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ラテリアちゃんはチュートリアルちゅう?  作者: 篠原 篠
グランド・フェスティバル予選
107/119

4


 予定を決めたその次の日。イトナは早速行動に起こした。

 向かった先は和ノ国 ヤマト。ナナオ騎士団のギルドホール。

 ミスティアと長く関わっていたであろう、アクマとの接触のため。もしくは一番の被害者である玉藻との接触。


 イトナがここに来るのはこれが二度目。

 一度目はあまりいい記憶ではない。たぶん今回もそれほど良いものにはなりそうにない予感がする。


 前回は行きは一人、帰りは大勢だったけど、今回は二人。心強い仲間とでの乗り込みになる。


「なぁ、イトナは一回入ったことあるんだよな」

「NPK事件の時にね。テトは初めてなんだ?」

「ああ、よくわかんないけど、うちとナナオは仲悪いんだよ。なんでだろうな」


 隣を歩くテトが、心底不思議そうな顔で言う。


 そんなわけで、隣にはテトがいる。

 本当は一人で来ようと考えていたけど、テトが仲間になりたそうな目をしていたので連れてきた。

 これから行くのら戦闘可能エリアに設定されている、ホワイトアイランドいち物騒なギルドホールだ。

 心強い仲間が一人くらいはいた方が良いだろう。


 なんたって、今回は昼間だ。

 前回は深夜でギルドメンバーはいなかったが、今回は違う。

 訪問者に、しかも五芒星テトに突然襲いかかっては来ないと思うが、用心するにこしたことはない。


 ネーミバリューのお守りを横に置いて侵入は正面から堂々と。


 今日は争いに来たわけではない。

 と言うかこっちから争いをふっかけたことはない。イトナは平和主義者なのだ。

 そんなわけで、まるでナナオのギルドメンバーのような自然体で中に入る。


「んで? ナナオになんの用なんだ?」

「あれ、話してなかったけ?」


 テトが突然そんな事を聞いて来た。

 ふむ。思えば確かにテトに話した記憶はない。

 いや、でもここまで来る前に普通聞かないかな。なんでなにをしに行くかも知らずについて来たそうな顔をしたんだろう。

 まぁ、話なかった自分も悪いけどさ。


「ちょっとアクマに話があってね」

「あれ、イトナあいつと仲良いのか?」

「いや、良くはないよ。……むしろ悪い、のかな」


 仲が良ければフレンドリストに追加して、念話で済ませられている。フレンドリストにないプレイヤーとコンタクトをとるのは一苦労だ。

 今回だって、とりあえずギルドホールに来たけど、ここにいる可能性は極めて低い。上級プレイヤーほどダンジョンに籠るものだ。

 でも、アクマが行きそうなダンジョンを当てずっぽうに回っても、会うのは難しい。だからギルドホールでアクマとフレンドになっているプレイヤーを見つけ、今どこにいるか聞き出すのが目的になる。


「ほーん。んじゃなんの話すんだ? 出る前は急用って言ってたよな」

「え? ああ、えっと……」


 内容はミスティアとの関係性。

 心操スキルをどこまで知ったか。

 使えるのか。

 ミスティアはホワイトアイランドで何をして来たのか。

 ミスティアに関係することは洗いざらい聞き出す。それが今日の目的だ。


 が、そんな事をテトに言えるわけない。

 じゃあなんで連れて来たんだ……。馬鹿か。


 しかし今更だ。何かうまい言い訳を考えるしかない。


「サダメリとの戦争の事で、ちょっとね。今後は仲良くしようみたいな、そんな挨拶をしにね? ずっと喧嘩しててもお互いに疲れちゃうからさ」

「ん? それなら玉藻じゃないのか?」

「あー、うん。玉藻にも用があるんだ。ほら、ニアとか当事者がここに来ると問題が起こるかもじゃない? ナナオのメンバーって血の気が多いイメージがあるし。だから仲介人みたいな感じで僕が行く事になったんだよ」

「なるほどなー。色々考えてるんだな」

「まぁ、ね」


 なかなか良い感じになったのではないだろうか。

 これで話をする時にはナナオとサダメリの話になるから、黎明の人はちょっと……とか言って、退場してもらえばいい。


 ……なんかここまで付き合って貰ってるのに、嘘ついて追い出すのは申し訳ないな。テトじゃなければすぐに嫌われそうだ。

 テトはいい友人だ。チュートリアルが終わったら嘘は一切無しと誓おう。

 だから今は許してほしい。


 

