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いつもより強い薬品の匂いが漂うセイナの部屋。ラテリアが部屋から出て行ったのをしっかりと確認すると、セイナは思いっきりテーブルに手を叩きつけた。
バンッと激しい音が響く。
その行動は冷静に、静かに、鋭く怒るいつものセイナとは違う。ここまで荒々しく感情をぶつけて怒りを見せるセイナは、長い長い付き合いのイトナでも見るのは〝八年とちょっと前振り〟くらいになる。
そのセイナの怒りはもちろんイトナに対してである。普段セイナから叱られて目を逸らすイトナも、この時はまっすぐとセイナの目を見据えた。
「私がなにを言いたいか分かってるわよね」
「少し似てるかもね」
「少しってもんじゃ無いわよ!」
ここまでセイナが怒る理由はイトナも十分に分かっている。それでもこれから先イトナにとって、なによりセイナにとって、大きくプラスになる事を考えての決断である。
「仲良くやってたように見えたけど、ラテリアを入れるのはそんなに反対?」
「反対に決まってるでしょう! 少しだけならまだ我慢できたけど、これからずっとなんてあり得ないから」
セイナの怒りに触れた原因はラテリアのギルド加入。もう既にラテリアの加入は済んでいるが、それでも断固反対の意思を曲げないセイナ。
「コール達の時はそんなに強く反対しなかったのに」
「状況が全然違う。ラテリアは十四歳よ。卒業まで後四年。絶対に巻き込まれる!」
「それはこのギルドに入っても入らなくても変わらないよ」
「変わらないならギルドに入れなくても同じでしょ! もう、あんな思いはしたくないの! もう、あんな……っ!」
途中からセイナの声は震え、大粒の涙がこぼれる。その涙の理由はイトナとセイナのずっとずっと昔の物語。その話はまた後ほど。




