08
とある隠しダンジョンのボスルーム。
そこは洞窟型のダンジョン。
辺りは薄暗く、天井からは大小の鍾乳石が垂れ下がっていた。
十分に広い空間は、相変わらずボスモンスターの不在で味気なかった。
しかし、味気ないだけで辺りは騒がしい。
醜いカエルがそこらでゲコゲコ鳴き、水溜りの上を跳ねてビチャビチャ音を立てているからだ。
そこに一人のプレイヤーが慣れたように入る。
擦り切れた黒ローブに、ドクロの仮面を付けた男のプレイヤー。
男は不機嫌に水溜りを踏みつけて、カエルを蹴飛ばしながら奥に進んでいくと、部屋の半ばまで来たところでピタリと足を止めた。
そこから先は死である。
ふと、ある知り合いの頭のイカれたサディスト野郎が言っていたことを思い出す。
〝この先の領域は聖域〟だと。
どんなプレイヤーでも踏み入れることができない地。
その証拠に喧しいカエル達はそのラインから奥に一匹もいなかった。
よく注意して見れば、聖域の中でカエルがリスポーンしているのだが、一瞬で死んでいるのが分かる。
それはプレイヤーも例外ではない。
中に入れはあのカエルのように死ぬ。
そしてこの聖域は日に日に広がっている。
しかし、男はそんな事に興味はない。ここに来たのはこの聖域を生み出している人物……いや、神物に用があるからだ。
「おい!」
男が不機嫌に声を上げると、最奥に作られた小さな祭壇から小さな人形が姿を現した。
小さな女の子が手に取って遊びそうな人形。それが宙を浮き、ふわふわと男に近づいた。
「どうしたのですか。そんなに怒って」
人形が声を発する。幼い女の子の様な声だ。口は動いていない。人形の中から声が発せられたように見える。
その声はどこか上機嫌に聞こえた。それが余計に男の気に障った。
「どうしたこうしたもねぇ! ふざけた事しやがって!」
男はドクロの仮面を外して、顔を曝け出すと、仮面を地面へ叩きつけた。
「そんなに怖い顔をしてるとモテないわよ? アクマさん?」
人形はアクマの激昂に物ともせずに、涼しい声で返すと、両腕をパタパタと振った。
まるで、あわわわと慌てているようなわざとらしいジェスチャーだ。
負けじとアクマが睨み返していると、人形は腕を振るのをやめた。
「……もしかして怒ってるのって、これのことかしら?」
人形が合図をしたかと思うと、奥の祭壇から別の人形が出て来る。
五つの尾にキツネの耳。
金色の毛を持ったその人形はホワイトアイランドの五芒星、玉藻を彷彿させた。
玉藻人形の上には十字に重ねられた板が浮いており、そこから垂れている糸が玉藻人形の至る所に繋がれている。
まさに、糸操り人形だ。
「どういうつもりだ」
「どうもこうも、暇だったの。今朝のギルド戦では負けちゃうし、スカッとしたいじゃない?」
人形は悪びれもなく言う。が、当事者には堪ったものではない。
「サダルメリクなんかに戦争をふっかけやがって、もし負けでもしてたらどうしたんだ」
「負ける要素なんてないじゃない……って言いたいけど、気持ちい程あっさり負けそうになったわね。私、ストラテジーゲームは苦手みたい」
「あのな……」
「あなただって最初は楽しそうだったじゃない。負けそうになったからって、私に当たるのは勘弁してほしいわ」
やれやれと人形が首を振る。その隙を見て、首を斬り落としてやろうと、アクマの鎌が一閃した。
だが、当然のように鎌は聖域に阻まれ、人形に届く前に刃はグニャリとひしゃげた。
その様子を人形はつまんなそうに眺める。
「反抗期なの? 反抗期は中学生で卒業しないと」
「るせぇ。試してみただけだ」
その結果にアクマは残念がることはない。
むしろ安堵の笑みがほんのりと口元に浮かぶ。
武器がおじゃんになるとわかっていてやった。
まだ、自分が自分であることを確認するために。
不安だったのだ。
アクマもまた、玉藻のように人形にされているのではないかと、玉藻人形を見るたびに不安になる。
だからこの人形に反抗することが、自分が人形にされてないと実感できる唯一の行動なのだ。
「……時間ね。一歩下がりなさい」
これにはアクマも人形の言うことを素直に聞く。
一歩下がると、足元にいたカエルが四散した。聖域また少し広がったのだ。
「安心して下さい。あなたとの約束は守ります。グランド・フィスティバルでしたっけ。アレには出場できるようにはします」
