第240話 大所帯
身支度を整えてから、居残り組に留守を任せてダンジョン街へと向かった。
居残り組は生産職のメンバーと従魔の半数ほど。
龍人族については、ドレイクさんとアシュロスさんだけがダンジョン攻略に参加してくれる。
他の龍人族の大半は里帰りをしており、エデルギウス山に戻っている。
それでも大所帯であることに変わりはないため、アッシュとニクスの馬車以外に、蓮さんたちが用意してくれた計4台の馬車を使ってダンジョン街へと向かう。
3回目ともなると、雪が降る中での馬車移動にも慣れ、雑談を交わしながら気楽な移動となった。
人間は慣れる生き物とは言うけど、私はブラック企業で働いていた分、少しだけ他の人より慣れるのが早いのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、あっという間にダンジョン街に到着した。
「わー! 久しぶりの佐藤だー!」
馬車から降りるなり、出迎えてくれたのは美香さん。
タイミングよくやって来たのかと思ったが、頭や肩に雪が積もっていることから、外で待っていてくれたことが分かる。
「美香さん、お久しぶりです。大丈夫ですか? 寒いですよね?」
「ちょうど出てきたところだし、全然寒くない! いやぁー、久しぶりすぎて嬉しい! 料理大会と仮装パーティーに参加できなかったからねー……連日でやるんだもん!」
「今出てきたばかり」というのは、あまりにも分かりやすい嘘だけど、ここはスルーしてあげるのが吉。
ということで、美香さんを見ていたみんなが優しい表情になりながら、会話が始まった。
「連日で開催してしまったのはすみません。皆さんに集まっていただくのも大変なので、一気にやるしかなかったんですよね」
「まぁその理屈はよく分かるけど! 私も参加したかったなぁ!」
「来年も開催する予定ですので、ぜひ来年は参加してください」
「うん! 次は絶対に参加する! 仮装パーティーってハロウィンみたいな感じでしょ? 絶対に面白いじゃん!」
「気合を入れて仮装してくれた人も多くて、本当に面白かったですよ」
「うわー……本当に参加したかった!」
「おい、美香。雪が降ってる中で、外で立ち話をさせるなよ。佐藤さん、それに皆さん、すみません」
後ろからやってきて、美香さんの頭を軽く叩いたのは蓮さん。
美香さんの反応が良すぎたせいで、つい長話をしてしまった。
「別に強要はしてないから! でも、外で話し込む意味はなかったね! 寒いし、中に入ろう!」
「いつもの宿を取ってあるから、ゆっくり休んでほしい。中で将司と唯も待っているから、話すなら中で話そう」
「ありがとうございます。それじゃあ荷物を運びましょうか」
案内されるままに、宿の中に荷物を運び込んだ。
良い宿をほぼ貸し切って取ってくれているため、今回も皆が一部屋ずつ使うことができそう。
魔力塊のことも含めて、蓮さんたちには本当に頭が上がらない。
「無事に荷物を部屋に運び込めました。宿の手配、ありがとうございます」
「別にお礼なんていらない。佐藤さんにはそれ以上の恩を受けてるからな」
「そうそう! 佐藤さんがいなけりゃ、俺たちはとっくに精神が参ってただろうし、宿ぐらいどうってことないぜ!」
「いやいや。宿だけでなく、魔力塊まで頂いていますからね。ついこの間送って頂いたのは、本当に助かりました」
「魔力塊は勝手に貯まったものを送っただけですよ。ドニーさんのスケジュールが鬼すぎて、どんどん貯まっていくんです」
「本当に酷いスケジュール! ジョエルが逃げ出したって言ってたけど、逃げ出した理由がよく分かるもん!」
「なまじ強いのも考えものだよな。俺たちと同じメニューを平然とこなすし」
「鬼教官すぎるわ! 最初は指導してもらえて感謝しかなかったけど、今は感謝の気持ちが消えちまってるもん!」
「絶対に私たちのためじゃなくて、自分のためのスケジュールだもんね! ドニー許すまじ!」
魔力塊のお礼を伝えたつもりが、なぜかドニーさんの悪口大会が始まってしまった。
美香さんだけでなく、全員が恨み節を語っていることからも、相当過酷なスケジュールでトレーニングが行われていることが分かる。
見るからに大変そうだし、これはドニーさんに直談判してあげないといけないかもしれない。
魔王討伐も大事だけれど、それ以上に休みは大事。
体や精神を壊してしまったら、元も子もない。私のようにはなってほしくない。
「そんなに大変だったんですね。うまくやっているかと思っていましたが、私からドニーさんに、もう少し休みを作るよう伝えておきます」
「うはー! やっぱり佐藤は神! あのトレーニング馬鹿に強く言って!」
「トレーニングの量も大切ですが、ただ増やすだけってのは時代錯誤もいいところですからね。佐藤さん、よろしくお願いします」
「任せてください。こちらには秘策もありますので、きっと改善されると思います」
ドニーさんも、今はまだこのダンジョン街にいるらしい。
攻略を始める前に、一度しっかり話をしよう。
私は心の中でそう決意しつつ、久しぶりに再会した蓮さんたちとの談笑を楽しんだのだった。