 朱塗りの丸い柱が規則正しく並ぶナナオのギルドホール。

 畳の匂いが充満し、和を感じさせる。


 和。

 それはわびさび。

 それは質素で静かな、趣のあるもの。イトナはそう理解している。


 が、ここにはそんなものは存在せず、殺伐とした空気が広がっていた。

 入って聞こえて来たのは武器と武器がぶつかり合う音。

 怒声に悲鳴。

 礼儀などはそこには無い。

 殺意がこもった戦闘がそこらで行われていた。


 戦闘。

 試合ではない。殺し合いだ。

 決闘システムを使用したデスマッチ。円蓋を描くように〝KEEP OUT〟と書かれた黄色と黒のラインが張り巡らされたフィールドがいくつも展開されている。


 これがナナオのギルドホールか。

 厳しく、弱肉強食とはいえ、デスマッチは逆に才能の芽を潰してしまうのではないだろうか。負けたらそれで1日ロスだ。やり過ぎだろう。


「おーやってるな! ここに来れば試合観戦し放題じゃねぇか」


 テトは興味津々で辺りを見渡し、今の動きいいなとか言ってる。


 しかし困ったな。

 これだと、アクマの居場所を訪ねづらい。

 とりあえず奥まで見て回ってみようか。


 そんな事を考えていると、テトが勝手に駆け足でどこかへ行ってしまった。

 見れば、戦闘が終わったプレイヤーの元へ向かっていた。

 なんか髪が逆立っていて、強面のプレイヤーに話しかけてる。


 すごいな。リアルでもヤクザとかに平気で道を尋ねてそうだ。テトはコミュ力が高くて羨ましい。場合によっては心配だけど。


 一言二言やり取りすると、テトが戻って来る。


「知らねー死ねって言われた」

「そうなんだ……。ありがとう」


 テトはケロっとした顔で言った。そのメンタルはどこで買えるんだろう。自分もセイナでだいぶ鍛えられてるつもりだけど、テトには遠く及ばない。


 気を取り直して先を進もう。

 ふすまで区切られた部屋を直進して行く。


「テトは突然死ねとか言われてもなんとも思わないの?」

「あ? ああ、さっきのか。その後、げ、勇者テトがなんでここにってビビってたぞ。イトナと比べれば俺もまだまだだけど、イトナ抜きならそこそこだからな。この世界なら心によゆー? があるんだよ。たぶん。リアルだったらぜってーできないよな」


