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姫と神皇の離別

「さっきからきいてりゃ、テメェら一体なんだってんだ? お前たちの娘を守りきった男に対して、それがとるべき態度だとでもぬかすのか?」


「黙れ。劣等の神種風情が!! 我は太陽神テスパクトリスであるぞっ!!」


 紅蓮の怒り染まった眼光を放ちながら、紅の竜は自分たちには向う意思を見せた、下界の猿どもに苛立ちを増す。


 だが、神々を率いる流刃は俺――賢者の石ごと若宮を背後にかばいながら、隙無く天剣を構えその眼光を真っ向から受け止めた。


「太陽神? バカか。うちの国ではその称号は俺の妹の物なんだよ。テメェはあくまでこちらじゃ自称太陽神だ。身の程をわきまえろよっ!!」


 その言葉を聞いた瞬間テスパクトリスは、怒りが頂点に達したのか、問答無用でブレスを放出。


 だが、


「しゃらくせぇ!!」


 流刃は一喝と共に天剣をふるうことにより、そのブレスを見事に両断。背後にあった景色に境界線が引かれ、俺たちの視界のなかで二頭の竜も真っ二つに、


「って、やりすぎィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!?」


「あ……。勢い余っちまった」


 輝夜にどう説明するんだっ!? と、目をむく俺に、ダラダラ冷や汗を流す流刃。


 慌てふためく俺らの目の前では、二つに両断された二頭の竜たちがあっさりと海へと落ちていき、


「ん? ご飯ですか?」


「「だめぇえええええええええええええええええええええ!? 食べちゃダメぇええええええええええええ!?」」


 海中からひょっこり顔を出した汐満留津軽毘売が食らおうとしたので、さすがに俺と流刃も止めに入った。


 だが、その瞬間、


『愚か……!!』


 止めに入ろうとした俺たちと、食らおうとした潮満留津軽毘売を弾き飛ばしながら、その海岸に巨大な太陽と月が降臨した。




…†…†…………†…†…




 海岸から感じた、懐かしい莫大な霊力の高まりに、私――輝夜は嫌な予感を覚え、本陣の改造を他の人たちに任せ、慌てて海岸まで走っていました。


 私の脳裏には、本陣から出る際アルフェス義兄様がおっしゃっていた、嫌な言葉がグルグル回ります。


『早く行け。我が義妹よ。そこに真実がある……』


 真実? いったい何の真実だというんですっ!! と、お父様とお母様なら、きっと若宮を認めてくださると思っているのに、ずっと二人を信じていたのに……なぜか私の悪寒は止まりません。


 そして、そんな私の嫌な予感は、


「うそ……」


 嵐の神の余波により、いまだに残っていた雨雲が、瞬く間に切り裂かれることによって確信に変わりました。


「お父様の権能……天変地異――渇水(テスパクトリス)


 こちらで言うところの大旱魃。太陽神の怒りの顕現であるその災害が、身を刺すような太陽の光と共に日ノ本に襲い掛かったのを見て、私は私の両親が、本当に日ノ本に害なそうとしているのだと悟りました。




…†…†…………†…†…




「冗談だろ?」


 目の前で復活し、再びその猛威を振るい始めた太陽神と月光神に、流刃の顔がわずかに引きつる。


 何より問題なのは、


「あいつら……竜種じゃなくなっている!?」


 正真正銘の神に戻っているだとっ!? と、俺は驚き、何度も確認をとってみるが、何度観察しても結果は同じ。


 奴らの体は、死んだ竜種の体の時とは違い、物質化されていない霊体で再構築されている!!


「当然であろう? 貴様等雑霊上がりの神々は知っているはずだ。人間から神に上がった連中は知っているはずだ」


「死したのち魂は、莫大な信仰を得ていれば、霊体のみの肉体を持つ存在――神種としての再臨が許されると」


「っ!?」


 言われて気づく。二頭が一体何をしたのか。


 要は流刃が神になった時の状況が確実に発生すると分かっていた二頭は、あえて流刃天剣主の一刀を受け、生身の体を死に追いやり、南マリューヒルの信仰を使い神として再復活したのだ。


「アルフェスの小僧はそのことに気付いていたぞ? だからこそ、われわれが受肉するもっとも無防備な瞬間を狙い、自害の禁止などという制限(のろい)を、奴は我々に打ち込んだわけだが……」


