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大抵のモンスターなら、パーティの面子さえ揃えば攻略は容易である。
だが、相手は未攻略ボスモンスター。
各々の立ち回りを詳細に詰め、場合によってはある程度の練習をする必要もあるだろう。
それこそ、パレンテが今まで未開地ダンジョンを攻略してきた方法でもある。
しかし、立ち回りと言ってもまず敵を知らなければ作戦の立てようがない。
一個下のデスタイラントを攻略するのに複数のギルドからメンバーを選抜して、やっと攻略できるかできないかの今の現状。トゥルーデに挑むプレイヤーは少なく、情報は極端に少ない。
だからまずは情報の共有から始めた。
まず、トゥルーデのいるモノクロ樹海のことだ。
地がなく、天も無い異様なダンジョン。永遠と続く底無しの崖からいくつもの大樹が伸びている。
このダンジョンでは枝が足場となる。丸みがあり、うねったように伸びた枝。そして、薄い霧が充満しているせいで所々腐っていて、滑り易い。
つまり、足場がかなり不安定なのだ。足場の制限と、いちいち足元を気にしないといけないのは初見では特に難しい部分になる。
もう一つダンジョンに気をつけるところは、色だろうか。
モノクロ樹海は名前の通り、全てが白と黒で構築されている。枝も、葉も、モンスターも。
つまり、擬態である。トゥルーデを含め、モンスターは背景に混ざって、一度目を離してしまうと見失うことも多い。
次に出現するモンスターの種類。
モンスターはトゥルーデを除けば一種類しかいない。《白と黒の使い魔》というのが名前の人型モンスターである。
奴らを一言で言い表すのなら狩人だろうか。地形と色を駆使し、遠くからなら黒く塗りつぶした弓で、近接なら白い刃を持ち、背後からアサシネイトを狙ってくる。
適正Lv.150を超えた辺りからモンスターの知能はグンと高くなる。これも気をつけないといけないポイントだ。
次にトゥルーデのことだが、正直、イトナも分からないことが多い。
伝えられることだけでも、しっかり伝えておこう。
・トゥルーデは常に宙に浮いている。地形では不利だと思った方がいい。
・魔女の名があるのに、魔法攻撃はあまりなく、基本長い爪を使った攻撃をしてくる。これに関しては余り過信しないでほしい。
というのも、奴は賢い。前回の戦いでは魔法攻撃じゃイトナに当たらないと判断しての行動の可能性もある。
・さっきも言ったが、奴は魔法を食い、回復、能力の上昇を行う。
あと、プレイヤーも食うと付け加えておこう。これは回復はしないが。頭を齧られれば即死は免れない。
・今まで上げたことの前提は、トゥルーデのHPが半分以上の場合である。
ボスモンスターはHPの色によって行動が大きく変わることが多い。確実にトゥルーデもそうだと考えてもいいだろう。
イトナの予想としては半分未満になってから魔法を多用しそうである。
一応魔女だ。魔女の本領は魔法。どんな魔法を使ってくるか想像もつかないが、強く警戒はしておいた方がいいだろう。
それらを色々質問に受け答えながら、一通り話し終えた。
驚いたことに、特に熱心に聞いてくれていたのはテトだった。
もちろん全員熱心に聞いていたけど、テトは予想外だったから余計そう感じたのかもしれない。
テトは説明とか面倒くさがりそうと思ったが、白と黒の使い魔の接近戦で使う得物は何か、またその長さはどれくらいかなど、細かいところまで気にして聞いてくれた。
上級者の剣士にとってそれらの情報は重要だ。位置どりに大きく関係してくる。
他にも驚いたことがあった。それはラテリアの発言だ。
魔女は魔法を食う。ラテリアはこれに対して、その優先度を気にしてきた。
例えば、他の攻撃の最中、魔法攻撃をしたら攻撃を受けてでも魔法攻撃を食べるのかだ。
イトナの回答としては攻撃を受けてでも食べる。だ。
魔女の物理防御力はかなり高い。それもあって、奴は攻撃を避けたり、防御したりしないのだ。攻撃こそ最大の防御と言わんばかりに。
ならばと、ラテリアは一つ提案した。
魔法を使い、魔女の動きを誘導できないかと。
例えばニアのスキルで魔法の盾をだし、食べられ前に消す。その間は魔女は食べるモーションに入り、無防備になるのではないかと。
ラテリアは自信なさげに言った。
それにイトナは少し驚いた。
素晴らしい着眼点だ。まさかラテリアがそこに気づくとは。
