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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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第372話 誘拐犯


 シーラさんが王都に向かってから約2時間が経過した。

 イルゼちゃんは夢中になってゲームで遊んでおり、誘拐容疑の3人は未だに目を覚ましていない。


 もうしばらくは大丈夫そうだと安心していると、娯楽部屋の扉が開いた。

 入ってきたのはシーラさんであり、王都から戻ってきたようだ。


「シーラさん、戻ってきたんですね。どうでしたか?」

「頼まれていたことは、すべてこなしてきました。兵士も連れてきましたし、イルゼさんのお父さんもいます」

「イルゼちゃんのお父さんも見つかったんですね! それを聞いてホッとしました」


 あまり考えないようにしていたけど、イルゼちゃんが両親に売られてしまっていた可能性もあるのではと頭の片隅では考えていた。

 迎えに来たということは、誘拐されていた可能性が高い何よりの証明であり、少なくとも売られてはいなかったということ。


「ご両親がすぐにイルゼさんの捜索依頼を出していたので、すぐに会うことができました。どうやら身分の高い方だったようで、ベルベットさんも来てくれています」

「そうなんですか。それはすぐに顔を合わせてあげないといけませんね」


 服装も髪型もしっかりしていたし、ご両親が貴族でも驚きはない。

 ただ、ベルベットさんがやってきたということは、貴族の中でもかなり地位の高い家なのかもしれない。


「イルゼちゃん、お父さんが迎えに来てくれたみたいです。外で待っているそうなので、すぐに行きましょう」

「えー! 私、まだゲームやりたいよー!」

「また今度やらせてあげますから、お父さんを安心させてあげましょう」

「うーん……。絶対約束だからね!」


 コントローラーを離さなかったイルゼちゃんだけど、次の約束を取りつけたことでようやく手を放してくれた。

 ルチーアさんにお馬さんをやらせていたときから思っていたけど、イルゼちゃんは本当にメンタルが強いなぁ。


 一緒に外に出ると、立派な鎧を着た精悍な男性がいて、イルゼちゃんを見るなり駆け寄ってきた。

 年齢的には私と同じくらいだろうが、非常に若々しく見える。


「イルゼ! 怪我はないか? 目を離してすまなかった」

「あっ、お父さん! うん! このおじさんが助けてくれたの!」

「そうか、本当に良かった。……君がイルゼを助けてくれた佐藤さんか。この恩は一生忘れない」

「いえいえ。たまたま保護しただけですし、お礼を言うなら私の従魔に言ってあげてください」

「従魔? スライムとマタンゴが誘拐犯を捕らえてくれたのか?」

「はい。まぁ、こちらも偶然だったみたいですが」


 馬車の中にいたイルゼちゃんには、ライムもマッシュも気づいていなかったようだ。

 帰り道でばったり遭遇し、悪そうというだけで倒したらしい。

 アンデッド軍団の襲撃以来、警戒を続けていたおかげだと思うが、イルゼちゃんを助けられたのは本当に運が良かった。


「そうなのか。スライムさんとマタンゴさん、娘を助けてくれて本当にありがとう」


 イルゼちゃんのお父さんからの感謝に、まんざらでもない様子の2名。

 とりあえず、一件落着してよかった。


「それで、イルゼを誘拐した犯人はどこにいる?」


 先ほどまでとは打って変わり、声には殺気が満ちていた。

 瞳も鋭く光り、このままでは犯人を殺してしまうのではと思うほどの迫力。


「拘束した状態で眠っていますが……危害を加えないですよね?」

「ああ。流石に命までは取らないさ」


 その言い方も、正直かなり怖い。

 私は後ろにいた兵士に視線を送ったが、バツが悪そうな顔をするばかりで、止めてくれそうにはなかった。


 日本とは違い、この国では犯罪者に多少の暴力を振るっても問題ないのかもしれない。

 とはいえ、この場所でやるのはやめてほしいな。


「引き渡しはしますが、この場所での暴力行為はやめてください。約束してもらえますか?」

「…………ああ、約束する」


 色々な思いを飲み込みながら、イルゼちゃんのお父さんは静かに頷いた。

 娘を誘拐した犯人相手に理性を保つのは難しいだろうけど、ここでは何とか堪えてほしい。


「こちらになります。みなさん、来てください」


 後ろにいる兵士やベルベットさんにも声をかけ、物置に閉じ込めていた犯人グループのもとへと案内する。

 彼らはまだ眠っており、こちらには全く気づいていない。


「こいつらがイルゼを誘拐した連中か」

「約束していた通り、手は出さないでくださいね」

「……分かっている。ただ、気になることがあるから、確認だけはさせてもらう」


 そう言うと、イルゼちゃんのお父さんは犯人の腕をつかみ、袖をまくって何かを確認し始めた。

 何をしているのか分からなかったが、3人の二の腕には悪魔のような紋様のタトゥーが刻まれている。


「やはり“魔王教”の連中か」

「魔王教!? すぐに王都へ連れて行きましょう。王都にも手が及んでいたとは、一大事です」

「警備を強化しないといけませんね」

「落ち着け。私がつけられていた可能性もある。まずは確認が先だ」


 イルゼちゃんのお父さんと兵士たちは何やら真剣に話し合っていたが、私にはその内容がよく分からなかった。

 “魔王教”というのは、魔王軍の一派のことだろうか?


「とりあえず、佐藤さん。今回は本当に助けられた。この借りは近いうちに必ず返す。それじゃ、失礼する」


 私が返答する間もなく、兵士たちは眠っている3人の誘拐犯を運び出し、馬車に乗せていった。

 そして、イルゼちゃんとお父さんも別の馬車に乗り込み、別れを惜しむ間もなく去っていったのだった。



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