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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
リトル・カレッジ
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 始まりの都、古都イニティウムは今日も普段と変わりない賑わいを咲かせていた。

 上級者から初心者まで利用されるこの都はホワイトアイランドで一番の人口密度を誇っているだろう。


 たった二日ぶりなのにラテリアはイニティウムの人混みを懐かしく思いながら、人をかき分けてメインストリートを駆けていた。


 帰還の魔石を使い、イトナを一人置いてイニティウムに帰還したラテリアは南のゲートを目指している。


「ご、ごめんなさい! 通ります!」


 何度も人とぶつかり、謝りながらひたすら走る。

 ゲートに近づくにつれて人が少なくなり、ラテリアのスピードも上がる。

 なんとか南のゲートを潜り都の外に出ると、休む暇もなくスキルを発動させた。


「《エマージェンシー・コール》」


 緊急召集スキル。


 パーティメンバーがいかなる場所にいても強制的に自分の元に召喚する事ができる、ラテリアが使える最大難易度のLv.4のスキル。都の中だとスキルが使用できないため、わざわざ外まで移動したのだ。


 魔法陣の光と共に現れた相変わらずのイトナの身体を抱き抱えて、再び都の中に戻ると、ラテリアは声を張り上げる。


「誰か! 誰かLv.5の解毒薬を譲ってもらえないでしょうか!」


 ラテリアの声に振り向く人はいない。賑やな声に掻き消されているからだ。それでもめげずに何度も何度も叫ぶ。


「あの、すみません……!」


 ラテリアが声をかけたのは全身を銀のプレートアーマで固めて、背中に巨大なアックスを背負った大柄な男性プレイヤー。アックスには細かな装飾が施されていて、いかにも上級者プレイヤーのように見えた。


「あん?」


 男はガチャリと鎧の擦れる音を立てながら振り返る。


「あの、解毒薬を、譲ってもらえないでしょうか!」


 はっきりと言葉を伝えて、ラテリアは懇願するように男を見上げる。


「……解毒薬? そんなんそこら辺で買えばいいだろ」


 男は野太い声を出しながらラテリアを見下ろした。次にイトナに視線を移して少し首を傾げる。


「すみません。お金は今なくて……でも今すぐ必要で!」


 今のラテリアには手持ちのお金はない。なけなしの所持金を全てイトナに払ってしまったからだ。だから今は無償で譲って貰えるようにお願いするほかない。


「まぁ、解毒薬の一つくらいなら……」


  男は「ほらよ」と、解毒薬の入った試験管をラテリアの前に差し出す。


「……これはLvいくつの解毒薬でしょうか?」


「3だけど……悪いがLv.3より低いのは持ってねぇんだ。別にLvが高い分には問題ないだろ?」


 Lv.3の解毒薬。それだと全然足りない。


「5はっ、Lv.5の解毒薬は持ってませんか!?」


 図々しいのは百も承知で今求める解毒薬をお願いする。


「はぁ? Lv.5ぉ!? からかうなら他所でしてくれ」


「か、からかってなんていません! どこか、売っている場所でもいいので教えてもらえないでしょうか!」


「そんなLv.5なんて存在しないアイテムを言われてもなぁ。嬢ちゃん初心者か? 物を貰いたいならもう少し勉強してからにしな」


 ラテリアの真剣な眼差しを一蹴して男は踵を返してしまった。

 男の言った存在しないアイテムという言葉が耳に残る。


 ラテリアもフィーニスアイランドをやり始めてもう長いけど、Lv.5の解毒薬なんて聞いたこともない。自分が情報弱者だからでは無く、もしかしたら本当に存在しないのかもしれない。

 そんな不安を抱えながら、もっとLvの高そうなプレイヤーを当たった。


÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷-÷


 身体が無くなってしまったようだった。目を自分の力で開けることさえもできない。


 確か毒を貰って、それから……。


 少し前の出来事のはずなのに酷く曖昧になった記憶を辿る。

 イトナのクラスは毒の耐性が高い。どんな毒でも大丈夫と過信していた。でもLv.5の毒を甘く見すぎていたようだ。


 それにしても、この毒は時間の感覚まで狂わせてしまうのだろうか。あれから随分と時間がたったと思う。

 視界は酷くぼやけていて、自分の身の回りで何が起こっているか全く分からない。ただ、まだ意識が朦朧としているということは、まだ死んでいない。


 だとしたら、ラテリアがダンジョンから抜け出すことに成功したのだろうか?


 もしそうなら、良かった。心の底からそう思った。

 仮定だらけで出した結論で胸を撫で下ろす。


「……くん! ……ナくんっ!」


 猛毒という最悪な異常状態の中、なぜか悪くない心地良さを感じた。

 懐かしく思う良い匂い、優しく包まれる柔らかい感触。

 そんな心地良い感覚が突然消え、身体が寂しくなってしまった……ような気がした。


 おかしなことである。そもそも猛毒状態で気持ちが良いなんて気のせいに決まっている。感覚がたいぶ狂ってしまっているらしい。


「……します! ……下さい!」


 微かなラテリアの声が耳朶に触れた。

 どこか必死な、焦っている声。何を言っているかわからなかったけど、それだけは伝わってきた。


 視界に光が漏れる。

 水の中にいるようなぐちゃぐちゃの視界の中に、ラテリアの後ろ姿があった。どうやらイトナは横になっている状態らしい。低い位置からの景色だった。


 ラテリアは誰かと話してる。いや、なにかお願いしている?

 限られた視界の情報から今の状況を探ろうとしようにも頭が働いてくれない。


 ややして、再び心地良い感触が戻って来た。またなにかに包まれた感じ。


 まぁ、良いか。


 不思議と安心するこの感覚に、考える事を止めて全てを委ねることにした。

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