アクマと人形はただそれだけの約束の関係でしかない。
「その代わり、頼んでいたものは持って来てもらえたかしら」
「これだ」
アクマは二つの試験管を取り出す。
一見何も入っていないように見える試験管だが、よくよく見れば糸のようなものが入っている。一つにピンクの糸。もう一つに黄色の糸。
「助かるわ。流石私の見込んだだけある。報酬として……心操ーーーー」
「いらん」
「あらそう。残念」
毎回お決まりのやり取りだ。この人形は報酬として心操スキルを教えると言ってくる。
心操。
それは人の心を操るスキルだと言う。
普通なら笑ってしまうような話だ。
が、この人形に会ってからは笑うことは無い。現にこうして人一人を操り人形の様に操っているのだから。
はっきり言って恐ろしい力だ。
だから心操スキルが欲しい、欲しく無いの以前に、この人形と同じ場所にいるのを一秒でも減らしたい。
強気に振る舞うも、アクマは心の底ではこの人形に恐怖している。
得体の知れないこの人形とできることなら関わりたく無い。
では何故アクマがこの人形の依頼を受けているのか。
理由は二つある。
一つは取引である。人形の依頼をこなしていれば、グランド・フィスティバルに出場できるギルドを用意する。そんな取引だ。
取引をしたあの日のことは良く覚えている。
あれは一回目のグランド・フィスティバルが終わったすぐ後のことだ。
あの時、自分もあんな舞台に立ってみたいと夢見ていた。
そんな時、この隠しダンジョンの最奥で人形と出会った。
リエゾンの情報にも無い隠しダンジョンを見つけたアクマを含むパーティは興奮した。
そして意気揚々とダンジョンに挑み、危なげなく、最奥のボス部屋へ到着する。
順調な攻略だった。
だが……
洞窟の最奥に待ち構えていたのは人形だった。洞窟のダンジョンに似合わないボスに、違和感を感じながらも、迷わず挑んだ。
アクマのパーティは一瞬で壊滅した。
あの人形がこの隠しダンジョンのボスモンスターだと勘違いし、飛びかかった前衛プレイヤーは聖域に踏み入り、ゲームオーバー。
それに驚く後衛は目に見えない攻撃を受た。体をバターの様に縦三つにスライスされゲームオーバー。
何が起きたかわからない。わからん殺しだった。
パーティメンバーのレベルはダンジョンの適正に申し分なかった。
だが、アクマがその時に見たのはLv.1のプレイヤーが、Lv.100のモンスターに立ち向かった。そんな光景だった。
その時、アクマは運が悪かった。
今思えば最悪と言っていい。
一足先に突っ込んだプレイヤーのHPが空になるのを見て、瞬時に後ろに飛んだのだ。
飛んだ瞬間、後衛も死んだ。その時に、声が聴こえたのだ。
「あなた、やるじゃない」
と。
恐らく、偶然にも攻撃を避けたアクマは人形に気に入られた。
そこで取引をした。ゲーム内でできる範囲で願いを一つ叶えてあげるから、私の些細なお願いを叶えてくれないかと。
アクマはこれをなにかゲームのイベントかと思った。
そんな軽い気持ちで願ったのだ。
それが始まりだった。
人形はすぐにギルドを紹介してくれた。ナナオ騎士団というギルドだった。
馴れ合いは無く、殺伐とした雰囲気のギルドは不思議とアクマにとって居心地が良かった。
人間関係と向上心の熱量が肌に合っていたのかもしれない。
当時中堅程のギルドだったが、上を目指すプレイヤーばかりが集まっていたのもあって、短い期間でギルドの序列を上げていくことになる。
目に見えてわかるギルドの成長が楽しく、アクマはナナオ騎士団に居ついた。
それから二年近い時間が経った。
充実したゲームライフを送り、ギルドの序列も一位を獲得。
全てがアクマの理想通りに事が進んでいた。
そんな人形のことも忘れかけていた頃、ギルドマスターの玉藻から声が掛った。
その時の玉藻に目は虚ろだったのを今でもよく覚えている。
普段他人を気にかけないアクマでも心配してしまうほどに異様な瞳をアクマに向けて、こう言ったのだ。
「約束です。依頼をこなしてもらいます」
と。
その声は玉藻の声ではなかった。別の幼い女の子の様な声。
その声を聞いて、アクマは人形のことを思い出すことになる。
事の異常さに気付いたのはその時だった。
あの人形はNPCでただのイベントだと思っていた。
そんなNPCがギルドを用意できるだろうか?
