第444話 消えた方法
消えて攻撃を与えられたことに、イリマさんは動揺しており、洗練されていた魔力操作が明らかに乱れている。
イリマさんもそのことに気づいているようで、一度距離を取って落ち着く時間を作ろうと、逃げの手を選んだ。
ただ、この好機をジューゾーさんが見逃すわけもなく、逃げたイリマさんに鋭い一撃を浴びせ、追い込まれたことでパニックになっているところを冷静に仕留めてみせた。
試合を見た感想としては、ジューゾーさんは安定した強さを持っているものの、“消えた”こと以外はイリマさんの方が実力は上に見えた。
だけど、実力を凌駕できてしまうほど、“消える”という行為が試合に及ぼす影響は大きい。
この狭い試合会場の中、それも第三者視点からでも見失っちゃったくらいだからね。
一体どうやったのか、問いただしたいところだ。
「イリマさん、ジューゾーさん。お疲れ様でした。凄い魔法でしたね」
「当たらなかったし、完封されたら意味がないよ! あーあー。僕の方が強いと思ってたのに、焦って変な感じになっちゃった!」
「私もあの魔法を掻い潜れるとは思っていなかったので、ジューゾーさんがどう回避したのか気になります」
「そ、それは……秘密とさせてほしい。まだ試合も残っておるからな」
「まぁそうですよね。試合が終わったら、ぜひ聞かせてください」
「う、うむ。気が向いたらな」
返答も曖昧であり、なんとなく答えてくれなさそうだ。
忍びのような格好をしているし、一家に伝わる秘伝の技みたいなものなのかもしれない。
そそくさと去っていくジューゾーさんの背中を見ながら、色々と思考していると……突然、耳元で声を掛けられた。
全く気配を感じなかったこともあり、私は大きな声を上げてしまった。
「うわっ! ……ってヴェレスじゃないですか。驚かさないでください」
「申し訳ございません。驚かせるつもりはなく、声を掛けても返事がなかったので、耳元でお声かけしてしまいました」
「そうだったんですか? なら、私が悪かったですね」
大会中ということもあって周りがうるさく、そのうえ考え事をしていると、私は極端に視野が狭くなってしまう。
そのせいで、ヴェレスの声掛けに気づかなかったんだと思う。
「いえいえ、佐藤様は何も悪くありません! 以後、お声かけするときは気を付けます」
「いや、本当に大丈夫ですので……じゃなく、ヴェレスも大会を見に来たんですね。不参加と聞いていたので、来ないのかと思っていました」
「はい。騒ぎになっても面倒なので、来る予定もなかったのですが……ちょっと怪しい人物を捕まえたので、佐藤様にご報告をしに来たのです」
「怪しい人物……ですか? その方はどこにいるんでしょうか?」
不審者みたいな感じの方だろうか。
試合に夢中で気づかなかったけど、そんな人が紛れていたんだ。
「農具をしまっている納屋に閉じ込めてあります。確認に来ますか?」
「もちろんです。場合によっては王都に連絡をして、兵士に捕まえてもらわないといけませんからね」
「分かりました。それでは案内いたします」
私はヴェレスさんについていき、捕まえた人物の下へ案内してもらうことにした。
この移動の間に、ジューゾーさんの動きについて尋ねてみよう。
「ヴェレスは今の試合を見ていましたか?」
「ええ。人間にしてはハイレベルな試合でしたね。特に魔法使いの方が素晴らしかったです」
やはりヴェレスさんから見ても、イリマさんの方が優れていると思ったんだ。
「ちなみにですが、対戦相手の方が消えたのはどういう原理か分かりますか? ヴェレスと同じく、ワープを使ったんでしょうか?」
「いえいえ。そんな高度な芸当はしておりませんでしたよ。ちょっとこれを見てください」
そう言いながら、ヴェレスはポケットから銀貨を1枚取り出した。
そして、あからさまに右手に隠し持った。
「佐藤様、銀貨はどちらの手にあるでしょうか?」
「右手ですよね?」
「残念。実は左手なんです」
空の右手を見せてから左手を開くと、先ほどの銀貨があった。
どうやったのかは分からないけど、正真正銘の手品だ。
「凄いですね。どうやったんですか?」
「簡単ですよ。右手にわざと握り込むのを見せている間に、左手にも銀貨を握るんです。それから、右手の銀貨を裾に落とせば、瞬間移動の完成です」
「……なるほど。ジューゾーさんは今の要領を戦闘に使ったんですね」
「そういうことです。魔法がド派手だったこともあり、視線誘導が簡単かつ派手に行えたのが大きかったと思いますよ」
ミスディレクションの類だったとは気づかなかった。
一発で見抜けているヴェレスさんはやっぱり凄いな。
「そういう仕組みだったんですね。分かりやすかったです」
「納得してもらえて良かったです。でも、戦闘のレベルまで落とし込むのは大変なので、ジューゾーとやらも相当な手練れだと思いますよ」
「やっぱりそうなんですね。派手ではないので、イリマさんの方が凄く見えてしまってました」
「いえ、対戦相手の方が上手なのは間違いありません。……っと、話しているうちに着きましたね。この中に捕まえた不審者がいます」
あっという間に納屋に辿り着き、ヴェレスさんは躊躇いなく扉を開けた。
捕らえられた不審者とは、一体どんな方なのだろうか。
少しビビりながらも、私も納屋の中へと入ったのだった。





