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地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~  作者: 出雲大吉
第2章

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第050話 時すでに遅し ★


 私は席に着きながら時計を見る。

 時計は昼の2時を指していた。


 遅い……

 約束は1時だったはずだが。


 私はさすがに1時間の遅刻は遅すぎると思い、デスクに備え付けられている電話に手を伸ばした。

 すると、私の手が受話器に触れるか触れないかくらいのあたりでノックの音が聞こえてくる。


「入れ」


 私は伸ばしていた手を引っ込め、入室の許可を出した。


「失礼します」


 私の部下であるヨシノが頭を下げて入室してくる。

 私はそれを見て、嫌な予感がした。

 何故なら、この女がこんなに礼儀正しい時はロクなことがないからだ。


「どうした?」


 私がそう聞くと、ヨシノは私のデスクのそばまでやってくる。


「本部長、エレノア・オーシャンとの交渉に失敗しましたことを報告します」


 は?


「ちょっと待て。意味がわからん。あの魔女はまだ来てないぞ」

「いえ、約束通り、1時に来たそうです」


 は?


「本当に待て! 何を言っている!? 私はずっと待っているんだぞ!」

「端的に言えば、野中が横入りしました」


 野中……?

 あいつか!


「野中が何をした!? あいつ、私に黙って勝手に交渉でもしたと言うのか!?」


 ありえん話だ。

 野中は私の部下だぞ!?


「進藤先生もいたそうです」


 そういうことか……

 野中は国会議員である進藤の親戚を嫁に取っている。

 あいつはそのコネでこの本部にも採用となった経緯があるのだ。


「クソッ! 一体、何があった!?」


 私が怒鳴るようにヨシノに聞くと、ヨシノが嫌そうな顔をする。


「す、すまん。君は関係ないし、パワハラだったな」


 いかんな。

 こういう時こそ冷静に。


「いえ、心中はお察しします」

「それで? 勝手に交渉したわけだな?」

「はい。もっと言えば、本部との交渉ではなく、進藤先生の息のかかった会社との交渉ですね」


 落ち着けー、落ち着け、私!


「その交渉をこのギルド本部でやったと?」

「そうなります。マズいですよね?」

「いいわけないな。野中には島根支部に行ってもらおう」


 コネのこともあるし、クビにはできんが、二度と浮上させん。

 一生、縁結びでもしてろ。


「ちなみにどんな交渉だ?」

「脅して100万円で買い取ろうとしたみたいです」


 100万て……

 いくら何でも安く買い叩きすぎだ。


「それはすごいな。それで決裂か?」

「はい。進藤議員は魔女の素性のことで脅し、買い取ろうとしたようですが、拒否されました。逆にゲートを閉じるぞと言われ、政府はパニックです。野中は真っ青になって倒れました。今、病院に行っています」


 …………え?


「ヨシノ、私は午後から有給を取ろうと思う」

「ダメです」


 まあ、そうだろう。


「ふぅ……」

「怒鳴られるかと思ったんですが……」

「もはや、その域を超えたよ」


 ゲートを閉じるだと?

 ありえん。

 ありえんが…………


「ヨシノ、どう思う?」

「嘘と簡単に流せればよかったんですが、相手は黄金の魔女です。あの魔女がフロンティア人という噂もありますし、何とも……」


 そうなのだ。

 嘘と言い切れんところがつらい。


「マズいな」

「ただ、たとえ、あの魔女がフロンティア人だとして、ゲートを閉じるすべがあったとしても、実際はしないでしょう。いくらなんでも短慮すぎます。やるなら本当に拘束しようとした時でしょう」

「私もそう思うし、上もそう判断するだろう。問題はあの魔女の影響力が増したことだ。これで政府はエレノア・オーシャンに手出しができなくなった」


 ゲートを閉じられれば、日本は間違いなく衰退する。

 その可能性がある魔女を無下には扱えない。


「あの魔女は本当に魔女でしたね。政府は交渉しないんですかね?」

「何を交渉するんだ? あの魔女は何を聞いてもすべてはぐらかして答えるし、自分がフロンティア人であることを否定していた。もし、あの魔女がフロンティア人であるとしたら私はあの魔女が逃げてきたフロンティア人であると予想している」

「逃げてきた?」

「フロンティア人はここ30年で接触を極端に避けてきたし、世界中のどのゲートを使ってもフロンティア人は見つかっていない。つまり、向こうも接触を禁じているのだろう。そんなフロンティア人がこっちに来るということは逃げてきたということだ。もしくは、元々、フロンティアの政府に縛られていない世捨て人だな」


 犯罪者か世捨て人か……

 まあ、あの魔女がフロンティア人と仮定した場合の話だ。


「どちらにせよ、魔女ですね……」

「下手なことはできんし、政府は様子見だろう。今のところはポーションやアイテム袋を卸してくれる金の卵だしな」


 外国から工作員が入ってきているらしいが、そこはアメリカのあの2人に任せるしかない。


「では、我々も静観ですか?」

「いや、回復ポーションの交渉を再度、行おう。交渉決裂したのはウチではない」

「伝言です。『さっきの人に売っちゃダメって言われたからレベル2の回復ポーションは売らないことにしたわ』だそうです」


 …………………………。


「あれはウチの職員ではない。そうだな?」

「先程、島根に栄転と?」


 栄転とは言っていない。


「やっぱりクビだ」

「よろしいので? 一応、進藤先生のコネですけど」

「こんな事態を引き起こした進藤は終わりだ。どうせ、すぐにその会社との癒着がマスコミにリークされる」


 あれは力も強いが、その分、敵も多いし、すぐにそうなるだろう。


「では、知らない男が勝手にギルドに侵入し、勝手に交渉したということでよろしいですね?」


 無茶苦茶だな。


「そうなるな。私はすぐにあの女狐に連絡を取る。お前、口添えできんか?」


 従姉だったろ。


「厳しいです。従姉は金の亡者ですから」


 似てんな、おい。

 本当に従姉か?

 姉妹だろ。


「では、仕方がない。ふっかけられるかもしれんが、何とか交渉してみよう」

「そうなるといいですね」


 ヨシノが微笑んだ。


「…………その笑顔は何だ?」


 ものすごい嫌な予感がする。


「黄金の魔女がここを出た後、すぐにタクシーに乗り込んだそうです」

「呼んだんだろ」

「タクシーの中にはすでに金髪の女性が乗っていたそうです。あと、こちらを」


 ヨシノがそう言って、自分のスマホを見せてくる。


 スマホの画面には満面の笑みを浮かべる男が立っていた。

 その横には同じく満面の笑顔のクレア・ウォーカーとハリー・ベーカーがいる。

 そして、端には不満そうな仏頂面のくせに、しっかりピースだけはしている金髪の魔女もいた。


「何だ、これは?」

「とあるラーメン屋の店主がつぶやいたものですね。Aランク冒険者と黄金の魔女も御用達のウチのラーメンをよろしく、だそうです」


 …………………………。


「もう接触したのか、あいつら」


 しかし、なんでラーメン屋?

 似合わんぞ。


「詳しくはわかりません。ですが、クレア・ウォーカーがアメリカでフロンティアのアイテムを売買する会社を持っていることを忘れずに」


 …………そうだ!

 マズい!

 横からかっさらわれる!


「すぐに電話をする! ヨシノ、後のことは任せた」


 私はすぐにデスクの上にある電話の受話器を取った。


 間に合ってくれ!

 …………もう遅いとは思うけど。


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