明石閑話・真正仁真
「さて……」
征歩の復活と、宗教共存。
それが見事なった下界をしり目に、俺――賢者の石がいる高草原は、言い知れない気まずさに包まれていた。
理由は簡単。
「他教の最高神がウチを訪れることなんてなかったから、正直歓迎の仕方がわからんのだが……」
「やってきてそうそう、奇跡の演出を手伝わせた相手を目の前にして、よく言えますね……」
参ったな~。と、シャボン玉よりも軽い口調で、そんなことを漏らす瑠訊に、顔を引きつらせる黄金の輝きをもつ神。
わずかに引きつっている顔からは隠しきれない慈愛がうかがえ、
その雰囲気は、清濁併せもつ人間臭い日ノ本神達には絶対に出せない、たおやかで穏やかな包容力があるもの。
まぁ、ビジュアルは至って普通の、短い髪の優しい兄ちゃんといった感じだったのが、少し残念だったが……間違いない。
彼こそが、真教最高の神。この世のすべてを悟り知った、《真正仁真》こと、真・アルダータその人であろう。雰囲気や彼から放たれる莫大な量の霊力から考察するに、それはまず間違いない。
だが、それでも俺は失望を隠しきれなかったし、隠すつもりもなかった。だからこそ流刃の首に首飾りとして下げられた俺は、わざとらしくため息をつきながら一言。
「……チッ。髪の毛一個一個巻いて螺髪にしたり、耳がありえんくらい福耳だったり、親知らずがちょっと気持ち悪いぐらいたくさんあったりしないのか……」
「それどこの化物ですか……」
真の感想を聞き、うちのブッタ様に謝ってほしいと思うのは俺だけではないだろう……。
…†…†…………†…†…
とにかく、真教最高責任者の来訪である。
日ノ本の神々を代表する神として、あまりへりくだった態度をとるわけにもいかない。
共存とは対等だからこそ成立する概念だ。どちらかがへりくだり、相手が上だと認めてしまえば、それは共存ではなく隷属と寄生になってしまう。
せっかく下界が共存できたと盛り上がっているのに、神々がそれに水を差してはいけないだろうと、俺は必死に思考をめぐらし、何とかしてこの最高神の口からこちらと自分たちは対等だという言葉を引き出そうかと、思案していた時だった。
「今回のことは……誠に申し訳ございません」
「…………………………………」
なんか、先に頭を下げられた。
「ん? いきなり謝罪ってどうしたんだ、アンタ?」
出鼻をくじかれ固まる俺をしり目に、流刃は至って平凡に口を開いている。相変わらず何事にも動じない奴だ……。
「私は、私の教えが広まり、人々が救われればいいと、ただそれだけを考えて、真教布教を推奨していました……。真教を教え広げる、弟子たちを止めはしませんでした。ですが、国を越え、海を越え私の教えが広まっていくにつれ、先のような動乱が広がり、各所で戦が始まってしまう始末……。今回のこちらの戦争も、すべては我が不徳が原因なのでしょう。人々を正しく導けなかった、我が未熟な教えが……あなた方のもとで、清く正しく生きていた民に無用な混乱を招いた。なんと、何とお詫びすればいいのか……」
とうとうさめざめと泣きだした真に、先ほどまでどうやってこっちが優位な交渉をするか考えていた俺は、自分の心の醜さが浮き彫りにされた気がして、思わず声を引きつらせる。
「や、やめて……。今回の動乱はべつにあんただけのせいじゃないっていうか……。俺が悪かったことも多々あったし」
「そうそう。大体賢者の石のせいだから、気にすんなって。こいつがきちんと俺たちに連絡して、知識の共有化を図っていれば、回避できた動乱なんだから」
「お前はお前でどっちの味方だ!?」
平然と俺を売り飛ばす流刃の申告に、思わず怒声を上げてしまう俺。
そんな俺たちの態度を疑問に思ったのか、涙を流し、頭を下げ続けていた真は、不思議そうに顔を上げて、
「わ、われわれのことを怒っておられないので?」
そんな神の疑問に、俺はため息を漏らしながら真実を教える。
