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私は真っ白なお城に住んでいるお姫様。
幼い頃、退屈な毎日を紛らわすために、そういうごっこ遊びをしていた時期があった。
何度も読んだ絵本に出てきた儚いお姫様。
儚いけど、頑張り屋のお姫様。
私はそのお姫様に憧れと、少しの親近感を感じて、照らし合わせていたのかもしれない。
お城ではないけど、私は大きな白い建物に住んでいる。
お姫様ではないけど、時間になれば白い服を着たお姉さんが食事を運んで来てくれる。
私はベットの上から勝手に動く事を許されていない。
でも、ワガママを言えば、白い服を着たお姉さんが付き添って少しだけ散歩に連れて行ってくれる。
ね。ちょっとだけお姫様みたいでしょう?
そう、毎日会いに着てくれる両親に言うと、少しだけ曇った顔をしてから「そうだね」と言って、私のお姫様ごっこに付き合ってくれた。
私は生まれつき心臓が弱い。
病気の名前は難しくて覚えていない。
覚えようともしなかった。
覚えてしまうと、余計毎日が怖くなってしまう気がしたから。
私には友達がいない。
友達はいないけど、1人の姉さんがいる。
とても優しい姉さんだ。
姉さんは毎日、学校が終わると私に会いに来てくれた。
姉さんはよく外の話をしてくれる。
外にあまり出れない私にとって、本を読む事よりも、姉さんの話を聞く事が大好きだった。
授業中、ノートを切って、手紙を出すのが流行っているとか。
今日は給食に大好物のお稲荷さんが出たとか。
その余ったお稲荷さんをかけたジャンケンで負けて残念だったとか。
掃除中に男子がバケツをひっくり返して大変だったとか。
私は毎日姉さんの何気ない話を聞くのが楽しみで、羨ましくも思っていた。
私は姉さんが大好きだ。
私は毎日、姉さんと会うために生きてるのではないかと、そう思ってしまうほどに大好きだ。
ある日、姉さんがゲームの話を持って来た。
珍しく、学校以外での話題だった。
その時の姉さんはいつもと様子が違って、少し興奮しているように見えた。
姉さんはインターネットのウィンドウを私に見せながら、興奮気味に指さして説明してくれる。
「ここ! ここを見て! 病気で寝たきりの人でも出来るって! 病気の治療にも適してるって!」
そこには、文字がびっしりと、少しの画像が置かれた記事のように見えた。
なにやら、その記事には凄いことが書いてあるらしい。
けど、私には難しくて首をひねってしまう。
「あのね、あなたでも外に出れるのよ! 外に出て、走ったりも出来るんだから! 看護婦さん無しで、1人で好きな時に!」
姉さんの語るそれは夢のような話だった。
ベットの上の存在でしかない私にとって、あまりにも夢のようで、姉さんの話は信じたくても、信じきれなかった。
先生はダメと言うに決まっている。
いつもそうだ。
姉さんはたまにこう言った話をたまに持ってくる。
気晴らしにピクニックとか、私が動物好きだから動物園に連れて行くとか。楽しいことをすれば病気だってよくなる。そういう事例があったんだと。親にも相談せずに、インターネットのどこからか拾って記事を持って病院の先生にお願いに行くのだ。
その度に断られ、姉さんは自分のことのように落ち込んだ。
だから先生のことはちょっとだけ嫌い。
そして、申し訳なく思うけど、姉の言うことにあまり期待をしていなかった。
でも、その予想を裏切った。
すぐにそのゲームをプレイする許可が出たのだ。
姉さんが必死に先生へお願いして、どう言うわけか許可が出たのだ。
姉さんの必死さが伝わって……、なんてわけでは無いと思うけど、その時は姉さんのおかげで新しい事ができると、
たくさん姉さんにありがとうを伝えた。
そして、私は初めてゲームの世界に入る事になった。
フィーニスアイランドという、大人気のゲーム世界に。
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初めてのゲーム世界は何もかもがうるさかった。
悪い意味ではない。
見慣れたベットの上から見える景色と違って、様々な色が輝いて見えたからだ。
全方向から聞こえる様々な音や声も、病院内では決してない、初めての体験だった。
初めてフィーニスアイランドの世界に入った日。
私は初めて転んだ。
初めて走って、足がもつれて盛大に転んだのだ。
痛くはない。
怪我もない。
でも、確かな地面との衝突にびっくりしてベソをかいた。
泣いてしまったけど、それで姉さんを困らせてしまったけど、
でも、楽しかった。
私の初めてのフィーニスアイランドでのビックニュースは初めて走って、そして転んだこと。
普通の人ならなんでもないことかもしれないけど、私には特別な1日になった。
それからは毎日のように姉さんとゲームの世界に潜った。
可愛いモンスターを探してみたり、あっちの洞窟には可愛くないモンスターがいっぱいだから近づかないでおこうとか。
そんな話をしながら色々な場所を旅した。
現実世界では行けなかったピクニックや、山登り。川遊びにだって行った。
本来のこのゲームの遊び方とはちょっと違うかもしれないけど、私はそれが一番楽しかった。
お父さんとお母さんがいないのは少し寂しいけど、隣には必ず姉さんがいてくれる。
フィーニスアイランドの世界に入るようになってから、病気の事を忘れてしまえるくらいに、楽しい毎日だった。
そして、その楽しい毎日に異変が起こった。
いつからだろうか。
記憶を何度も遡り、最初の異変を思い起こす。
そう。あの日。
海のどこからか流れ着いたであろう、ボロボロな人形を拾ってから、私の。
八雲と玉藻の毎日がおかしくなったのだ。




