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38歳社畜おっさんの巻き込まれ異世界生活~【異世界農業】なる神スキルを授かったので田舎でスローライフを送ります~  作者: 岡本剛也
第4章

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閑話 人魔族の帰還


 道中の食料や水まで持たせてくれた佐藤さんに見送られ、私はティルガンシアに戻るために歩を進めた。

 行きは何とか見つからずに通ることができたけど、警備兵の数が凄まじかったからね。


 見つかったら終わりのため、最大限の警戒をして魔王領を目指して進む。

 今の私の気持ちは生きたいというよりも、佐藤さんのためにも今回の情報を持ち帰りたいという気持ちの方が強い。


 北西部の勢力のほとんどを手中に収めている、私の家が魔王軍に加勢するかどうかは大きな問題。

 命を救ってもらい、とびきり美味しいご馳走をしてもらった佐藤さんに報いるためにも、私は絶対に生きてティルガンシアに帰る。


 そう気合いを入れたこともあって、これまでの人生の中で一番といってほど冴えていた私は、人の気配を敏感に嗅ぎ分けて国境を超えることに成功。

 魔王領に入ってしまえばもう安心であり、少し気が抜けたけれど、父に今回のことを報告するまでは休むことはできない。


 休憩を入れることなく、北西に向かって進み――ようやく見慣れたティルガンシアの街が見えてきた。

 人間の土地とは違い、自然が一切ないティルガンシア近辺。


 佐藤さんの家の近くには自然だけでなく、様々な作物が植えられている畑があったからね。

 あの風景を思い出すと、リンクして卵かゆも思い出してお腹が空いてきてしまう。

 

 佐藤さんの料理はどれも美味しく、帰る前日に振舞ってもらった料理も最高に美味しかったんだけど、やはり私の中での一位は卵がゆ。

 お腹が空き過ぎていた状態で、体に染みる優しい味でありながらも最高に美味しいあの衝撃は、死ぬまで忘れることがないと思う。


 思い出すだけで涎が出てきてしまったけど、今は切り替えて報告することだけを考える。

 きっと兄や姉はいちゃもんをつけてる可能性が高いからね。


 頬を叩いて気合いを入れてから、私はティルガンシアの街にある家へと戻ってきた。

 リビングには父と兄と姉がおり、出発してから時間が経っていたからか、私が戻ってきたことに兄は特に驚いている様子だった。


「ミラグロス、お前無事だったのかァ。てっきり死んじまったかと思ってたぜェ?」

「ん。危うく死にかけたけど、何とか戻って来られた」

「それで龍族からお話は聞けたのですか? 何の成果もあげられずに戻ってきたってことはありませんよね?」

「大丈夫。ちゃんと龍族……それも、夜刀神から話を聞いてきた」

「夜刀神だとォ。嘘じゃねぇだろうなァ?」

「ん。こんな嘘つかない」

「ミラグロス、よくやった。それで――龍族はどちらにつくと言っていたのだ?」


 父は目を見開いて圧を放ちながら、私にそう質問してきた。

 恐らくだけど……真偽に関わらず、龍族は人に味方すると言え――とのことだろうけど、ヤトさんは本当に人に味方すると言っていたからね。


「夜刀神が龍族は人間に味方すると言っていた」

「それ、本当かァ? 戦いたくなくて、発言を捏造しているってことはねぇよなァ?」

「していない。なんだったら、人間よりも先に龍族が攻撃を仕掛けてくるぐらい、夜刀神は人間寄りだった」

「ということは、魔王軍が攻撃を仕掛けたとなれば、まずは龍族と戦わないといけないということですか。例え龍族に勝ったとしても、すぐに人間との戦い……。勝ち目はゼロじゃないですか?」

