第075話 魅了魔法に屈したわけではない
俺は三枝さんにパーティーに誘われている。
「すみませんが、やっぱりソロがいいですわ。実を言うと、前職を人間関係で辞めましてね。1人が良いんです」
クビだけどね!
うっ……心が痛い。
あとでカエデちゃんに癒してもらおう。
「そうか……それは辛かったね」
やめろ! 同情するな!
惚れちゃうだろ!
埋めたくなるだろ!
「そういうわけですみませんが、断ります。せっかくAランクの方に誘ってもらったのに断るのは失礼ですが…………」
三枝さんのパーティーに入りたい冒険者は大勢いるだろう。
そいつらから石を投げられそうだわ。
「うーん、じゃあさ、臨時でもいいから時々、一緒にやらない?」
しつこいな、この人……
マジでモテ期かもしれん。
「なんでそこまで俺にこだわるんです? Eランクですよ」
「ランクは関係ないよ。誰だって最初はFランクから始める。君は強い」
知ってる!
「そんなことないですよー」
「君、私に勝てると思ってるでしょ?」
あたりめーだろ。
「そんなことないですよー」
俺がそう言った瞬間、三枝さんから殺気が漏れ、右手が動いた。
俺はすぐに手を伸ばし、三枝さんの手が腰の剣に届く前に剣の柄を押さえる。
「――え? キャッ!」
三枝さんが可愛い声を出した。
何故なら、俺が足で三枝さんの足を払ったからだ。
そして、それと同時に押さえていた三枝さんの剣を抜き、倒れた三枝さんに向ける。
これで三枝さんは尻餅をついたうえに武器を失くし、一方的に俺が優位になった。
「すごいね。やるかい?」
どっちの意味だろ?
殺す? 犯す?
「あなた、Aランクでしょ。ここから逆転できそうです」
俺はそう言って、剣を下ろし、三枝さんに手を伸ばす。
「まあ、そうだね。スキルが色々あるからね」
三枝さんはそう答えながら俺の手を握り、立ち上がった。
「ちなみにですけど、どんなのがあるんです?」
俺はお尻をパッパッと払っている三枝さんに剣を返しながら聞く。
「手の内を晒す気はないけど、まあ、私は魔法も使える」
きったね。
ずるい、ずるい!
「へー……いいなー」
「ただの器用貧乏だよ。サツキさんに剣術で勝てなかった」
サツキさんの剣術のレベルが5だし、4ってところかな?
ふっ、勝った。
「魔法ってどうやって覚えるんです?」
「その辺を教えてあげるから一緒にやろうよ」
うーん、手強い。
この辺も従姉と似てる。
「あのー、本当になんでそんなにこだわるんです? 俺はそこそこ強いかもしれませんが、あなたはAランクでしょ。さっきのリンさんだって強かったし、他のメンバーだってサツキさんのパーティーメンバーだったのなら十分に強いでしょ。俺が必要には思えません」
正直に話せや。
「ここは正直に言った方がいいね。理由は2つある。1つは君も勘付いていると思うが、例の黄金の魔女だ」
だろうね。
「それはわかります。ですが、俺は会ったこともないですよ?」
「それは嘘だ。君の話しぶりはどう考えても知り合いのそれだった」
いや、まあ、自分ですからね……
「カエデちゃん経由ですよ」
「まあ、それでもいいよ。とにかく、あの魔女と繋がりが欲しい」
アイテム袋を売ってあげるって言ってんじゃん。
「勧誘です?」
「いや、それは無理だとわかっている。それにサツキ姉さんが絶対に手放さない」
金の亡者だもんね。
「ふーん……じゃあ、なんでです?」
「これはオフレコで頼みたいんだが、ギルド本部とエレノア・オーシャンの間で、ある取引が行われる予定だったんだよ。でも、邪魔が入ってしまってね、おしゃかになってしまった。本部長は何とか関係回復を図りたいんだ」
あー……あれね。
でも、俺はクレアとの取引が終わったら普通に本部長に売る気なんだけどな。
「なるほどー。それで藁にもすがる思いなんですね」
俺は藁だった。
「まあ、そんなところかな……池袋ギルドでは他に知り合いがいないんだよ。あそこって今も昔も初心者ばっかりだし」
「ふーん、もう1つは?」
「…………ものすごく個人的な話だが、サツキ姉さんと仲直りがしたいんだ。というか、許してほしいんだよね」
そういえば、サツキさんが三枝さんは自分に懐いてたって言ってたなー。
「簡単ですよ。池袋ギルドに戻ればいい」
「移籍は無理。私は本部長とどっぷりだから」
愛人みたいなことを言うな……
「そんなに深いんですか?」
「表に出せない金の流れまで関わっている」
そら、ダメだわ。
きったない大人だなー。
「なるほどー」
「勝手に出ていって何を言ってんだと思うが、私にとっては姉も同然なんだ」
本当に慕ってるんだなー。
「それでですか……」
「まあ、これは仕事でなく私情だね。とにかく、そういうこともあって一緒にやらないって誘ってる。色々と教えてあげるからさ」
どうしようかねー?
サツキさんに相談してみるか。
「ちょっと考えてもいいですか?」
「いいよ。あと、別にそこまで重く考えなくてもいい。時間が合えば、一緒に行こうって言ってるだけだし、そっちの都合を優先していい」
「三枝さんって普段はどこで活動してるんです?」
「特に決まってないよ。依頼があれば、そこに行くし、気分だね」
ガチ勢じゃないっぽいな。
「俺はEランクだし、キツいところには行きませんよ?」
「わかってるよ。ねえ、午後から暇? とりあえず、2人でやってみようよ」
「ここでですか? スケルトンしか出ないし、何体出ようが連携もクソもないですよ」
「まあまあ、1人は退屈でしょ。話し相手になってあげるから」
確かに退屈とは思ってたな……
とりあえず、今日はおっぱいさんと組むか。
「じゃあ、やりましょう。どうせスケルトンを狩るだけですし」
「君、レベルいくつ?」
レベルくらいなら言ってもいいか……
「7ですね」
「初心者だねー。もっとレベルの高いところに行ったらすぐに上がるよ」
わかってはいるんだけど、金は別の方法で稼げるから無理をする気がないんだよなー。
ナナポンもいるし。
「とりあえず、スケルトンを100体ほど狩れって言われてます。そうしたらDランクにしてくれるそうなんで」
「へー……カエデ? サツキ姉さん?」
「かわいい方です」
「かわいい? じゃあ、カエデか…………」
サツキ姉さんにチクっとこ!




