05
それから数十分。
イトナとセイナの決着はつかず、保留という形で終止符が打たれた。
しかしステータス再振り分けの巻物を既に使用しているラテリアのステータスは全てゼロ。一先ずはイトナとセイナの両方の意見を崩さず、かつ今までと同じくらいには動けるようになるまでステータスを振り分けるけることになった。
その時もイトナとセイナの言い争いになる。イトナが「とりあえず敏捷をCまで上げて……」と言ったのを耳にしたセイナが勢いよく立ち上がり、「敏捷はそんなに必要ない」と反論。イトナとは反対側のラテリア隣にセイナが移動し、ステータスウィンドウを指差しながらあーだこーだ討論が始まった。
そして、これが今のラテリアのステータスである。
力:E (170)
体力:D (370)
敏捷:C (770)
魔力:B? (1250)
結論を言うと、セイナが折れた。「今までの敏捷がCで、せっかく今の敏捷に動きが馴染んでいるのに、あえて下げるのは勿体無い。それに後衛でも最終的にはCくらいまでは上げた方がいい」とのことで、まず敏捷がCになるように770ポイントを消化することになる。
意見が合致した魔力がB?になるように1250ポイントを消化。
ラテリアの総ステータスポイントが3081なので、この時点で半分消化されている計算になる。力と体力には最低限のポイントを割り振って、残り521ポイントが保留という形に収まった。
「それにしても珍しいですね。イトナくんがセイナさんにあそこまで言い合うなんて」
陽に当たり暖かくなった外の風を肌で感じながら、ラテリアはイトナと一緒にイニティウムのテレポステーションへ向かうその途中。さっきまでセイナと言い争っていたイトナの顔はどこか沈んでいた。
「おかげでめちゃくちゃ機嫌が悪くなってたけどね……。帰りにケーキ買っておこうかな」
「あはは……それがいいかもしれませんね……。あ、そういえばオアシスに新商品出てるのこの前見かけましたよ」
「いいね。今日はそれ買って帰ろうか」
「はい。セイナさんも喜ぶと思います。……多分」
セイナはケーキが好きなはずだ。だってオアシスの時はびっくりしちゃうくらい大量のケーキを平らげていたし。
ただ、セイナの機嫌の判断は難しい。怒ってる時はわかれど、喜んでいる時は無表情。いや、ラテリアがセイナの喜んでいる場面を見たことがないだけかもしれないけど……。
そんなセイナの機嫌の心配をしながら、二人並んでいつもの特訓場所に向かった。
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イトナとの特訓のほとんどは空中戦である。
飛翔スキルを自在に操れるプレイヤーが稀少で、空中を動き回るプレイヤー対策をしている人は少ないとか。
そんな理由でラテリアは飛翔スキルをふんだんに使った戦闘訓練を邁進していた。
蒼天を背に、ラテリアは宙を駆ける。己の翼を思いっきり広げて、出せるスピードを振り絞っていた。
「ッ!!」
凄まじい速度の弾丸が眼前を通過する。
銃弾の軌道と思しき三つの直線をなんとかして認識したラテリアは空中で急ブレーキをかけた。
「止まらないで。仮に止まっちゃってもすぐに動く」
「は、はいっ!」
イトナの指示に慌てて大きく翼を羽ばたき、急いでスピードを上げる。
風を切り、スピードを肌で感じながら、上昇していく。
イトナとの特訓。それはダンジョンに潜りレベルを、ステータスを上げることではない。
戦いに必要な技術の訓練。主に攻撃の回避。
レベルをいくら上げて強くはなっても、戦いが上手くなるわけじゃない。イトナは数字では計れない強さをラテリアに教えようと提案してくれた。
イトナの指導は容赦なかった。口調は優しいけれど、ラテリアを貫く銃弾は鋭い。
スピードを上げたのもつかの間、硬いなにかが翼を掠めるのを感じて、慌てて方向転換を行う。
イトナに教わったことを思い出す。怖がらず、常に敵を見ること。
特訓が開始してから一歩も動いていないイトナの姿を視界の中に収める。
イトナに教わったことを思い出す。視野は広く。死角を作らないこと。
空は広い。自由な空間。それだけ死角も多い。
でも、この場においては攻撃はイトナから行われる。厳密に言えば、イトナの武器である銃の銃口から。離れすぎてよく見えないイトナの手元を目を細めて確認する。が、
(イトナくんの手がない!?)
