第393話 続き
翌日。
昨日は盛り上がりを見せた武闘大会だったけど、今日は決勝まで一気に行われるため、さらに盛り上がると思う。
観客たちの一番の注目は、ガロさん対アールジャックさんの新旧絶対王者対決。
私も気になるところではあるけど、ライムには空気を読まずに優勝をかっさらってほしいと思っている。
ヤトさんやヴェレスさんと本気で戦ったらどうなるかは分からないものの、私たちの代表はライムだと自信を持って言えるからね。
勝手に託す形で申し訳ないけど、ライムには何とか勝ち上がってほしいところ。
「佐藤さん、おはようございます! そういえばですけど、マッシュが戻ってきてますよ!」
「知っていますよ。昨日の夜遅くに帰ってきたので、私が部屋に通しました。怪我もないようで一安心ですね」
「佐藤さんが迎え入れてくれたんですか! 全然気づかずにすみません!」
「謝らなくて大丈夫ですよ。それより、準備をしてみんなと合流しましょう」
ということで、今日も早めに出発し、コロッセウムへ向かった。
道中では、マッシュからアールジャックさんについていろいろ聞いていたんだけど、やはり見た目通りの化け物だったみたい。
三日月蹴りが一番効いたみたいで、あの状態からすでに動けなかったとジェスチャーで教えてくれた。
もし魔法や胞子が使えていても勝率は低かったとのことで、これからの試合に身が引き締まる。
来賓席に着くと、1番乗りの人物がすでに座っていた。
遠くからだと分からなかったけど、近づいてその人物が支配人さんだと気づく。
「支配人さん、おはようございます。今日はここから見るんですか?」
「おお、佐藤さん。準決勝まではここで見ようかと思っておる。改めて礼を言わせてくれ。佐藤さんがガロを呼んでくれたおかげで、今大会は過去最高のものとなったよ」
「ガロさんが参加を決めただけで、私は何もしていませんよ。それよりも、ライムとマッシュを参加させてくれたうえに、こんな良い席まで用意していただき、本当にありがとうございます」
私が改めてお礼を伝え、後ろのみんなもぺこりと頭を下げた。
「そのことこそ気にしなくていい。魔物の参加は不安ではあったが、盛り上がる大きな要素の1つになってくれたしな。……アールジャックは強かっただろう?」
まるで自分のことのように、ドヤ顔でマッシュに尋ねた支配人さん。
私はそのドヤ顔に少しムッとしたものの、マッシュは気にしていない様子で数回うなずいた。
「ふっふっふっ、そうだろう。あとはアールジャックがガロを倒せば、向こう20年は武闘大会は安泰だな」
そう言って、悪い笑みを浮かべる支配人さん。
それからしばらくして、トーナメント表が発表された。
完全ランダムと説明されているけど、あたかも図ったかのようにアールジャックさんとガロさんが反対のブロック。
そして、ライムは準決勝でアールジャックさんと当たる予定となっている。
トーナメント表の発表後、すぐに2回戦が開始され、波乱もなく次々と試合が消化されていった。
正直な話、歓声の大きいアールジャックさん、ガロさん、ライムの3名の試合は面白くない。
苦戦する様子もないうえ、相手が半分諦めた状態での試合だからね。
ただ、他の闘士同士の試合はバチバチで面白く、その中でも一番の活躍を見せたのはスピンさん。
長い手足を生かした変則的な動きで翻弄しつつ、ちゃんとパワーもあるオールラウンダー。
激戦のブロックを勝ち抜き、見事ガロさんの待つベスト4へと駒を進めてみせた。
「これでベスト4が決まりましたね。佐藤さんは誰が勝つと思いますか?」
「難しいですが……期待も込めてライム予想ですね」
「ガロさんもアールジャックさんも、まだ底を見せていないですもんね! マッシュ戦が1番拮抗した戦いでしたし!」
「私は楽々ライムが優勝すると思っていたけど、思っている以上の強者がいてびっくりだね」
そんな会話をしていると、早速準決勝が始まるようだ。
ここからは1試合ずつ行われるため、見逃すことはない。
「まさかガロさんが出場してくるとは思っていなかったぜ。あんたのことは尊敬しているが、向き合ったら手加減はできない。この間は止められちまった続きを、今ここでやろう」
「ふぉっふぉっふぉ。お主もちゃんと強かったんじゃな。ワシも前回は不完全燃焼じゃったから、ちょうどいいのう」
そんな会話がうっすらと聞こえてくる。
スピンさんはすでに知り合いだし、マッシュとライムの面倒も見てくれた。
そのこともあって、ここまでは全力応援していたんだけど……ここはさすがにガロさんを応援してしまう。
向かい合い、緊張の時間が流れ、そして審判による試合開始の合図。
先に動き出したのはスピンさん。
奇怪なステップを踏みながら、ガロさんに近づいていく。
作戦としては、遠距離から攻撃しつつガロさんの動きを見る――というものだったようだけど、無情にも試合は一瞬で決着がついた。
攻撃のタイミングを読ませない動きから、長い腕を生かした遠距離攻撃。
そんな様子見かつ安全策の一撃を、逆にガロさんは狙っていた。
これまで見せなかった素早い動きでのカウンター。
頭になかったであろう電光石火の一撃を対応できるはずもなく、側頭部をしたたかに叩かれたスピンさんは意識を手放し、その場に倒れ込んだ。
今までで1番長い静寂が流れたあと、大歓声が巻き起こる。
まさかの準決勝でも瞬殺。
現役を退いた人とは思えない動きに、私も呆気に取られつつ……私もガロさんに称賛の拍手を送ったのだった。





