表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
グランド・フェスティバル予選
112/119

9


「あら、気がきくじゃない」


 スカイアイランドから期間後、取ってきたアイテムをセイナに渡すと、ご満悦の様子だった。

 多種多様な植物を嬉しそうに仕分けし始める。


 その横ではラテリアとノノアが談笑している。

 最近、ラテリアはノノアと一緒にいることが多い。すっかり仲良しになったようだ。

 しかし今日は平日では? と思ったけど、そうか。今日から夏休みか。


「あとこれ、コカトリスの羽根と、卵の中から出てきた粘液。猛毒だから気をつけて」


 毒物専用のフラスコに入れたその二つを渡すと、セイナより先にノノアが反応した。


「え、なになに!? 今コカトリスって聞こえたんだけど!」


 こっちの話が耳に入ったのか、ラテリアとの話をそっちのけに、イトナとセイナの間に入って、セイナに渡した素材を興味深そうに凝視するを


「今朝、ちょっとスカイアイランドに行ってきたんだよ」

「え、今朝って、今まだ朝の10時ですよ? この前まで体調が良くなかったのにあまり無理はしない方が……」


 ラテリアが心配そうな顔をしてくれる。

 ありがとう。いつも心配してくれるのはラテリアだけだよ。いや、本当に心配をかけてしまっているのはセイナか。


「ほら、この前トゥルーデ倒してその時に眼球もらっていたからね」

「がんきゅうって、目のことですよね……」


 ラテリアの顔が青くなる。

 確かに、一つのアイテムとでしか考えていたからなんとも思わなかったけど、元々生きていた者の眼球って考えるとちょっとグロいか。見た目とか触り心地はガラス玉みたいなものだったけど。


「あれでしょ? リベラの聖水泉に投げ入れるとスカイアイランドへの道ができるってやつ」

「そう。でも、あそこ観光地で人気だからさ、誰もいない時間じゃないと大騒ぎになるかなって」

「あー私も見たかったなー」


 ノノアが口を尖らせながら、テーブルに突っ伏す。


「でもあそこ、適正Lv.175だし……」

「そんなこと知ってるよ。勇者パーティでも死にかけたってダンジョンに行きたくないもん。でも、スカイアイランドに行ける道ができるところを見るだけなら安全でしょ?」


 確かにそうだけど、朝もだいぶ早かったしね?

