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 イニティウムの南門が大きく目に映る。

 セイナとラテリアを掴んで上空を移動するグリフォーンは間も無く街の外へ出ようとしていた。


「セイナさん準備はいいですか?」


「ん」


 僅か三十秒の勝負。時間内にグリフォーンからセイナを救出し、安全な場所まで連れて行く。これがこれからラテリアが一人でやらなければならないクエストの内容になる。


 ソードマンはイトナ。エビルコングはテトと、街の中に進入してくるモンスターは強豪プレイヤーとやり合うほど異様に強い。

 そんなモンスターをラテリア一人で相手するのは難しいのは明らか。だから戦わずしてセイナを救出するプランをこの二分間で練った。


 ラテリアの使える最高難易度を持つスキル 《エマージェンシー・コール》。セイナとパーティを組み、このスキルを使用すれば、セイナはグリフォーンの足から離れ、ラテリアの元へ召喚されるはずだ。


 これに気づいたラテリアは更に考えを重ね、より安全に救出できる作戦を立てた。


 まず、グリフォーンの目に入るところでそれをやっても直ぐに捕まってしまうのが目に見えている。だから街の外へ出たらラテリアは全速力でグリフォーンとは別の方向へ飛ぶ。飛び始めてから二十五秒ほどカウントして、セイナのHPが尽きるギリギリ、グリフォーンとめいいっぱい離れたところでセイナを呼び出すのだ。


 これならグリフォーンは然程関係ない。ラテリアでも難しくない単純な作戦。

 絶対に上手くいく。


 そしてその時が来る。

 真下には街と外を分ける外壁。これがラテリアにとってのスタートライン。


「行きます!」


 それを過ぎる瞬間、セイナに最後の回復薬を飲ませる。そしてグリフォーンから離れ、ラテリアが飛び立った。


 自慢の翼を広げて飛翔する。ラテリアが唯一自信を持って得意と言えるのが空を飛ぶこと。

 滑空する。地面に近い位置を維持し、イニティウムの東門を目指そうとしたその時だった。


「ふぇ!?」


 ラテリアの動きが完全に止まる。天使の翼も消え、勢いよく墜落した。顔を強く地面にぶつける。

 足になにか絡まっている。それがラテリアを止めたのだ。


「な、なんで!? ここにはそんなモンスターなんて………!」


 この場所はイニティウムを出た直ぐのフィールド。のどかな草原が広がり、自ら攻撃してくるモンスターなんていないはずだ。

 強く、締め付けるような感覚がする片足を急いで凝視する。


「なにこれっ!」


 そこにあったものは鎖だった。鉄が連なる頑丈な縄。それが生き物ようにうねり、ラテリアを捕まえていた。


 非常事態。


 一気に焦りが込み上がってくる。

 作戦が失敗した。


「れ、 《レイニア》!」


 聖属性の低級魔法をぶつける。だけど、ギンっと音を立てただけで、鎖には傷一つ付いていない。


 レイニア! レイニア! レイニア!


 何度も打つスキル難易度1の攻撃は虚しく弾かれる。


「離してください! 急がないといけないんです! 急がないとセイナさんがっ!」


 返事をするはずがない鎖に吠え、掴み、力尽くで解こうとする。


 もうセイナから離れてどれくらい経ったのかのカウントも途切らせてしまった。もう今すぐにでもエマージェンシー・コールを発動させた方が良いのではないか?

 何もかもが思い通りになっていない現状に、焦りだけが孕んでいく。


「それでは解けませんよ」


「え?」


 透き通った女の子の声がかかった。聞き覚えのある、まだ幼気が残ったような声。


「その鎖は難易度4のスキルです。私のステータスを大きく超えているか、同等以上のスキルでないと壊すことは出来ません」


「え?」


 見上げる。そこには一人の少女が佇んでいた。

 綺麗な銀と金が混ざった髪。和をモチーフにした衣服を見に纏い、大きな二つの狐のシッポを揺らす少女。


「八雲……さん?」


 ホワイトアイランド最強のギルド、ナナオ騎士団のサブマスターがそこにいた。


「こんばんは。ラテリアさん……でしたっけ? まさかイトナさんではなくあなたがここまで来るなんて思いもしませんでした」


 八雲がなにを言っているのかよく分からない。でも、そんなことラテリアにとってどうでもよかった。


「た、助けて下さい! セイナさんがモンスターに襲われているんです!」


 懇願する。

 声を荒げて、セイナのいる方角を指差すそんなラテリアを八雲は困った顔で見下ろした。


「ごめんなさい」


 謝罪。今ラテリアに返すには見当違いの言葉の意味は直ぐにそれとなく理解する。


「ラテリア……」


「セイナさん!?」


 八雲の背後に見えるセイナの姿。セイナもまた両手に鎖が巻かれ、繋がれていた。鎖の行き先を辿ると、それは八雲の右手から現れている。

 セイナの更に後ろにはグリフォーンが地に足を着けて大人しくしていた。


「お疲れ様。もう眠って大丈夫」


 八雲が手を伸ばし、グリフォーンの頭をひと撫でする。すると静かに眼を瞑り、グリフォーンは光へと変わった。

 モンスターにとって死を表す光。それが四散した。


 八雲のクラスは 《妖術師》。彼女はその中でも倒したモンスターを手なずけられた状態で召喚できる 《死霊魔術系》のスキル。そして一時的にステータスを強化できる 《エンチャント系》のスキルを得意としているのは有名な話。


 今の八雲の仕草を見る限り、グリフォーンは死霊魔術のスキルで蘇生されたモンスターであるのは間違いな。

 だとすれば、あのソードマンやエビルコングも八雲に従えるモンスター。NPC殺人は八雲の仕業だったのだ。


「八雲さんが……犯人だったんですね。NPC殺人事件の! なんで、なんでそんな酷いこと!」


「……あなたには関係ありません」


「セイナさんをどうするつもりですか!」


「それもあなたには関係ありません」


「関係あります! セイナさんは私の大切な友達です! 返してください!」


「できません。やっと目的のNPCを捕まえたのですから」


 目的?


 訳がわからないまま八雲はラテリアから視線を外し、一つのアイテムを取り出す。

 拳ほどの大きさをした白色の宝石 《記憶石》。ホワイトアイランドの中でならあらゆる場所を記憶でき、砕くことでその記憶された場所へのワープホールを出現させることが出来る物凄くレアなアイテム。


 本来の使い道はダンジョンの最深部、ボス部屋の前で記憶し、準備を万全にした状態でボスに挑むこと。でも、そんなアイテムを八雲は迷わず砕いた。

 目の前にホワイトアイランドのどこかへつながる歪んだ空間が出現する。


「セイナさん。ついて来てください」


 ジャラリと繋がれた鎖を引く。


「セイナさんをどうするつもりですか! もしかしてセイナさんも……」


「それは私が決めることではありません。姉さんが……いや。イトナさんが決めることです」


「どういう……」


「イトナさんに伝言です。今日、朝日が昇る前にナナオ騎士団のギルドホールに来てくださいと」


 それだけを言い残して、ワープホールに入っていく。

 鎖を引かれ、ワープホールに連れられていくセイナが振り返る。ラテリアとセイナが眼を合わせる寸前でセイナの姿はワープホールの向こうへ完全に消えてしまった。


 気づけばラテリアを捉えていた鎖は消え、辺りはただただ静寂に包まれていた。

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