第026話 驚異の魅了魔法 ★
俺はゲートをくぐり、クーナー遺跡に到着してびっくりした。
クーナー遺跡のゲート前には多くの冒険者がたむろしており、俺が出てくると、その全員が注目してきたのだ。
しかし、俺はお目当ての人間ではなかったようで、すぐに皆が注目をやめ、仲間と思わしき人達と会話を始めた。
お目当てはエレノア・オーシャンで間違いないだろうなー……
でも、何の用だろう?
サインでも欲しいのかね?
俺は冒険者が集まっているこの場をさっさと離れ、探索を開始した。
探索を開始し、スケルトンを狩っていく。
スケルトンと戦っていると、エレノアの時と比べると、動きが段違いなことに気が付いた。
男女の身体の差かね?
それに俺は動きやすいジャージだが、エレノアはローブだもんな。
俺はやっぱり冒険者としてはこっちの方がいいなと思いながら刀を振り、スケルトンを砕いた。
「ちょっといいかい?」
スケルトンを倒し、ドロップしたスケルトンの剣を拾おうとして、腰をかがめた瞬間、後ろから声がしてびっくりした。
俺は右手を少し広げながらゆっくりと振り向く。
すると、俺の5メートル後ろに苦笑しながら両手を上げる黒髪ロングの女性が立っていた。
誰だ?
それに気配がまったくなかった。
俺はちょっとすごいからある程度の気配は感じることができるのに……
「すまない。驚かせる気はなかった」
女は両手を上げたまま謝ってくる。
だが、油断はできない。
この女は俺が戦闘態勢に入っていることに気付いている。
だから両手を上げ、敵意がないことを示しているのだ。
気配の消し方といい、この洞察力といい、只者ではない!
何者だ……?
俺は内心で無駄にかっこつけていると、この人が知っている人だと気付いた。
「もしかして、Aランクの三枝ヨシノさんですか?」
「おー! 知ってくれたか。そうそう、それ。だから攻撃しないでくれ」
Aランクの三枝ヨシノさんは有名人だ。
そんなに冒険者に詳しくない俺でも知っている。
だって、美人すぎる冒険者で有名なんだもん。
しかも…………
俺はチラッと三枝さんの大きな胸部を見る。
うん! 本物だ!
本物の三枝ヨシノさんだ!
男なら皆、知っている。
俺は警戒を解き、身体を緩めた。
「いやー、すまん。戦闘後の冒険者に不用意に声をかけたこちらが悪かった」
三枝さんが謝ってくる。
冒険者に不用意に接触してはいけないというのは俺がよく読む序盤の手引きに書いてあることだ。
だが、戦闘後云々は書いてない。
これは戦う人間の理論である。
人が一番油断しやすいのは勝利した後なのだ。
つまり、この人は何かの武術をやっていた人だろう。
「いえ、こちらこそすみませんでした」
「いやいや、男女問わず、皆、見てくるから大丈夫だよ」
そっちじゃなーい。
謝っているのは戦闘態勢に入ったことの方!
「いや、すみません」
「本当に気にしないでくれ。慣れてる」
「ですか…………」
ネットの噂ではFかGと聞くが……
「いや、だからといって、ガン見はやめてくれ」
三枝さんが困ったような目で俺を見ていた。
あ、捕まる。
カエデちゃんに捨てられる。
「何か御用でしょうか」
誤魔化そう。
「え? あ、うん。いや、見事な剣技だったのでね。ちょっと気になっただけだ」
剣術を習っててよかった!
パパ、ありがとう。
おっぱ…………三枝さんの方から声をかけてくれたよ!
「ありがとうございます。子供の頃からやってたんです」
「剣道かい?」
「いえ、父に習ったんです。まあ、高校の時は剣道部に入ってましたけど」
なお、内申点のために入った。
おかげで大学に入れたと言っても過言ではない。
だって、勉強なんてできねーし。
「なるほど。君はルーキーかい? これほどの腕を持っているのに長くやっている私が知らない」
「あー、そうですね。サラリーマンをやってたんですけど、脱サラして冒険者を始めたんです」
クビとは言わない。
無能に思われるから。
「なるほど、なるほど。脱サラ組か」
そういうくくりは嫌だが、まあ、合ってる。
「三枝さんはここで何を?」
クーナー遺跡は人気だが、Aランクが来るような場所ではない。
「いや、ほら、例の魔女の件で来たんだよ」
エレノア・オーシャンね。
まあ、そうか。
「なるほど。もしかして、ゲート前でたむろしてる連中もですかね?」
「そうだろうね。勧誘したいんだ」
スカウトかい。
俺はソロだから全断りだな。
「三枝さんもですか?」
この人もソロじゃなかったっけ?
「私は勧誘とは違うが、ちょっと話してみたくてね。それに依頼をしたかった」
「依頼?」
「ほら、オークションでアイテム袋を出してただろう? 個人的にアイテム袋を売ってほしくてね」
高ランカーはアイテム袋が必須って聞くしなー。
今度、エレノア・オーシャンの姿で会ったら売ってあげよう!
