第243話 体力の限界
ダンジョン街にやってきて、早くも2週間が経過した。
新しいパーティでの攻略を行っているが、ここまでは特に苦戦することもなく、順調にダンジョンを進めることができている。
私たちの中で最も攻略が進んでいるのは、シーラさんのパーティ。
すでに40階層に到達しており、かなり勢いに乗っているようだ。
とはいえ、私たちのパーティも順調に攻略できており、現在の最高到達階層は32階層。
アシュロスさんの圧倒的なパワーと、ライムの変幻自在な攻撃で魔物を蹴散らすことができている。
ジョエル君とポーシャさんも素晴らしい活躍を見せており、この4人で完璧なパーティが形成できているのが大きい。
私も私で、しっかりと地図読みができているし、移動速度を少し遅らせてしまっていること以外は、それなりに貢献できていると思う。
「おーっ! 33階層ですよ! このパーティでの最高到達階層ですね!」
「合わせてくれる方がいるというのは助かりますね。お嬢様は本当に無茶苦茶でしたので、戦いやすさに驚いています」
「アシュロスさんは、去年もライムとは一緒だったというのも大きいんじゃないでしょうか? 息がピッタリな気がします」
「ライムが私に合わせてくれているんだと思います。去年は基本的にお嬢様のサポートに回っていましたから、今回初めて共闘している感覚すらありますね」
剛のアシュロスさんと、柔のライム。
この息の合い方は、去年同じパーティだったからだと思っていたが、どうやらヤトさんがいなくなったことで、自由に動けるようになったからのようだ。
ヤトさんもとんでもなく強いらしいけど、人型の状態では力を出し切れないようで、かなり制御された状態での攻略だったことが分かる。
言い方は少しきついかもしれないが、アシュロスさんとライムは“解放された”ような感じなのかもしれない。
「ジョエルさんも頼もしいですね。サポートが的確ですし、私を守りながら戦ってくれていますので。若いのに、ここまで老練な戦いができる方は少ないと思いますよ」
「僕はドニーさんに鍛えられましたからね! でも、褒めていただけるのは嬉しいです! ポーシャさんは全力で守りますので、何かあったらすぐに言ってくださいね!」
「ありがとうございます」
何だか全体的に雰囲気が良い。
現在33階層まで潜っているとは思えないほどの余裕があり、パーティのバランスも非常に良いのだと思う。
問題なのは、私の体力が限界ギリギリなこと。
農作業で体力はついてきたと思っていたけど、ダンジョン攻略の体力とは全くの別物。
NPを使って体力だけでも上げたい気持ちになるけど……この理由で貴重なNPを使うことはできない。
せめて迷惑をかけないように、限界が近いことを自己申告しよう。
「すみません。悪い報告なのですが……体力がそろそろ限界を迎えそうです。調子が出てきたところ申し訳ありませんが、引き返す選択を考えていただけると助かります」
「了解しました。それでは次の階層まで攻略して、そこで引き返しましょう」
「本当に申し訳ありません」
「謝らなくても大丈夫ですよ! 佐藤さんには荷物を持ってもらいながら、道案内までしてもらっていますからね! 負担は大きいはずですし、戦闘職じゃないのにここまでついてこられていること自体、すごいことですよ!」
「ジョエルさんの言う通りです。謝る理由は一つもありませんし……言い出しにくかったのですが、私も体力が限界に近かったので、佐藤さんが先に言ってくれて助かりました」
2人からの慰めの言葉に加え、ライムも私に寄り添うように体をくっつけてくれた。
本当に優しい方たちばかりで良かった。
「我儘を言わないだけでありがたいですよ。お嬢様はすぐに文句を言いますし、ダンジョンの攻略中に何度おんぶをしたことか……」
アシュロスさんは去年のことを思い出したのか、少し頭を抱えている。
さすがにどれだけ辛くても、ダンジョン内でおんぶを要求することはないと思うけど……ヤトさん、本当にとんでもない方だ。
「去年はそんなことまであったんですね」
「まぁ、お嬢様のわがままはその時だけではありませんでしたが。とにかく……ダンジョン攻略のコンセプトは“楽しく”ですから、私たちのことは気にせず引き返しましょう」
「ありがとうございます。少しずつ体力もつけて、慣れていきますので、よろしくお願いします」
そんな会話をしてから、私たちは34階層まで攻略を行い、引き返すことにした。
能力値を上げることにNPは使えないけれど、装備を整えることに使うのはありかもしれない。
体力を消耗している一番の原因は、間違いなく靴だ。
まともな靴に変えれば、多少はマシになると見ている。
そんなことを考えながら、安全第一でダンジョンの外を目指して歩を進めたのだった。