「あなたたちのおかげで助かりました。受肉しているとはいえ、私たちを殺せる存在は、この世界はあまりに少なすぎる」


 肉体という枷に抑えられていた本来の霊格を取り戻し、二頭の異郷の神は万全の状態でうちの国に再降臨する。そしてその猛威は、


「っ!? うそっ!?」


「雲がっ!?」


 突然起こった異常事態に、恐れおののく神々の眼前で、わかりやすく力を発揮した。


 嵐の神が作り出した曇天を、力技で切り裂きながら日ノ本の大地に突き立つ、灼熱の日光の剣。


 小さな湖程度なら数日で干上がらせるほどの大熱量を持ったそれらは、日ノ本全土に旱魃の初期被害を出しながら、俺たちの大地を蹂躙していく。


「ここまで我等をコケにした存在は初めてだ。その罪は命で贖ってもらう」


「もはや草木の一片すら残しません。枯れて死になさい……劣等」


 二柱の光をつかさどる神々の権能が合わさり、俺たちの大地を蹂躙していく。


 当然、初めは唖然としていた神々も、ここまでのことをされて黙っていられるほど、温厚な連中ではない。


 俺も含めてだ!!


「ぶっ殺すっ!!」


「覚悟決めろよ、駄竜どもっ!!」


 俺と流刃の怒号を受け、神々は怒りの声をあげ天に上り、若宮も憤怒の形相をし、灼熱の鱗と虚ろな月光を放つ二頭に挑みかかろうとして、


「やめてぇえええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 悲鳴のような叫び声をあげ、俺たちの間に飛び込んできた、夜空を思わせるラピスラズリ模様の鱗を纏った女の姿に、双方の怒りの激突は中断された。


「輝夜っ!!」


「カグトリャーイっ!!」


 なぜ!? そう問いかける俺たちと、久しぶりに娘に会えた二頭の歓喜の声が重なる。


「賢気様……若宮、流刃様! 剣を……お引きください。私の両親が失礼なことをしたのは十分理解しているつもりですが、私にとってはようやく会えた、大切な両親なのですっ!!」


「…………………………………………………」


 そう言われると、俺たちとしては黙るしかない。苦々しく舌打ちをしながら、神々は自らの権能を収め、ひとまず様子見に徹することにする。


 そんな俺たちの態度にほっと安堵の息をついたあと、


「お父様! お母様っ! おやめくださいっ!! この方たちはわたくしの命の恩人なのですっ!!」


 今度は自分の両親の説得に移ったのだが、


「な、何を言っているカグトリャーイ!? それはもはや当然であろうがっ!?」


「天上の主である我等一族を、下界の存在が守るのは必然のこと……。星の神よ。あなたはそんなことすら忘れてしまったのですか?」


 両親の本性が垣間見えるその言葉を聞き、輝夜は一瞬氷結する。


「え……」


「やはり、下界に降ろしたのは間違いだったか……」


「ちがっ……」


「こんな泥臭い大地に立ってしまったせいで、高貴なあなたは穢れを得てしまったのですね……」


「違う……!!」


「もう、このようなところにお前を一秒たりともおいておくわけにはいかない。さぁ、一緒にマリューヒルに」


「違うんですっ!! 私は……この国で、本当によくしてもらって……幸せになれてっ!!」


 だが、そんな輝夜の必死な説得も、超越者たる二頭には届かない。生粋の神々である彼らの脳内には、輝夜が下界の生活を好きになる可能性など、最初から存在していない。


「かわいそうに、穢れで錯乱してしまっているのですね……」


「一刻も早く、我等の神聖な大陸に連れて帰らねば……!!」


「どうして……どうして、私の言うことを聞いてくださらないのっ!?」


 これはもはや会話をする余地はないな。そう判断した俺は、念話ですべての下界の神々に指示を飛ばし、再び戦闘態勢を取らせる。


 理由はどうであれ、あの二頭がどのような存在であれ、我が国の大切な后を奪おうとしている事実に変わりはない。


 防衛する、大義名分はできている。


 あとは、あのいけすかない日照り神の鼻っ柱をへし折ってやるだけだ!!