 テトがケラケラ笑って言う。

 そうか、リアルならできないのか。それなら良かった。

 でも、それはイトナには理解できない感覚だ。

 イトナは長い間、ルミナスパーティの魔法剣士を除いて誰よりも強いが、やっぱり怖い人とはできるだけ関わりたく無いものだ。


「それにしても、レベル高いね。ギルド総力戦ならナナオが一番かな?」


 辺りを見れば、対人戦のレベルはかなりのものだ。

 目の前の相手に夢中で、こっちに気づいていない。

 あと、なんか襖を進むにつれてレベルが上がっているような気がする。

 もしかして、勝率とかでランク分けされているとか? もしそうならなかなか楽しそうだ。デスマッチは嫌だけど。


「んや。うちも負けてないぞ。特に今は勇者パーティの席を賭けて皆んなやる気満々だからな」

「勇者パーティってあれで固定じゃないんだ」

「もちろん。こんな感じでほぼ総当たりで模擬戦して、上位者と現勇者パーティメンバーで入れ替え戦すんだ」

「へー。でもそれだとパーティのバランスとか大丈夫なの?」

「そこら辺はアイシャが良い感じにやってくれるから大丈夫」


 なるほどね。ギルドにも色々あるわけだ。

 代表パーティは6人と限りがある。その代表6人をギルド全体で納得させるためには単純に競わせて、強者をはっきりさせるのが良いのかな。

 サダメリもサダメリで上手くやっているのだろう。

 これだけ長い間フィーニスをやっているイトナだけど、ずっとパーティだったせいで、ギルドの事には疎い。勉強になる。


 そんな話ができるくらいなにごとも無く、ナナオホールの最奥の部屋に辿り着く。前に玉藻と一戦交えた部屋だ。


「ん?」


 そこで奥に幾人かのプレイヤーがいるのに気づいた。

 この部屋だけは戦闘が行われてなく、ただ5人のプレイヤーがそこにいる。


 目を凝らしてみれば、すぐにその5人が誰なのか分かった。

 ナナオの代表パーティだ。

 その中に、目当てのアクマだけが見当たらない。


 5人はなにをしているわけでも無く、ただ、そこにいるだけ。

 なにかを待ち受けるラスボスのように、入り口であるこっちを見ている。

 まるで……。


「なんだ。やっぱ、会う約束してたのか」

「いや、してないけど」


 見方によればまるでイトナ達を待っていたかのように見えるけど、多分違う。

 玉藻もこっちを見て驚いたような顔をしたからだ。

 つまり、偶然だ。


「……誰が一抜けしてくるかと思えば……」


 玉藻が髪を搔き上げながら、険しい目を向けてくる。

 イトナにテト。まぁ、サダメリとの戦争に水を差した2人だ。いい顔をされないことは分かっていた。


 一触即発……とまでは言わないけど、それなりに警戒されている。

 程よい距離まで進んむ。

 すると、玉藻を除く他のメンバーが一斉に武器を抜いた。


 あら、一歩程よい距離を間違えたかもしれない。

 それと同時に、テトが流れるように武器を抜く。


「武器はまだしまって」

「でも、あいつら強いぞ」

「今日は話をしに来たんだって。それに、やり合うのは向こうが動いたらで間に合うよ」


 テトに武器をしまわせて、敵意が無いことをアピールする。

 とは言え、油断は禁物だ。

 相手はナナオの代表パーティ。

 人質がいない今回は負けはしないけど、変に関係を拗らせても面白くない。

 攻撃を仕掛けられても慎重に対処していこう。


「……それで、何の用かしら? この忙しい時に」

「ちょっとアクマに用事あってね。ここにはいないみたいだけど、どこにいるか教えともらえると嬉しいかな」

「……それを教えて、私になにかメリットがあって?」


 それを聞いたテトが、また剣を抜く。

 おいおい、ちょっと待って。

 さっき待てしたばかりなのに、なんでそうすぐに剣を出しちゃうのかな……。

 テトってそんなにすぐ手が出ちゃう子だったけ?


 でも、玉藻はそれに少しビビっていた。

 あれだ。アクマの居場所を吐かないなら、どうなるか分かってるんだろうな? みたいな脅し的なアレだ。

 5対2。いや、後方のメンバーを入れればもっとか。数ならナナオの方が圧倒的に有利。

 それでもビビるのは戦争の時、イトナたった1人にあの場を制されたことがトラウマにでもなっているからなのだろうか。


「……まぁ、いいわ。アクマなら一昨日くらいからログインしてない。言っておくけど嘘じゃないわ。これでいい?」


 一昨日。つまりミスティアと交えたあの日からログインしていないってことか。

 なんでだろう。ログインしない事になにか意味があるのだろうか。


「なにか変な事とか言ってなかった?」

「別に? むしろこちらが聞きたいわ、アクマと何かあったの?」

「いや、特には」


 どうやらそう思い通りにはなってはくれないらしい。

 ログイン自体してないのであれば、どうしようもない。

 アクマとの接触は今日のところは諦めよう。


 玉藻を見る。

 見た所、普段イトナの知っている玉藻となんら変わりないように感じる。

 イトナはアクマとの接触以外にももう1つ目的を持ってここに来ている。

 それはミスティアの件で一番の被害者にあっている玉藻との接触だ。


 もし、

 もしも、ミスティアの心操にかかる前に戻すことができるのであれば、なんとかしてあげたい。

 前のフィーニスアイランドから連れて来てしまった責任として、何かできることがあるのであれば、できる限りのことはするべきだと考えている。


 それに、心操に考えて前に戻す方法が確立できれば、チュートリアル後、ミスティアとの接触時に幾分か安心ができる。


「……? それで、用が済んだのなら帰って欲しいのだけど、まだなにか?」

「いや、実は玉藻にも用があるんだ」

「私に?」

「この前の戦争で邪魔しちゃったからね。そのお詫びというか、和解というかね」

「その話は済んだことよ。むしろ感謝してるわ。まぐれ勝ちされるところをない事にしてもらったんですから」


 まぐれ勝ちね。

 まぁ、そう思うのは人の勝手だし、茶々を入れて不機嫌になってもらっても困るからなにも言わないけど。


「そう思ってくれてるなら僕も嬉しいよ。戦争のこともそうだけど、NPK事件とかであまりナナオとはいい関係になれてないからさ。せっかく同じゲームをしているんだし、仲良くできたらと思っているんだ。それで、色々と話ができればと思うんだけど、これからどうかな」