 朝というか深夜か。そんな時間に女の子を誘うのもどうかと思うんだよ。


 しかし、この数日でノノアもだいぶパレンテに打ち解けてくれた。

 嫌われれば嫌がらせに心操のことを言いふらしてやろうとかはあるかもしれないけど、逆ならそうはしないだろう。


「ねぇねぇ、どんな感じだった? リベラからだから虹の橋とかで道ができたの?」

「いや、モノクロ樹海に立っている白と黒の大樹が伸びて、それを渡って行くんだよ」

「へぇ。なんか凄そう! で、イトナはなにしに行ったの? 行ってみただけ?」

「ちょっと必要なアイテムができてね。前にラテリアとテト達に取ってきてもらったやつ」

「え、嘘嘘嘘! じゃあコカトリス倒したの!? 一人で!? あ、もしかして誰かと一緒?」

「今回は一人だよ。あと、倒してはないよ」

「でも取ってきたんでしょ? 勇者パーティが苦戦して取ったアイテムを一人で! 凄っ!」


 回る回るノノアの舌が回って止まらない。

 この子は本当に興味を持ったものには淀みなく質問がポンポン出るものだ。

 よくハキハキと楽しそうに話す子だ。


「で? で? セイナはそれでどんな薬作るの? 凄いレア素材だからすっごいのが作れるんでしょ?」

「作るのは前にも話したリセットの薬」

「あれでしょ! 七大クエストボスモンスターのドロップアイテムばかり使った夢見たいな薬!」

「それよ」

「他のドロップアイテムは? これから取りに行くの? 行くんだったら私もついていっていい?」

「残念。他のはもうあるの。黎明とかサダメリが素材集める時にイトナが付き合って、だから困らないくらいには揃ってるのよ。ディア」


 セイナがディアを呼んで、必要な素材を取ってくるように言う。

 ディアはセイナが作ったであろう可愛いリボン付きの籠を首から下げてセイナの部屋に入ると、しばらくして注文通りの品を届けてくれた。

 そんなディアを撫でながら、空いた方の手で、素材をテーブルに広げて行く。


「ほぁー」


 それをノノアが変な声を上げてキラキラした目で見ている。


「やばい。やばすぎる……これだけあれば凄い装備が作れるんだろうなぁ」

「なに、欲しいの? あげるわよ。余ってるから」

「え、うそ。ほんと!?」

「ええ、これで心操の事を黙ってもらえるならいくらでも」

「うぐ……パレンテになんでもしてもらえる券を使うなら無しで……」


 うぅ、そっかーこういうのもありかーと、ノノアが唸る。

 しかし、一体パレンテになにがご所望だと言うのだろうか。なにかをあげるとなると、お金か、なにかしらの装備やなにやらのアイテムぐらいしか思い当たらないけど。


「……ねぇ。もしも、もしもだよ? 私がパレンテに入りたいって言ったら……ダメ?」


 お?


「え、え!? ノノアちゃんが入ってくれるんですか!? 大歓迎だよ! ね、セイナさん!」

「考えたわね。うちに入ればこの素材もお金も手に入るわけだ」

「ち、ちが! 別にそんな事を思っては……ちょっとは思ったかもだけど……」

「残念だけど、イトナが手に入れたお金とアイテムは私が管理してるから入っても好き勝手使わせないわよ。うちの財産目当てなら悪いけどお断りね。

 それに、あなたいつか黎明に入って勇者パーティに選抜されたいって言ってじゃない。その歳でそのレベルなんだから結構頑張ったんでしょ。そっちは諦めるの? それともうちを踏み台にする気?」


 セイナが調合の作業をしながら淡々と言う。そこには感情はない。

 さっきまでのノノアの饒舌じょうぜつが止まる。

 ラテリアも残念そうな顔をしていた。


 しょうがないことだ。誰だって、自分のギルドが踏み台で、お金やアイテムを取って抜けるようなプレイヤーを入れたいとは思わない。

 が、それはセイナがそう思わせるようなことを言っただけだ。

 実際にノノアがどう考えているかは言ってないのだから。


「勇者パーティを目指していたのは本当。でもちょっと違って、私は勇者のいるチームに入りたいの」


 ノノアはさっきまでの意気揚々な話し方とは違い、真剣な声遣で言った。


「……ああ、そういうこと」


 それにセイナは変わらない抑揚で納得する。


「どういうことですか?」

「勇者パーティに入りたいのはテトがいるからであって、テトがうちに来るならこっちに入りたいってことでしょ」

「え、それってノノアちゃんはテトさんの事が好きって事ですか!?」


 そんな、信じられないとでも言いたげな反応をするラテリア。


 ラテリアはテトの事が嫌いらしい。

 男のイトナから見ても、テトの見た目は悪くはないと思う。それでいて強いから戦ってるところはカッコイイ。女の子にモテても不思議ではないと思うけど、なぜかイトナの周りの女の子、例えばラテリアやニアはテトを嫌っている。女の子の好みは良くわからない。


「違う。別に好きとか嫌いとかじゃない」


 ノノアが真顔で訂正する。照れは一ミリも無い。


「じゃあ、なんで? あんな……テトさんと一緒がいいの?」

「それはその……憧れよ!」

「憧れ、ですか?」


 憧れ? あんな人に? 騙されてるよノノアちゃん! とでも言いたげな顔だ。

 いや、テトはこの世界じゃかなりの大物で、憧れを持っているプレイヤーだって多くいるんだよ?

