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地獄の沙汰も黄金次第 ~会社をクビになったけど、錬金術とかいうチートスキルを手に入れたので人生一発逆転を目指します~  作者: 出雲大吉
第2章

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第039話 何も見えない


 ゲートをくぐると、これまでの廃墟の遺跡ではなく、岩壁に囲まれた50メートル四方程度の薄暗い平地だった。

 ゲートのすぐ近くには小屋がポツンと建っており、小屋の前にぼろっちいテーブルと椅子が置いてある。


 その椅子にはナナポンが座っていたのだが、俺に気付くと、すぐに立ち上がった。

 俺はそんなナナポンに歩いて近づく。


「こんにちは。遅れてごめんなさいね」


 俺は遅れてきたことを謝る。


「いえ、そんなに待ってませんから!」


 ナナポンが慌てたように手を横に振った。


「どうしたの? あー、一応、はじめましてかしら? エレノア・オーシャンです。よろしくね」

「ど、どうも。横川ナナカと言います! よろしくです」

「お前、昨日も思ったけど、コミュ障か?」


 素でしゃべってみる。


「いや、だって、時の人ですもん。黄金の魔女ですもん。ひ、人を食べるんでしょ?」


 なんだそれ?

 ネットにでも書いてあったか?


「食うわけねーだろ」

「ですよねー……あと、口調というか、雰囲気が女性だったもんでびっくりして」

「雰囲気も何もないでしょう? 女性なんだから」


 見りゃわかんじゃん。


「昨日の沖田さんを知っていると、どうも違和感が…………というか、なんでその口調?」

「お前が男は嫌だって言うからこうしてやってんだよ。それとも沖田君の口調がいいかしら?」

「混乱するんでやめてください。エレノアさんでお願いします」


 じゃあ、そうしよう。

 俺も混乱するからそっちがいいし。


「それにしても不気味ねー……」


 俺は周囲を見渡す。


 ここは木がポツリポツリと何本か生えているだけで、草はほぼない。

 ただ、高さ10か20メートルの岩壁がある。

 そのせいで昼間だというのに薄暗かった。


「でしょ? ここで1人は嫌です」

「確かにね」


 ナナポンは男が嫌だからここに来ていた。

 でも、怖い。

 だからレベル8止まりなんだな。


「あ、そうそう。ランクはどうなったの?」

「Eランクに降格しました。ブランクがあるし、一からやり直せ、だそうです」


 ぷぷっ。

 ざまあ。


「では、Eランク同士、仲良くしましょうか」


 エレノアさんはFランクのままだけど。


「あのー、余計なことをしてません?」

「私はあなたのためを思って進言したの」

「やっぱり余計なことをしてるじゃないですか!」


 うるせー、Eランク。

 俺より上とか許さんわ。


「沖田君がDランクになったら元に戻してあげましょう」

「なんであなたが決めるんですか!?」

「カエデちゃんに頼んだらわかりましたって言ってた」


 あの子、良い子。


「最悪の不正です! 職権乱用です! 良くないと思います!」


 黙れ、不正の塊。

 卑劣なカンニング女に人権はないのだ。


「すぐに上がるわよ。ほら、行きましょう。私もだけど、あなたのレベルを上げるようにギルマスに頼まれているの」

「えー……私もやるんですか?」


 こいつ、わがままだな。


「賢者の石の材料にしてあげましょうか?」

「ひえっ! 魔女だ! 行きます! 行きます!」

「よろしい。で? 鉱山の入口はどこよ?」


 岩壁しか見当たらないけど?


「あ、こっちです」


 ナナポンはそう言って小屋の裏に歩いていく。

 俺もついていくと、確かに小屋の裏には洞窟みたいな穴があった。

 穴は高さが3メートル程度で幅が2メートル程度しかない。


「これ?」


 俺は穴を指差す。


「これです」

「ここに入るの?」

「ここに入ります」


 嫌だよ。


「狭くない?」

「中は広いですよ?」

「真っ暗じゃん」

「透視のスキルで見えますよ」


 それはお前だけだろ!


「アホか」

「じゃあ、これでどうです?」


 ナナポンはそう言うと、杖を持っていない左手を胸の高さまで上げ。手のひらを上に向けた。

 すると、ボッという音と共にドッジボールくらいの火の玉が現れ、宙に浮く。


「ほう!」

「これで明るいです」


 すげー!

 魔法だ!


「そういえば、ナナカさんはレベル2の火魔法使いだったわね」

「そうです!」


 ナナポンは自慢げだ。


「すごいわねー。魔法を見るのは初めてよ」

「え? エレノアさんって魔女ですよね?」

「昨日、沖田君は魔法を使ってた?」

「あ、剣でした!」


 刀じゃい。

 ちゃんと見とけや。


「私は錬金術と剣術だけだからね」

「その杖は?」


 ナナポンが俺が持っている杖を指差す。


「これはマジックワンド。魔法が使えなくても使えるやつ」

「マジックワンド!? めっちゃ高くなかったでしたっけ!?」

「ふふっ、1000万円程度よ」


 安い、安い。

 わはは。


「1000万円…………すごい! 私の杖は5万円です」


 安いなー。

 でも、まあ、学生だし、そこまで冒険をしていないならそんなもんか……

 俺だって最初は5万円のショートソードだったし。


「その内、高いのも買えるようになるわよ」

「昨日もらった回復ポーションを売っても良いですか?」

「ダメ」


 緊急用だっての。


「そのマジックワンドは何の魔法です?」

「エアハンマー。スケルトンが面白いように吹っ飛ぶわね」

「それ、ここではやめてください」


 鉱山だもんなー。

 危ないからやめておこう。


「わかってるわよ。私には剣がある」


 俺は杖をカバンに入れ、代わりに100万円のショートソードを取り出した。


「うーん、完全にファンタジー世界の住人ですね」


 黒いローブを着て、剣を持った腰まである長い金髪女。

 うん、ファンタジー。


「まあ、フロンティアがファンタジーでしょ。あなたも黒ローブを着る? 弟子にしてあげるわよ」

「そんな見た目で魔法を使えないんでしょ? 何を教わればいいんですか?」

「金儲け。本当の意味での錬金術師ね」


 金を作るぞー!