別にラテリアができない子と言っているわけではない。
レベル的に、ゲーム経験値的に、ここにいる皆より少ないのに、誰よりも早く魔女攻略法に気づいたことに驚いたのだ。
発想としては実に面白い。
ニアの存在もガード以外にも選択肢が増える。
ラテリアの意見を元に、各メンバーの簡単な立ち回りを決めた。
うまくハマればかなり有利に戦いを進められそうだ。
この会議で大体のことは決まった。準備期間を設けて、攻略決行日は一週間後になった。
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トゥルーデ攻略作戦会議から二日が経った。
イトナ達は古都イニティウム、北のメインストリートに来ていた。
メンバーはイトナ、テト、ニア、ラヴィの四人。後はお留守番だ。
目的は装備の新調。これを機に、ヴァルキュリアの装備を一新するらしい。正直、イトナが付いてくる必要は無いと思うが、アドバイス担当とのことで、半ば無理やり連れてこられた。テトは自分の剣の修理を口実について来た。
「そんなになってて、なんでまだ修理出してなかったのよ」
ニアが文句を垂らす。
どうやらテトが付いてくるのが嫌だったらしい。
「いろいろあって忘れてた」
テトはとぼけたように言う。
まぁ、前半部分は嘘はついていない。いろいろあったのは確かだ。スカイアイランドで剣を折り、戻ってからはサダルメリクとナナオ騎士団が戦争。うん。確かにいろいろあった。
だが、後半部分は嘘だろう。修理なら昨日出せた。でも今日、ニアが装備を買いに出かけると知って、出すのをやめたのだ。ついていく口実のために。
武器の修理には時間がかかる。破損の具合と価値に比例して伸びるのだが、テトぐらいの剣の場合はいいところの鍛冶屋に預けても数日はかかってしまう。
なので、先ずはテトの剣を預けてから色々店を回ろうって話になった。
その道中。
「おい、あれ見ろよ。サダメリのニアと、隣にいるのは黎明のテトだぜ」
「なんか二人並んで歩いてると絵になるよねぇ。やっぱり付き合ってるのかな?」
テトとニアを見つけたプレイヤーが指差して話をしている。
流石は有名人。道を歩くだけで話題提供とは恐れ入ったものだ。
周りの感想もわかる。美男美女。剣と盾。赤と青。なんとなく二人はお似合いだ。
しかし、ニアはその会話に眉をひそめると同時にテトから一歩離れた。
それに気付いたテトは当然のように距離を詰める。
それをニアは肘で追いやった。
「隣を歩かないで」
イトナがいつも聞くニアの声より数段低い声だった。明らかに不機嫌な声だ。
「いいじゃん別に俺は気にーー」
「私は気にするの」
テトの声を遮って、間にラヴィを設置する。
わかりやすい拒絶だ。
なんでニアはテトのことを嫌いのか不思議に思う。もっと不思議なのはこんな態度をされてもテトがめげないことだ。
そんなやり取りを挟みながらテトの剣を鍛冶屋に預けた。
余談だが、鍛冶屋のオヤジさんはテトの顔を見るとすごく喜んだ。間違えた。テトの折れた剣を見て喜んでいた。
「お、おおおお! 派手に折ったな坊主。こりゃ当分預からないと治らんぞ。当分、長い時間な。へへっ」
と、終始テトを見ず、剣を見ながらよだれを垂らして会話をしていた。
余程あの剣がお気に入りらしい。
「よし、お金ならあるわめぼしいエンチャントが付いた装備は片っ端から買っていくわよ」
鍛冶屋を出ると、ニアの目に火がついていた。やる気満々だ。
今、ニアのお財布にはとんでもない金額が詰まっている。お留守番組のお金と、S級クエストの挑戦の事情を知ったメンバーからの支援金が合わさって、とんでもなく、とんでもない金額だ。
その額、10億リム。
お金はニアとラヴィの二人に分けている。5億ずつじゃない。10億ずつだ。
ゲームといえど、プレイヤー1人が持って歩ける金額の上限がある。それが10億なのだ。
もちろんギルドホールの金庫や、銀行に預ければもっとお金は所持できる。確か銀行が100億で、ギルドホールの金庫が1000億だったか。後者はギルドメンバー全員のを合わせてだが。
そんな訳で、彼女達のお財布の中身はカンストしている。カウンターストップ、略してカンストだ。
因みに集まったお金は全部で50億リムだとか。つまり今の手持ちは全体の一部なのだ。
これ程の金額を持って買い物をするのだから気合が入るのは当然だろう。