 声には出さないけど、心の中ではテトの味方をしておく。テトはいい友人だと思っているからね。心の友だ。


「そう! だって強くてカッコいいじゃない」


 うん。テトは強くてカッコいい。


「強いですけど、カッコよくは……」

「私はね、強くなりたいの。で、やるからにはやっぱり1番になりたいじゃない。でね、今ホワイトアイランドで一番強いプレイヤーって言ったらテトでしょ? 1番を目指してるんだから1番のプレイヤーに憧れるのは普通だと思わない?」


 ノノアの言っていることはわかる。自分は赤の他人に憧れを持ったことはないけれども、例えばなにかのプロスポーツ選手に憧れている子供が、その選手と同じ場で活躍したい、同じチームに入りたいと思っているといえばしっくりする。


「それ、わかります。私もお姉ちゃんに憧れてパレンテに入ったので。私もお姉ちゃんみたいになりたいって」

「お姉ちゃん?」

「はい。私のお姉ちゃんも昔パレンテのメンバーだったので」

「え、ちょっと待って。その話聞いてないんだけど!」

「そうでしたっけ?」

「そうよ!」


 って事はなに? 昔いたメンバーで女の人って言ったら一人しかいないじゃない! どおりで……とかボソボソと言ってノノア一人で盛り上がる。


「あ、話がちょっと脱線したわね。つまり、そういう事よ」


 どういうことだ? ああ、ノノアがパレンテに入りたいって話か。


「わかりました。つまり、ノノアちゃんは1番強いプレイヤーに憧れてて、そのプレイヤーがテトさんだと思っていたけど、イトナ君の方が強いってわかったから、テトさんはパレンテに入らないけど、ノノアちゃんは1番強いイトナ君がいるパレンテに入りたいってことですね。完全に理解しました。歓迎します! ね、イトナ君!」

「え? あ、うん。僕はいいけど……」


 ちらりとセイナを見る。

 セイナは完全に会話の輪から外れて黙々と薬を調合していた。でも話は聞いているようだし、文句を言ってこないって事は問題ないって事だろう。だけど……。


「え、テト入るんじゃないの? だってあんなにお願いしてたじゃない」

「お願いされてもお断りです」

「嘘!? だってあの勇者テトだよ? あんな有名プレイヤーの加入を断るなんて、そんなこと普通ありえないわよ!」

「ありえます! あんな人と同じギルドなんて絶対嫌です!」


 ふんっとラテリアがそっぽを向く。

 余程スカイアイランドでの事を根に持っているようだ。


「じゃ、じゃあやっぱり入らない。やっぱりテトのいるギルドがいいから」

「えぇ!?」


 仕方ない事だ。最初からテトのいるギルドがいいって言っていたのだから。

 ノノアがパレンテに入るならテトとセット。

 それを知ったラテリアは心底残念がった。

 ノノアにはパレンテに入ってもらいたい。でも、テトは絶対に嫌だ。お互いに譲れない部分が重なってしまっては、どうしようもない。



 その後、二人はなんか変な空気になっちゃったねと言って、気分転換にリベラの聖水泉の様子を見に出て行った。


 セイナと二人きりになって、一息つく。

 セイナとは特に会話はない。だけど、穏やかな時間が流れていた。

 こんな時間を過ごせるのも、もうすぐ無くなる。

 チュートリアルが終われば色々なことに追われる日々が絶えないだろう。

 だから今くらいはと思うも、チュートリアルまでにやらなくてはならない事がぎっしりある事を思い出す。

 それでも命の駆け引きをするのと比べれば気楽なものだ。

 セイナの作業をなんてなく眺めながらそんな事を思う。


 薬ももうすぐ完成しそうだ。明日にでも八雲と会う約束を入れよう。そう考えていると、頭の中で念話の通知がなった。

 ラテリアからだ。なんだろう。


『もしもし?』

『た、大変です! リベラの街の植物がどんどん枯れてて』


 ああ……思い当たる節がありすぎる。


『すぐに行くよ』


 ラテリアとの念話を程々に立ち上がる。


「ちょっと出てくる」

「ん」


 セイナからいつもの返事を貰って、リベラに向かった。

 チュートリアルでも休む暇はない。

 まぁ……今回の件は十中八九、自分で蒔いた眼球たねなのだが。

誤字報告してくれている方本当にありがとうございます! 助かります。

推敲……それ以前の読み直しをもうちょい頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