どうやらこの人相手に、腹の探り合いなんてしても無駄っぽいと……。
「本当に追放する気なら、初めから持ち込ませやしないさ。あんたたちが必要だと思ったから、俺たちはあんたたちの宗教をこの国で広めることを許した。今回起った動乱は、単純にこちらが民の意志を一つにまとめきれなかったが故に起ったことだ。未熟なのは俺たちであり、あんた達ではないさ」
「で、ですが……やはり責任の一端は我々がっ!」
「くどい。最高神と主神がいいと言っている。あんたはただふんぞり返って、こちらの不手際を指摘しても、文句が言われん側だし……。下手な謝罪はかえってこちらの恥になる。どうか自重してくれ。それに、大陸に名だたる大宗教の主が、そんなにへりくだって謝ってくれたというだけで、こちらの不満を持つ者達も納得しよう」
それでもなお食い下がる彼の謝罪を、流刃は笑って斬って捨てた。
もとより終わったことだし、幸いなことに被害も少ない。ここで下手な禍根を残すよりも、早急により良い関係を築いた方がお互いの利益になる。流刃もそう判断したからこその、余計な謝罪をさえぎったのだろう。
そんな俺たちの言葉に、納得してくれたのか、真は黙り込んだ後ブルブル震えている……。
震えている?
「そ、そんな……。で、では……私には何も罰はないのですか?」
「え、あ……はい。無いです」
何やらさきほどと雰囲気が違う。流刃もそのことに気付いたのか、若干口調が変わっている。
「そんな……。では、火あぶりは? 今回の動乱の原因として、ここで血祭りにはされないのですか!?」
「しねーよっ!?」
「俺たちをなんだと思っているんだアンタっ!?」
「バカな……。ではせめてさらし者に! 安心してください! 私は逆さにつられて、3年放置されても生き残る、ゴキブリのような生命力を持っています。存分に神々の皆様の鬱憤を晴らすことが可能ですよっ!?」
「何させる気だ、アンタ!?」
「そんなことをしたら、今度こそ真教勢力と殺し合いの戦争になるだろうがっ!?」
突然の信じられない神の主張に、驚き慄く流刃と俺。
そんな俺たちに若干逝っちゃった目で詰め寄りながら、それでも真は食い下がってくる。
「ご安心してください! 我が勢力は私が何をされようとも、私自身が《苦行です》と言えば、黙って流してくださいます! ただ、やたら目に諦めきったような色が浮かぶのが玉に傷ですが……その瞳も考え方を変えれば、中中感じ入るものがっ!」
「だめだ、コイツっ! わかった流刃! 俺こいつがどんな属性の神様なのかわかった!!」
「なんだ!? なんだ、賢者の石!? この意味不明な事態を打開できるなら、なんでもいいから教えてくれ!!」
ぐいぐい詰め寄ってくる真に、言い知れない悪寒を感じたのか、必死に彼を押し返しながら流刃は叫ぶ。
そんな彼に俺は教えてやった。
無数の苦行を経て、話を聞いてもらえぬ人々に根気よく話し続け、最後には暗殺すらも黙って許した彼が、どうしてすべてを許し、生の苦しみから解脱することができたのかを。
なんてことはない。彼は苦行をするあまり、苦しいこと普通になり……そのままメーター振り切って逆方向にいってしまったというだけ。
快楽。ではないだろう。苦しいものは苦しいままだ。そこは真教の教えとしてけっして譲れない。
だが、苦痛が当然であり、なくてはならないものになったのは確かなのだろう。
そう。つまり彼の神は……。
「あらゆる苦痛を受け入れ、それをすべて修行として還元する――被虐趣味の持ち主だぁあああああああ!!」
被虐趣味……俗にいうと、ドM。ありとあらゆる苦痛を喜んで受け入れる人の総称。
現代社会では変態と総称され蔑まれる……いわゆる異常性癖。
どうやらこの神様はその素養を持っているらしい。
そうでもなければ、明らかにやってきたらひどい目にあうことがわかりきっている、真教と土着の神々がぶつかり合っている土地に訪れるものかっ!?