「私は断固反対する。実際に人間の暮らすところを見てきたけど、魔族に勝ち目はない」

「そういうことならば、決まりだな。我々が魔王軍につくことはない」


 私の必死の説得もあり、父はそう結論付けた。

 少なくとも、これで佐藤さんと私が戦うことはなくなった。


「おいおい、正気かァ!? 飢え死ぬだけだぜェ? それにミラグロスの話が本当かどうかも怪しいしよォ!」

「だったら、兄も話を聞きに行ってみればいい。私の本当だったと分かるから」

「そういうことなら、次は俺が行ってやらァ。ミラグロス、その代わりお前の発言が嘘だった場合は覚悟しろよォ?」

「絶対に止めた方がいいです。隠密が得意なミラグロスですら死にかけたのですよ。ファウスティノでは確実に見つかって殺されます」

「私からも許可は出せない。ファウスティノには死なせる訳にはいかないからな」

「なんなんだァ、どいつもこいつもよォ! ミラグロスが生きて帰って来られたなら、俺だって生きて帰って来られるに決まっているだろォ!」


 戦争をする気満々だった兄は納得がいっていないようで、私の発言が嘘と決めつけている。

 兄が勝手に行って、勝手に死ぬのは構わないけど、それが切っ掛けで魔王軍に加わるなんてことになったら嫌だ。


 性格がこんなでも、兄は意外と人望があるからね。

 これは……奥の手を出すしかないかもしれない。


「これが証拠になるか分からないけど、夜刀神と仲の良い人間から貰ったお菓子。驚くほど美味しいから、夜刀神が人間の肩を持つ理由が分かるかも」


 私はそう言ってから、佐藤さんから貰ったお菓子を取り出した。

 本当は私だけで食べたかったけど、兄の暴走を止めるには使うしかない。


「その変な袋がお菓子ィ? お菓子ごときで龍族が味方するとは思えねぇなァ」

「食べたら分かる」


 とは言ったものの、このお菓子に関しては私も食べるのが初めて。

 帰りの道中で食べてほしいとのことで渡されたものだけど、食べずに取っておいて良かった。


 封を開けて、父、兄、姉に手渡す。

 私の分も一つ取り出し、お菓子をじっくりと眺める。


 小動物のフンみたいな色と形だけど、甘い香りがして食欲がそそられる。

 3人は私が食べるまで食べようとしないため、私から貰ったお菓子を口に入れた。


「――美味しい!」


 つい声が出てしまうほど、甘くて美味しいお菓子。

 何より触感が非常によく、空気っぽい感じで嚙む度にクセになる。


「――何ですかこの食べ物は! 驚くほどに美味しいです!」

「本当かよォ。……うまっ! なんだこれ!?」

「……本当に美味しいな。人間の食べ物はこんなことになっているのか」


 父も姉も兄も衝撃を受けており、もう一つ欲しいといった表情で私を見ている。

 数に限りがあるため、本当はあげたくなかったけど……もう1粒ずつ手渡した。


「……ミラグロスを疑っていたが、これは本当に龍族は人間につくじゃねぇかァ。まさかお菓子1つでそう思わされるとは思わなかったぜェ」

「ティルガンシアは人間と争うのはやめましょう。それと、ミラグロスはこの人間とまた接触はできないのですか? このお菓子をもっと食べたいです」

「難しいと思う。ただ、お世話になったから手紙は出すつもり」

「あまり失礼なことをしない方がいいと思うが、現状を打破できる切っ掛けになるかもしれない。夜刀姫と懇意にしているとのことだったし、ミラグロスはその人間とお近づきになれるようにこまめに連絡を取ってくれ」


 父からそう言われたが、私は佐藤さんを利用する気はない。

 単純な好意はあるし、連絡が返ってくるなら頻繁に連絡を取るとは思うけど。


 とりあえず……お菓子のお陰で丸く収めることができた。

 命が助かったのも、美味しい料理を食べることができたのも、ヤトさんから話を聞くことができたのも、話を丸く収めることができたのも、全て佐藤さんのお陰。

 何か佐藤さんにできることがないか、これから私にできることを探し、近い内に何かお返ししたいな。



※作者からのお願い


一日一話投稿のモチベーションとなりますので、この小説を読んで少しでも「続きが気になる」「面白い」と少しでも感じましたら、ブクマと↓の☆☆☆☆☆から評価頂けましたら幸いです <(_ _)>ペコ


つまらないと思った方も、☆一つでいいので評価頂けると作者としては参考になりますので、是非ご協力お願いいたします!


お手数だと思いますが、ご協力頂けたら本当にありがたい限りです <(_ _)>ペコ

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