第113話 夜刀神
結局、生姜焼き定食を各二食分ずつ作った。
豚ロースなので値段は安上がりのお手軽料理だったし、生姜焼きにしたのは大正解だったな。
「はぁー……幸せなのじゃ。家出をして後悔していたけど、この料理を食べられただけで満足じゃ!」
「え? ヤトさんって家出をしてきたんですか?」
「うぬ。親がいないタイミングを見計らって、逃げ出してきたのじゃ!」
「ヤトさんがいなくなっていたら、心配するんじゃないんですか? 探して他の街を襲いまくる――とかはないですよね?」
「うーむ、ない! ……はずじゃ」
そう言ってそっぽを向いたヤトさん。
これは両親のドラゴンが探し回って、被害が及ぶ可能性が出てきた。
もしここにヤトさんがいると知られ、誘拐したと思われたら……焼野原にされるんじゃないか?
嫌な想像が膨らんでしまうため、ヤトさんには早いところ戻ってもらわなくてはいけない。
「ヤトさん! 体力が回復したらすぐにお家に戻ってください! 心配をかけるのもよくありませんし、ヤトさんを探して他の方に被害が出るのもよくありません!」
「うーむ。……分かったのじゃ。本当はもう少しここに居たいけど、恩人の佐藤が言うのなら従う。アシュロスにも謝りたいと思っておったしな」
「ありがとうございます。ご両親の許可を頂けたら、いつでも来ていいですので」
「それは本当かの!? また美味しいご飯を作ってくれるのじゃな!?」
「ええ。その代わり、家出という形は駄目ですよ?」
「分かったのじゃ! 許可を貰ってまた来るのじゃ!」
元気を取り戻したヤトさんは、少し休んでから戻ることを約束してくれた。
ただ、ここがどこなのか分からないようなので、私はロッゾさんとシッドさんにドラゴンの住む場所がどこにあるかを聞きに行った。
2人の話を聞いた限りでは、どうやらずーっと西の方角に進んだところに龍の住む山があるらしい。
確かかどうかは分からないけど、そこが一番可能性が高いとのこと。
「ヤトさん、ここから北に進んだ方角にあるみたいです。ちなみにですが、ヤトさんが住んでいたのは山ですか?」
「うぬ! エデルギウス山という大きな山じゃ!」
「なら、多分合っていると思います。ここから北に進めばあるそうなので、是非行ってみてください。分からなければ、またここに戻ってくれば一緒に探してあげます」
「佐藤は本当に良い人じゃな! 佐藤も一緒に来るか? お主ならわらわの両親も歓迎してくれるはずじゃ!」
「駄目です! 佐藤さんは絶対に渡しません!」
私が返答をする前に、シーラさんが断固として拒否した。
ドラゴンの住む山に行くのは怖いし、元々断るつもりだったけど、シーラさんが断ってくれたのは何だか嬉しいな。
「怖いので行きません……が、いつかは行ってみたいので、そのときは案内してください」
「うぬ! 佐藤とシーラはわらわの初めての友達じゃ! あと、クロウもな!」
「ええ、私達はもう友達です」
可愛らしい笑顔を浮かべているヤトさんと、私は小指で指切りげんまんを行う。
ドラゴンということで、友達らしい友達ができたことがなかったのが、今の発言から想像することができた。
今回、家出したこととも繋がっていると考えると、ヤトさんを責める気には到底なれない。
ここまで話した限りも普通の女の子という感じだし、私達は普通の友達として迎え入れてあげよう。
「ふふふ、わらわと友達……か。佐藤、ありがとう! また近いうちに来るのじゃ!」
そう言うと、ヤトさんの体は一瞬にして大きくなり、ドラゴンの姿となった。
ここで初めてドラゴンということを認識することができたけど、ヤトさんだと知っているから一切恐怖はない。
「ええ、いつでも来てくださいね」
「ヤトさん、また佐藤さんのご飯を一緒に食べましょう」
ヤトさんは私達の言葉に大きく頷いてから、凄まじい速度で飛び立っていった。
なんというか……一番ファンタジーって経験だったかもしれない。
「ヤトさん、本当にドラゴンだったんですね」
「まだ疑っていたのですか? 漆黒の黒い体にヤトという名前。……ヤトさんはきっと夜刀神ですよ」
「夜刀神……? それは有名なドラゴンなのですか?」
「それはもちろん! この世界に生まれた人で、知らない人はいないと思います」
「へー、そんな有名なドラゴンだったのですか。確かにドラゴンの姿は神々しかったですもんね! ……ん? ということは、ヤトさんっていくつなんですか?」
「私にも分かりませんが、私が生まれるずっと前から生きていると思います」
そうだったのか……。
人の姿の時の容姿が幼かったし、性格も子供って感じだったから、てっきり私より年下だと思ってしまっていた。
ドラゴンにしては子供というだけで、実際は何百歳とかの可能性の方が高いということなのか。
どう接するべきか悩みどころだけど、犬の10歳は大人として扱うし、人間の10歳は子供として扱う。
ヤトさんが何歳か分からないけど、ドラゴンとして子供なら子供として扱うのが普通なのかもしれない。
「てっきり年下だとばかり思っていました。ただ、子供ということなら接し方は変えなくていいんですかね?」
「うーん……。特に嫌がっていた様子もありませんでしたし、変わらずで大丈夫だと思いますよ? 人から見たら長生きっていうだけで、ヤトさん自身はまだ自分を子供という認識の可能性もありますから」
「確かにそうですね。また来た時は変わらずに接しようと思います」
「それがいいと思います。でも、本当に凄いですね! 偶然とはいえ、夜刀神がここに来るとは思っていませんでした」
「本当に凄いですことですよね。クロウがお手柄だったと思います」
私はそう言いながら、一緒にヤトさんをお見送りしたクロウを撫でる。
後で魔力塊をいっぱい食べさせてあげるとしよう。
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