第387話 血の気
それから何度か闘士の方と遭遇したんだけど、スピンさんが追い払ってくれたおかげで、絡まれることはなかった。
ガロさんの名前を出した瞬間にたじろぐ闘士ばかりだったことからも、ギナワノスでは本当に神格化に近い扱いを受けていることが分かる。
「ここが試合会場じゃな。久しぶりでも、ここに立つと血が滾ってくるわい」
目に火がついているガロさん。
今は酔いも覚めているようだし、本気のガロさんの戦いを見てみたい気持ちになったけど、さすがにここで戦ったらお叱りを受けてしまう。
「ガロさんが戦っていた時と、何も変わっていないんですか?」
「なにも変わっておらんな。準決勝までは4面に分けて一気に試合が行われ、準決勝からはこの場所すべてを使って行われておった」
「やり方も含めて、今も変わってねぇな。名前も一気に売れるから、ベスト4進出が闘士の大半の目標になっている」
現役の闘士であるスピンさんの話だから、間違いないだろう。
そういえば、スピンさんはどれくらいの闘士なんだろうか?
「スピンさんって去年の成績はどうだったんですか? 僕はすごく強そうだなって思ったんですけど!」
「俺は去年ベスト4だったぜ。アールジャックって奴に完敗した」
「ブライアントが言っておった闘士か」
「アールジャックさんと戦ったんですか? ……強かったですか?」
「あれは化け物だな。圧倒的なパワーだけでなく、技術を極めてやがる。俺は手も足も出ずに完敗した」
スピンさんは雰囲気があると思っていたけど、そんなスピンさんでも完敗だったのか。
これはますます生で見るのが楽しみになってきた。
「ふへー! そんなに強い人なんですか! 答えづらいかもしれませんが、ガロさんとどっちが強そうですかね?」
「本人の前では言いづらいが……今はアールジャックのほうが強いんじゃねぇかな?」
「ほほう。それは面白いのう。引退した身じゃが、軽く手合わせしてみるか?」
「ダメですよ。さっき止めた意味がなくなりますから」
遠慮なしの質問をするジョエル君に、本当のことを答えるスピンさん。
そして意外にも血の気の多いガロさんと……色々と大変すぎる。
今からでも戦おうとするガロさんを必死に止め、私たちは試合会場を後にした。
支配人さんがガロさんを問題児だと言っていたけど、その理由がなんとなく理解できた気がする。
試合会場を出てからは、スピンさんにお礼を伝え、そのままコロッセウムも後にした。
ハプニングだらけではあったものの、関係者以外は絶対に見られない場所だったから、面白かったな。
「ガロさん。今日は色々と案内していただき、ありがとうございました。普段は見られない場所を見ることができて楽しかったです」
「それなら良かった。ワシも久しぶりにコロッセウムに行けて懐かしかったわい」
「ガロさんの知名度ってすごいですよね! 名乗って知らない人がいませんでしたもん!」
「ワシも、まだこんなに知られておるとは思わんかった」
最多優勝しているから当たり前と思ってしまうけど、ガロさんが引退してから冬の時代が訪れていたことも影響しているのかもしれない。
アールジャックさんが現れるまでは、盛り下がっていたって話だもんね。
「それで、ガロさんはこれからどうするんですか? 武闘大会は見ていきますよね?」
「本当は佐藤さんに会ったら帰ろうと思っておったんじゃが、気になる闘士の話を聞いてしもうたからのう。見ないまま帰るわけにはいかなくなった」
「なら、僕たちと一緒に見ましょうよ! ガロさんがいたら、いい席で見られそうです!」
「ジョエルは本当に何でも口に出すのう。まあ一人で見るのも寂しいし、ワシとしてもありがたい誘いじゃが」
本当に思っていることを口に出すジョエル君。
一瞬ヒヤッとするから、もう少し言葉には気をつけてほしいんだけどね。
とりあえず……これでガロさんと一緒に武闘大会を観戦することが決まった。
ライムとマッシュの参加も断られてしまったって話だし、みんなで観戦することになると思う。
大会当日に会う約束をしてから、私たちはガロさんともお別れした。
いい時間だし、そろそろ宿に戻りたいところだけど……私はまだ行かなければいけない場所がある。
「はぁー、楽しかったですね! ガロさんもいい人で良かったです! 居酒屋巡りはしんどかったですけど!」
「コロッセウムに入れたのはすごかったですね。スピンさんとの一触即発にはヒヤヒヤしましたが」
「普段は温厚な感じなんですけどね! 佐藤さん、このあとは宿に戻る感じですか?」
「その予定ではありますが、私は支配人さんに呼び出されていまして、お礼も兼ねてご挨拶に行こうと思っています。ジョエル君はライムとマッシュを連れて、先に宿へ戻っていてもらえますか?」
「え? 僕はついていかなくて大丈夫ですか?」
「はい。絡まれても逃げますし、兵士さんに頼めばすぐに支配人さんのところへ行けると思いますので」
「分かりました! なら、僕たちは先に戻っていますね! くれぐれも気をつけてください!」
宿に戻っていったジョエル君とライム、マッシュを見送り、私は一人でコロッセウムに戻ることにした。
大丈夫とは言ったものの、一人でギナワノスの街を歩くのは少しだけ怖い。
すぐにコロッセウムに着くため、私は早足での移動を開始したのだった。