例えば、あの人形は実はフィーニスアイランドの運営が操作する特別なキャラクターで、ギルドメンバーも運営が用意したプレイヤーとか。
それはあり得ない。
ギルドメンバーとあまり話を交わさないアクマでも、年単位で同じギルドに所属し、共に戦って入れば、それなりに関わりを持つ。
時にはリアルの話をしたことだってある。
このギルドは間違いなく普通のプレイヤーで構成されたギルドだ。
それはギルドマスターの玉藻だって例外じゃない。
では、どうやってギルドを用意した?
あの人形はたまたま玉藻と知り合いだったのか?
いや、人形がプレイヤーと知り合いなんてあり得るのか?
玉藻もアクマみたく人形と会っていればあるいは……。
……いや、そもそもあの人形は何者なんだ?
玉藻がその一言を言い終わったすぐには瞳に光が戻っていた。
すると、不思議そうに周りを見渡す。
人形のことを聞くと、頭を傾げられた。
さっき、自分が言った言葉も覚えていないようだった。
それは嘘をついているようには見えなかった。
不気味だった。
その不気味を拭うかのようにアクマは早足で隠しダンジョンに向かった。
またあの人形に会えば分かる。
きっと考えすぎで、もっと単純な話に違いない。
でも考えれば考えるほどおかしい。嫌な予感がする。
うろ覚えの隠しダンジョンの入り口である通路を見つけるのにやたら時間がかかった。
レベルの上がったアクマは単独でダンジョンを突き進むと、そこには以前見た時と変わりないボスルームが広がっていた。
ボスモンスターがいない、ボスルームが。
その奥に人形が変わらず宙に浮いている。
「お久しぶり」
人形は自然とそう言った。
最初会った時はなんとも思わなかったのに、今は目の前にいる未知の物体は不気味でしょうがなかった。
そして意を決して聞いた。お前は何者かと。
それに人形は答えた。
それが本当かどうかは知らないが、なにも隠さず、自慢げに語った。
人形は、彼女は自分をプレイヤーと言った。
NPCでも運営でも無く、一般のプレイヤーだと。
体が人形なのは亜人ではなく、これは武器だと答えた。ビーストテイマーと近いクラスらしい。
《傀儡女》。聞いた事のないクラスだった。
そして驚く事に彼女は他の島からやって来たと言う。出身はブラックアイランド。
そこから遥々海を渡って来たとか。
今も彼女自身は今もブラックアイランドにいて、人形を通して話しているらしい。
俄かには信じられない話だ。
なにせ海にはLv.200のモンスターが多く生息している。
そのせいで島との行き来は不可能とされているのだから。
だがいい。
未知のものにあれこれ言ってもしょうがない。
この人形は海を渡って来た。
それが本当だとしたら理由は考えるまでもないだろう。
誰も攻略できなかったダンジョンを攻略したかった。海と言う最難関ダンジョンを。理由なんてそんなもので十分だろう。ゲームではあり溢れた事だ。
でも、だとすれば尚更疑問が深まる。
なら、人形はどうやってナナオ騎士団を用意した?
