第209話:受領
1年以上更新できず、申し訳ありませんでした。今も読んでくださる皆様に感謝を。
本日は第207話から3話連投しています。これは3話目です。
ダンジョン探索はキマイラの討伐で終了とした。無理のない範囲で行けるところまで、としてはいたものの、参加者の半分以上の気分が下がってしまっては仕方ない。
狩りとしては最初から期待してたわけじゃないのに、竜の部位を持つキマイラなんてものが出てきたばかりに……おのれキマイラっ。
竜の肉は、本物に出会うまでお預けだろうな。あるいは、ダンジョン内にドラゴンが出てくるなんてことになれば話は変わってくるんだろうけど。いずれにせよ、ダンジョンそのものへの興味は、相変わらず湧いてこない。
外で遭遇するのが難しい種がダンジョンで簡単に出てくる、っていうならまだやりがいも出てきそうだけど……それはそういう情報が出てきてからの話だ。
そんなわけで、俺だけダンジョンアタックから離脱した。
まあ、もう少し付き合ってもよかったんだけども。ダンジョン攻略中に色々と連絡が入ってきたので、そっちを優先することにしたのだ。
ログイン200回目。
転移門を使ってツヴァンドへ。そのまま『コスプレ屋』へ向かった。
「いらっしゃいませー。あ、フィスト君、待ってましたよー」
店に入るといつものスティッチが出迎えてくれた。今日はメイド服を着ている。コスプレじゃなく、本格的っぽいやつ。あ、そういやカミーユに支給する制服とかどうしようか。従業員が揃ったら、一式ここで揃えるのもいいな。作業用のツナギとかも作ってもらえるだろうか。
まあそれは後回し。本題は別にある。
「こちらへどーぞー」
スティッチの案内で店の作業場へ入る。そこには店主のシザーと、白衣を着た【魔導研】の所長、ニトロがいた。そして、
「レイアス?」
もう1人、アインファストにいるはずのレイアスがいた。
「どうしてここに?」
「素材の件でこっちに来ていた。フィストがここに寄ると聞いたので、ついでに引き渡そうと思ってな」
今日、『コスプレ屋』に来たのは、注文していた物を受け取るためだ。レイアスもということは、いいタイミングだったと言えるだろう。すれ違っていたら、またアインファストに行かなきゃならなかったところだ。
「さて、それではお披露目といこうか」
シザーが【空間収納】からマネキンを取り出した。
デザインは現行とほとんど変わらない硬革鎧、に見える。素材はワイバーンだ。でもこの革の下には魔銀製の鎧が隠れている。今の鎧より少しボリュームが増したか?
「注文どおり、魔銀の鎧の表面をワイバーンの硬革で覆った。鎧の厚さは減らしていないので、ワイバーンの革のぶん厚くなっている。擬装だと言っていたから薄くしようかと思いはしたが、そのままにしておいた。間違いなくこのほうが防御力は上だし、フィスト氏のステータスなら苦にならんだろう」
言いつつシザーが画像を出現させてこちらに見せてくれた。そこに写っているのは仕上げ前の、魔銀だけの鎧。
派手な色だなぁ。いや、要はガントレットと同じ緑色なわけだけど、これだってメタリックグリーンで結構目立つ緑だ。そういや擬装前提だったから、色の指定とかしてなかったかも? うん、革で覆って正解だった。
まあ、それは置いといて。まずは装備してみるか。
今着けている鎧を外し、新しい鎧を身に着けていく。うん、重さは気にならない。前よりボリュームが増してるのに軽いくらいだ。
感触を確かめるように身体を動かしてみる。うん、おかしなところは何もない。
「ところでフィスト氏は頭部防具は興味ないのかね?」
最後に鉢金を交換したところで、シザーが聞いてきた。頭部防具かぁ。
「今のところはこれでいい」
視界が狭まったり聴覚を阻害しそうな物は嫌だし。これからの季節、暑くなりそうだし。狩りをメインにしてる以上、優先度も高くない。対人戦や戦争を考えるなら必須だと思うけど、そんな機会もないだろうし……対人戦はともかく、戦争はないよな? あー……ない、といいなぁ?
