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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
グランド・フェスティバル予選
111/119

8


できることから一つずつ。

イトナは早速スカイアイランドの地に足を踏み入れていた。


幻想都市リベラのワープゲートを囲うように広がる水辺。その水源が聖水泉の洞窟というダンジョンの最奥にある。

リベラの隣にあるダンジョンで、プレイヤーに襲いかかるモンスターがポップしないため、観光用ダンジョンとして有名な場所だったりする。


スカイアイランドへ続く道を作るためにはこの水源に、白灰の魔女の眼球を投げ入れる事……と情報が出回っている。

この情報は、浮遊島伝説というNPCに話を聞いて回るだけのクエスト、つまりお使いクエストによって得られるもので、誰もが知っているフィーニスアイランド上のお伽話とされている。


なんとなくだが、童話のジャッ○と豆の木に似た話だ。

ラテリアから聞いた話だと、スカイアイランドのモンスターはかなり大きいらしい。

童話でも、雲の上にいるのは巨人だし、一致するところが多い。


そこまで考えられれば、聖水泉に白灰の魔女の眼球を投げ入れるとどうなるかおおよその予想はつく。

巨大な木とか、蔓が伸びてスカイアイランドへの橋が生まれる、そんなところだろう。


聖水泉はリベラ近辺では有数の観光スポットであり、昼間には多くの観光者が訪れる。

そんな中で眼球を投げ入れ、変な植物がにょきにょき伸ばすのはよくないだろう。

と言うわけで早朝、誰もいないところを見計らって、聖水泉に眼球を投げ入れた。


すると何ということでしょう。

モノクロ樹海と同じ、白と黒の色をした大樹が勢いよくぐんぐんと成長していき……、そして、洞窟の天井をぶち破って瞬く間に天へ伸びていった。


「マジか……」


少なからずイトナの予想はあっていた。あってはいたのだが……。


まさか泉が枯れ果ててしまうなんて誰が予想できただろうか。

たった今、イトナの軽率な行動で観光地が一つ消えたわけだ。

どうしよう……。


……いや、新しいダンジョンに行くための正攻法だ。いつかは誰かがやること。だから仕方がないこと……としておきたい。


しかし、リベラを満たしていた水源を枯らしてしまったったのはまずいかもしれない。

リベラと言えばサダルメリク。

別にリベラはサダルメリクの所有物ってわけでは無いけど、いい顔はされないかもしれない。

今回のこの事もニアには言って無いし、勝手にやった事だ。今日中にはニアに謝った方がいいだろうか。


今思ったのだけれど、モノクロ樹海の周りが砂漠なのは、この白黒大樹が一帯の水分を取ってしまったからなのかもしれないな。

まてよ、これでリベラの周辺一帯が砂漠になったり……しないよね?



そんな不安を持ちつつも、やってしまったものは仕方がない。

気を取り直して大樹を登り、到着したスカイアイランド。

見下ろせば、ホワイトアイランドの輪郭がわかるくらいまで見渡せる。それほどこのスカイアイランドが高い位置にあるってことだ。



さて、切り替えていこう。今回やる事は心操のように未知なものではなく、はっきりしたも。

ハイド アンド サーチ アンド デストロイ。

隠れて、探して、殺せばいい。

うん。実にシンプルだ。

ループによって培った力でなんとかなるものは楽でいい。

あ、コカトリスは倒さないからデストロイじゃ無いか。黄金の卵の殻の収集。収集……収集って英語でなんて言うんだろう。今度コールに聞いてみよう。


ドシン……ドシン……。


と、警戒しなくてもわかる地響きが近くで鳴った。

音を立て無いように、忍び足で近くの大きな草むらへ身を隠し、同時に気配殺しのパッシブスキルをオンにする。ついでに、セイナから貰った無臭効果のある薬品をスプレーにして体にかけておく。


