第382話 行きつけの店
騒ぎになった大通りからいったん離れ、ガロさんに指定された『バッカス』という店へ向かうことにした。
店名が酒の神様にちなむことから、居酒屋かバーではないかと予想しているけど……。
「本当にバーでしたね」
「ここで合ってるんでしょうか? ……でも、看板に『バッカス』と書かれてあります!」
たどり着いたのは、営業しているのか怪しいくらい寂れた店。
あたりも閑散としているし、ガロさんからの指定がなければ、絶対に訪れることはなかったと思う。
恐る恐る扉を開けると、カウンターでグラスを片手に酒を飲むガロさんの姿があった。
看板も確認してから入ったけど、姿を見るまでは不安だったため一安心。
「おー、佐藤さん。こっちだ。……ひっく」
「ガロさん、先ほどはありがとうございました。また助けられてしまいました」
「いやいや……ひっく。ワシが間に入らんでも、そっちの子なら蹴散らせていたからのう。ワシは佐藤さんではなく、向こうを助けたつもりじゃ」
「えっ? そうだったんですか?」
あのまま戦っていたら、ジョエル君があの3人組をボコボコにしていたらしい。
確かに、ジョエル君は自信満々だったし、やれる自信があったのかもしれない。
「いやいや、そんなことないですからね! 負けないだろうなとは思っていましたけど、3対1は想定していませんでしたし!」
信じかけていたところで、ジョエル君が私の耳元で全力否定。
ガロさんが気を使ってくれただけのようだ。
「とにかく、ありがとうございました。それから……ギナワノスに来ていたんですね。会えたのが何より嬉しいです」
「隠居の身じゃからな。佐藤さんが行くと言っておったのを思い出して、久しぶりに来てみたんじゃ」
「そうだったんですね。今日到着したんですか?」
「いんや、1週間くらい前からおるぞ」
「2週間前でしょ! ずっとここで飲んでいたじゃない!」
「お? ふぉっふぉ、そんな前じゃったかのう。酒を飲んでおると時間が分からんようになる」
まさかの、私たちがギナワノスに到着する前に着いていたようだ。
到着してからは街中を闊歩していたつもりだったけど、まあこの店に入り浸っていたら出会うこともないよなあ。
「そんなに前からギナワノスにいたんですか。私たちも5日前にやってきていたので、もう少し早く合流できましたね」
「佐藤さんたちも随分と早くに着いておったのか。まあ、こうして出会えたのじゃから結果オーライじゃな」
それもそうだけど、せっかくならガロさんにいろいろ案内してもらいたかった。
来なくてはいけないというプレッシャーになると思って、集合場所と日時は決めなかったんだよなぁ。
「ガロさんは大会が始まるまで暇なんですか? せっかくなら、今からでもギナワノスの街を案内してもらいたいです」
「ワシはいつだって暇じゃ。案内するといっても、コロッセウム内かマイナーな店しか知らんぞ?」
「もちろん大丈夫です。よろしくお願いします」
「やーっと連れ出してくれるのね! 居座るくせに、すぐに潰れるから困っていたのよ! ほら、そのお酒を飲んだら行ってちょうだい!」
渋いイケオジのマスターらしき人物が、シッシッと追い払う仕草でガロさんを追い出そうとしている。
対するガロさんは一切気にしていない様子だから、これがこのお店の日常なのだろう。
「久しぶりに来たというのに冷たいのう」
「再会の喜びは1日限定よ! 2週間も居座られたら、たまったものじゃないわ!」
そんなやり取りののち、すぐに酒を片付けられ、半ば追い出される形で店を後にすることになった。
見た目は怪しい店だったけど、マスターがいい人なのはよく分かった。
「すごく良い店ですね」
「そうかのう? 客なのに追い出されたばかりじゃぞ?」
「まあ、ガロさんはこうでもしないと、ずっと酒を飲んでいそうですからね」
多分だけど、私やジョエル君、ライムやマッシュのことを考えて、あえて追い出す形にしてくれたのだと思う。
2週間も滞在させてくれる時点で、いい人なのは確定しているしね。
「そんなことはないと思うんじゃがのう」
不服そうなガロさんと共に、ギナワノスの街を歩く。
有名人ゆえにメジャーな店には行けないのだろうけど、この5日間で有名どころは回り尽くしたからね。
ガロさんおすすめの店と、コロッセウム案内がすごく楽しみだ。
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『38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界転生』の第一巻が、再来週の12/5(金)に発売されます!
加筆修正に加え、web版よりも更に読みやすく仕上がっております。
また、↓のイラストから分かる通り、卵の黄身先生が凄まじい画力でキャラクター達を描いてくださっております!
佐藤やシーラさん、ベルベットさんだけでなく、ライムやマッシュも素晴らしいキャラクターデザインとなっており、挿絵も素晴らしいの一言に尽きますので、是非ともお手に取って頂けたら幸いです!
また、予約数も非常に大事でして、お手に取って頂けるのであれば、ぜひとも予約購入して頂けたら、作者は泣いて喜びますm(_ _;)m
どうか何卒よろしくお願い致します!
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