イトナに教わったことを思い出す。攻撃が常に敵の位置から来るとは限らない。
イトナの手首から先は小さな黒い魔方陣の中に埋まっていた。
ラテリアは知っている。忘れた頃に使用してくるイトナのスキルだ。
慌てて地上から空へ視界を移す。振り向いた目と鼻の先にイトナの手首から先が生えていた。
「っひぃ!」
ラテリアの悲鳴と同時に発泡音。首を引っ込め、スレスレで凌いだと思うと、ぐらりと体が傾いた。
「ふぇ!?」
平衡感覚が消失する。
空と地が交互に眼に映りながら、片翼に穴を開けられたと気づいた頃には体は地面に衝突していた。
「???????っ」
肺に衝撃を感じる。ゲームだから痛みはないけど、体には大きな衝撃があったのは感じ取れた。
「いたた……」
「大丈夫?」
倒れこむラテリアにイトナの手が伸ばされる。それを見て、少し口元が緩んでしまう。
「はい。なんとか……」
イトナには申し訳ないけど、実はこの時を一番楽しみに特訓をしていたりする。ドキドキしながら控えめにイトナの手を握ると、それを引き上げるためにイトナがぎゅっと握り返してくれるこの時が。
「ちょっと休憩しようか」
「はい」
二人並んで柔らかい芝生の上に腰を下ろす。
場所は誰もいない草原。モンスターも生息していないからプレイヤーも訪れない不人気スポットだ。
突き抜けるような蒼穹を仰ぎながらラテリアは充実を感じていた。学校の行事や、部活といった複数人数で行うことを拒んできたラテリアにとって、一つのことを誰かと一緒にひたすら頑張るのはとても新鮮だったから。特に男の子となんて昔の自分では考えられないことだ。
そんな充実感と共に不安な点もある。それは、
「私、全然上達してないですよね……」
毎日同じ特訓繰り返すラテリアは自分自身、成長の実感が全くなかった。せっかくイトナが付き合ってくれているのに、進歩がない自分。もしイトナに失望なんてされたらと考えると不安でたまらない。
「いや、そんなことないよ。ちゃんとラテリアは強くなってる。ビックリするくらい」
慌ててフォロー。なんて雰囲気ではなかった。率直といった感じで告げられたイトナの言葉に、ラテリアは素直に喜ぶことができない。
この進歩がない不安に、もしかしたら成長してるのかな? といった少しでも期待があったのなら別だ。そんな期待はラテリアの中ではゼロ。絶対に成長してないと断言できる。それくらい自信がなかった。
「でも、私すぐに墜とされちゃってるし……」
「それはラテリアの飛行技術が元々上手すぎたからだよ」
「え?」
意味の分からない理由に、首をかしげる。
「ラテリアの上達が早すぎて加減の調整が難しくて……上達してないって思わせちゃったならそれは僕のせいかな」
「そ、そんなことは!」
「さっきもまさか後ろからの攻撃を避けられるなんて思わなかったしね……って、僕も結構本気で当てにいっちゃってるからいけないんだよね」
イトナの顔がしゅんと落ち込む。
「最後のは何回も同じスキルで墜とされちゃってるのでたまたま気づけただけで! あ、でも避けられたのはきっと特訓の成果ですよね! うん! きっとそうです!」
それを見てラテリアが逆に落ち込むイトナをフォローする。いつの間にか立場があべこべになっていた。
「でも、その通りだよ。ちゃんとラテリアは強くなってる。今度思いきって難しいダンジョンとか行ってみようか。適正Lv.100くらいの」
「ひゃ、100ですか?」
「うん。それくらいのダンジョンに行けたら自信つくかなって」
「む、無理ですよ! それにセイナさんが絶対に許してくれません!」
「確かに。セイナが怒るか……」
セイナからはイトナが無茶なダンジョンに行こうとしたら報告するように言われている。なんでも少し前に単独で適正Lv.150のモノクロ樹海に行ったとか。
セイナはなぜかプレイヤーのゲームオーバーに敏感である。もし今度イトナが無茶をしたらギルドホールに縛り付けて外に出れないようにするって言ってたし……。
それにしても、Lv.150の未開地ダンジョンに一人で挑むなんてイトナはどれ程強いのだろうか。最強ギルドのギルドマスターである玉藻とも互角、いやそれ以上に強いとラテリアの目から見ても前回の戦いで分かった。
イトナは謎が多い。レベルを聞いても誤魔化されちゃうし、クラスすらラテリアは知らない。銃を武器としているのがヒントなのだけど……いや、剣が武器だろうか?