「さすがは黄金の魔女。私はおこぼれをもらうことにします」

「では、行きましょう」


 俺はそう言って、ナナポンの後ろに回る。


「え? 私が先頭? 普通、剣を持っている人では?」

「灯りを持っているのはあなたよ。それに私はここが初めてなんだから案内しなさい」

「じゃあ、私が先に行きますよ…………使えない師匠だな」


 ナナポンがポツリとつぶやく。


「あなた、たまにブラックナナポンになるわよね」

「ナナポンってやめてもらえません? 広まりそうです」


 残念。

 サツキさんがすでに呼んでいる。


「ほら、行って、行って」


 俺はナナポンの背中を押す。


「わ、わかりましたから押さないでください。危ないです」


 俺とナナポンは鉱山に入っていく。

 鉱山の中はナナポンが言うように広い空間だった。

 そして、いくつもの坑道のような穴が見える。


「迷いそうね…………」


 暗いし、坑道が多い。


「大丈夫ですよ。私にはすべてが見えています」


 かっこいい!


「あなたといると、本当に楽ね。モンスターはどこ?」

「こっちです」


 ナナポンが一つの坑道に入っていったので俺もあとに続く。


「この先にいます。ゆっくりとこちらに向かってきていますね。どうしましょう? 先に私が攻撃しましょうか?」

「大丈夫」


 俺はそう言って、鞘から剣を抜き、構える。


「あのー……」

「静かにしてなさい。気が散るわ」


 邪魔すんな。


 俺は構えたまま、ひたすら待つ。

 そして、目を閉じた。


 10秒くらい待ったと思う。

 俺は踏み込み、剣を振った。

 すると、俺の剣に確かな感触が残り、目の前で煙が発生する。


「ふっ」


 俺はかっこつけて、剣を鞘に納めた。


「え? な、なんでわかるんですか?」


 ナナポンが驚いている。


「気配的なものね。私レベルになるとわかるの」


 嘘。

 本当は音を聞いていただけ。

 スケルトンってカタカタって音を出すんだもん。


「す、すごい! 達人みたい!」


 尊敬しろ!


「ふふっ、これが剣術レベル5よ!」

「5!? 高っか! 魔女のくせに高っか! バリバリの前衛じゃないですか!」

「ジョブは剣士だしね」

「魔女とか、錬金術師じゃないんだ……」


 そういえば、魔女はともかく、錬金術師じゃないんだな……

 いや、きっと、それほどまでに俺の剣術がすごいんだろう!


「よーし! 次にいきましょう!」

「あ、奥にいますよ」

「じゃあ、ナナカさん、あなたの魔法でお願い。交互にやってレベルを上げていきましょう」

「わかりました…………あのー、この火を消してもいいですか? 邪魔なんですけど」


 ナナポンはずっと左の手のひらを上に向けている。


「まあいいわよ。今度からは懐中電灯を持ってこなきゃ」

「錬金術でそういうものを作れないんですか?」

「残念ながらそういうのは作れないわね。レベルが上がったら作れるようになるのかな?」

「レシピ本でも売ってりゃいいですけどねー」


 あったら大枚をはたいても買うわ。


「そうね」

「あ、来ました。すみませんが、消します」


 ナナポンがそう言うと、急に真っ暗になった。

 マジで何も見えない。


 俺がちょっと怖いなーと思っていると、目の前がうっすらと光り、ちょっとだけ明るくなる。

 よく見ると、ナナポンの杖の先が光っているのだ。

 その光は次第に強くなると、光が炎に変わった。


「ファイヤー!」


 ナナポンが杖を奥に向けて、そう叫ぶと、炎が飛んでいく。

 炎は何かに当たり、広がっていった。

 そして、炎が消え、何も見えなくなった。


「どうです!?」


 ナナポンの声が聞こえる。


「炎がすごかった。でも、見えないわ」


 何も見えねー……

 ハイドスケルトンもクソもない。

 暗くて何も見えんわ。

 ここに冒険者が誰も来ない理由がよくわかった。


「あ、すみません」


 ナナポンが謝ると、すぐに明るくなる。

 先ほどと同様に火の玉が周囲を照らしたのだ。


「まあ、ナナカさんの魔法がすごいことは大体、わかったわ。次に行きましょうか」

「はい。次はあっちです」


 私達は来た道を引き返し、別の坑道でハイドスケルトンを狩り続けた。


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[気になる点] 気配って足音とか影とかのことだからカタカタ言ってるのを聞いていたって言うのも気配のひとつでは?と思いました 氣とかオーラと言った摩訶不思議な方がニュアンス的に合ってるんじゃないでし…
[一言] 不正(カンニング)が不正(ランクの降格進言)を批判するって特大のブーメランですね…f(^_^;
[一言] 暗い上に見えないって意地悪いですよね 視覚潰しの効果がダブってるとも考えられますけど
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