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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
ディア・セイナ
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04


 フィーニスアイランドのステータスはレベルアップ時にポイントが貰え、それをプレイヤーの好みに振り分けるシステムになっている。

 ステータスは分かりやすく力、体力、敏捷、魔力の四種類。


 力のステータスを上げれば物理攻撃力はもちろん、重いものを持てたりと戦闘以外でも便利な場面も多い。


 体力のステータスはプレイヤーの生命力を表すHPが上昇する。その他にも持久力も高まって、長時間の戦闘を行っても疲労が少なくなる恩恵もある。


 敏捷のステータスは全体的なスピードの上昇。また、スキル発動後の硬直を減少する。ただ、上げすぎると慣れるのが難しい。リアルとの差がありすぎて制御不能になる恐れがあるのだ。

 

 魔力のステータスは魔法攻撃力と、補助魔法による効果が上昇する。


 どれも重要なステータスだ。ラテリアはそう考えている。力のステータスが少なければ、イトナが毒にやられた時運ぶのは難しかったと思う。体力が少なければすぐにゲームオーバーになっちゃうし、敏捷がなければ咄嗟な攻撃を避けられない。魔法攻撃が主なラテリアには魔力のステータスは欠かせない。


 四種類全部上げたほうがいい。そう思ったラテリアは全部のステータスを均等に振り分けていた。オールラウンダー。それのどこが悪かったのだろうか。


「レベル78で全部Cっていうのはちょっとね……」


「え、ダメなんですか?」


「ダメってわけじゃないけど……」


 ステータスは数値以外にも階級で分けられている。GからSまで。それぞれのアルファベットにプラス、マイナスの記号がついて計二十四段階。一定のポイントを超えると階級が上がるようになっている。


 階級は数値より重要で、階級の違いで大きな補正がかかると聞いたことがある。例えば20ポイントでG?からGへ昇級するのだけど、19のG?と20のGでは1ポイントの差よりも大きな差が生まれるとか。


「でも、一つのステータスにいっぱいポイントを使っちゃったら他が弱くなっちゃいますよ?」


「うん。でもクラスに不向きなステータスに多く割り振っても無駄になっちゃうと思わない? 例えばラテリアは天使クラスで魔法をよく使うと思うけど、物理攻撃ってあんまり使うことないよね?」


「そうかもですけど、力のステータスが無いと普段重いものとか持てなくなっちゃうし……」


「極端に1ポイントも割り振らないわけじゃないよ。そこは調整なんだけど、どうかな? 二人で考えてちょっとステータス変えてみない?」


「イトナくんと、一緒に考えて……ですか?」


「うん。ちょっと僕好みになっちゃうかもだけど」


 イトナくんと一緒に。イトナくん好みに……。


 それらの言葉はラテリアにとって、凄く甘美に感じられた。

 故に今不便ないステータスを変えるのに少し不安があったけど、そんなのは一瞬で吹き飛んでしまう。


「是非よろしくお願いします!」


 急に乗り気になったラテリアは身を乗り出して同意をする。それに少し怯むイトナ。


「じゃ、じゃあ早速……」


 イトナが自分のウィンドウを出現させて操作を始めると、一つのアイテムが出現させた。古びた巻物。ラテリアも知っている有名なアイテム。


「ステータス再振り分けの巻物……」


「うん。使ったことある?」


「はい。始めたばっかりの頃、間違って使っちゃたことがありまして……」


「あー、それは勿体無いことしちゃったね」


 ステータス再振り分けの巻物はモンスターからドロップすることも、プレイヤーが生成することもできないアイテム。各プレイヤーがフィーニスアイランドを始めた時に一つだけ貰える貴重品。

