様だろ? と、多分に自嘲を含んだ言葉を吐き捨て、その姿を消した。


 そんな流刃を見送った霊暮は、深く息を吐いたあと、


「えぇ。でも……ありがとう」


 大事そうに穂群の魂が宿った小石を抱え、空に向かってそうつぶやくのだった。


神生石(しんしょうせき)=冠務の乱の際、荒御霊として狂いきった金矢穂群女を、流刃天剣主が封印したとされる石。


 日ノ本随一の祟り神と化した金矢穂群女は、その荒御霊を使い日ノ本全土に大飢饉を起こそうとしたので、流刃天剣主がそれを討伐。


 怒りが静まるまでその石に封印したのだといわれている。


 ただ、その祟りはそれだけでは収まらなかったのか、耀説神皇(ようぜいしんおう)の統治時代は日ノ本に長期にわたる飢饉が起こったと記されている。


 現在では穂村神社で年に一回一般公開される御神体であり、時々その石から狐の鳴き声が聞こえるのだとか。

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― 新着の感想 ―
悲恋とか悲劇ばっかで最初以外は本当に何も助けられないな主人公。 むしろ物語に居なくても関係なく進むくらいには空気すぎる。
[気になる点] いや賢者の石は狐獣人を助けろよ 50年も引きこもってるのは意味わからん 力ずくでも神皇をとめていれば失なわれた命も差別も全て無かった事になるのに その正義感はどこに行った
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