 俺たちがそう思い、再び剣を構えた瞬間、二頭の目がこちらを見下すように細まり、


「ま、まってください! どうか、どうか戦いだけはっ!!」


 まだ両親をかばおうとする輝夜に、どいていろと俺は叫ぼうとして、


「賢気様……。神々の皆様、しばしここは、余にすべてを預けてくださらぬか?」


 若宮がそれを、片手をあげることで制した。


『っ!?』


 驚く俺達と輝夜をしり目に、若宮は俺を握り締め、


「あの二柱の神の前へ」


「……いいのか?」


「かまわん。古今東西、国家級の重要な話し合いは王がするものであろう」


……まぁ、お前が言うなら構わんが。と、若宮の語調から、彼の覚悟が意外と固いことを感じ取った俺は、ほかの神々の防御系の権能をすべて若宮にかけてもらい、若宮を二頭の間へと運んでいく。


 そして、輝夜と並んだ若宮は、そのまま空中で膝をつき……って!?


「お許しくだされ、異国の太陽神・月光神。あなた方の娘に、われわれはいささか配慮が足らなかったようでございます」


 あたまを……下げた。




…†…†…………†…†…




 そして、お父様とお母様が襲来した夜。久々に帰ってきた京の都の大内裏にて、私――輝夜と若宮は、お互いに寄り添うように回廊に座り、久しぶりに顔をのぞかせた綺麗な満月を眺めていました。


「若宮……どうしてあの時あなたは、頭を下げてくださったのですか?」


「ん? 妻が大切にしているモノを、尊重するのは夫の役目であろうが」


 それに。と、若宮は少しだけ赤面しながら頬をかき、


「あんな泣きそうな顔をしたお前の前で、お前の両親を殺してくれなどと……余は言えなかったよ」


 あのあと、元凶である若宮が頭を下げたのを皮切りに、お父様とお母様はひとまず怒りを収めました。


 でも、私がマリューヒルへと帰ることだけは絶対条件として提示。


 それが果たされぬ場合は、お父様の権能で日ノ本の大地を枯れ果てさせる。と、恫喝までされました。


 与えてもらった猶予は一日。


 今夜が、私たち夫婦の最後の語らいとなります。


 正直……私は信じたくなかった。


 二人があんなに……あんなにも心ないことを働くなんて、今でも信じられません。でも、


「あんな人たちでも……私の大切な両親なんです」


「わかっておる」


「ごめんなさい……若宮。私はまだ、あの人たちを愛しています」


「知っておるさ」


「お父様の旱魃もありますし、これ以上あなたの国に、迷惑をかけるわけにはいきません。それに……あの二人が本当に私のことを大切に願っているからこそ、もともとそういうつもりで私を逃がしてくれたと知っているからこそ、私は……私は」


 マリューヒルに、帰らねばなりません。何度もつっかえて、何度も声を震わせて、私はようやく、その言葉を紡ぎだす。


 そして、その間、キリキリと搾り上げられるような心の痛みが、私の胸を襲いました。


 苦しい……。苦しい……。私の心がそう叫びます。でも、私はそれを口にすることができません。


 私は若宮の愛を裏切る結論を出したのに、私は若宮を捨てて故郷に帰るのに、若宮と別れるのがつらいなんて、そんな身勝手な言葉……言えるわけがありません。


 でも、


「そうか……」


 若宮は、そんな私の肩を抱き苦笑いを浮かべ、自分の方へと抱き寄せてくれました。


「さびしくなるな……。余にはもったいない妻であったのに」


「っ!!」


 今は、若宮のその温かい言葉が身に染みて、服越しに感じる若宮の体温が心にしみて、私は……涙を止めることができませんでした。


「ごめん……なさい。ほんとうに、ごめんなさいっ!!」


「かまわん。初めて会った時から、こんなことになるのではないかと思っておった。消えてしまいそうな美しさを持つ女だと……ずっと思っておったよ。だからこそ、こういう時に備えて、余はずっとお前の気持ちに気付かぬふりをしていたのだが……。まぁ、貫己とお前たちの方が一枚上手だったよな」


 やはり色恋とやらは、余には向かぬな……。と、苦笑いをしながら、若宮は涙を流す私を胸に抱きとめ、子供でもあやすかのように背中をさすってくれる。


「なくな……輝夜。余はお前の幸せのために戦ったのだ。悔いはないのだ。どのような結果になろうとも、余はお前のために戦えて、お前の夫として戦えて幸せであった……。だから、最後にみたお前の顔が、泣き顔だったなどという締まらぬ結末を、余に与えないでくれ」