俺がそう確信した瞬間、どこからともなく表れた、三面六臂に赤い肌を持つ鬼神と、紅蓮に燃え盛る炎を身にまとった、腰掛をまいただけの剣を手に持つ男が、真の背後に現れ、彼の頭部を殴りつける。
「ぐはっ!? これもまた……良し」
そう言って気を失う真をズリズリ、流刃から引きずり離した二人は、そのまま床に座り深々と頭を下げる。
彼らか発せられる気迫は間違いなく武人の物。おそらくは真教の武神だと思われた。
「申し訳ございません。我が主、真正仁真が不始末。阿須螺真王と」
「秘導真王が、慎みて謝罪いたします」
今回は真正仁真の護衛兼お守としてついてきたのだろう。神の意識を刈り取った手際の良さから見るに、恐らくはこういったことは今回だけのものではないようだし……。
「……真教布教を許したの、ちょっと早計だったかな」
「いうな。最高神はあれでも本当にいい教えなんだから」
そんな俺たちの無礼千万な言葉を聞いても、言い返すことができないのか真王たちは、羞恥で顔を染めながら目を回す真を見てため息をつくのだった。
…†…†…………†…†…
とまぁ、そんな一悶着はあったが……。ひとまず真教最高神の訪問と、ひとまずの和解。真教勢力を歓迎する旨は伝えることができたので、あとやることと言えば、
「というわけで諸君! 今夜は存分に、我等と共に生活することとなった宗教の最高神殿を歓迎してやれっ! 神としての器の大きさを示したり、かかわりのない自分の信仰とらないでねッ? とお願いするいい機会だぞっ!! そしてこれを機に、いままでの禍根をすべて忘れ、ともにこの大地で存在する者同士の交友を深めようではないかっ!! 乾杯っ!!」
『かんぱああああああああああああああああああああああああああああああああああい!!』
無数の歓声とともに掲げられる杯。それにはなみなみと酒が注がれており、強烈なアルコール臭を放つ。
というかこれ……純米酒である。
「おい……クサレ神。お前いつの間にこんなものをっ!?」
「いや、うちの信者たちに奉納用に使える、神でも酔う、強いお酒を頼まれちゃいまして……」
ちょっと本気出しました! と言って胸を張る、腐臭漂う青年に、ため息をつきながら、俺はいつになったら味噌と醤油ができるんだろうと、ちょっとだけ黄昏る。
そんな俺をしり目に、真へと群がっていく雑神達。
自分たちが弱いことを知っているがゆえに、慈愛の神たる真であるならば無碍にはしないと、自分の弱さを盾に特攻していく彼ら。その姿は、ある意味天晴と言えた。
代わりにある程度力を持つ神々――流刃の社にはいることを許可されている連中は、逆に遠巻きに見ている感じだ。
流刃の社に入ったせいで、逆に組織化に慣れてしまった彼らは、自分より明確に格上の相手には、下手なことを言わないように気を払わなければならないと思っている節がある。
あのおちゃらけた流刃にすら敬語を使う連中だ。雑神達のように無造作に、他教の最高神に近寄ることはできないのだろう。
この辺はやはり人間臭い神々。縦社会の弊害のにおいがプンプンする反応だ……。
もっとも、さすがに人間社会らしい、出世欲で話を振る連中はいないが。
もとより神の出世とは、下界で集められる信仰の増減によって行われるもの。最高神が気に入ろうが気に入るまいが、下で信仰を稼ぐのはあくまで自分という実力なため、そういったことで最高神のような上位階級の神にすり寄る連中はいないのだ。
「まぁ、そのへんは平和でいいよな……。神々の世界は余計な利権とかからまんし……。下の複雑怪奇な政争に比べれば随分とマシだわ……」
「下界で暮らしておられるのですか?」
俺の愚痴に反応したのは、酒を飲んでも酔えない俺に付き合ってくれている、阿須螺真王だ。
この武神が片手に持っている升に入っている飲み物も、実は酒ではなく水だ。
本人いわく、何でも自分が酔っ払ったら、誰が真さまの暴走を止めるのかとか……。
ちなみに秘導真王は滅茶苦茶酒に弱いらしく、すでに酒のにおいだけで酔っぱらい、羽猫唄姫にちょっかいかけてファンたちに袋叩きに合っている……。って、おい!? それ仮にも真教勢力の切り込み隊長って言われる、武闘派の武神だぞっ!?