それにステータスの半分以上の数値に影響を出す装備はかなり重要である。
装備の良し悪しで、そのプレイヤーが強い弱いが決まってしまうぐらいには。
「買うのは主に防具なんだっけ?」
「そうね。武器の方は大体いいのが揃っているけど、防具はそんなでもないのよ」
「うちにはニアがいるからな」
ラヴィが付け加える。
ニアがいるから防具は後回し。そういうことか。
「でも、私とラヴィの武器は新しいのを買うつもり。私のは武器って言うかバックラーだけどね」
「え、今のから変えるの?」
ニアの今つけているバックラーはほぼ理想に近い出来だったとイトナは記憶している。と言うのも、そのバックラーを作るのをイトナが手伝ったからだ。
「ちょっと考えがあってね。あ、一応イトナくんに相談した方がいいかな?」
「いや、それは任せるよ」
「じゃ、混ぜる時にね。取り敢えず買い集めちゃいましょう」
ニアはそう言って一番近くにあった店に入った。
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ここでフィーニスアイランドの装備アイテムシステムを簡単に説明しようと思う。ゲームをやっている人にとっては単純で、やらない人には少し難しく思うかもしれない。
装備アイテムの入手方法は3つある。モンスタードロップ、クエスト報酬、素材から作成。オマケにもう1つ挙げるとしたら店で購入だろうか。
装備は多種多様な種類がある。例えば剣。剣でもいろいろある。ショートソード、ロングソード、なんたらブレードにエクスなんちゃらって伝説の名を持った剣まで、様々だ。
その中で更にロングソードに絞る。ロングソードと名がつく武器でも、全て性能が同じって訳ではない。物によっては上がる力のステータスが少し違ったり、長さが、重さが微妙に違ったりするのだ。
良い武器を選ぶために、上昇するステータスが高いものを選ぶのはもちろん、長さの良し悪し。重さだって軽い方が小回りが効くし、重い方が威力が乗る。
そういった細かなところを見て厳選を行う。
これが武器選びの第一段階。
そして一番重要なのが、武器には付加能力がつく事がある。これをエンチャントと呼ぶ。
魔法の力が宿っていると思って貰えれば良いだろうか。
エンチャントは最大で3つ付き、例えばロングソードに2つのエンチャントが付いていて、力アップ、敏捷アップのエンチャントが付いてたとすれば、ロングソードの性能の他に、エンチャント分のステータスが上昇する。
この上昇値が重要で、レベルの高いエンチャントだと、剣の性能で上がる攻撃力よりも高く上昇するものもある。
つまり、最強の剣を欲しい! と考えるなら、最高の剣に、最高のエンチャントが3つ付いたものになるのだ。
しかし、完全に理想な剣を手に入れるのはかなり難しい。不可能と言って良いほどに。
長くフィーニスアイランドをプレイしているなら、最高の剣に出会う事は数回くらいはあるかもしれない。だが、エンチャントも含めれば、完全なる理想の剣はないだろう。
その理由はエンチャントが付いている装備は途轍もなくレアだからだ。
エンチャントの付いた装備の入手方法はモンスターからドロップしたものに限られる。体感では1000回に1回くらいの頻度でドロップするかどうか。
その中でも弱い強いがあり、3つもエンチャントが付いているものがドロップするなんて年に一回あれば良いくらい。
そんな希少なエンチャントが、最高の武器をベースに付くなんて、まずありえない。
そこで、武器と武器を混ぜ合わせることのできるアイテムを使用する。
合成のスクロールという非常に高価なアイテム。
これを2つ用意する事で武器の合成を行う事ができる。
合成を行えば、エンチャントが1つ付いた装備と、同じくエンチャントが1つ付いた装備を合成し、エンチャントが2つ付いた装備が出来上がる〝ことがある〟。
このアイテムはギャンブルだ。残る装備は1つ。装備Aと装備Bを合成し、装備AかBどちらかをベースにしたものが生成される。
それにエンチャントが混ざるのもランダム。エンチャント0の装備とエンチャント3つの装備を合成すれば、3つのエンチャントのうち、幾つ残るか、どのエンチャントが残るか、ランダムなのだ。
最上位のプレイヤーが武器を作成するとき、こんな場面がある。
エンチャントが付いていない最高の武器Aを手に入れた。
最高のエンチャントが3つ付いた最弱の武器Bを手に入れた。