ホワイトアイランドと関わりの無いブラックアイランドのプレイヤーが。どうやって?
いや、違う。
もっと根本的な事だ。
そもそもなんでアクマと取引をした?
渡航が目的ならそんなことする意味はない。
答えはすぐにわかった。
人形に聞いたのだ。
人形は隠すことなく、簡単に答えてくれた。
人形は海を渡ることを目的にしていたわけでは無い。ホワイトアイランドのとあるプレイヤーに用があるからやって来たのだと。
プレイヤーの名前はイトナ。
その名を当時のホワイトアイランドで知らないプレイヤーなどいない。
グランド・フィスティバルに出場したホワイトアイランドの代表ギルド、パレンテ所属の最小年プレイヤー。
たった五人のパーティ構成で全戦全勝し。
更には決勝、レッドアイランドとの試合では、相手プレイヤー六人全てをイトナたった一人がキルしたのだ。
最後の試合、何かのスキルを発動させていたのか、イトナの眼は紅く染まっていた。その眼をから、〝魔眼のイトナ〟と呼ばれるようになった。
パレンテのメンバーが卒業し、イトナが姿を消してからは魔眼の単語があやふやになり、魔銃となったが、それはいい。
とにかく、人形はイトナに会いに来た。
それはわかった。
だが、その目的とアクマとの取引はまるで繋がらない。会いたければ勝手に会えばいい。
ここから人形は曖昧に語った。
考えながら語る様子を見ると嘘が混ざっているのかもしれない。
話はこうだ。イトナと人形には深い蟠りがある。古い友人で別れ際に仲違いしたとか。
今、人形一人でイトナに会うと、たちまち戦闘になり、キルされてしまう。
でも人形はイトナと仲直りしたい。その場を用意するために、協力して欲しい。
そう説明された。
難儀な話である。
この人形はわざわざ仲直りするために海を渡って来たと言ってるのだから。本当かは怪しいが。
とりあえずこの人形がどんな存在であるかはわかった。
この時、アクマが抱いでいた人形への不気味な不信感は和らいでいた。
人形がアクマと同じプレイヤーとわかったからかも知れない。
だからだろう。
アクマは何気なく聞いた。
残る疑問のナナオ騎士団のことを。玉藻と知り合いだったんだなと。
それを聞いた人形はニヤリと笑った。
表情のない人形の口元がぐにゃりと三日月を作って、不気味な顔を作ったのだ。
人形は一層嬉しそうに語った。心操スキルのことを。
そして、
「百聞は一見にしかずね」
なんと言い表せばいいだろうか。
その言葉からのアクマの中身、心はぐちゃぐちゃになった。
心操を使われたのだ。
気づけば洞窟の端に立っていた。
無性に洞窟の壁に触りたくなったのだ。
気づけば己の鎌を自ら喉元に押し付けていた。
どうしようもなく死にたくなったのだ。
初めて自殺を考える人の気持ちがわかった。
気づけば人形に恋をしていた。
突然人形が愛しくなり、抱きしめたい衝動に駆られる。
一目惚れというやつなのだろうか。
アクマは初めての恋をした。
気づけばいつものアクマに戻っていた。
いや、いつものアクマに戻れているのか、アクマには判断できない。
ただ、今まで心を操られていた事実は理解できた。
もしかしたらあの人形の都合のいいアクマにされているかも知れない。
アクマは疑心暗鬼になった。
今も、自分が自分でいられているのか。
人形に心操を使われた時のことは鮮明に覚えている。まるで心を蹂躙されたようだった。
この人形の依頼を素直に受けている理由。
それは恐怖だ。
この人形に逆らえば、玉藻のように操られるのでは無いかと。
たまに抵抗し、自分が自分である事を確認しても、まだ不安は払拭できない。
しかし、それなりにこの人形と関わってきて、推測だが、わかったことが幾つかある。
それは操る相手の人形の有無だ。玉藻を操るのに人形という媒体を使っているが、アクマに心操を使った時、アクマの人形はなかった。