ふと気づいた疑問に、うーんとどのようにしてラテリアに自信をつけるかまだ悩んでくれているイトナの方へ振り向く。
「イトナくんって銃と剣、両方使えますよね?」
「え? ああ、銃がメインだよ。剣はサブかな」
「剣はサブ……ですか?」
今までなんとなく凄いなーで受け入れていたけど、普通使用できる武器は一種類。クラスに依存して武器の種類が決まるはずだ。これはラテリアでも知っている常識。
「ラテリアも剣を使えるようになりたいの?」
「え、いえ、そういうわけでは……そもそも、私は天使クラスなので剣は使えないですよね?」
「いや、使えるよ?」
「え?」
当然使えるみたいな言い草だが、ラテリアの中ではクエスチョンマークが大量発生する。
会話が噛み合わない。だって天使クラスの武器は指輪だけのはずだ。その証拠にNo.2のギルドサダルメリクのユピテルだって指輪以外の武器を持っているところを見たことない。
「ああ、そうか。ごめん。まだ教えてなかったね」
「なにをですか?」
「あまり知られてないけど、スキルの取得条件。ラテリアは知ってる?」
「スキルの取得条件ですか? レベルアップのタイミングですよね?」
これはリエゾンでも公開されている情報。どのレベルでどのようなスキルを取得できるか、クラス別にまとめてあったはず。
フィーニスアイランドには膨大なクラスの種類が存在する。それに比例してスキルの種類も星の数ほどあると言われているのだ。
常に情報を集めているリエゾンでさえもまだ完璧な情報を集めきれていないようで、どのレベルに、どんなスキルを取得できたかの情報をリエゾンに提供すれば少しお金が貰えるのも有名な話だ。
でもリエゾンのスキル取得情報は当てにならない。そんな話を耳にすることも多々ある。なんでも、リエゾンの情報通りにスキルを取得できなかったプレイヤーも多いらしい。
それはレベルが高くなるほど発生しやすいらしく、レベルが高くなるにつれて嘘の情報がリエゾンに流されているのか、もしくはそもそもレベルアップでのスキル取得の理論が違うのではないかという話も聞いたことがある。
「それも正解なんだけど、厳密に言うと違うんだ。ラテリアの言う通りレベルアップの条件で取得できるスキルもあるんだけど、それとは別の方法でしか取得できないスキルもあるんだよ」
「別の方法?」
「うん。なんて言えばいいかな。大雑把に言うと気持ちの問題で取得できちゃうスキルかな」
「気持ち……ですか?」
「ある程度ステータスも追いついてないといけないけど、自分はこんなスキルが使える、使いたいって強い確信、または想いを持っていればそのスキルを取得できるんだよ」
「ど、どういうことですか?」
イトナの言ってることをイマイチ理解できない。気持ちの問題とか突拍子もないことを言われても想像もつかないからだ。
つまり、自分の想像したスキルがシステムとして取り入れられるということだろうか?