 事前に用意しておいたセリフを言う。

 玉藻はそれに訝しげな顔をした。


「今まで散々こっちから会いに行って拒否して来たのに、どう言う風の吹きまわしかしら」


 やっぱり怪しいよね。今まで何度も八雲がパレンテホールに来ていたのを蔑ろにして来たんだから。

 これは普段の行いが悪かったか。


「……ま。いいわ。なにを企んでいるか知らないけど、付き合ってあげる」

「え?」

「色々と思うところもあるけど、わざわざここまで来てくれたんですもの。話くらい付き合うわ」

「……助かるよ」


 どう言う風の吹き回しだろう。ミスティアの心操が切れた事による影響か。はたまた何か企みでもあるのか。

 なんだかお互いの腹の探り合いみたいな形にはなってしまったが、結果オーライとしておこう。


「おいおい待てよ玉藻の姉さんよ」


 上手く話が進んで行く途中、ナナオのメンバーの一人が不満そうに話しに割り込んできた。

 それはとても篭った声だった。



 声の主は墨を被ったような真っ黒なフルプレートアーマーで身を包んだその男。

 その男はイトナでも知る実力者だ。

 武器は大振りのロングソード。

 力強くも繊細に扱う剣筋はどこかテトに近いものがあり、フルプレートアーマーでガチガチに固めた装備は見た目通りの強固さを持っている。

 攻守バランスがいい強者。

 実力は小梅と同等くらい、対人戦だけで言えば、経験をふくめて小梅以上。それがイトナから見た彼への評価だ。


「いつから他のギルドと仲良しこよしするギルドになったんだ? 前まではもっと違うおもてなししてたろ? 」

「相手が悪いわ。やめときなさい」

「おいおい! 笑わせるなよ。まさか勇者にビビってんのか? 天下のナナオ騎士団のマスターさんがよぉ」

「なにが言いたいのかしら」

「らしくねぇって言ってんだよ。いつもなら気にいらねぇ奴が目に入ったらぶっ殺してんだろ。俺は、いや、俺らはこの勇者に借りがあんだよ。あるよなぁ!?」


 それに、「もちろんですとも。ですが、あまり野蛮な物言いは好きではありませんがね」「……殺せればなんでもいい」と賛同の声を集める。

 まずい。なんだか物騒な空気になってきた。


「滅多にないチャンスだ。勇者一人でノコノコやってきたんだ。ぶっ殺して装備剥ぎ取るくらいのおもてなしをしないとなぁ」


 どうやら自分は人数に入っていないらしい。

 サダルメリクの時に会ったけど、あの時はローブですっぽり顔を隠していたし、しょうがないか。

 ナナオのレベルになると無名プレイヤーは戦力に数えるに値しない。そういうことなのだろう。

 玉藻と八雲を除く三人のメンバーがイトナとテトを囲む。


「なんだぁ? 八雲、お前もやらないのかよ」

「私は遠慮しておきます」

「はっ! 姉妹揃って腰抜けかよ。いいぜ。指咥えて見とけ」


 もう三人は武器を構えてやる気満々だ。

 玉藻を見ると、小さくため息を吐いて下がった。止めてくれるって事はないらしい。


「忠告はしたわよ。八雲、抜けてきたメンバーには入れ替え戦は後日やると伝えておきなさい」

「はい」

「私は奥の部屋で待っています。終わったら来てちょうだい。歓迎するわ」


 玉藻はそのまま奥の部屋に消えてしまう。

 ギルドマスターといえど、メンバー全てをコントロールできるわけではないのだろう。玉藻はあっさりと諦めて好きにすれば? といった感じだ。


「そろそろ剣出してもいいよな?」

「そうだね。ごめん、こうはならないようにするつもりだったけど」

「いいって事よ。こうなった時のための俺だろ?」


 かっこいい。すごく頼もしい。

 テトの大きな背中がイトナの背中と重なる。

 重なった背中に強い熱を感じた。


「くぅーッ。いいね! 俺はずっとお前とこういう関係になりたいって思ってたんだよ!」

「なんか、嬉しそうだね」

「あったりまえだろ! 俺はスペイドさんにずっと憧れできたけど。イトナ、お前にも憧れてるんだぜ? いつかこうやって、背中を預けてもらえるようになりたいってな。ま、イトナならこんな奴ら一人で十分かもだけどよ、ちょっとくらいは力にならせてくれよ」