「………………………………」


 そんな若宮の最後の願いを、私はなかなか叶えられそうにありませんでした。


 でも、それから数時間たって、ようやく私は、


「若宮……」


「なんだ?」


「たとえ幾百幾千の時が流れようとも……私は、あなたの妃と、名乗ってもいいのですか?」


「当然であろう。色恋が苦手な余に、お前以外の妃ができようか? 余の妃は……お前だけだ」


「……そう」


 ありがとうございます。と、私はようやく涙を流しながらも、笑顔を顔に浮かべることができて、


「若宮……私が残せるものはあまりにも少ないけど、せめて后としてこれだけは……」


 と、私はずっと前から作っていたとあるものを魔術によって体から取り出し、若宮に渡した。


「これは……!」


「……ふふっ。この子のこと、お願いしますね?」


 私は最後にそう言って、若宮の口に自らの口を重ねました。




…†…†…………†…†…




「さて、帰ろうかカグトリャーイ」


「早くこのような穢れた場から去らねば……」


 急くように、輝夜を結界で守りながら戦場となった海岸から飛び立とうとする二頭の竜たちを、俺――賢者の石は険しい視線で見つめていた。


 若宮が頭を下げ、無益な戦いはしないと決めたから、俺たち日ノ本神群は怒りの矛先を収めた。


 俺たちは神――人を助ける存在だ。だからこそ、人が望まぬ助けの手を伸ばすことはない。


 だがしかし、


「本当にこれでよかったのか?」


 どこかの神が、歯を食いしばりながらつぶやくのを、俺は止めることはできなかった。


「若宮……」


「よい。別れはもう昨日の間に済ませておいた」


 逆に、その言葉を利用し今一度若宮に確認をとったほどだ。


 どうか戦えと願ってくれと。我が妻を取り戻せと叫んでくれと。


 だが、若宮の顔はどこか満足げで、その言葉を翻せなど、俺には口が裂けても言えなかった。


「ではな、雑神ども。我が姫の守護、大義であった」


『――っ!?』


 とはいえ、さすがにここまで馬鹿にされて黙っていられるほど温厚でもなかったが。


 無数の神々の額に青筋が浮かび、怒りの霊力が一帯に満ちる。


「若宮っ!!」


 今度は確認ではない。


 これは神の喧嘩だ。手を出すなという警告。


 そんな俺の言葉に、「人のことバカ宮と言えんだろう、神よ」と苦笑いをしながら、若宮は肩をすくめただけだ。


 つまり了承である。


「太陽神よ。一言だけ言っておく」


 代表として、この国の主神である流刃が一歩前に出る。


「なんだ、俗なる剣の神よ」


「今回は我が息子たっての願いだからこそ矛を収めた。剣を鞘に戻した。だがあまり調子に乗るなよ、蜥蜴」


 もはや駄竜とすら呼ばない流刃に、背後の神々が口笛を鳴らし、歓声を上げる。


 そんな神々の姿になんと下品なと眉を顰めながら、テスパクトリスは鼻を鳴らし、こちらを見下してきた。


「わが旱魃を防げぬ風情の神が、何を言うかと思えばただの負け惜しみか?」


 器が知れるな。と、テスパクトリスが吐き捨てた瞬間、


 流刃の一刀が、いまだに脅迫として日ノ本全土を覆言っていたテスパクトリスの霊力を両断し粉砕。


 旱魃の空気は瞬く間に無くなり、いまだに日ノ本付近の海域に嵐と共に鎮座していた、荒威風命が雨ノ宮衣良津子を送り込んできて、枯れかけた大地に水を注がせた。


 豪雨が再び日ノ本を潤す。


 その光景に唖然とするテスパクトリスの頬をかすめるように、流刃が再び一刀をふるう。


 その斬撃は世界に境界を引き、剣線は天空を漂う大陸を直撃。


 その大地に巨大な渓谷を作り出しながら、大陸に大きな線を引く。


 遠視神術でその光景を見ていた俺の溜飲は幾分か下がり、神々からも遠雷のような喝采が届けられた。


「ゆめゆめ忘れるなよ、蜥蜴。お前たちは俺たちに見逃されただけだ。そして今一度我が国に害をなし、我が息子の大切な伴侶である輝夜を泣かせるようなことをしてみろ……。その時は、貴様らの首を切り落としてくれる!!」