だとすればとんでも無く驚きの発見だ。仮想の世界に入れるようになった現代技術だけど、人の気持ちまで見通せる技術なんて聞いたことがない。
普段ラテリアは新聞は読まないし、ニュースもお母さんかお姉ちゃんが見ている時に横から見るくらいだけど、そんな技術が発明されたならラテリアにも届くビックニュースになっているはずだ。
「ほとんどのプレイヤーは、上位のプレイヤーが使っているスキルを見て、自分もあれくらいレベルを上げればあのスキルが使えるんだ。って無意識に確信してスキルを取得してるんだ。ステータスの割り振り方の違いで取得できない人もいるみたいだけど」
確かに、本当にそうならリエゾンの情報に差異が出てしまう事に説明がつく。
「それじゃあ、上位のプレイヤーはどうやってそのスキルを取得してるんですか?」
「コツもいるんだけど、基本的には練習だよ。繰り返し、取得したいスキルのイメージをしながら、イメージ通りの動きをしてみるとか。あとは実戦中にパッと取得する時もあるよ。絶体絶命のピンチの時に逆転のスキルが芽生える時がね」
大きな壁を感じた。多分、これが上位プレイヤーとそれ以外のプレイヤーの差なのだと。
スキルは戦闘においての生命線。行動の選択肢がスキルの数と言ってもいいほど重要なもの。ラテリアは上位のプレイヤーなんて程遠い存在だけど、スキルの重要性は分かっているつもりだ。
「なんか凄いですね……。私、全然知らなかったです」
「無理もないよ。普通こんな話を聞いても信じてもらえないから。昔は上位のプレイヤーがその情報を拡散しようとしたんだけど、なかなか浸透しなかったみたい。結局レベルアップっていう目で分かるパワーアップ時にスキルの習得ってのが一般的になっちゃったね」
たしかに数字じゃない条件で、気持ちの問題でスキルを取得できるなんて、普通なら俄かには信じられないことだ。でも、イトナがそう言うのなら。ただそれだけで不思議と疑うことなんてなかった。
「でも、強くなりたい人で、そのことを知らない人はちょっと可哀想ですね」
スキルだけを見れば、イトナの言うスキルの習得方法を知らないプレイヤーは、ずっと上位プレイヤーの背中を追いかけるしかないという事になる。
どんなに頑張ってもこのスキル習得の情報を知らない限り、スキルをなぞるしかないのだから。情報一つで上位プレイヤーに追いつけないのは少し理不尽にも思えた。
「そうでもないよ」
イトナは静かに言う。それが、そうなるのが必然と言うかのように。
「本当に強くなりたいって思えるプレイヤーなら一人でも気づくから……そうだ。ちょっとやって見せようか。指輪借りてもいい?」
「え、はい」
指示に従って人差し指に装備した指輪を外し、イトナに手渡す。それをイトナが慣れない手つきで人差し指に入れると、腕と人差し指をピンと前に伸ばし、静かに目を瞑った。
「……」
凄い集中力をイトナから感じる。今からきっと凄いことが起きる。そんなオーラを発するイトナを前に、ラテリアは思わずゴクリと喉を鳴らした。
沈黙が続く。二人だけを通り抜ける風を三度感じた頃、イトナの瞳は静かに開かれた。
そして、唇が小さく動く。
「レイニア」
ヒュンッと流れ星のように、か細い光の筋がイトナの指先から発せられる。
聖属性の攻撃魔法。難易度一の弱いスキルだけど、銃や剣を武器とするイトナのクラスでは絶対に覚えることのないスキルのはずだ。
「と、まぁこんな感じで他の武器で他のクラスのスキルを取得する事も可能なんだ。剣のスキルはこの方法で取得してるってわけ」
「す、凄いです!」
音の無い小さな拍手をイトナに贈る。
「クラスの成長もこれに似てるんだ。最初のクラスは自分で決められないけど、強い想いで成長の仕方が変わってくる」
フィーニスアイランドを始める時、クラスは自動的に決められる。なんでも、そのプレイヤーに適したクラスが採用されるらしい。運動が得意なら剣士、勉強が得意なら魔法使いとか。
因みにラテリアは両方苦手だけど、運動より勉強のがまだマシと判定されたようで、めでたく魔法クラスからのスタートだった。
「剣士だったけど、魔法を使ってみたい。そう思って魔法のステータスを上げて魔法の練習をしたら魔法剣士のクラスになる、とかね。ホワイトアイランドには魔法剣士はいないけど、ニアがそれに近いかな。防御魔法を練習した結果でクルセイダーって特殊クラスになったから」
「なんだか、凄いですね……」
初めて聞いたことばかりで思わず「ほえ?」と変な声が漏れてしまう。今まで流されるようにレベルを上げてきたラテリアとは大違いだ。
「試しにラテリアもなにか習得してみようか?」
「え、私がですか?」
「うん。最初は難しいけど、練習ってことで」
「わかりました。やってみます」
イトナに習って目を閉じて、大きく深呼吸。背筋をピンと伸ばして、むむむと集中力を頭に寄せる。
「スキルはなんでもいいよ。自分で考えたオリジナルでも、ラテリアが使えたらいいなってスキルを思い浮かべてみて。攻撃スキルじゃなくても、こんな風になったらいいなとか、あやふやなことでもいいんだ」
使えたら嬉しいスキル。なんだろう。それはやっぱり……。
イトナを振り向かせるスキル……とか?
