第375話 旅行の準備
冬季休暇に入って2日が経過した。
この二日間は本当に何もしておらず、部屋にこもってゴロゴロと過ごしていた。
このままもう数日はゆっくりしてもいいと思っていたんだけど――大荷物を抱えたベルベットさんがやってきた。
今回は漫画の件ではなく、以前約束していた旅行の件での来訪だと思うけど……。
ギナワノスで開催される闘技大会は、確か来週からだったはず。
まだ来ないだろうと高を括っていただけに、予想以上に早い訪問に驚きを隠せない。
とりあえず、ベルベットさんから話を聞くことにしよう。
「ベルベットさん、おはようございます。随分と早いご到着ですね」
「そう? 確かに少し早く来たけど、向こうで観光もすると思ってたからさ。明日には出発するでしょ?」
「そうですね……。皆さんの返答次第では、今日のうちに出発してもいいと思っています」
「ちなみにだけど、私は今すぐにでも行けるわよ」
ドヤ顔でそう言ってくるベルベットさん。
抱えている大荷物を見れば、ベルベットさんがすぐに出発できることは聞かずとも分かる。
「ご報告ありがとうございます。今から皆さんに聞いてきますので、娯楽部屋で待っていていただけますか?」
「ええ、分かったわ。漫画を読みながら気長に待ってる」
娯楽部屋へ向かう彼女を見送ってから、私はみんなに話をしに行くことにした。
今回はついて行きたいと言ってくれた人を、全員連れて行く予定だ。
シーラさんはすぐに準備すると言ってくれ、他に声を掛けたジョエル君、ルーアさん、ブリタニーさんも旅行に参加するとのこと。
ポーシャさんとロイスさん、それからロッゾさんたちの技術班にも声を掛けたんだけも、帰省予定のため断られてしまった。
せっかくなら大勢で行きたかったけど、ダークエルフたちはすでにエルフの国へ帰ってしまっているし、龍人族も大半が帰省済み。
獣人族の方々もやることがあるとのことで、結局、約束していた私たち以外では3人に留まってしまった。
従魔組からはヘレナ、ライム、マッシュが同行することになり、最終的な旅行メンバーは9名。
ライムとマッシュが街に入れるかだけが心配だったけど、ベルベットさん曰く、ギナワノスは従魔に寛容な街とのことだった。
あとはヤトさんやローゼさんとも旅行したかったが……こればかりは仕方がない。
なんだかんだで、ヤトさんとは一度も遠出をしたことがないし、今回とは別に旅行の計画を立ててもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、同行を希望してくれたメンバーに荷物をまとめるよう促し、私も出発の準備を始めた。
昼前には全員の準備が整い、早速ではあるが出発することにした。
「レティシアさん、留守番をお願いする形になってすみません。何かあればクロウを連絡係にして呼んでくださいね」
「大丈夫やで。留守はうちに任しといて」
王都から戻ってきたばかりで留守番を頼むのは忍びないけど、1番信用できるのはレティシアさんだからね。
戦力は残っているし、本当に危険なときはヴェレスさんを呼ぶよう伝えてあるから大丈夫なはず。
居残り組の獣人族の方々に見送られながら、私たちはギナワノスへ向けて出発した。
ダンジョン街に向かうとき並みの大所帯での旅行にワクワクしながら、馬車を走らせたのだった。
街を1つ経由し、丸1日かけてギナワノスに到着した。
街自体はそこまで大きくないものの、中央にそびえ立つコロッセウムは街の外からでもはっきりと見える。
「長かったけど、やっと到着したわ。ただ、年に一度の闘技大会が開かれるというのに……意外と人は少ないのね」
「大会は来週からですからね。到着が早すぎたんだと思います」
「そう? 私は一週間前に来るのが普通だと思うけど」
絶対に普通ではないことは、まだお祭りムードではない街の様子を見ても分かる。
それでも闘技大会の雰囲気は感じられ、わずかながら熱気も漂っていた。
「早すぎるかもしれませんが、このタイミングで来たのは正解だと思います。ギリギリだと宿探しで苦労しますからね」
「それはそうですね。今回は大所帯ですし、暇していたことも考えると、早めに来たのは良かったと思います」
私はもう少しギリギリに来る予定で考えていたものの、ベルベットさんが早めに来てくれて良かったと思っている。
シーラさんが言った通り、ギリギリだと宿の確保には間違いなく苦労しただろう。
「でしょ? 大会が始まったら大会に付きっきりになるだろうし、観光するなら絶対に早めの方がいいと思ったの。……ほら、もう入門検査の番が回ってきた」
私たちは検査を受け、無事にギナワノスの街へ入ることができた。
別の馬車に乗っているライムとマッシュが街に入れるか心配だったが、ベルベットさんの口利きもあり、無事に全員が入ることができた。
街並みは古風な雰囲気を残しながらも、全体的に“武”の印象が強い。
武具屋や道具屋の多さにも目を見張るし、雑貨屋などで売られている物も戦いに関するものが多い印象だ。
ファンタジーに憧れがある私にとってはワクワクする街であり、大会まで時間がある今のうちに、ゆっくりと観光を楽しみたいな。





