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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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第305話 お祭り


 予定よりも少し早いけど、縁日が開始された。

 模擬戦大会では見られなかった子供たちの姿もあり、本当にお祭りらしい雰囲気。


 用意したラジカセによる音楽は、完全に人々の話し声にかき消されてしまっているのは少々誤算だったけど、この騒がしい感じこそお祭り。

 私が焼き上げたたこ焼きにも、最初のお客さんがやってきてくれた。


「おじさん! その丸い食べ物、1つちょうだい!」

「たこ焼きを1つですね。銀貨2枚、しっかりと頂きました。もう少しで焼き上がるので、待っていてくださいね」


 ニッコニコの少年から銀貨2枚を受け取り、私は焼き上げたたこ焼きにソースとトッピングを乗せてから手渡した。


「熱々ですので、気をつけて食べてくださいね」

「うん、分かった! お父さん、買ってきたよー!」


 たこ焼きを買っていった少年は、後ろにいた父親に自慢気に見せにいった。

 その親子がたこ焼きを美味しそうに食べている姿を横目に、私は次のお客さんの接客を行っていく。


 お祭りの屋台なんて、基本的には色々なものを楽しむ作りになっているんだけど、美味しさからかリピートしてくれるお客さんがかなり多い。

 そのせいもあって、用意していた材料が足りるかどうか不安になってくる。


 特に、暑いということもあってかき氷は大人気で、早々に1人2杯までという制限を設けていた。

 この人混みのため、細かな指示を飛ばせない中、向こうの屋台の指揮を取ってくれているシーラさんの判断の早さには頭が上がらない。


「佐藤、遊びに来たのじゃ!」

「……今年も遊びに来ました。去年よりもすごい人ですね」

「ヤトさんとローゼさん。今年も来てくださりありがとうございます。去年よりも規模を大きくしたので、参加者が大幅に増えたんですよ。それよりも……今日はアシュロスさんとイザベラさんは一緒じゃないんですか?」


 周りを見渡したけど、ヤトさんとローゼさんの姿しか見えない。

 まさか2人だけで来たわけではないと思うし、どこかで待っているのだろうか?


「アシュロスとイザベラは不仲なのじゃ! どこかの屋台で戦っているのじゃ!」

「それって不仲……なんですか? 一緒に遊んでいるってことですよね?」

「……違う。本気で戦っています」


 よく分からないけど、ライバル関係みたいな感じなのだろうか?

 そういえば、冬もアシュロスさんだけダンジョン攻略に参加していた。


 もしかしたら、イザベラさんがいるからダンジョン攻略の方に来たのかな?

 でも、理由はそんな感じじゃなかったと記憶しているけど……真偽は分からない。


「よく分からないけど分かりました。イザベラさんとアシュロスさんの2人で、お祭りを回っているんですね」

「そういうことなのじゃ! わらわたちは佐藤に挨拶に来たんじゃ! ……嬉しいかのう?」

「もちろん嬉しいですよ。ありがとうございます」


 私がお礼を言うと、顔を赤くして照れているヤトさんとローゼさん。

 自ら言い出したのに、照れられるとこっちまで恥ずかしくなってしまう。


「んん、2人もたこ焼きを食べますか? 今から焼きますよ」

「もちろん食べるのじゃ!」

「……でも、1パックで大丈夫です。ヤトと分けますので」

「ぬぅ? わらわは1人で食べられるのじゃ!」

「……他にも屋台があるから、お腹の余力を残しておきたい」


 ヤトさんは納得がいっていない様子だったけど、最終的には折れた。

 去年のお祭りでもそうだったけど、この2人の組み合わせだと意外とヤトさんの方が折れるんだよな。


「はい、お待たせしました。激熱ですので気をつけてくださいね」

「ありがとなのじゃ! また後で来るのじゃ!」

「……佐藤さん、ありがとうございます。またね」


 ヤトさんとローゼさんはお礼を言うと、他の屋台に行ってしまった。

 話を聞いてしまったこともあり、アシュロスさんとイザベラさんの戦いが気になるけど……持ち場を離れられないのが残念。


 異色のライバルの2人が近くを通らないか探していると、キョロキョロしながら通り過ぎようとしているシャノンさんが見えた。

 この賑わいに困惑しているのが分かったため、声を張り上げて呼び込む。


「あっ! 佐藤さん! ここにいたんですか!」

「模擬戦大会に続いて、お祭りにも参加してくれたんですね」

「はい! ここに佐藤さんがいることを知っていましたし、回ってきたビラの内容がすごく面白そうだったので来ちゃいました! でも、人が多すぎて困っていたんです!」

「やっぱりそうだったんですね。とりあえずたこ焼きを焼きますので、食べていってください」

「ありがとうございます!」


 私はすぐにたこ焼きを焼いて、シャノンさんに手渡す。

 シャノンさんはたこ焼きを受け取るなり、私の説明を受ける前に口の中に放り込んだ。


「あっつーい! ……でも、美味しすぎます!!」


 ハフハフしながらも大声で叫んでくれたシャノンさん。

 本当に美味しそうに食べるもんで、シャノンさんの大声に注目した人たちが、たこ焼きを気になり始めてくれているのが分かった。


「佐藤さんの料理は超一流ですね! って、あれ? お客さんが一気に来ちゃいました!」


 シャノンさんが来る前まではそれなりの客入りだったけど、無自覚のマーケティングのおかげでお客さんが集まってきてしまった。

 ゆっくりお話がしたかったが、お客さんが来てしまったら対応せざるを得ない。


「シャノンさん、ひとまず来てくれてありがとうございます! それから、ここ以外も食事系の屋台は全部おすすめです! 遊戯系の屋台でも遊んでいってくださいね!」

「分かりましたー! ありがとうございまーす!」


 早口かつ大声でそう伝え、たこ焼きを一気に焼いていく。

 接することができる時間が短いのが悲しいけど、この大賑わいはとても楽しい。

 シャノンさんもここから楽しんでくれることを願いつつ、私は一心不乱にたこ焼きを焼き続けたのだった。



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