「いえいえ、秘導のやつは酔っぱらうと本気で弱くなるので、そこらへんは安心でしょう」
「大丈夫なのかよ、真教勢力!?」
教義はともかく、霊的防衛能力がすげぇ不安だ!? と、真教最高峰の戦闘能力保持者の醜態に、俺は思わず愕然とする。
「いざとなれば、王席権という武神たちもいますから。それより最高神であるあなたが下界で暮らしているとは真ですか?」
「真ですけど?」
「下界の穢れやなにやらはどうしているのです? 我々真教の《真》はすべての神格にそれを浄化する作用がありますので、平然と下界に降りられますが、あなた方にはそれがあるとは思えないのですが……」
「あぁ、こっちにゃ、和御霊・荒御霊信仰っていうのがあってだな……。神々には、幸をもたらす和御霊と、害をもたらす荒御霊があって、害を及ぼすものでもとりあえず凄かったら崇めるんだよ、人間は。だから多少の下界の穢れがうつっても、そっちは神々の荒御霊が引き受けて、たまりにたまったら祟りとして発散するから大して問題にはなっていないんだ」
「ほう……。清濁併せもつ神格であるがゆえに可能な方法ですね……。うちの鬼神から移った真王たちが外敵に向かって振るう、憤怒の浄化攻撃と似たような感じでしょうか?」
「多分な……。見たことないからわからんけど……」
というか、一応あっちの武神もそういった力を使うんだな……。まぁ、俺の世界の明王様の像とかも、ブッチャケどこが仏だよと思わんばかりの凶悪な顔していたし。
と、俺が意外な真教と神祇道の相似点に感心している中、宴会の中心である二人の最高神と主神は酒飲んでヒートアップ。
というか、酔いすぎじゃね?
あの二人肩くんで歌い始めてんぞ。
「いや、思った以上に酒精がきつい……」
「そりゃ今までにないくらいのアルコール度数だろうからな」
そう言って顔を真っ赤にしてぶっ倒れる製作者クサレ神に呆れながら、酔っぱらいすぎて自重を失ったか……それに向かって襲い掛かる、クサレ神の嫁―—其ノ葉薫姫を気絶させる。
どういう風に襲い掛かったのかって? それは彼女の尊厳を守るために口を閉ざさせてもらおう。
「いやぁ、それにしてもこの国の神々は変わっていますね……。ここまで人間臭い神々は初めてですし、まさかこっちの来訪を祝ってもらえるなど思ってもみませんでしたよ。たいていの神々は我々の来訪を察知した瞬間、凄まじい数の兵士を飛ばしてくるので……。それにボッコボコにされながらも、説法しようとする真を止めるのがどれほど大変か」
「あぁ、その兵隊倒すのに苦労するんじゃなくて、最高神の無謀止めんのに大変なのね……」
「真はおっしゃいました。本当の敵は他者ではない……自らの内にあるものなのだと」
「見事にブーメランしてるって気づいてんのかあいつ」
「ぶ、ぶーめらん? あぁ、自分に返ってきているっていう意味なら気づいていないでしょう。あれ全部素ですから」
「それはそれで厄介だな……」
と、ちょっとだけお互いの苦労を分かち合った後、
「まぁ、俺達ももうちょっと前にこられたらどうなっていたかわからんぞ? 何せあんたたちが言っていたように絶賛内乱中だし……。神々の意思統一もできていなかったしな……」
まったく、あれは失態だった……。と、内心俺がこぼすのを聞き、阿須螺は小さく首をかしげた。
「失態?」
「あぁ。そうだけど?」
「そんなバカな……。あなたがもつ賢者の知恵は、外の女神からあなたが貰い受けた知恵なのでしょう? ならばそこに間違いはないし、有ってはならない」
「ぶっ!?」
突如として阿須螺が漏らしたその言葉に、俺は思わず吸収しかけていた酒を取りこぼす。
「なっ!? 外の女神……!? お前らっ、あの女神にあったのか!?」
「いいえ。さすがに我々も解脱したとはいえ、さすがにそこまで世界から外れることはできませんでした……。ですが、真は解脱し、世界の真理を知った際、あの女神にあったそうですよ?」
なんと……。そんな方法であいつに会うことができるのかっ!?