 よくやったッ!! 俺の念話の通信に「よせやい。照れるぜ!!」とテスパクトリスに見えぬよう背中に隠したVサインを届けてくる流刃。


 そんな俺たちのやり取りに気付くことなく、自分の頬にできた裂傷を触ったテスパクトリスは、舌打ちを漏らしながら、


「よかろう。ありえぬ心配だが……貴様らの脅迫、一応聞き届けてくれてやる」


 確かに流刃には自分を殺す力があると感じ取ったのか、テスパクトリスはそれだけ言うと踵を返し、輝夜と妻を伴い天へと昇って行った。




…†…†…………†…†…




 遠くなっていく、龍のような細長い列島を見つめながら、私――輝夜は私と共に父様と母様に更迭された、アルフェスに話しかけました。


「義兄様……」


「現実を思い知ったかな、姫様?」


 相変わらず嫌な笑みを浮かべて私を見てくるアルフェスの人を食ったような笑い。私は貫己の罵詈雑言を思い出し、何とかこちらを馬鹿にしきった顔をしてくるアルフェスの精神攻撃に耐え、彼に話しかけます。


「私はようやく……あなたがなぜお父様やお母様に反旗を翻したのかを理解しました」


「その上でなお両親を愛せるとは、愚直なお姫様だことで」


「私にとっては、唯一無二の大切な方ですもの……。でも、それはあの島にいるあの方も同じ」


 だから……。と、私は言葉を斬りながら、隣の監獄用結界で胡坐をかくアルフェスに提案します。


「私と一緒に、マリューヒルを……お父様とお母様を変える手伝いをしてくれませんか?」


「……ほう?」


 そんな私の提案を、アルフェスは意外そうに聞きながら、


「裏切り者の私に手を貸せと? 豪気な話ではありますが、あなたの提案と私が目指した世界の違いはなんですか? ないというのなら、私にさえ任してくれればすべてをまた元の状態に戻すことが可能ですよ?」


 ふたたび両親は更迭され、アルフェスがマリューヒルの王になる。でも、それではだめだと私は思う。


 あの人のようなすごい王様の妃として隣になっていたから、ダメなんだと思う。


「いいえ。あなたが目指した世界にはしません……」


「では、どのような世界に?」


 そうですね……。と、私は頭の中で構想を練りながら、それでも目指すべき場所であるあの国のことを思い出しながら、


「私があの大陸に若宮を呼んでも誰もが笑って許してくれて、お父様とお母様もきちんと日ノ本の神々のようになってくれて、それを見ているすべての人たちも幸せになれるような……。マリューヒルを、そんな国にしたいのです」


「理想論ですな」


「理想をかなえるのが神なのではなくて?」


「…………………………………」


 黙り込んだアルフェスも、日ノ本の神々の姿に何か思うところがあったのか、ため息を一つ付いたあと、


「いいでしょう。どちらにせよ、私の未来はあなたにすがって延命を嘆願するしかないのです。その理想の果て……私が見届けて差し上げましょう」


 その言葉と共に手に入れられた、強力な助っ人に私は手を合わせて、


「じゃぁ、一緒に世界を変えていきましょう。アルフェス」


「そうですね。人間は短命ですから、あまり時間をかけるとあの龍人を国に招く機会もなくなりそうですし」


 まったく、そこらへんは愛の力でカバーしてくださいよ。と、アルフェスからの揶揄にわたしは少しだけ頬を染めながら、


「若宮……私、きっとあなたを迎えに来ますから」


 だから、待っていて? と、もう形もわからなくなってしまった島を眺めながら、小さくつぶやくのでした。


 ようやく竹姫編がひと段落。だがまだまだ続く安条時代……一体全体どうなってやがるっ!?


 二、三話閑話を挟んだ後は、狐迫害のお話が始まる予定。その後は、安条後期で活躍する陰陽術開祖の話かねぇ~。

 狐迫害はおそらく、この小説始まって以来のバッドエンドが、待ち構えるお話になる予定……。はたして、作者はきちんとシリアスに話を仕上げることができるのかっ!?


 耐えられない……このシリアスな空気に耐えられないんだぁあああああああ!? とギャグに走らないよう祈っておいてください^^;

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