第401話 能力強化
シーラさんの許可は取りたいところだけど、今はダンジョン攻略に行っているからなぁ。
まぁ、シーラさんは絶対に怒らないだろうけど。
「どんどんは注ぎ込めません。冬は長いですし、春に使う分も貯めていますからね」
「ですが、少しくらいなら大丈夫なのではないでしょうか? 少しで魔法を使えるようになるかは分かりませんが、試してみる価値はあると思います」
「アシュロスの言う通りじゃな! 試してみるのは悪いことではないのじゃ!」
「うーん……。分かりました。本当に少しだけ能力を上げてみます」
「やったのじゃー! ワクワク!」
ヤトさんが能力強化を見たいだけのような気もしてきたけど、アシュロスさんまで同じ表情をしている。
冷静なシーラさんがいれば止めてくれたかもしれないけど……かくいう私も、能力を上げてみたい気持ちはある。
ということで、とりあえず魔法力を1だけ上げてみることにした。
他のものを買う時と同じように、魔法力をポチり。
よし。100NP消費されたし、これで購入はできたはず。
――ただ、何も変化していないため、実感は一切ない。
反映されているのかどうかすら、私にも分からない。
「買いましたので、これで能力が上がっている……と思います」
「ほえ? もう終わったのかのう! なーんにも変わっておらんのじゃ!」
「まぁ魔法力が1から2に上がっただけですからね。倍にはなっていますが、大した変化ではないと思います」
「変化がないのはつまらんのじゃ! せめて10まで上げてみてほしいのじゃ!」
一瞬悩んだものの、10までなら問題ないと判断して、私は魔法力をさらに8上昇させた。
必要NPは変わらず100で、10に上がった今も100のまま。
てっきり値段が上がっていくと思っていたけど、もしかしたら100で固定なのかもしれない。
まぁ初期能力が低すぎるから、ある程度まで上がったら高くなる可能性は十分にあるけどね。
「これで一応10までは上がったと思います。微差かもしれませんが、先ほどの10倍にはなっているはずですので……」
そこまで言ったところで、先ほどは数秒で気絶したわけだし、10倍になっても1分持たないのでは、という発想に行き着く。
ここまで来たのなら、せめて1分は持たせたいという欲が出てきてしまった。
「すみません。もう10だけ上げます」
「急にどうしたのじゃ!?」
ヤトさんが焦っているのを横目に、私はさらに魔法力を10上昇させた。
これで2000NPを使ってしまったことになるけど、まぁまだ許容範囲内だと思う。
「佐藤さん、大丈夫でしょうか?」
「はい。これでちょっと試してもいいですか? 気絶してしまったら助けてください」
「もちろん! わらわに任せるのじゃ!」
ヤトさんの頼もしい返事を聞いてから、私は先ほどと同じ要領で魔力を使ってみることにした。
数秒とはいえ、なんとなくのコツは掴んだため、今回はあっさりと魔力を集めることに成功。
「魔力が右手に集まったと思います。ここからどうしたらいいのでしょうか?」
「まずは“熱さ”をイメージしてください。具体的であればあるほど良いです」
アシュロスさんに言われた通り、右手に熱をイメージする。
イメージを重ねるほど、生ぬるかった感覚が徐々に熱を帯びていくのが分かる。
手で触れられないほどの熱さになったところで、私はそのまま“火”を連想した。
すると、右手の人差し指の先から、小さいながらも火が灯る。
「おおー! 佐藤、凄いのじゃ! 魔法を使えておるぞ!」
「こ、これが魔法なんですね……!」
自分の体から火が出ている恐怖はあるけど、それ以上に楽しさと高揚感に包まれる。
ついこのまま火球を作り、『ファイアボール』を唱えそうになったけど、ここが別荘内だと思い出し、火のイメージを止めた。
「素晴らしいですね。まさか一発で形になるとは思いませんでした」
「佐藤は魔法の才能があると思うのじゃ! 今回は魔力切れも起こしておらんしな!」
「才能があるなら嬉しいんですけど……疲れが凄まじいです」
魔力切れは起こさなかったものの、精神的な疲労がすごい。
あのまま『ファイアボール』まで行っていたら、確実に気絶していただろうし、単純な魔法力不足はやはり否めないなぁ。
「毎日練習すれば、きっと安定して使えるようになりますよ」
「魔法力も毎日ちょっとずつ上げていけば、シーラにもバレないじゃろ! ぬっふっふ、スペルリングが役に立って良かったのじゃ!」
「ヤトさん、アシュロスさん。魔法練習を手伝って頂き、ありがとうございました。とても有意義でしたし、何より楽しかったです」
私は2人に頭を下げてお礼を言い、疲労回復のため自室で休むことにした。
魔法は絶対に扱えないと思っていただけに、こうして希望が見えただけでも本当に嬉しい。
魔法が使えれば、またダンジョン攻略にも参加できるかもしれないからね。
私は清々しい気持ちで、一眠りすることにしたのだった。