 一人のプレイヤーが複数使用するには他のプレイヤーから貰うしかない。だから高値で取引されているのだ。


「いいんですか? 凄いレアアイテムですよね?」


「うん。これは僕が使ってなくて余ってるやつなんだ。だからタダだよ。お金に困ってないから売るつもりも無いし、使わないと宝の持ち腐れだしね」


 パレンテに入ってからお金やアイテムはイトナに貰ってばかりのラテリアは、心底申し訳なく思いながら巻物を受け取る。そして、そっと巻物を開きアイテムを使用した。


 巻物がぼんやりと光る。それだけのエフェクトを残して、スッと姿を消してしまった。


「よし。じゃあ始めようか」


 アイテムが消えてラテリアのステータスがリセットされたことを確認すると、イトナが楽しそう言った。


「イトナくん、なんだか楽しそうですね」


「え? ラテリアは楽しくないの? ステータス振り直すんだよ?」


 こんなにも純粋に楽しそうなイトナを見るのはサダルメリクとのクエストぶりだろうか。やっぱりゲームのことが好きなんだなと改めて思う。


「ううん。楽しいですよ。私も」


 イトナくんと一緒だから。なんて後に続く恥ずかい思いは胸の内に秘めといてそう返しておく。


「まず装備か。セイナ、女性用の後衛クラスでレベル100前後の最良装備って覚えてる?」


「テミスのエンゲージリング、天の羽衣、星のブレスレット、白羽のブーツ、織姫の髪飾り」


「え?」


 なんでそんな質問をNPCのセイナに? と疑問を持ったのも束の間、セイナはイトナの問いかけに間髪入れずにスラスラと答えた。


「テミスの魔力要求がB?だったからそこまで上げるとして……星ブレって力要求高かったよね? グラスの方は要求レベルは少し低いんだっけ」


「星ブレは力Dの要求、グラスブレスレットはレベル98。要求ステは魔力だからテミスの装備を前提としたら得だけど、あれだと防御が全然上がらない。絶対星ブレの方が安定する」


「いや、ラテリアには敏捷上げてもらいたいから余分に力には振りたくないんだよね」


「……は? なに言ってるの? ラテリアは後衛よ? 敏捷なんて上げたってしょうがないじゃない。 魔力特化にしないなら残りは体力でしょ」


「え? え?」


 ラテリアは二人の会話についていけなかった。武器や防具を装備するのにステータスが要求される。多分その話をしているのだろうけど、登場する装備はラテリアの聞いたことないものばかりだ。しかもレベル100の装備。今ラテリアのレベルはまだ78なのに……。


「ラテリアの飛行スキルが凄いんだよ。セイナだってナナオのギルドホールで見たよね。空中の動きを敏捷で上げたらきっと面白いよ」


「面白いなんて適当なこと言わないで。狭いダンジョンじゃ意味ないじゃない。それに敏捷上げても本人の反応が追いつかないんじゃ墜落するだけ、ラテリアが速い動きについていけるわけない」


「そこは今特訓してるから追々ね……」


 セイナはNPCのはずだけど、まるでフィーニスアイランド上級者同士の会話。そんな二人の会話に入れないでいると、二人の顔がグルンとラテリアの方を向く。


「「どっちのステータスがいいの?」」


「え、えーと?」


「スピードが出た方が絶対に楽しいよ。相手の予想を上回って攻撃を回避できた時のなんて言えばいいかな、爽快感? をラテリアにも……」


「イトナの価値観をラテリアに押し付けないで。ラテリア、ゲームオーバーは怖いでしょう? 体力を多めに振って安定させた方が絶対にいいんだから」


「じゃあ分かった。装備のオプションを体力アップに寄せるから……」


「そんなのダメに決まってるでしょ。装備でのステータスアップじゃ階級上がらないんだから。低い階級で上げてもそれこそステータスの無駄」


 イトナとセイナの平行線な討論が続く。イトナと一緒にって話だったのに、ラテリアは蚊帳の外。もはや選択肢はイトナかセイナの二択になっている。


「あ、あの……」


「なに」


 ラテリアからなにかを言わないと一向に決まることが無いのが目に見えて分かる。そもそもこれはラテリアのステータスの話し合いだ。本人の意見が優先されてもなにもおかしく無いはず。


 イトナの膝の上にいるディアも鼻息を荒くして、イトナのなんとも言えないところを掘り始めてるし、イトナは討論に夢中でそのことに気づいてないし、ステータスの振り分けは早く切り上げて外に行きたい。


 素人は黙っててくれない? みたいなセイナの目に怯みながらも、しっかりと自分の意見を伝える。


「間を取って、力に振るとかどうでしょう?」


「「それは絶対にない!」」


 ラテリアの意見は即座に却下された。


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