「そういうことでしたか。だったらゲート前で待てばいいんじゃないですか?」
「最初はあそこで待ってたんだが、声をかけてくる冒険者が絶えなくてね。逃げてきた」
あー、わかるわー。
俺も組むならこの人と組みたいもん。
ナンパしてお茶に行きたいもん。
「なるほど……」
「君はあの魔女に興味がないのかい?」
もうエレノアは完全に魔女扱いだな。
「俺はルーキーですし、年齢のこともありますからね。あまりそういう余裕はないんです」
「年齢? いくつだい?」
「26歳です」
「同い年だね!」
マジ?
奇遇!
「そういうことですので第一線でやれる時間は限られています。ただでさえ、剣術もブランクがありますし、早めにレベルを上げ、稼ぎたいんです。だからエレノア・オーシャンは興味がないです」
これは本当のことである。
30歳を超えると、身体的に厳しくなってくるだろう。
30歳ならまだやれるだろうが、命のやりとりをしているのだから一度の油断で死ぬ。
早めに稼いでドロップアウトが望ましいのだ。
「ほー……やっぱりルーキーでも大人は違うね。高校生くらいだと無鉄砲な子ばっかりなのに」
この前のヤツらみたいにね。
「俺も高校生ぐらいの時はそうでしたよ」
「私もだよ」
またもや奇遇だね!
まあ、大抵の人がそうだろうけど。
「あのー、この騒ぎって、いつまでですかね?」
「さあ? ここに冒険者が集まっているのはここでエレノア・オーシャンを見たっていう情報があったからだ」
この前は他の冒険者と結構、すれ違ったしな。
わざと別の場所に行って、そっちに冒険者を集めようかな?
そうすれば、ここは平和になる。
「ですかー……人が多いと、どうしても気になってしまうんですよね」
「わかるよ。敵はモンスターだけじゃない。人もさ。実際にやることはほとんどないけど、そういう気持ちが大事なんだよ」
常在戦場だね。
この人、絶対に武術をやっている人だわ。
多分、雰囲気的には俺と同じ…………しかし、大きいな。
Fか、Gか…………すごいな。
「――たくん、沖田君」
「え? あ、すみません、何です?」
俺は名前を呼ばれたので視線を上げ、考え事をやめた。
「いや、たいしたことじゃないんだが、もし、エレノア・オーシャンを見かけたら教えてくれないかな?」
「俺が?」
「君、ここで活動しているんだろう? 私はさすがにいつまでもここにいるわけにはいかないし、見かけたらでいいんだ」
ふーん……
「わかりました」
「携帯は持ってる? 連絡先を交換しようか」
ナンパだ、ナンパ!
巨乳が逆ナンしてきた!
「はいはーい」
俺がカバンからスマホを取り出すと、三枝さんもスマホを出した。
そして、連絡先を交換する。
「じゃあ、悪いけど頼むよ。あ、あと、それを流出させるのだけはやめてくれよ」
「しませんよ」
「頼む。じゃあ、また、どこかで会えたらいいね」
三枝さんはそう言って、どこかに行ってしまった。
ふーん…………沖田君ねぇ……
美人だし、巨乳だけど、カエデちゃんの方が素直でかわいいわ。
◆◇◆
「どうでしたか?」
私が沖田君から離れ、建物の裏に来ると、待っていた部下が聞いてくる。
「剣技は相当だな。可能性はある」
「男ですよ?」
「女装かもしれないだろ」
「まあ、そうですけど…………」
私だって、女装だったら嫌だ。
「可能性の一つだ。だが、ここ最近のルーキーで一番の剣士は間違いなく彼だろう」
エレノア・オーシャンは剣術を使う。
なので、剣を使うルーキーを探していたら彼に当たった。
「強いです?」
「強いね。すごく強い」
正直、ちょっと怖かった。
「まあ、繋がりはあるかもですね」
「その可能性は高い。同じ池袋支部だし、それに…………」
私は言いよどむ。
「それに?」
「彼、スケルトンの剣を持っていなかった」
持っていたのは刀とカバンだけ。
「それは…………」
「アイテム袋を持っている可能性が高いね。まあ、単純なレベル上げをしに来たという可能性もあるけど」
スケルトンは適度に弱いため人気だが、ドロップ品が大きくてかさばるというデメリットがある。
だからあえてドロップ品を拾わないという冒険者もいるくらいだ。
彼もその可能性が…………
いや、私が声をかけた時、彼はスケルトンの剣を拾おうとしていた。
「どうします?」
「このことはまだ本部長には報告しないでくれ。もう少し探ってみる」
「わかりました」
さて、帰るか……
しかし、沖田君に一つ忠告したいな。
警戒心も注意力も素晴らしかった。
おそらく、相当の剣の使い手だろう。
油断も少なく、極端に隙もなかった。
だが、人の胸を見た時だけ隙だらけになるのはどうにかした方がいいと思う。
あと、見すぎ。
普通は嫌われるぞ。
お読みいただきありがとうございます。
皆様の応援のおかげで今日もローファンタジー部門で日間1位でした。
そういうわけで本日もお祝いということで21時頃にもう1話投稿します。
引き続きよろしくお願いいたします。




