第371話 ライムとマッシュの帰還
別荘に戻ると、人だかりができているのが見えた。
その中心にはライムとマッシュの姿があり、その姿を見て、自然と口角が上がってしまう。
「――あっ、佐藤さん。ライムとマッシュが戻ってきたんです」
「はい、そうだろうと思って戻ってきたんですが……ライムの後ろにいるのは誰ですか?」
ライムの後ろには、倒れている3人の男がいた。服装からして怪しさしか感じない。
これまでの流れから考えると、イルゼちゃんをここまで連れてきた人物たちだろう。
「この近くで、ライムとマッシュが倒してしまった人たちみたいなんです。気絶していて話は聞けていませんが、マッシュによると、怪しかったから捕まえたとのことです」
「なるほど。もし勘違いだったら厄介ですが、ライムとマッシュが間違えるとは思えません。とりあえず、動けないように拘束しておきましょう」
「話を聞く前に拘束してしまっていいんですか?」
「はい。もし問題があったときは、素直に謝れば許してもらえる……はずです」
そう言って、私たちはライムとマッシュが倒した3人組を拘束した。
といっても、手を後ろで縛っただけだが、これで簡単には危害を加えられないはずだ。
「よし。これでひとまず安心ですね。色々と話したいことはありますが……まずは、ライムとマッシュ、おかえりなさい」
私がそう声をかけると、マッシュは嬉しそうに抱きついてきた。
表情の変化は少ないけれど、嬉しがってくれているのが伝わる。
一方のライムは、申し訳なさそうに大福のような形でちんまりとしている。
軽く注意するつもりだったが、この姿を見たら叱る気にはなれなかった。
「元気に仲良くやっていましたか?」
私の問いに、マッシュは何度も頷き、ライムも小さく体を揺らして応える。
「見た目には大きな変化はありませんね。……いや、マッシュもライムも少し傷が増えていますか?」
マッシュの傘の部分にはいくつか傷があり、ライムの核にも小さな傷が見える。
親のような気持ちで見ている私としては、どうしても心配になってしまう。
「ライムとマッシュのやりたいことに口出しはしませんが、あまり心配させないでください。私は家族だと思っているんですから、次からはせめて一声かけてください」
そう言うと、ライムは体をプルプル震わせてから勢いよく飛びついてきた。
柔らかい体に押しつぶされるが、力は加減してくれているようだ。
「……なんか楽しそう! 私も混ぜてー!」
ここまで静かに見ていたイルゼちゃんが、遊んでいると思ったのか、ライムに飛びついた。
一番下にいる私に重みが集中し、さすがに少し苦しい。
「あー、こら! 佐藤さんが潰れちゃいます!」
すぐにシーラさんがライムとイルゼちゃんを引き離してくれ、なんとか脱出。
額の汗をぬぐっていると、マッシュがゆっくりと寄ってきて、そっと抱きついてきた。
「流れでマッシュにも小言を言ってしまいましたが、マッシュはライムについて行っただけでしたね。ありがとうございます」
そう言って優しく抱き返す。
色々と心配したけど、こうして無事に帰ってきてくれて本当に良かった。
「良い雰囲気の中、すみません。この少女は誰なのでしょうか?」
「あー、説明していませんでしたね。ライムとマッシュが捕まえた3人組が、イルゼちゃんを誘拐していた犯人だと思っています」
「えっ? つまり、拘束した3人は誘拐犯ということですか?」
「まだ断定はできませんが、可能性は高いです。――イルゼちゃん、この3人を知っていますか?」
「うーん……? 知らない!」
馬車があった場所でライムが戦った痕跡があり、そこにいたのがこの3人組で間違いない。
そして、同じ馬車に乗っていたはずのイルゼちゃんが彼らを知らないとなれば、誘拐して逃亡していた線が濃厚だ。
もし本当に誘拐犯だとしたら、ライムとマッシュは大手柄。
帰って早々、しっかりと仕事をしてくれたことになる。
「まさか本当に誘拐犯だとは思いませんでした。すぐに王都へ行き、兵士を手配してもらってきます」
「お願いします。ドニーさんに連絡を取ればすぐに動いてくれるはずです。それと、イルゼという子を探している人がいないかも聞いてもらえますか?」
「分かりました。ドニーさんとレティシアさんに協力してもらって、すぐに手配します」
そう言って、シーラさんはアッシュを走らせ王都へ向かった。
残った私たちは、誘拐容疑の3人に目を配りながら、イルゼちゃんの世話をする。
「まさか誘拐された子だとは思わなかったな。お転婆な子だと思ったが、意外と良いところのお嬢さんなのか?」
「うーん? 分かんない!」
「今、お父さんとお母さんが探していますから、もう少しだけ我慢してくださいね」
「はーい! クッキーも美味しいし、魔物さんも面白いから全然平気だよ!」
「偉いですね。近くに面白い場所があるので、イルゼちゃんはそこで待っていてもらえますか?」
「面白い場所? なにそれ、行きたーい!」
私はテンションの上がったイルゼちゃんにクッキーを渡してから、娯楽部屋へ案内した。
誘拐犯たちから遠ざけた方がいいし、娯楽部屋なら大人しく待ってくれるだろう。
その後、私たちは交代でイルゼちゃんと誘拐犯を見張りながら、シーラさんの帰りを待ったのだった。





