第403話 違った目線
前代未聞の、まだオープン前であることを祈りながらやってきたんだけど……しっかりと『OPEN』の看板が立てられていた。
物欲センサーというものは本当にあると思う。
「オープンしているみたいですね。……どうしますか? 朝食を食べてからまた来ますか?」
「……い、いえ。せっかく来たわけですし、朝食は後の楽しみにして入りましょう」
またしても、シーラさんのお腹が可愛らしく鳴ったんだけど、意志は変わらないようで『マジックキャビネット』の中に入っていってしまった。
もう先に朝食という選択肢はなくなったわけだし、こうなったら全力で『マジックキャビネット』を楽しませてもらおう。
「いらっしゃいませ! ――って、佐藤さんとシーラさんじゃないですか! 遊びに来てくれたんですか?」
お店に入った瞬間、私たちに気づいてくれたようで、シャノンさんが走ってきてくれた。
心から嬉しそうにしてくれるため、こちらも嬉しい気分になる。
「お久しぶりです。色々と見たいものがありまして、遊びに来させてもらいました。今の時間は大丈夫でしたか?」
「もちろんですよ! ゆっくり見ていってください! あっ、何かあれば言ってくださいね? 探し物があれば、私が教えますので!」
「ありがとうございます。ひとまず店内を見させてもらいます」
許可をもらってから、店内を見て回る。
前回までは魔法なんか使えるわけがないと諦めていたし、魔法が使えない自分でも使える商品を探していた。
今は魔法を扱いやすくなる商品に目がいくこともあって、すべてが新鮮に感じる。
やはりまず目につくのは魔導書かな。
「魔導書が気になるのですか? あっ、こちらは私も使っていた初級の魔導書です。懐かしいですね……」
「魔導書って何が書かれているんでしょうか? さすがに中身を読んだら駄目ですもんね」
「読んでも大丈夫ですよ! 佐藤さんは特別なお客様ですから!」
売り物だし申し訳ない気持ちはあるものの、さすがに気になってしまうため、少しだけ読ませてもらうことにした。
魔導書に書かれていたのは、先日アシュロスさんとヤトさんに習ったようなこと。
魔法にはイメージが重要ということと、魔法に応じたイメージの方法が事細かに書かれていた。
「どうですか? 当時は画期的な方法だと思っていましたが、漫画がある世界の佐藤さんからしたらわかりにくいですよね」
「わかりにくいとは思いませんが……確かに、もっとイメージしやすい方法はありそうですね」
「ですよね。中級も上級も似たような感じですし、佐藤さんには魔導書はいらないと思います」
シャノンさんがいる手前、シーラさんには“分かりにくくはない”とは言ったものの、正直かなりわかりにくい。
文章で説明するにしても、もう少し伝わる書き方があると思ってしまう。
とはいえ、この魔導書を書いているのは魔導士の方だと思う。
文章を書くのが本業ではないだろうし、説明がわかりにくいのは仕方ないのかもしれない。
「これが一般的な魔導書とされているのであれば、魔導書を売るのも面白いかもしれませんね」
「絶対に売れると思います。ただ、魔導士ギルドや魔術学校、その他の機関からクレームは来そうです。ランゾーレの街では大きな声で言えませんが、数多の職業の中で、いちばん面倒くさい性格をしているのは魔導士なんですよ」
結構大きな声で言ってしまっている気がするけど、お店の奥で話を聞いていたであろうシャノンさんが何度も大きくうなずいている。
魔術学校を主席で卒業しているとのことだし、身をもって実感しているうなずき方だ。
「そうなんですか。なら、慎重に行動した方がよさそうですね。とりあえず……魔導書は必要なさそうです」
イメージ自体は問題なく行えるため、魔導書の購入はやめることにした。
てっきり魔法を簡単に習得できる凄いものだと思っていただけに、期待外れ感は否めない。
がっかりした気持ちを払拭するように、次に見るのは杖。
やはり魔法といえば杖だし、実際にさまざまな種類の杖が店頭に並んでいる。
「杖の種類も多いですね。短い杖から長い杖まで多種多様ですが、違いがあるんでしょうか?」
「うーん……。魔法に明るくないので分からないのですが、私はワンドを使っていましたね」
シーラさんが手にしたのは、片手持ちの短い杖。
いわゆる魔法使いが持っているのは、このワンドだと思う。
このほかには、両手持ちの中くらいのサイズのスタッフ、大きくて派手な装飾が施されたロッド――の3種類が置かれている。
ちらっと店の奥を見てみると、シャノンさんがこちらを見て、目をキラキラと輝かせていた。
なんというか……杖について説明したくてたまらないという顔に見える。
私の勘違いだったら申し訳ないけど、一応尋ねてみようかな?