 テトは本当に嬉しそうに剣を抜いた。

 それでも、緊張が背中から伝わってくる。


 テトは強い。

 純粋な1on1であれば誰よりも強い。この前レベルを聞いて確信できるまでに。


 でも、テトに続く猛者たちと比べて圧倒的かといえば違う。

 ほんの些細な事で、足をすくわれる事はある。

 テト本人もそれをちゃんと理解しているのだろう。

 だからテトは強いし、負けないのだ。


「一人、任せるよ」

「任されたぜ」


 テトがグッと剣を握る。

 それと同時に三人が素早く動いた。


「「「最初はグー! ジャンケンショイ!!」」」


 んん?


「だっしゃーい!! 俺いっちばーん!」

「くっ……私とした事がっ!」

「……さっさと負けろ」


 なんだなんだ? さっきまでのピリピリした空気はどこへいったんだ?

 ジャンケンで勝った黒のフルプレートは両手をダブルピースで上げて喜び、負けた残りのプレイヤーは落胆しながら己の出したパーを睨みつけている。


「なんだ? 三人でかかってくるんじゃないのか?」


 拍子抜けな展開に、テトが剣を下ろす。


 フルプレートアーマーのプレイヤーがダンと踏み鳴らす。

 そして、重そうなロングソードを片手で軽々と持ち上げると、テトに向けた。


「は? 三人? 三人で一人をボコってなにが嬉しいんだよ。俺たちを舐めんなよ、一人づつだ。1on1でテメェに勝って吠え面かかせてやんよ。じゃねぇと意味がねぇ」

「んで、最初がお前ってわけか」

「最初? いや、ちと違うな」


 大振りのロングソードが上段に構えられる。


「最初で最後だ」


 その言葉と同時に、肉薄した。

 力強い一歩で距離を詰め、上段からの一撃。

 それに、テトは素晴らしい程の反射神経でほぼ同時に動いた。

 いや、むしろテトの方が微かに速かった。

 不意打ちとも言える攻撃に対して、なぜ相手より速かったのか。

 それは剣の速度が、圧倒的にテトの方が上回っていたからだ。

 構えから攻撃の動作に入るまでは、不意をついたフルプレートアーマーが先を取ったが、剣の振る速度でテトが逆転した。


 結果、二人の剣が交わったのはフルプレートアーマー寄りの位置。

 つまりは、テトの剣の方が速度が乗り、勢いで優勢を取った。

 普通のプレイヤーであればイーブンと思われる初撃だが、このレベルになれば変わってくる。

 お互いに拮抗した力のステータスだったとしても、その値が高ければ高いほど、微かな剣の交わり方で勝敗が決定する。


 先手を取ったフルプレートアーマーの剣は押し切ることはできず、むしろ、後手に回ったはずのテトの剣が押し切った形になった。


 テトの剣の威力を殺すために、一歩片足を下げで受け止める。

 それに対してテトは一歩前に出て攻めの姿勢を見せた。


「ぐぬっ」


 テトの二太刀目が振られる。

 きっと、現実世界の試合ならこれで決まっていたのだろう。

 でも、これはゲームであって、人並み外れたスキルがある。


 フルプレートアーマーは堪らず、スキルを剣に込める。

 それでなんとか体勢を持ち直した。


「いいね」


 イトナは口の中でそう言葉を転がした。


 レベルが高い。

 不利になってもしっかりとリカバリーできている。

 他の二人はその戦いに混ざろうとする気配はない。

 むしろイトナが手を出さないかと、チラチラとこっちに見ていた。

 手を出したら容赦しない。そんなオーラを出していた。


 となれば、ここにいる必要は無くなった。

 心配する事があるとすれば、テトが負けてしまわないかということ。

 見たところ公平な戦いたいだ。

 手を出すのは無粋だろう。


 デスマッチってところが引っかかるが、テトも嬉々として剣を振るっている。

 合意したと思っていいだろう。


 あとはテトに任せて問題ない。そう判断して、イトナは玉藻の待つ奥の部屋に向かった。


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