いきなり思い浮かんだのはただの邪念だった。せっかくイトナが教えてくれてるのに何を考えちゃってるんだと、顔を赤らめて首をぶんぶん横に振る。でもいくら振り払ってもヨコシマなスキルはラテリアの頭にしがみついた。
「スキルが思い浮かんだら、そうなるには自分はどんな動き、またはどんな風になればいいのかを考えてイメージして」
自分がどう変わればイトナが振り向いてくれるのか? やっぱり可愛くなったら見てくれるのだろうか。可愛くなるにはどうすればいいのか……。
「次は具体的な色と形イメージするんだ」
色。可愛い色といったらやっぱりピンク? 形はハートで……。
「僕はいつもこんな感じで取得してるんだけど、そんな簡単なことじゃないし、最初からは難しいよね。でも繰り返しイメージをしてたらいつかスキルを取得……」
取得できなくても気を落とさないでと、そんなことを言おうとしたイトナの声。それを遮ってピコン! とラテリアの頭の中で音が鳴った。
「え?」
ラテリアの目の前にはスキル取得のメッセージウィンドウが表示されている。
「で、できちゃったみたいです、スキルの取得……」
「え? 本当?」
「はい!」
「す、凄いよ! 一回でできるなんて!」
『チャームリング』そう名付けられたスキルがラテリア初のオリジナルスキル。ウィンドウを操作をして、スキルの効果を確認する。そこに書かれていたのは。
ーー対象の相手を魅了して視線を釘付けにする。
難易度1のスキル。説明文だけでは効果はイマイチわからないけど、ラテリアのイメージした通りの内容なのは分かった。つまりこれをイトナの前で使えば……。
一体どうなってしまうんだろう。
けしからん妄想を真剣に膨らませていると、後ろからイトナの声が聞こえてきた。
「えっと、どんなスキルを……」
かけられた声に過剰に肩がびくりと反応する。
慌てて体を反転させると、そこには今にもウィンドウを覗き見ようとするイトナの姿があった。
「だ、だだだだだだダメですっ! イトナくんは見ちゃダメです!」
ヒヤッとした変な汗をかきながら、体を張ってガードする。
「え、でもこの前はスキル見せてくれたし、さっきもステータスを……」
「今日からダメになりました!」
「ええ?」
これだけはイトナに見られるわけにはいかない。ラテリアがなにをイメージ……妄想していたなんてイトナにバレたらもう死んじゃいたくなるほど恥ずかしいに決まっているのだから。
両手を広げてガードを固めると、イトナは不思議そうな顔をしてあっさりと身を引いてくれた。それを確認してから慌ててウィンドウを消すと、あははと笑って誤魔化した。
この後も日が沈むまでイトナと特訓した。当分はギルドメンバーを増やさないで、二人っきりの時間を楽しんでいたいかもしれない。そう思うラテリアだった。




