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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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第406話 おせっかい


 せっかくなので、来てくれた皆さんとは全員お話ししたい。

 とくにミラグロスさんや蓮さんたちとは、頻繁に顔を合わせられないからね。


 というわけで、私のほうから探して挨拶に回ることにした。

 大抵の人は豪華な料理に夢中で、食事の最中に申し訳ないけど、積極的に声をかけていく。


「ミラグロスさん、こんにちは。少しお時間いいですか?」

「――んぐっ。もちろん。……こうしてゆっくり話すの、久しぶりな気がする」

「ですね。料理大会のときもそうでしたが、イベントごとに参加してくださって本当に助かっています」

「お礼を言うのは私のほう。いつもありがとう」


 ぺこりと互いに頭を下げ合う。

 魔族はこの世界では恐れられがちだけど、ミラグロスさんと接していると、人間と何も変わらないと感じる。

 ミラグロスさんたちが特別なのかもしれないけど、いつか魔族とのわだかまりも解けたらいいなと切に思う。


「それで、農業のほうはどうでしたか? 去年の収穫量は増えましたか?」

「うん。一昨年がちゃんと作物が育ったから、今年は農家に転職する人が結構増えた。そのおかげで、一昨年の3倍くらいの収穫になったと思う」

「3倍はすごいですね。1年で収穫量がそこまで伸びたんですか」


 一年でここまで増えるとは意外だった。

 しっかり農業が根付いてきたのは、本当に良かった。


「慣れてきたから、来年はもっと増やせるよう頑張る。……といっても、佐藤さんの協力が必要なんだけど」

「もちろん協力しますよ。食料難が解決に近づくなら、私も嬉しいですから」

「ありがとう。お礼の品、期待してて。アバスカル家だけじゃなく、皆も感謝してて、返礼品を街の全員で用意してるの」

「そんなに気を遣わなくて大丈夫ですよ。苗のお礼分だけで十分です」

「だーめ。楽しみにしててね」


 ミラグロスさんは可愛らしく微笑んでから、足早で去っていってしまった。

 もちろんお礼は嬉しいけれど、あまり負担にはならないといいんだけど……。


 少し複雑な心境で立っていると、蓮さんたちがクリスマスケーキを載せた皿を手にやってきた。

 美香さんは右手にフライドチキン、左手にケーキという、食べる手がふさがった二刀流状態である。


「佐藤さん、今回も呼んでくれてありがとう。最高に楽しませてもらってる」

「ほんっとうに美味しい! 去年もすごかったけど、今年はケーキのクオリティがさらに上がってない!?」

「生クリームの状態が完璧です。量もたっぷりありますし、生きててよかったと毎年ながら思ってしまいます」


 会うなり、女性陣はケーキをべた褒め。

 私はまだ食べていないので分からないけど、今年は宿の運営も始めて調理の機会が増え、新しく雇った人もいる。

 今回のケーキはノーマンさんとジョーさんの合作だから、ジョーさんの功績が大きいのかもしれない。


「お越しくださってありがとうございます。ケーキ、そんなに美味しいんですか? 私はまだ食べていないんですよね」

「えー! もったいない! 美味しくなったというよりも、クオリティが上がったって表現が正しいかも!」

「去年も十分美味しかったですからね」

「佐藤さん、俺の食べていいぜ! めちゃくちゃ美味いからよ!」

「いいんですか? それでは……いただきます」


 将司さんからケーキを受け取り、1口頬張る。

 ――お、たしかに生クリームがふわっふわで美味しい!

 甘さのバランスも絶妙で、全体の完成度が底上げされている。


「確かに美味しいですね。生クリームがふわんふわんです」

「でしょでしょ! こんなケーキ食べられるなんて幸せ!」


 手が空いた将司さんにフライドチキンを持たせ直し、すっかりケーキに夢中の美香さん。

 心底幸せそうな表情で、見ているこちらまで嬉しくなる。


「作ってくれる料理人の皆さんに感謝ですね」

「だな! 日本の味が食べられる喜びを、来るたびに噛みしめてる!」

「しばらく来られなさそうですし、食べ納めしておかないとですね」


 なんてことのない会話に聞こえ、危うく聞き流すところだった――“しばらく来られない”という発言。 

 何か来られなく理由があるのだろうか?


「しばらく来られないって、どういうことですか? また休みが取りにくくなるとか、でしょうか?」

「違う違う! ダンジョンでの修行期間が終わっただけ! これからは遠出しながら、困ってる人を本格的に助けていく予定なの!」

「とはいえ、いきなり魔王にぶつかる感じじゃないから安心してほしい。まずは冒険者っぽい活動からってドニーさんも言っていた」

「そういうことですか。ブラックな環境に戻るとかじゃなくて安心しましたけど……頻繁に会えなくなるのは寂しいですね」


 4人は勇者として召喚されたのだから、これは既定路線。

 とはいえ、気軽に遊びに来られなくなるのは寂しいし、何かあったときが非常に心配。


「でも、活動の中心は王国内って話だし、普通に会える可能性は高いぜ!」

「ですね。遠方に出向いているときはイベント参加できない――程度だと思います」

「それなら良いのですが……。とりあえず今日は、たくさん食べていってください。長く会えない可能性がゼロってわけでもないですしね」


 そんなわけで、私は蓮さんたちにはしっかりとご飯を食べてもらうことにした。

 おせっかいおじさん化している自覚はあるけど、蓮さんたちは私にとって大切な人たち。

 面倒がられようとも、これからもおせっかいを焼き続けるつもりだ。



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