この類の隠密行動は得意だ。高い敏捷のステータスも活きる。


草むらから顔を出して通り過ぎていくモンスターを観察する。

カマキリのような姿をした巨大なモンスター。

名前はデスサイズ。

見上げるような茶色の巨体に、血のような赤い刃の鎌が二つ付いている。

レベルは当たり前のように170越え。


本当なら本番に向けての後学のために一通りのモンスターと手合わせしたいところだけど、今回の第一目的は黄金の卵の殻の入手。

リスクのあることはできるだけ避けていこう。やっても生息するモンスターの種類を把握するくらい。それだけでも十分だ。


ラテリアの言っていた通り、新種のモンスターでは無く、地上にもいるモンスターが巨大化したものが生息しているみたいだ。

経験上、体の大きいモンスターはとにかくHPが多い。

本腰を入れて攻略に挑むにしても、雑魚モンスター一体に時間を多く取られることが予想できる。

一体一体丁寧に。他のモンスターを釣り過ぎないように場所を選んで狩る必要がありそうだ。


それからスカイアイランドをぐるっと回ってみた。

一応、見つけた珍しい植物を採取しながら。

もしかしたらこれでセイナが何かいいものを作ってくれるかもしれない。


全てでは無いだろうけど、大体のモンスターを目視できたと思う。コカトリスも発見済み。

どうやらここのモンスターの多くは虫の外見をしている。

大抵の虫系モンスターは炎属性の攻撃を弱点にしているから、これも攻略ポイントだろう。


あと、植物系のモンスターもいた。植物系はいわばトラップのような役割をしていた。

スカイアイランドにあるものは全てが大きい。

木も、草も、モンスターも。

だから隠れてやり過ごしながら移動するのはさほど難しくは無い。そこら辺の草むらにはいれば、すっぽり体全てが隠れるから。

でも、それに油断していると擬態している植物系モンスターが襲いかかってくる。

これがスカイアイランドの恐ろしいところだ。


しかし、黎明はこれをよく初見で切り抜けたな。あと、ラテリア。

運が良かったにしても、レベルが倍近くあるモンスターの巣窟で生き残れたのは大したものだ。




スカイアイランド周りの調査は程々にして、目的であるコカトリスに手をかけるとする。


発見した場所に戻ってみると、コカトリスは寝ていた。

周りの木々を倒して横になっている。

ボスモンスターが寝ているなんて珍しい。


これは運がいいと、草むらから出ると、目があった。

尻尾の蛇と。バッチリと。


蛇はくねりと鎌首をもたげると、威嚇するようにシャァァァァァァ! と細い咆哮を上げた。

それを目覚ましにコカトリスの巨体がむくりと起き上がった。


「なるほど、シフト制だったか」


自分でも訳のわからないことを言って戦闘体制に入る。

なに、不意打ちは失敗したけど、最初から正面から挑もうと考えていたんだ。焦る必要はない。


ゆっくりと目を閉じ、スキルを発動させて開く。

未来視悪魔ラプラスノ魔眼》。

今回はレベル差もある。そこそこ本気でいくとしよう。


「風の大精霊よ。我を包む大気の極大の加護を。《エア・マキシマイズレジスト》」


初手は事前に聞いといた注意ポイントを忠実に習う。

コカトリス戦では強い突風と強力な毒攻撃に要注意……だったよね。


「毒神サマエルの恩恵を今ここに。《ポイズン・マキシマイズレジスト》」


風と毒の影響をほぼ無効化する補助魔法を自身にかけて、コカトリスを見上げる。

そして頭の上で蠢くものを確認した。


「あれか」


未来視悪魔ラプラスノ魔眼》を使用した以上、短期決戦にしたい。

それにスケジュール上、また一日中寝るだけの日を作る余裕はない。


カエルは完全魔法無効で、卵が完全物理無効の効果……だったよね。

問題ない。

知っていればなんてことはない。

手順は何通りでも浮かんでいる。


コカトリスが大きく足を持ち上げるのが見えた。

その動作に余裕を持って反応して地面を蹴る。