「……気が変わった。急がないから1つ頼む。ヘッドギアタイプで、視界と耳を塞がないことが条件。こっちも魔銀とワイバーン革の複合で」
「分かった。希望のデザインがあればまた画像を送ってもらえると助かる」
ひとまず防具はこれでよし、と。
「では、次は私だな。まずはこれが対無機物用のナックルダスターだ」
続けてレイアスが【空間収納】から依頼の品を取り出してテーブルに置いた。
横幅は15センチちょっと、握り部はガントレットを装備した俺の手にちょうど合うくらいで、革が巻いてある。最初に某漫画のダイヤモンド付きカイザーナックルを参考資料で見せたけど、完成品はもうちょっとスマートになっている。暗器の鉄貫のほうが近いだろうか。打撃部分は拳が完全に隠れる広さだ。
一対で作ってもらい、片方だけ某豪腕の錬金術師のアレみたいに、打撃面にトゲをつけてもらった。
握って持ち上げるとズシリと重い。この大きさでこれか。大丈夫かなと思いつつ、その場で一度、拳を突き出してみた。殴ればいいダメージを叩き出してくれそうではある。重さに引っ張られる感じがあるから、少し練習したほうがいいかもしれない。
これで、次に魔銀ゴーレムと戦うようなことがあっても、思う存分殴り倒せるぞ。
「そして、こっちが対アンデッド用」
レイアスがもう一対のナックルダスターを取り出した。打撃部分を魔銀でコーティングしてもらっている。こっちにはトゲをつけないでもらった。あまり意味がなさそうだったので。
「これらの色はどうする? 変えるか?」
「いや、このままでいい」
金剛鉱も魔銀も素の色だ。これでいい、というかこのままがいい。これ以上派手な色はちょっと。
「分かった。それから、長らく待たせたが、確認を」
最後に出てきたのは剣鉈だった。今使ってる剣鉈と同じ四角い木鞘。抜くと現れたのは銀色の刀身。魔銀製になったことで軽くなった以外は何も変わらない。
これで薪割りとか芝刈りとか大型の獣の皮剥ぎが一層楽になるだろう。
シザー達もレイアスもいい仕事をしてくれた。当分は装備の更新も必要なさそうだ。
「3人ともありがとうな」
剣鉈を鞘に納めて感謝の意を言葉にすると、3人はホッとしたような表情を浮かべた。稀少金属を取り扱うのは今回の依頼が初めてで、色々と苦労したみたいだからなぁ。現状でできる限りのことをしてくれたのだから、文句なんてあるはずがない。大事に使わせてもらおう。
これで装備関係は終了。次は、ニトロからの納品だな。
「では、こちらを」
彼を見ると頷いて、長方形の箱のような物を【空間収納】から取り出した。
「タンス?」
それを見たスティッチが首を傾げる。幅や背の高さは現代の冷蔵庫のそれだけど、木製だからやはり家具っぽく見える。
「こんな物を作るのは初めてでな。初期の冷蔵庫を参考にした。冷蔵箱とか、氷式冷蔵庫とか呼ばれていた物だな」
「冷蔵庫!?」
スティッチの目が大きく見開かれた。おお、驚いてる驚いてる。
「上が冷凍庫、下が冷蔵庫だ。その間に水のタンクがある。これは冷蔵の補助用の氷室で、あくまでメインの冷却源は魔剣だ」
「「魔剣!?」」
今度はレイアスとシザーが悲鳴のような声をあげた。あー、氷精剣の鑑定後の情報って渡してなかったっけ。
「補助があるので、剣を外しても保冷力は少しの間保つだろう」
言いつつニトロが冷蔵庫の裏側から氷精剣を引き抜いた。そして、【空間収納】から鞘を取り出して納める。
「冷気を抑える鞘はこれだ。あと、冷蔵庫の取扱説明書はこちらに」
ご丁寧に説明書まで作ってくれたらしい。剣と一緒に受け取って軽く目を通す。ふむふむ、これは十分すぎる逸品では?
