第272話 老練
前回は剣を木刀を使っていたシルヴァさんが今回は二刀流。
どんな戦い方を見せてくれるのかも楽しみだし、そんなシルヴァさんにイザベラさんがどう対応するのかも見物。
試合開始と同時にお互いに見合う形の中、最初に動いたのはイザベラさん。
動いたといっても、魔法で牽制するような攻撃であり、シルヴァさんは片手で防ぎながら虎視眈々と隙を窺っている。
魔法でダメージを与えるのであれば、上級魔法以上の魔法を使わないとシルヴァさんにはダメージを与えることはできない。
ただ、上級魔法は詠唱時間が長いため、距離を取っているとはいえ、詠唱開始と共に距離を詰められてやられてしまう。
そのことをイザベラさんも理解しているからこその、この初級魔法による牽制なんだと思う。
このまましばらく試合が硬直するかと思ったけど、先に動いたのはまたもやイザベラさんだった。
初級魔法を連続して放ちながら、徐々にシルヴァさんとの距離を詰め出した。
対するシルヴァさんは、未だ試合開始地点から動かず、じっくりとイザベラさんを観察している。
その視線はかなり不気味であり、退治しているイザベラさんは余計にそう感じているはず。
だからなのか分からないが、このまま自分のペースで攻撃まで持っていくと思っていたイザベラさんは、一定の距離まで近づくと再び立ち止まった。
――ところを狙い済ましていたかのように、唐突にシルヴァさんが動いた。
静から動。だけでなく、潜るように地面スレスレまで上体を低くし、高低差も使っての奇襲。
美香さんのように舞うような攻撃を仕掛け、唐突な連擊に耐えきれず、イザベラさんは腕にクリーンヒットをもらってしまった。
挽回するために中級魔法を唱えながら、剣での反撃に動いたんだけど、今度はどっしりと構えて、魔法も剣擊も受けきりながら、流れるような反撃で2発目のクリーンヒット。
一瞬で追い詰められてしまったイザベラさんは落ち着く余裕もなく、攻撃に全振りしてきたところをカウンター、一閃。
硬直していた試合が嘘のように、動き出してからは秒で決着がついた。
「それまで! 3-0で勝者シルヴァ!」
「……強い。何者なの?」
「ふぉっぶぉ、しがない老いぼれ剣士だな。お嬢ちゃんも練度は高かったぞ。また機械があれば手合わせしよう」
握手を交わし、こちらへと戻ってきたシルヴァさん。
私は拍手をしながら出迎える。
「シルヴァさん、相変わらずの強さでしたね。凄かったです」
「喜んでもらえてよかった。この大会の参加者は骨があって楽しいの」
「そう言ってもらえてよかったです。3回戦も期待してます」
全てがハイクオリティな多彩な攻撃。
やっぱりシルヴァさんは優勝候補の1人だと思う。
とにかくこれでベスト12が決まった。
ここからは再びくじ引きを行い、3人1ブロックを4つ作る。
総当たりの1位抜けで、ここで一気にベスト4まで絞られることになる。
ルール2勝すれば勝ち上がり、勝ち数が並んだ場合は取った有効打数を競い、取った有効打数も並んだ場合は、取られた有効打数で競う。
それすらも並んだ場合は、直接対決の結果で決めることになっている。
引き分けはそうそう起こり得ないことから、並ぶとしたら1勝1敗で横一線。
本当は決着がつくまで戦ってもらいたいところだけど、それは難しいため仕方がない。
私がルールについて考え直している間に、どうやら組分けが決まったようだ。
Aブロックはシーラさん、スレッド、マージスさん。
Bブロックはシャノンさん、レオノールさん、美香さん。
Cブロックは蓮さん、ローゼさん、シルヴァさん。
Dブロックはフリースさん、ライム、アシュロスさん。
死のブロック的なものはなく、いい具合にバラけたイメージ。
まぁどこも突破者が読めないくらいハイレベルなんだけどね。
ここも同時に試合が行われていく予定で、各ブロックの第1試合が始まった。
Aブロックは、シーラさん対スレッド。
互角の攻防が続いたが、均衡を破ったのはシーラさん。
鋭い斬り上げで有効打を取ると、そのまま逃げ切り勝ちを納めた。
Bブロックはシャノンさん対美香さん。
ここまでと同様に、序盤から魔法で試合を組み立てようとしたシャノンさんだったけど、美香さんは飛んでくる魔法を気にせずに突っ込んだ。
思いっきり1発クリーンヒットしたけど、近づいてしまえば美香さんのもの。
連擊に次ぐ連擊で攻め立て、あっという間に3本取りきっての勝利。
Cブロックは、蓮さん対シルヴァさん。
優勝候補同士の戦いであり、お互いに攻め立てながらもクリーンヒットはなし。
試合終了間際に蓮さんの袈裟斬りがシルヴァさんを捉えたが、シルヴァさんも返しの突きを当てており、模擬戦大会初の引き分けで終わった。
こうなると、どれだけローゼさんに圧勝できるかが鍵になるため、この後の戦いも楽しみ。
そして、Dブロックはライム対フリースさん。
フリースさん応援ムードの中、何も気にしていなさそうなライムが序盤から仕掛けていった。
分裂に透明化、そこから繰り出される高速攻撃。
対策を練っていたのか、フリースさんも耐えていた方だったけど……ブリタニーさんから受けてしまった攻撃の影響で右からの対応に遅れ、一気に飲み込まれて3-0で敗北を喫してしまった。
怪我がなくても勝敗は変わっていなかったと思うけど、不完全燃焼だと思うし、フリースさんにはまたリベンジしに来てもらいたいな。