これらを合成して最強の武器を、アルテ○ウェポンを作ろうとした時、出来上がる武器のパターンは多い。
プレイヤーが思い描いているのは最高の武器に、最高のエンチャント3つがつくこと。
でも、同じ確率で最弱の武器に、エンチャントが1つもつかなかったなんてこともあり得るわけだ。
夢と希望と絶望が入り混じった合成のスクロール。並の上位プレイヤーなら使用せずに売り捌く。
ギャンブルをするより、堅実に強くなりたいと思うのが普通だ。なら、もう完成された装備店で買うだろう。
しかし、誰が作らなければ、強い装備は出回らない。強い装備を作るのは誰か。それはお金に余裕が持てるほど強い最上位プレイヤー達。
つまり、今日でいうところのニアだ。
そんなわけで、サダルメリクぐらいになると、装備の新調は新たに装備を作るということ。
今日はその素材となる装備集め、つまり、良いエンチャントが付いた装備を片っ端から買い集める作業を行っている。
「ベースの装備は買わなくて良いんだっけ?」
「うん。ベースにするのはもう幾つか揃えてあるの」
ニアが前屈みに品定めしながら答える。
すると、店の奥から腰を低くし、手を合わせゴマをする様にして一人のNPCが近寄ってきた。
頭の上の円形脱毛が目立つが、綺麗な身のこなしで清潔感のあるおじさんNPCだ。
「これはこれは有名ギルドのプレイヤー様方。今日はどの様なものをお探しで?」
NPCは頭を光らせ、営業スマイルを浮かべながらニアを見上げる。
「そうね。このエンチャントが付いた装備は幾つあるかしら」
ニアが紙を取り出す。あらかじめ目当てのエンチャントリストを書いておいたのだろう。
「エンチャントのレベルは気にされていますでしょうか」
「取り敢えずLv.5だけのを知りたいわ」
「Lv.5! 承知致しました。少々お待ちを……」
求めているのがエンチャントの中でも最高の物と知ったNPCは意気揚々と店内を周り、装備を集め始めた。
今が稼ぎ時だとプロの感が感じ取ったらしい。
プロじゃ無くてもわかるか。
そんなNPCをなんとなく目で追っていると、1つの装備品に目が止まった。
ストリート側のウィンドウ越しに置かれたアイテムだ。
店の外からも見える様に置いてあるなんて、余程の目玉商品なのだろう。
それは一億リムの値札が下げられたステッキ。イトナはそれを手に取って見ていると、両腕いっぱいに装備品を抱え込んだNPCが背後からヌッと顔を出してきた。
「いや! お目が高い! それはうちの目玉でして、なんでも早々にまとまったお金が欲しいと預けられた一品なんですよ」
この辺りにある殆どの店は、プレイヤーの代わりに代行でNPCが売っているもの。これもその一つなのだろう。
売れたら売上の数パーセントがNPCに入る仕組みだ。
話によると、これを売りに出したプレイヤーは早くお金が欲しいらしく、相場よりかなり安くしているようだ。
「確かに良い武器だね」
マジカルステラ。エンチャントはしっかり3つ付いていて、魔法自動照準、魔法反動軽減、魔力アップLv.4。
女の子用魔法クラスの武器。
だが、これらのエンチャントを見れば首をかしげるプレイヤーが多いかもしれない。
魔法自動照準で、狙いを定めてくれるなら手振れ予防の魔法反動軽減いらないじゃんって考えるのが普通だ。
純粋な後衛ならそうだろう。きっと、これを売りに出したプレイヤーは前に出ることが多かったのだ。前に出て細かな魔法を撃ち込む。魔法の反動軽減はその隙を減らすため。
魔法を使うのにスピーディに立ち回らないと成り立たない、トリッキーでかなり上位のプレイヤーなのだろう。
てか、これアーニャの武器な気がする。アーニャの武器は箒だけど、元はこれで、デザインを箒に変えてるとか。
きっと黎明もグランドフェスティバルに向けてしているのだ。
しかし、いい武器だ。イトナには不要だが、ラテリアにはちょうど良い。
ラテリアも空中での動きは速いし、足が地に付いてないぶん、魔法の反動も大きい。
自動照準で狙いを定めることにあまり頭を使わなくてよくなれば、もっと周りを見る余裕が生まれる。
ラテリアの武器素材としてはもってこいだ。
「これください」
色々考えたが、取り敢えず買うことにした。
迷ったら買う。買わないで後で後悔するよりマシだ。
こんなレア武器は探しても中々ない。キープしておいて損はないだろう。
今日は付き添いだけのつもりだったけど、いい買い物ができた。