「ちょっ、フィスト氏! 魔剣! 魔剣を!」
「フィスト君! 冷蔵庫ってどういうこと!?」
お、シザーは魔剣、スティッチは冷蔵庫のほうに興味ありか。そしてレイアスは……おや、視線が行ったり来たりしてる。
「レイアスは魔剣のほうを優先するかと思ったぞ」
「魔剣が気になるのは確かだが、鍛冶の合間の水分補給を考えると、冷たい飲み物のほうに軍配が上がるな。それに、もう数ヶ月もすると夏だろう?」
「あー、この間のアップデートで四季が実装されてるからな。夏場の鍛冶とか拷問っぽい」
「冷たい飲み物だけなら、魔術の氷で何とでもなるのでは?」
「氷の準備から必要だからな。入れておくだけで冷やせて、好きな時に飲めるというのは大きいぞ」
魔術師らしいニトロの言葉に真顔で応えるレイアス。まあ、そうだよなぁ。冷たい飲み物とか、店売りもしてないし。そんな手間をかけてるのは、俺が知ってる中では【料理研】の『闇鍋』くらいだ。
「まあ、魔剣は、ほれ」
「ひゃっほう! うひょーっ!?」
受け取ったシザーがそれを掲げてはしゃぐ。そして【鑑定】したのか歓喜の声をあげた。いや、絶叫に近いな。ニトロに見せた時の反応と大違いだ。
「冷蔵庫は私も欲しいー! ニトロ君、これ、もうないの!?」
「魔剣動力のワンオフだから、これっきりだ。とは言え、今回の件でノウハウは得られた。動力さえどうにかなれば、同じ物は作れるが」
「「是非!」」
ずいっとスティッチとレイアスがニトロに迫る。あー、こりゃ追加作成決定か。
「いっそ、魔具として商品化したらどうだ? 【料理研】や料理人プレイヤーなら買うんじゃないか?」
「そこまで需要があるかね? 食材の保管なら【空間収納】があるだろうに」
「冷やせるってのは大きいと思うぞ。調理で冷やしたりもできるし。アイスとかだって作れるわけだろ?」
「ふむ……冷却の魔具を作って組み込むのが現実的か。現実の冷蔵庫をそのまま作る必要はないわけだし」
「冷蔵だけ、冷蔵と冷凍の2種類ってのも手だな。冷蔵のほうは安価でいける氷式をそのまま作ってもよさそうだし」
あれ、こうして考えてみると、割と商機なのでは? 冷蔵庫そのものもそうだけど、氷の需要が増えたら魔術師の雇用とか増えたりしないだろうか? 住人の魔術師がそれを良しとするかは別にして。
「あ、氷が作れるなら、かき氷とかー!」
「酒もロックで飲めるな」
スティッチとレイアスの目が怖くなってきた。いいぞ、もっとやれ。よくよく考えてみたら、屋敷用の冷蔵庫も欲しいし。これはあくまで外で使う用だから。
「まあ、ゴーレムの解析も一段落したし、研究開発の資金源としてそういう物を作ってみるのも悪くないかもしれんな」
引き気味のニトロの回答に、スティッチが両手を挙げ、レイアスはガッツポーズ。そして2人は魔剣へと向かった。ああ、こっちが片付いたから次はそっちね。
「しかし、本当に商売になるものかね?」
「高級志向で行くなら、外装をもう少し凝ったものにして、貴族とかに売り付けてもいいんじゃないか? 何人か心当たりがあるぞ」
エド様とか興味を持ちそうだ。あとカミラの所。肉の熟成とかするなら狩猟ギルドでも需要があるかもしれない。
冷蔵庫を開けると、中には瓶が入っていた。中身は……水か。うん、瓶はよく冷えている。【空間収納】に入ってる飲食物をいくらかこっちへ移すか。常温でいいやつはそのままでいいや。
ここでの用件はこれで全て終了だ。次はドラードへ向かうことになる。
さて、狩猟ギルドに出されてた、俺宛の指名依頼ってのは、どんなもんなのかね。