いいたいことも、解いてほしい制限もいっぱいたまっているし、いっそのこと真教の修行をして解脱するのもありだな……。と、俺が真剣に考えているとき、
「そうぞうのめがみでしゅか~」
「「…………………………………」」
俺たちの話を聞きつけたのか、顔を真っ赤にした真がやってきて、俺たちは思わず眉をしかめる。
「サカキさんも、あのじしょうそうぞうのめがみをしってるんでしゅ~?」
「知ってる。知ってるけどお前は少し落ち着け!!」
「真、飲みすぎですよ? いつもあなたが言っているでしょう? 酒は節度を持って」
「いいじゃないですか阿須螺。今日ぐらいはぁ~。こんなに気持ちよく私の教えを受け入れてくれた神々は初めてなんですし~」
「いや、内心すごくうれしいのは分かりますけど……」
まるで母親と子供のような会話を繰り広げる武神と、最高神に、どっちが上かわからんなと俺は呆れながら、解脱の話を聞くことにする。
「真、あんたがあの女神に会ったっていうのは本当か?」
「ほんとうですよ~。というか、出会ってすぐに滅茶苦茶驚かれた挙句『ここまでくるなんて驚いたわ。悟りし者……。ようこそ、創造神の間へ』とか言っていたんですけど……。あれ絶対創造神じゃないですよ!」
「は?」
創造神じゃ……ない? 真は仮にも世界の真理を知った存在。その言葉には信憑性がある。じゃぁ一体あいつはっ!?
「ちょっと『なぜ人は苦しむんだと思いますか?』ってきいたら、『え、え? ここにきて初めに言うセリフがそれ!? も、もっとなんかこう……感動しました! とかあるでしょっ!!』なんて言ってきましたし……」
「……………………」
「挙句の果てに、私が世界の真理について語って、正答かどうか聞いてみても『もう! 知らない、知らない、知らないしっ! 私が暇つぶしで適当に作ってデザインしたら、勝手にこんな世界になったんだから、だいたいはあんたたちのせいでしょっ!! 私がその答えに関して、知るわけないじゃない、バカぁああああああああ!!』とか言って追い出されましたし……。あれ絶対創造神じゃないですよ……」
「……………………………………………………………」
あぁ、うん。真、それ多分あいつが本気でそのことについて知らなかっただけだと思うんだ……。というか、おおざっぱに地球参照して世界を設計したとか、言っていたような気もするし……。アリの観察を楽しむような奴だから、世界がどういう風に発展するかは、完全に世界任せの神様だろうし……。そんな理由で世界作った奴だから、そんな小難しい哲学話されてもチンプンカンプンだろうし……。
内心で俺が創造神に関して呆れきっている中、真は酔っぱらいながら信じられない言葉をもらす。
「でも、一応あなたがいたところを見ると、あながち力がない女神だということはできないですよね~」
「俺のこともきいていたのか?」
「もちろん。『東に、とある国の最高神をしているわたしの使者がいるから、よっぽど困ったら頼んなさいよねっ!! いついかなる時も、決して間違えた答えを出さない能力を、あの子には与えてあるからっ!』とか言っていましたし。実際あなたは賢者の知恵を持つ存在ですしね」
「…………………………………………………」
その言葉を、嘘だ! と断じることはできない。女神は与えた能力に関しては非常に正直な奴だった。
多少の事実は隠していたが、制限は大まか女神の言った通りの目的に沿っているし、たいていのことはできるといった世界改変もある。現代知識の検索能力など、いったいどれほど世話になったかわからない。
だが、しかし、俺は最善の答えを出すことができなかった。
兎王朝はすぐにつぶれた。
日ノ本も正しく導けなかった。
国を著しく乱してしまった。
なぜだ? 女神の言うとおりの性能が与えられているなら、性急に判断する前に、高草原と連絡を取り合い、知識を与えることによって神々を事前に説得するという手段をとったはずだ。
そうすれば下手な混乱は起らなかったのだし、真教受け入れは、神々が神託することによってスムーズに受け入れられたはずだ。
あの動乱は必要だった? だからこそ、動乱を起こすことが最善と判断した? バカな。そんなことはない。国家運営に関して外敵の排除でおこる戦争ならともかく、内乱などというものは著しいマイナスにしかならない。今回だって、下手をすれば征歩が死に、日ノ本に多大な悪影響が出ていたはずだ。
今回は日ノ本の神々に力がついていたから、征歩の魂の復元という離れ技をやってのけることができ……彼の魂が高草原や黄泉に入って死者となる前に、蘇らせることができた。それによって、征歩の死による悪影響は限りなく小さくなり、国の政治も再び安定し始めている
だが、それは所詮結果論。うまくいかない可能性の方が高かった。
そんな曖昧かついい加減な方法を、最善の選択とすることなど絶対にない。
ならば……女神が言ったという《最善を選択する能力》とはなんだ?