クエイクが発生し、浮遊する大地が大きく揺れる。

それもつかの間。コカトリスはイトナが飛ぶのを待っていたか、片足を軸に大きく周り、尻尾を鞭のようにスイングさせた。


巨体に似合わない俊敏な動き。

避けるのは容易い。

でも、その数ある回避の中で、特で最も贅沢な方法を選択することにする。


攻撃が直撃する瞬間、ボンッと間の抜けた音が鳴る。

空蝉人形うつせみにんぎょう

前回ミスティアが使用していた緊急回避スキルだ。

このスキルの強いところは相手の攻撃に手応えを感じさせながら、後ろに回りこめるところだ。


視界が変わり、目の前には目標である卵に群がるカエル。

それらがイトナの存在に気付き、剥き出している眼がギョロリとイトナを捉える。

その瞬間、カエルの体を撃ち抜く。

なにもさせない。

早撃ちは得意なんだ。適当なスキルで一掃する。

情報通り、物理防御の方は皆無。HPも大したことない。


カエルが消え、黄金の卵が露わになる。陽を反射する光に目をしかめながら、武器を銃からステッキに持ち変える。

ラテリアの装備素材にと買っておいた、マジカルステラ。それをまっすぐ金色の卵に向ける。


「聖矢を我が手に。《セレスティアル・フューゼレイド》」


貫く事に特化した聖属性魔法。

ユピテルが……イトナからすれば今は亡きルミナが最初の頃愛用していたスキルであり、《レイニア》の高位版スキル。


伸びる光がズンッと卵を貫通する。

イトナはそれをコカトリスもろとも両断するように、縦へなぎ払った。

耐久力を失って四散した黄金の卵の殻を一つキャッチすると同時に、コカトリスが慌てるようにして振り返った。


任務完了。

事前情報さえあればなんて事はない。

しかし……。


「硬ったいな」


セレスティアル・フューゼレイドはそれなりに高火力なスキルのはず。

にも関わらず、コカトリスの体には傷一つ付いていなく、HPも全然削れていない。


魔力のステータスが低いのを加味しても、これはパーティ全員が適正レベルまで上げたとしても苦戦しそうな硬さだ。

優れた耐久で時間を長引かせ、毒でじわじわ。

面倒臭そうだな。


取るものは取ったし、これで視察は終わり。

変えるためのアイテムを取り出そうとインベントリのウィンドウを開こうとして、ある事に気づいた。


「ん? ……なんだあれ」


それはコカトリスの頭。

黄金の卵を破壊した事により、中身がコカトリスにかかっているのだが、その様子がおかしかった。


卵から出てきたのは雛でも、黄身でも白身でもない。ドス黒い粘り気のある毒々しいものが、だらりと垂れ、コカトリスがそれを被っている。

そして、コカトリスHPが徐々に減少している事に気づいた。


なんだなんだ?


よく見ればコカトリスが毒の異常状態になっていた。

血走った目で、もがくようにして暴れまわる。


これはラテリアから聞いてないぞ。

てか、毒系のモンスターのくせに、自分の毒で異常状態になるっておかしくないか?


帰るのをやめて、もう少しコカトリスの様子を見る事にする。


コカトリスは苦しそうに暴れまわりながら、やけくそのように攻撃をしてきた。

猛毒と言われている羽根を飛ばしてくるのを避けながら、手を出さないで観察を続ける。


みるみる減っていくコカトリスのHP。

もしかしてこのまま死んでしまうのでは? と思い始めた頃、コカトリスのHPゲージの挙動が変わった。


「そうきたか……」


ちょうど半分だろう。そこまでHPが減ると、今度は逆に回復し始めた。

その変わり目、HPバーの上に盾に下矢印のマークがつく。防御力が下がったってことだろう。


なかなか難しそうな特性のようだ。

視察としては十分だろう。


今度こそ今日はここまで。アイテムを使用してギルドホールに帰還した。

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