第405話 クリスマスパーティー
今日はクリスマスパーティー当日。
この間は準備に時間を費やしつつ、合間を縫って魔法の練習も続けていた。
『マジックキャビネット』で購入したスタッフを使って練習しているんだけど、素手に比べて魔力の扱いやすさが段違い。
杖に魔力を流し込むと、内部でうまく練り込んでくれるように設計されているらしい。
とはいえ、魔法力が劇的に上昇するわけではないので扱える時間はまだ短いけどね。
それでも、熱中できる新しい趣味を見つけた気分。
異世界の皆さんは地球の娯楽にハマり、私は異世界の魔法にハマる――いい関係ができていると思う。
ヘレナとの魔法談義もすごく楽しいし、1日中でも語っていたいところだけど……今日はクリスマスパーティー。
お世話になった方々が一堂に会する日だから、今日はおもてなしに徹しないといけない。
誰よりも早く起きた私は、イベントホールで最後の仕上げに取りかかった。
前日までに大枠の準備は終えていたものの、こだわり始めると細部まで気になってしまう。
私がせっせと最終確認をしているうちに、外はお祭りのように賑やかになってきた。
みんなが集まってきた証拠であり、そろそろイベントホールの中へ迎え入れよう。
いっしょに準備してくれていたシーラさんとヘレナに合図を送り、私は扉を開いた。
「おはようございます。遠方からお集まりいただき、ありがとうございます。準備は整っていますので、中へどうぞ」
「おー! 佐藤なのじゃ! こっちの建物におったのじゃ!」
「……楽しみ。ヤト、早く入って」
「こら! ローゼ、押すのはやめるのじゃ!」
「毎年の楽しみだからね。今日も気合い入れちゃった。美味しいものも、たくさんあるのよね?」
「もちろんです。ゲーム大会もありますから、ぜひ参加してくださいね」
駆け込んできた3人のほか、蓮さんたちやミラグロスさんたち、ドニーさんにイザベラさん、サムさんとその部下の皆さん。
そして、クリスさんとガロさんまで来てくれた。
もちろん、ここで働いてくれている龍人族やダークエルフ、獣人族のみんなも勢ぞろい。
ロッゾさんやルーアさんたち、私の従魔たちも全員参加で、イベントホールがほぼ満員になるほどの大所帯となっている。
本当はノーマンさんたち料理人にも、今日はゆっくり楽しむ側に回ってほしかったけど……料理がなければ始まらない。
冬休みはしっかり休んでもらったものの、いつか必ず手厚くもてなしたい。
そんなことを考えながら、皆を迎え入れて乾杯の準備を整える。
心の中で乾杯の挨拶を復唱して、前へと進み出た。
「皆さま。本日はお越しくださり、本当にありがとうございます。この1年も大変お世話になりました。日頃の感謝を込めたクリスマスパーティーです。どうぞ存分にお楽しみください。それでは――乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
挨拶は長くなりすぎないように簡潔にまとめ、乾杯の音頭を取る。
クリスマスケーキとフライドチキンはすでに並べてあり、好きなタイミングで食べられるようにしてある。
ビュッフェ形式に加えて、ほかにも料理をたっぷり用意してあるから、苦手な食べ物があっても楽しめるはず。
私がグラスをちびちびやりながら皆の様子を見ていると、サムさんが近づいてきた。
「佐藤さん、招いてくれてありがとう。すごい顔ぶれだし、もう十分楽しませてもらってるよ」
「もちろんサムさんはお呼びしますよ。楽しんでいただけているようで、何よりです。来年もイベント運営、お願いしても大丈夫でしょうか?」
「ああ、もちろん。ここは日ごとに栄えていく感覚があって、ひとつの街が立ち上がっていくのを見ているようで楽しいからね」
「ありがとうございます。もっと盛り上げられるよう頑張ります」
笑顔のサムさんと話したあと、後ろで順番を待っていたヤトさんが前に出てきた。
「佐藤、呼んでくれてありがとうなのじゃ!」
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。ゲーム大会もありますので、ぜひ参加してくださいね」
「当たり前じゃ! それより、魔法の調子はどうじゃ? スペルリングは使えておるか?」
「はい。先日杖も買って、すっかり魔法にのめり込んでいます。遅ればせながら、スペルリングを本当にありがとうございました」
「ぬっふっふ! 使ってもらえておるなら良かったのじゃ! また何か良いものを見つけたら持ってくるのじゃ!」
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
魔法は、私が戦える唯一の可能性。
使えないと思い込んで長いこと眠らせてしまっていたけど、本当に素晴らしい贈り物だった。
ヤトさんだけでなく、一緒に冒険してくれたローゼさんやイザベラさんにも、あらためてお礼を言わなければいけないなぁ。
そんなことを考えながら、私もクリスマスパーティーを満喫することにしたのだった。