まさかとはおもうが、女神が与えた俺の力に……異常が、不具合が出ているのか!?
そんな考えに行きつき、俺の体に言い知れない悪寒が走る。
石でなければ冷や汗も出ていたかもしれない……。それ程の恐怖を今の俺は感じていた。
自分の中にある異能の力が、もしかしたら壊れているかもしれない。そんな可能性を知ってしまえば、誰だって得体のしれない恐怖にとらわれる。
だが、逆説的に考えればそれは、
「女神の能力も万能ではない……。それつまり、女神の制限だって破る方法がある……ってことか?」
今まで考えもしなかったその可能性。俺ができないのだったら、俺以外の人間ができるようにすればいいと、放置していたその可能性。
実際大規模攻撃は、見事瑠訊たちがしてくれるようになったし、今回の件で死者蘇生の可能性も見えてきた(まぁ、やたらめったらやらせるつもりは、さすがにないが……)。正直俺がいまさら、女神の制限に反抗する意味は薄い。
だが、それでも、
「できるなら……やってみる価値はあるか」
新たな可能性があるなら、下界の政治は今回の件で再び長い安定期に入るだろうから、俺は暇になるだろうし、挑戦してみるのもいいだろうと……俺は自身の体を調べつくす覚悟を決めた。
以前の霊力発見時のような、暇つぶしのやっつけ研究ではなく、自身の性能の徹底解明の覚悟。
今回のような悲劇を未然に防ぐために、俺はそれを神皇補助に続く、第二の生きる目標として定めた。
*仁真・真王・権=真教における真格の階級。全部で五階級あり、仁真が最も悟りに近い存在だとされている。
・仁真=《悟った人》真――真正仁真を筆頭に数多の悟った存在&間もなく悟れる存在である真格達の称号。一番偉い。真教勢力最終兵器であり、出た瞬間争いが終わりあらゆる存在がひれ伏すとか……。
・真察=修行者の神格。だが下界の人々と比べると悟りに近い真格である。自分の修行もこなしつつ、下界の人たちの悟りも助ける凄い真格たち。平和的真教加護のほとんどはこの人たちのもの。
・真王=真教の教えを守るため武力をふるう軍神たち。しかし、教義的に暴力はあまりほめられたものではないため、階級は下の方な残念な真格。しかし、実力は確かで広大な真教領土の防衛を行い、一人一人の信者が使う身を守るための戦闘術の加護を与えてもいる戦闘のスペシャリスト。なにげに、今の混迷した争いの多い時代では、一番信仰を得ていたりする。
・権=一番階級が下の真格だが、その権能は多岐にわたる真教勢力の何でも屋。他国で真教の真格が付け足される場合は大体ここになる。戦闘向けの権能を持つ存在も多く、真王たちに一目置かれる存在もいる。
真教布教の際に最も働いた真格たちでもある。
・高僧、開祖=真教内の新宗派や、現世にて強力な権能をふるう僧たちが列席される。ただし、その権能は非常に小さく、権たちにすら遠く及ばない。
そのほかにも後々増えていく予定だが、それは日ノ本独自で生まれた真格なので、こちらでは割愛する。




