第071話 やはりマントが必要か?
俺とカエデちゃんは家を出ると、呼んでおいたタクシーに乗り込んだ。
出勤にタクシーを使うという贅沢だが、電車は嫌だし、自家用車もない。
車を買う金はあるが、ペーパードライバーなので運転する自信がちょっとないのだ。
俺達がタクシーでペチャクチャとしゃべっていると、ギルドの裏口に到着した。
カエデちゃんはタクシーから降りると、腰を屈め、タクシーの中を覗いてくる。
「じゃあ、先輩、また後で。私は8時半からなので、それ以降に来てください」
今の時刻は8時10分だ。
「わかった。じゃあ、頑張ってね」
「はい。先輩も」
カエデちゃんがギルドの裏口に向かっていったので、俺は運転手さんにギルドの表口まで行くように頼む。
当然、裏口から表口に回るだけなので、すぐに到着した。
俺はタクシーの運転手に料金を払い、タクシーを降りる。
そして、ギルドに入っていった。
ギルドのロビーには予想通り、他の冒険者はいなかった。
まあ、昼間もいないし、朝から活動する冒険者は少ないので予想はしていたが、心配になる光景だ。
俺はひとまず、更衣室に行き、着替えることにする。
更衣室に入るも、当然、誰もおらず、貸し切り状態であった。
「都内でこれってどう考えてもヤバいよなー……」
ホント、大丈夫なのかね?
俺はエレノアさんではなく、沖田君の実力で頑張って、ここを人気にしようと決意し、着替え始める。
服を脱ぎ、インナースーツとジャージを着ると、備え付けの洗面台の鏡を見た。
「ジャージかー……もし、これでAランクになったらジャージ剣士と呼ばれそうだな……」
と言っても、鎧を着る気はない。
重いし、暑そうだし、着る意味がない。
とはいえ、ジャージは考えた方が良さそうだ。
いっそ、道着でも着るか?
でも、あれはあれできつい部活を思い出して嫌だな……
「まあいいや。あとで考えよう」
おしゃれマスターカエデちゃんに聞こう。
俺は着替えを終えると、スマホを取りだし、フワフワ草について調べてみる。
すると、意外にも結構な数のサイトがヒットした。
フワフワ草はカエデちゃんが言うようにクーナー遺跡に生えている草らしい。
特に毒もなく、危険はない雑草っぽい。
ただ、見た目は完全にねこじゃらしだ。
「ふーん……」
フワフワ草を調べていると、8時30分になったので、スマホをしまい、更衣室を出た。
すると、受付にカエデちゃんが座っていたので、まっすぐ向かう。
カエデちゃんはさっきの可愛らしい格好ではなく、ギルドの制服に身を包み、髪形も後ろで一本に結んでいた。
「さっきぶりー」
「はーい、さっきぶりでーす」
俺が受付に行き、挨拶をすると、カエデちゃんが笑顔100パーセントで挨拶を返してくれる。
やはり、カエデちゃんはこっちの方がいい。
エレノアさんの時の他人行儀は嫌だわ。
「ねえねえ、俺の格好ってどう思う?」
「ジャージですね……という感想しか浮かびませんね。さすがにかっこいいと褒められません」
まあ、俺もかっこいいですーって言われても嘘としか思えない。
「ダサくない?」
「初心者っぽくていいんじゃないです?」
まあ、初心者なんだけどさ。
「この格好で進んでいっていいかな? ジャージ剣士って呼ばれない?」
「上位ランカーでも軽装の方はいらっしゃいますよ。鎧は重い分、逃げられませんし、単純に疲れますから」
そういえば、三枝さんも軽装だったな。
「ふーん」
「まあ、もうちょっとおしゃれなトレーニングウェアとかスポーツウェアにしたらどうです?」
「そうするかな」
「別にジャージでもいいとは思いますけどね」
カエデちゃん、俺のファッションに興味ないな……
「もうちょっと興味を持とうよ」
「フロンティアに行くんでしょ? 一緒に出掛ける時にジャージは嫌ですけど、フロンティアに冒険にいくのにファッションはどうでもいいです。それよりも機能性を重視してください。ファッションを気にしすぎて事故とか嫌ですよ」
ごもっとも。
アホがやることだ。
「わかった。あまり考えないようにするわ」
「そうしてください。先輩は自信があるんでしょうし、実際に強いんでしょうが、ここで待つ方は心配なんです。そういうことは気にせずに無事に帰ってくることだけを考えてください」
確かに逆の立場なら心配になるな。
おしゃれを重視する子なんて不安でしかない。
ナナポン、お前のことだよ。
「はーい」
「よろしい。はい、ステータスカードと刀です」
カエデちゃんは頷くと、俺のステータスカードと刀を受付に置いた。
俺はステータスカードを手に取り、見てみる。
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名前 沖田ハジメ
レベル7
ジョブ 剣士
スキル
≪剣術lv6≫
≪話術lv1≫
☆≪錬金術≫
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やっぱり連動しているか……
レベルが7になってるし、話術のスキルもある。
名前以外は本当に一緒だ。
「ところでさ、ジョブって変わるん?」
「変わることもありますよ。たとえば、魔法使いのナナカちゃんが剣を使って剣術のスキルを覚えれば変わると思います」
ナナポンは火魔法のスキルレベルが2だから剣術のスキルレベルが2以上になれば剣士になるのかな?
それとも魔法剣士だろうか?
「これって意味あるの?」
「適性と言われています。剣士なら剣術のスキルが上がりやすいとかなんとか……詳細は調査中ですね」
まあ、これは気にしなくてもいいや。
俺は剣しか使えないし、剣士で良いだろう。
「なるほどね。じゃあ、行ってくるわ」
俺はステータスカードをカバンにしまうと、刀を持つ。
「いってらっしゃーい」
俺はカエデちゃんに見送られ、ゲートに向かう。
そして、ゲートをくぐり、久しぶりのクーナー遺跡へと向かった。




