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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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第388話 交渉


 無事にコロッセウムに着いた私は、すぐに兵士を探して、支配人さんのところへ案内してもらうことにした。

 幸いにも、先ほど支配人さんを呼んでくれた兵士さんと遭遇でき、特にもめることもなく、支配人室にたどり着けた。


「……ん? おお、早速来てくれたのか。そこの椅子にかけてくれ」

「はい、失礼いたします」


 指定された椅子に座ると、支配人さんみずからお茶を出してくれた。

 きらびやかなコロッセウムの支配人室にしては、かなり狭く質素な感じ。


「時間を取らせてすまんかったな」

「いえ、コロッセウムの見学許可もいただきましたし、悪いなんて思わなくて大丈夫です。それで……お話というのは何でしょうか?」

「そりゃもちろんガロについてだ。佐藤さんは昔からの知り合いなのか?」

「いえ、この間知り合ったばかりです。なので、支配人さんが求めている情報を持っているか分かりません」


 私がそう伝えると、支配人さんは渋い表情に変わった。


「そうか。なら、佐藤さんに頼んでも無駄かもしれんな」

「支配人さんは何を頼もうとしているんですか? ガロさんへの頼み事ですよね?」

「ああ、そうだ。ガロは引退してから一度も連絡が取れんくてな。探し回っておったんだが、足取りすら追えず、ようやく姿を現したのが今日だったのだ」

「そうだったんですか。先ほどの話ぶりからして、支配人さんがガロさんを探し回っていたとは思っていませんでした」

「ガロとの関係的に、私からは言い出しにくいのだよ」

「ちなみに、ガロさんを探し回っていた理由というのは何ですか?」

「ガロには、もう一度闘士として戦ってもらいたいと思っておる。さっきも言ったが、アールジャックという絶対王者が誕生してな。ガロには箔をつけるための相手になってほしいのだ」


 なるほど。

 支配人さんとしては、アールジャックさんに“ガロさんを倒した”という箔をつけさせたいということか。


 思惑どおりに進めば、アールジャックさんの人気は圧倒的なものになるだろうし、ガロさんが参戦するとなれば、今回の大会の盛り上がりも凄まじいことになる。

 だから、さっきは何かとガロさんを煽っていたのか。


「ガロさんが参戦するように説得してほしいということでしょうか?」

「話が早くて助かる。仲が良さそうだった佐藤さんに頼むのが一番だと思ってな。引き受けてもらえるか?」

「話すくらいなら構いませんが、参戦してくれるかは分かりませんよ? それから、わざと負ける等の八百長の提案もできません」

「八百長なんか頼むわけないだろう。純粋な実力で、ガロよりもアールジャックのほうが圧倒的に強い。まあ、八百長の提案をしたほうが、性格的にガロはむしろ参戦してくれるだろうがな」


 ガロさんは引退してから、もうかなり経っている。

 バリバリの現役で絶対王者のアールジャックさんが負けるはずがない――それが支配人さんの見立てなのだろう。


 私としてはガロさんの強さを知っているし、想定を覆して優勝してくれるなら推したいところだけど……。

 『レガースキッド』で、アールジャックさんの規格外さを目の当たりにしているからなぁ。

 引退しているガロさんが勝てる可能性のほうが低いだろうし、ゆっくり一緒に観戦したいというのが私の本音。


「心境的には複雑ですが、一応打診だけはしてみますね。結果が分かり次第、報告しに来ます」

「本当に助かる。佐藤さん、すまんな」

「いえ、お声がけくらいはします。あと、私のほうからも一つお話があるのですが、いいですか?」

「もちろんだ。話とはなんだ?」

「私の従魔についてです。武闘大会に参加したいみたいなんですが、断られてしまったんですよね。やはり魔物の参戦は難しいのでしょうか?」


 私からの話というのは、ライムとマッシュの武闘大会への参戦について。

 ルーアさんたちと一緒にお願いしに行ったときは、魔物の参加は過去に例がないため難しく……。


 さらに、飛び込みでの参加も認められていないということで、絶対に参加できないと言われてしまったようなのだ。

 ルール的にも難しいとは思っているけど、支配人さんに頼めば変わるかなという思いで、今回は話を持ちかけさせてもらった。


「……うーん、魔物だとルール的に難しいからな。ただ、面白そうではある。例外として参加を認めるか? ……いや、魔物の参加を認めてしまったら、今後厄介になるのは目に見えておるからな」


 私の提案に対し、支配人さんは必死に頭を悩ませている。

 まぁ今回のようにスライムのライムやマタンゴのマッシュなら問題はないだろうけど、たとえばクロウとかアッシュだと話が変わってくる。


 魔物の参加を許可してしまったら、今後面倒くさいことになりそう、というのはよく分かる。

 歴史や伝統もあるだろうしね。


「………………分かった。もし佐藤さんがガロを説得できたら、今回に限り例外として従魔の参加を認める。これでどうだ?」

「分かりました。譲歩していただき、ありがとうございます。ガロさんが参加した暁には、私の従魔も参加させてあげてください」

「おう、分かった。いい報告を期待しておる」


 支配人さんと契約成立の意味も込めて握手を交わし、私は支配人室を後にした。

 とりあえず、ガロさんが参戦した場合のみ、ライムとマッシュの参戦許可をもらえることになった。


 まあ、だからといってガロさんを参戦するように仕向けるつもりはないし、話を持ちかけるだけに留める。

 ライムとマッシュには申し訳ないけど、引退した人を再び表舞台に引っ張り出すのは個人的に気乗りしないし、一番重要なのはガロさんの意思だからね。

 そんなことを考えながら、私は宿へと戻ることにしたのだった。



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