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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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第241話 交渉


 談笑を終えたあと、そのままの足でドニーさんの元へ向かうことにした。

 ドニーさんは何故か冒険者ギルドにいるらしいので、一人で冒険者ギルドに赴く。


 ざっと見渡した限りではドニーさんの姿は見当たらず、受付嬢さんに尋ねてみたところ、すぐに居場所を教えてもらえた。

 この冒険者ギルドの地下は狭いながらも鍛錬ができるようになっているらしく、どうやらドニーさんはそこに籠もって鍛錬をしているようだ。


 教えてもらった通りに地下へ向かうと……黙々と剣を振り続ける大男の姿が目に飛び込んできた。

 間違いなくドニーさんであり、ただの素振りのはずなのに、鬼気迫るものを感じる。


「ドニーさん、お久しぶりです」

「ん? ああ、佐藤か。もうダンジョン街に来たんだな」


 俺が声を掛けると、ドニーさんは素振りを止め、手首につけていた重りも外した。

 重りが地面に落ちたときの衝撃が足元から伝わってきて、バトル漫画に出てきそうなベタなトレーニングをする人が現実にいるんだと驚く。


「はい。今年も冬の期間はダンジョン攻略のためにやってきました。ドニーさんも調子が良さそうですね」

「佐藤からもらったコンタクトレンズのおかげで、今が人生で一番調子が良い。ただ、もうそろそろ切れそうだから、春になったら畑を手伝いに行かせてもらう」

「はい。いつでも手伝いに来てください。それで……ひとつお話があるんですが、いいですか?」

「俺に話? 別に構わんが、一体なんの話だ?」


 どうやら見当がついていないようで、ドニーさんは首を傾げている。

 仕草は可愛らしいが、体つきがいかつすぎて逆に怖い。


「蓮さんたちについてです。休養が少ないと思いますので、週に一回は完全休養日を作ってください――という相談をしに来ました」

「そういうことか。言われなくとも休養日は設けている。ただ、ダンジョンに潜っている間は休めないってだけだ」

「それなら、ダンジョンに潜って休めなかった日の振替休養は取っていますか?」

「振替休養? そんなの取っていないし、戻ってきて休めば十分だろ」

「十分ではありません! 週に最低一日の休養は必須です。基本は週に二日、休みを取らせてください。そして、取れなかった分は別日に必ず設ける。分かりましたか?」


 俺がそう捲し立てると、ドニーさんの表情は渋くなった。

 重りをつけてトレーニングしている様子を見ても、やはり彼は少し考えが古いため、改めてもらわなければならない。


「……さすがにそれは休みすぎだろ。普通の冒険者を目指すならともかく、あいつらは魔王を倒すのが役目なんだぞ」

「魔王討伐が役目かもしれませんが、その前に壊れてしまっては意味がありません。それに、長く鍛えれば強くなるというものでもありません。量より質。休むこともトレーニングの一環です。私は断固として譲りませんよ」

「……なら、蓮たちにどうするか決めてもらおう。あいつらが強くなりたいって言ってるから鍛えてるわけだしな」

「それは駄目です。ドニーさんは圧が強すぎて、自分の意思に反したことを口にしてしまうかもしれません」

「そんなことはないだろ。さすがに過保護すぎるぞ」

「そんなことありますよ。現にジョエル君はドニーさんに本音を言えないまま辞めてしまいましたよね?」

「……うぐっ。ジョエルの件を出すのはずるいぞ」

「ずるくありません。ドニーさんは自分がどう見られているかを気にしてください。ジョエル君のように、また逃げられてしまいますよ」

「……分かったよ。休日を増やせばいいんだろ。佐藤は本当に、厳しいことに厳しいな」


 渋々といった様子だったが、納得してくれたようで良かった。

 あとは別の日にでも、具体的な休養日について話し合ってもらえるだろう。


 私にできることはやった。これで気兼ねなくダンジョン攻略に専念できる。

 冒険者ギルドを早々に後にした私は、明日から始まるダンジョン攻略に向けて、宿で対策を練ることにしたのだった。


 翌日。

 いよいよ、今日からダンジョン攻略が始まる。


 今回、一緒に攻略にあたるメンバーは、私、アシュロスさん、ライム、ジョエル君、ポーシャさんの5名。


 アシュロスさんは言わずもがな、ライムも超がつくほどの実力者だし、ジョエル君も元王国騎士で現冒険者。

 ポーシャさんはやや控えめな実力かもしれないが、元冒険者なので戦力にはなる。

 つまり、私以外は実力者ぞろいの良いパーティなのだ。


「うぅ……。佐藤さんと一緒が良かったです」

「シーラ、あんたまだそんなこと言ってるのかい? パーティが決まってからずいぶん経つし、もう攻略が始まるんだから、切り替えてくれないと困るよ」

「ブリタニーの言う通りだ。シーラにはメインアタッカーを務めてもらうんだから、いつまでもウジウジされると困る」


 宿のフロントにて、私と顔を合わせるなりそんな言葉を漏らしたシーラさんに、同じパーティのブリタニーさんとルーアさんから叱責が入る。

 そうやって励ましてくれるのは嬉しいけれど、さすがに引きずりすぎだと私も思う。


「ダンジョンの中に入ったら切り替えます。佐藤さん、怪我なく無事に帰ってきてください」

「ありがとうございます。強い方たちが同じパーティですから、大丈夫ですよ。シーラさんも怪我なく頑張ってくださいね」

「はい。頑張ってきます」


 若干力なくもそう答えてくれたシーラさんは、私たちより先にダンジョンへと向かった。

 私たちも準備は万端だが……まだアシュロスさんが到着していない。


「アシュロスさん、来る気配がありませんね! 来なかったら攻略は中止ですか?」

「4人でも攻略は不可能ではないですが、ひとまず連絡があるまでは待機ですね。到着が1日遅れるという連絡はありましたので、今日中には来ると思いますよ」

「でしたら、今のうちに役割確認をしておきませんか? 特にライムさんとは合わせたほうがいいですからね」


 今日中に到着する予定との連絡はあったため、アシュロスさんが来ない限り動くことはできない。

 周囲の冒険者たちが次々とダンジョンに向かうのを見送りながら、私たちは到着を待つ時間を使い、作戦会議を行うことにしたのだった。



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