第13話 バ美肉おじさんとレベル上げ
久しぶりの投稿
第13話 バ美肉おじさんとレベル上げ
薄暗い森の中を漆黒の鎧が歩いていた。
サイズが合っていないため、その姿は不格好で、ガシャガシャとけたたましい音を響かせている。
背中には凹んだラウンドシールド。
そして鎧の肩には、赤いドレスを纏った美少女が座っていた。
「はい、そのまま真っ直ぐ進んでー。もう少し進むとオークの一団がいるから、そいつらにおっぱい見せるのよー」
「いや、ルジェ……その言い方だと、私が痴女みたいなのだが……」
漆黒の鎧の中から苦情が来るが、美少女は気にせず肩から飛び降り、そのままトプンと影の中へと沈んでいく。
しばらくすると暗黒騎士の前に三体のオークが現れて、暗黒騎士はしぶしぶと胸甲を外した。
「ブヒッ!」
「ブキィッ!」
「ブッヒィイイイイッ!」
目の色を変えたオークたちが走り出し、暗黒騎士は胸甲を戻して背中から外した盾を構える。
走り出したオークは暗黒騎士へと到達する前に、その内の二体が姿を消した。
そして残りの一体は暗黒騎士へと到達するが、盾に阻まれている間に足元から現れた手によって影の中へと引きずり込まれる。
〈――戦闘に勝利しました〉
〈――【豚鬼族・見習い剣士】から15SPを吸収しました〉
〈――【豚鬼族・見習い盾士】から17SPを吸収しました〉
〈――【豚鬼族・見習い弓士】から14SPを吸収しました〉
〈――行動経験により1SPを獲得しました〉
〈――【見習い弓士】の職業スキルがアンロックされました〉
〈――職業【見習い弓士】が選択可能になりました〉
そして代わりに影の中から現れた美少女は、真っ赤な鮮血で頬を汚して、満面の笑みを浮かべていた。
「ナイスおっぱい!」
と、まあ。
これが私とルジェが思いついた作戦である。
「オークがアイラのことしか見ないから、遊撃役としては凄くやりやすいわ!」
アイラのエロい体がオークの注目を集めてしまうなら、それを上手いことヘイト管理に利用してしまおうというものだ。
はぐれオークの巣で見つけた漆黒の全身鎧を身に着けてもらって、普段はエロい体を隠しつつ、必要な時だけ必要な部分を出してもらうわけである。
それこそ露出狂の痴女みたいに。
「役に立っているはずなのに……まったく嬉しくない!」
アイラは不満の声を上げているが、他に共闘できそうな戦い方を思いつかないのだから仕方がない。
「いちいち胸甲を外すのが嫌なら、鎧姿のままでも敵を引き付けられるように努力しなさい」
ルジェの激励に、アイラはがっくりと肩を落とした。
●◇●◇●
それからも、ルジェとアイラは雑魚オークを狙って狩りを続けた。
気配感知で相手の強さをなんとなく察知することができたため、強そうな個体を避け、ひたすら3体以下で活動するオークを狙っていった。
ちょうどいいオークを見つけたらアイラが注意を引き付けて、彼女に殺到するオークをルジェが始末する。
地道な作業だが、大事なのはアイラに無理をさせないことだ。
彼女の能力はゲームで言うところの『タンク』に向いているが、素人の壁役に無理をさせてもケガをするだけだろう。
今のルジェには他人を回復させる手段がないため、今日はずっと雑魚狩りをすることに決めて、その日はけっきょく20体ほどの雑魚オークを狩ることに成功した。
おおよそ1体の雑魚オークから15SPくらい吸収できたから、今の保有魂素量はこんな感じになっている。
《保有魂素量》……327SP
「まあ、初日の戦果としては十分ね!」
拠点に決めたはぐれオークの巣のあたりまで戻ってくると、よほど疲れたのか鎧を着たままアイラがガシャッと地面に崩れ落ちた。
「……これでまだ21体か……このまま順調に狩れるといいのだが……」
兜を外した汗だくのアイラが希望を述べるが、明日以降もずっと今日みたいな狩り方を続けるのは難しいだろう。
オークキングのジャギル様とやらがよほどの馬鹿でなければ、今日のうちに敵が潜んでいることに気づいて、なにかしらの対策を取ってくるはずだ。
「とりあえず、アイラはもう休みなさい。慣れない戦い方をして疲れたでしょう?」
ルジェはインベントリから家を取り出して、疲労困憊の盾役に休憩を勧める。
「見張りはあたしがやっといてあげるから、ゆっくりしてきなさい」
「……すまないが、よろしく頼む」
