第055話 ぼろい部屋でも華があると輝く
月曜日はナナポンとフロンティアに冒険に行った。
レベルは上がらなかったが、そろそろ上がると思われる。
火曜日は部屋の掃除をした。
主に水回りをきれいにし、いらない物やすぐには使わない冬服等をアイテム袋に収納した。
水曜日は約束通り、ナナポンとフロンティアに行った。
だが、オークションの話題が盛り上がりすぎたため、ほとんどしゃべっており、たいしてモンスターを狩ることはなかった。
木曜日は残っている掃除と買い物に出かけた。
新居の自分の部屋のベッドとかを買いにいったのだ。
なお、カエデちゃんの要望通りにダブルベッドを買おうと思ったのだが、大きすぎたのでやめた。
そして、金曜日。
この日はオークションの最終日であり、カエデちゃんが夕方に来る日だ。
俺は朝早くから起き、掃除の続きや買い物に行き、時間をつぶしていく。
夕方になると、カエデちゃんから『仕事が終わったんで、一度家に帰ってから行きます』というハートマーク付きのメッセージが届いた。
ほら、見ろ。
これを彼女と言わずに何と言う?
わかったかね、ナナポン君。
俺はカエデちゃんが来るということで、ジャージから外に出るような服に着替え、待つことにする。
しばらく待っていると、時刻が7時を過ぎたころにインターホンが鳴った。
俺は急いで玄関に行き、扉を開ける。
扉の向こうにはギルドの制服ではなく、白のニットと薄緑のロングスカートをはいたカエデちゃんが立っていた。
「お疲れ様、今日もかわいいね」
俺はいつものようにデイリーミッションを達成する。
「えへへ、ありがとうございます。あ、これ、どうぞ」
カエデちゃんは嬉しそうに笑うと、スーパーのビニール袋を渡してくる。
中身を見ると、やっぱり惣菜だった。
「ありがとー。上がってよ。寒かったでしょ」
俺はカエデちゃんを家に招き入れる。
「ですねー。最近は朝晩が冷えます」
カエデちゃんは部屋に入り、座りながら答えた。
「ホントねー」
「しかし、片付きましたねー。元々、そんなに物はない部屋でしたけど、一気になくなりました」
カエデちゃんが部屋を見渡す。
今週で一気に片づけたので、かなりきれいになったのだ。
「まあね。明日、最後の掃除をして、明後日には引っ越すかな。カエデちゃんは?」
「私は明日明後日が休みなんで明日引っ越して、明後日に部屋を準備します」
あれ?
早いぞ。
「片付けとかは? カエデちゃんは仕事があったでしょ」
「元々、きれいにしてましたし、アイテム袋があるからすぐですよ」
そういえば、掃除好きって言ってた。
「じゃあ、カエデちゃんが先に住むのか」
「そうなります。ご飯を買って待ってまーす」
いい子だわー。
かわいいわー。
「多分、昼前に行くからよろしく」
「はーい」
うんうん。
「あ、カエデちゃんさー、ナナポンにあることないことを言うのをやめろよ。あいつ、めっちゃバカにしてくるぞ」
「ないことは言ってませんけどね。ナナカちゃんに忠告しようかと思ったんですよ。あの子はまだ19歳です。大金を手に入れようとして無茶したり、人に自慢して不幸になることもあります。あの年頃は普通に注意しても聞きませんし、笑い話を交えながらこんなバカになっちゃダメだぞーって忠告したんですよ」
…………この子、すごいなー。
「俺をピエロにしたわけね。反面教師にはちょうど良かったわけだ」
「まあ、実際、先輩はかなりひどかったですからね。先輩とエレノアさんが同じカバンとスマホを持っていた時はさすがに呆れました」
浮かれてたんだよ。
「大金に目がくらむと、注意力や思考力が散漫になるね」
「あの子もそうなりそうだったんで釘を刺しておいたんです」
「まあ、そんな感じだったな。あいつ、今回のオークションでかなりテンションが上がってたし」
まあ、ナナポンの儲けは推定1億5000万だしなー。
誰でもそうなるわ。
「ですねー……しかし、先輩、見てます?」
カエデちゃんが主語を言わずに聞いてくる。
でも、俺には言っている意味がわかる。
「見てる。すでに8億にいってるね」
オークション終了まで残り5時間ある。
だが、すでに8億を超えている。
まだ最後の追い込みがあるのにもかかわらず、すでに推定落札額に到達しているのだ。
「8億だとしても2つで16億。手数料やナナカちゃんの取り分を抜いても13億が先輩の取り分です」
「ヤバいな……」
とんでもない額だ。
「一生遊んで暮らせますね」
「俺だけだったらなー」
でも、カエデちゃんもいる。
1人だったら十分だが、2人となると、豪遊するには足りない。
別にカエデちゃんが浪費家というわけではなく、2人だと遊ぶ選択肢が増えるからだ。
だって、1人で世界一周旅行に行ってもつまんねーもん。
「まだやりますか?」
カエデちゃんはエレノアさん退場のことを言っているのだ。
「いけるところまでいく……」
「引き際が大事ですよ?」
カエデちゃんが俺の手に自分の手を置く。
「わかってる。だが、今じゃない。まだ世間はエレノアさんのことを謎の魔女と見ている。ヤバくなるのは錬金術のスキルがバレた時だ」
皆、エレノアさんが普通にスライムからドロップしていないことには気付いている。
だが、色々と予想はしているが、方法まではわかっていない。
だから、エレノアさんに手出しができないのである。
皆、エレノアさんが謎の魔女すぎて怖いんだ。
この恐怖がなくなった時がエレノアさんの最後だろう。
「こうなったら100億を目指しますか」
100億か。
想像できん数字だ。
「そうだな。金の使い方に困ろう」
「わかりました。やりましょう!」
「おー! よし、飲もう」
「はーい」
俺とカエデちゃんはオークションを見ながらカエデちゃんが買ってきた惣菜をつまみに缶ビールを飲み始めた。




