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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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第374話 奴隷の意識


 誘拐犯騒動とライムとマッシュの帰還から、約2週間が経過した。

 今年の秋は何かと騒がしかったけど、この2週間はまるで嘘のように平和そのもの。


 久しぶりに農作業だけに専念し、午後はみんなで娯楽室で遊ぶ日々を送っていた。

 スローライフの良さを改めて感じていたところだけど、寒さが増してきたこともあり、例年より少し早めに農業を終えることが決まった。


 収穫量も昨年より大幅に増えているし、早めに終えても問題ないという計算も出ている。

 宿も冬季期間は一時閉業するため、里帰りしたい人たちにはゆっくりと過ごしてほしい。


 まぁ本音を言うのであれば、宿は冬季も営業したかった。

 この辺り以外も冬は休業する場所が多いだろうし、旅行客が増える貴重な時期とも言える。


 ただ、この地域は冬になるとほとんど何もできなくなるし、ここまでの移動も非常に大変だからね。

 今、私の頭にある構想としては、まず提携している馬車会社にスノーディアを購入してもらうこと。


 何頭かはすでに飼っているとのことだったけど、数が圧倒的に足りていない。

 そして、交通の便を確保でき次第、裏山の一部をスキー場にする計画を立てている。


 せっかく良い立地があるのだから、この場所を活用しない手はない。

 というか、裏山の高い位置まで移動できる手段さえあれば、現段階でも十分スキーを楽しめる環境だと思う。


 クロウのような飛行系の魔物を用意するか、あるいはロッゾさんやシッドさんに頼んでロープウェイのようなものを作ってもらうか。

 どちらにするかはまだ決めかねているけど、スキー場の建設は来年を通しての目標の一つにしたいと考えている。


 そんな大まかな構想を考えながら、今日は朝から部屋でゴロゴロしていると、扉がノックされた。

 私は重い腰を上げ、扉の方へ向かう。


「……あれ、タマさん。どうしたんですか?」


 来訪者はまさかのタマさん。

 部屋までやってくるとは思っていなかっただけに、思わず驚いてしまった。


「冬の期間の過ごし方について聞きに来たのニャ!」

「冬の過ごし方ですか? 何が知りたいのでしょうか?」

「私たち獣人族はここに残らせてもらいたいのニャ! だから、冬にできる仕事を振ってほしいのニャ!」

「冬にできる仕事……ですか?」


 仕事をしたいということだろうか?

 急に言われても思いつかないし、あるとすればロッゾさんかジョルジュさんのお手伝いくらい。

 ただ、冬の期間は2人ものんびりする予定みたいだし、短い期間ではあるけど王都に戻るとも言っていた。


「すみません。仕事がすぐには思いつかないですね。タマさんたちは仕事がしたいんですか?」

「うーん……? 仕事がしたいってわけじゃないけど、働かないとご飯が食べられないのニャ! “働かざるもの食うべからず”なのニャ!」

「タマさんを含め、獣人族のみなさんには十分働いてもらいましたよ。ですので、冬の期間は休んでください。ご飯もこれまで通り普通に提供しますし、渡したお給料を使って旅行に行ってもいいと思います」


 そう伝えたのだが、タマさんはあまり理解できていない様子。

 難しいことは言っていないはずなんだけど……。


「私たちは奴隷なのニャ! だから、他の方と一緒はおかしいのニャ!」

「ん? タマさんたちは奴隷なんかじゃありませんよ。元奴隷だったのかもしれませんが、ここでは他の方と同じです」

「……佐藤さんは変なのニャ! でも、嬉しいニャ!」

「当たり前のことを言っているだけですって。ですので、冬季期間は何も考えずに羽を伸ばしてください」

「分かったニャ! みんなにも伝えてくるにゃ! 佐藤さん、ありがとうなのニャ!」


 タマさんは満面の笑みでペコリと頭を下げると、すごい勢いで帰っていった。

 結局、私目線では何を聞きに来たのかよく分からなかったけど、納得してくれたようで良かった。


 私は再びベッドに戻り、先ほどのゴロゴロの続きを再開する。

 ぜひ獣人族のみんなにも、何もしない楽しさを感じてほしいな。


 そんなことを考えながらウトウトしていると、再びノックの音が響いた。

 タマさんが去ってから、まだ20分ほどしか経っていないのに、また来訪者。

 ゴロゴロしたい気分とは裏腹に、今日は忙しくなりそう。


「……って、タマさん? また来たんですか?」


 扉を開けると、そこには先ほど帰っていったタマさんの姿。

 ただ、今回は1人ではなく、後ろには獣人族の仲間たちがいた。


「みんなに伝えたんだけど、理解してもらえなかったニャ! だから、佐藤さんから伝えてほしいニャ!」


 タマさんの必死の訴えでも信じてもらえなかったあたり、彼らが“働かなくていい”という状況を想像できない環境で生きてきたのだと思う。

 私はめんどくさがらずに、先ほどタマさんに伝えたのと同じ内容をみんなにも話した。


「……タマの話は本当だったのか」

「絶対に嘘だと思っていました……」

「だから、何度も言ったのニャ! でも、信じられないのも分かるニャ!」

「というわけですので、冬季休暇を楽しんでいただければ幸いです」


 故郷がないのかもしれないけれど、体を休めることはできる。

 これまで酷使してきただろうし、しっかりと休みを満喫してほしい。


「佐藤さん、本当にありがとう。ただでさえ良い環境で暮らせているのに……俺たちは幸せ者だ」

「いえいえ。私も助かっていますし、win-winですよ」

「この冬季期間にできることを見つけて、必ず役に立ってみせます」

「それはいいですね。良い休暇の使い方だと思います」

「いや、ちゃんと休んでくださ――」


 私がそう言い終える前に、ワルフさんを先頭にみんなは帰ってしまった。

 ちゃんと休んでくれるかは少し心配だけど……流石に働き詰めにはならないはず。



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