よほど疲れていたのか、アイラは素直に従って、家の中へと入って行った。
アイラを見送ったルジェは家の屋根へと飛び上がり、夜空に輝く青い月に見惚れてから、全方位を見渡せる位置で見張りを開始する。
「このままじゃキツいわね……」
『ああ』
周囲を監視しながら、ルジェは苦い顔で呟いた。
アイラの戦い方を変えてタンクとして運用できるようになったのはいいけれど、今日の戦法は相手が弱いから成立していたのだ。
今後、はぐれオーク並の強敵が現れたら、アイラが死傷する確率は大きく跳ねあがってしまう。
「……あの子をもっと強化できればいいんだけど…………」
手段を問わなければ、方法が無いわけではない。
【吸血姫】であるルジェの種族スキル欄には、【眷属化】というスキルが表示されており、こいつを取得すればアイラを同族にすることができそうだった。
吸血姫の眷属になれば再生能力も高まりそうだし、壁役にはもってこいの種族だろう。
しかし問題なのは……、
【眷属化】……対象に血液と魔力を与えて絶対服従の従者を創り出す。
眷属にするとアイラの自由意志を奪ってしまうということだ。
もちろん私たちが命令しなければ彼女は自由なままなのだが、それでも眷属化を強いるのは気が引けた。
「……絶対服従とか、絶対エロい命令する自信があるし」
『……まあ、ひとまずはルジェを強化しよう』
どちらにしろアイラの同意がなければ眷属化は行わないから、エロい妄想をやめて、スキル取得画面とにらめっこする。
保険として200SPくらいは残しておきたいが、ひとつくらいは自己強化のためにスキルを取得してもいいだろう。
『欲しいスキルはあるか?』
私が訊ねるとルジェはしばし考えて、
「そうね……MP残量を把握する手段が欲しいわ」
なんともゲーマーらしい提案をしてきた。
まあ、たしかに必要な技能ではあるが。
以前に魔力欠乏の状態異常を経験したことで、私たちはスキルの発動には魔力的なものが必要なのではないかという予測を立てていた。
今日もスキルを使い過ぎると軽い倦怠感が発生することがあり、そのたびに血液を飲んで回復していたのだが、あれも魔力欠乏の前兆だったのだろう。
スキルごとのMP消費量を把握していないのはサポート役としても不安が大きいし、これは迷わず取得してしまおう。
〈――84SPを使用して【魔力感知・基礎】を取得しました〉
魔力を感じようと意識することが多かったからか、取得に必要なSPがけっこう減っていた。
そしてスキルを取得すると、私とルジェが見る世界は大きく変化する。
「うわっ!?」
キラキラした虹色の霧が夜空から大地へと降り注ぎ、その根元を追って上へと視線を向けると、そこには金色の月が輝いていた。
先ほどまでは青い月しかなかった夜空に、いきなり金月が現れたのだ。
金月神という言葉が脳裏を過り、私たちをこの世界へと転生させてくれた女神様のことが思い浮かぶ。
「あー……もしかして、ずっと見てたの?」
ルジェがコテンと首を傾げると、金月がひと際おおきく輝いた気がした。
『とりあえず、祈っておくか?』
「そうね」
そのままルジェは金月へと合掌し、ナムナムと日本式の祈りを捧げる。
「どうか明日も生き残れますように!」
そして私たちの異世界生活二日目は終了した。
〈――行動経験により11SPを獲得しました〉
〈――特殊条件【金月神との邂逅】が達成されました〉
〈――これより世界に対し【使徒】の出現が宣言されます〉
〈――称号【金月の使徒】を獲得しました〉
●◇●◇●
《ステータス》
名前:ルジェ・チノミヤ
状態:健康
職業:【吸血姫】
種族:【吸血姫】
加護:【宵闇と光明の女神】
称号:【金月の使徒(NEW!)】
《装備》
武 器:なし
防 具:鮮血の下着、鮮血のドレス、鮮血の長靴
装飾品:なし
《職業一覧》
見習い:【見習い格闘家】【見習い盗賊】【見習い剣士】
【見習い盾士】【見習い弓士(NEW!)】
初級職:【格闘家】
中級職:【狂戦士】【放浪者】
固有職:【吸血姫】
《取得スキル一覧》
◆職業
【体術・初級】【軽業・中級】【気配感知・基礎】
◆種族
【吸血・基礎】【再生・中級】【操血・上級】
【並列思考・中級】【潜影・基礎】【鋭爪・初級】
【怪力・基礎】【魔力感知・基礎(NEW!)】【聖邪吸収】
◆固有
【金月神の祝福】
《保有魂素量》……254SP