恐らく、遠くのプレイヤーを操るには人形を使う必要があるのだ。
そして、その対象を細かく操ることはできないように見える。
だからアクマと取引をしたのだろう。
操るのではなく、細かな依頼をこなしてくれるプレイヤーが欲しかったのだ。
全てがアクマの推測に過ぎないし、そうであって欲しい想いが強いが、そう思っていないとやってられない。
「で、聞きたいのですけどいいかしら?」
「なんだ。依頼はこなした」
一刻もこの場を離れたいと、踵を返したところで人形に呼び止められる。
人形はスキルを使っているのか、二つの試験管を宙に浮かせ、ピンクの糸が入った方を前に出した。
「こっちがイトナと同じギルドの子の髪の毛よね?」
「そうだ」
アクマへの依頼は奇妙なものだった。
クエストの分類で分けるなら採取クエストといったところか。
特定のプレイヤーの髪の毛を取ってきて欲しい。
そんな依頼だ。
一人はイトナと同じギルドにいる女の子の髪の毛。
これの入手には苦労した。
常にイトナがくっついているからだ。
偶然なのか、人形の思惑通りなのか、今日ラテリアとイトナが離れるタイミングがあった。
ニアとの戦闘中。忌々しい勇者が乱入してきた時だ。
城上空にいたラテリアがなにを思ってか、様子を見にきたのだ。
飛んで火に入る夏の虫。
アクマはそのチャンスをモノにした。斬撃を掠めて髪の毛を入手した。
依頼はもう一つ。ラテリアと同年代の女の子の髪の毛を取ってきて欲しいだ。
「じゃあこっちは誰のかしら」
黄色の糸が入った試験管を前に出す。
「同年代の女なら誰でもいいんだろ?」
「もちろん。でも、どんな子かは知っておきたいの」
「……プレイヤー名はノノア。歳は十二。リエゾン所属の報道部。レベルは……知らんが低くはない」
「あら、随分と詳しいのね。知り合い?」
「知らん」
「そう」
人形の求めている情報には十分だったのか、それ以上は求められなかった。
人形は試験管の栓を抜くと、二つの髪の毛を取り出す。そしてポツリと呟くように言った。
「糸で繋がれた模造品」
それはスキル名だったのだろう。
光の強さは難易度五のスキル。
なのに、人形は詠唱をしなかった。
無詠唱。
もしかしたら妖術師のクラスのように、札のような特殊な能力でもあるのだろうか。
強い光の中、コマ送りで細い木の人形が現れ、それを白い綿が覆い、色とりどりの生地が形作っていく。そして、瞬く間に二つの人形が出来上がった。
ラテリア人形とノノア人形。
すなわち、玉藻と同じような被害者が二人増えたのだ。
「ふふ。アクマさんには感謝しています。これであとは……うふふ。ああ、そうそうアクマさん。お礼と言ってはなんですが……」
「だからいらないと……」
「準備は整いましたし、近々イトナと会おうと思います。その時、フィーニスアイランドの頂上決戦が行われるでしょう。それにアクマさんを招待します」
「仲直りするために会うんじゃなかったのか?」
「そうね。仲直りしたいけど、きっと、イトナは許してくれない。少しじゃれ合う可能性の方が高いの。興味あるでしょ?」
この人形とイトナがどんな関係かは知らないが、興味はあった。
この人形に勝てる奴なんていないと思っていた。
初めて会った時のわからん殺しを思い出す。そして誰も踏み入る事のできない聖域。それに加えて心操。抗うことはできない心の操作。
人形の口ぶりからすると、イトナはこれと戦える力を持っているように聞こえる。
アクマはイトナというプレイヤーを詳しくは知らない。
知っているのは前のグランド・フィスティバルで圧倒していた姿だけだ。
でも、もしこの人形を倒せるというのなら……。
アクマは無言で踵を返した。
アクマは嫌なことは嫌と言う。人形はアクマの無言という返事を正しく汲み取って返した。
「決行の日、お呼びします」
楽しそうな人形の声がアクマの背中に響いた。




