第12話 バ美肉おじさんは戦術検証しました!
第12話 バ美肉おじさんは戦術検証しました!
ルジェとアイラは周囲を警戒しながら南へと進んだ。
南に行くほど空を覆う樹木の層が厚くなり、森の中の風景が薄暗くジメジメしたものになっていく。
【気配感知】スキルには小さな動物の気配が引っかかっており、体感的にはおよそ100メートルの範囲を探知することができそうだった。
「前方の索敵はあたしがやるから、アイラは後ろをお願いね」
「ああ、それくらいなら任せてくれ」
移動時の陣形はルジェを先頭にして、アイラには後から付いてきてもらっている。
戦闘時もルジェが前衛でアイラには遊撃をしてもらう予定だから、しばらくはこの陣形を主体に活動する予定だ。
そうして拠点から三十分も進むと、気配感知が複数の大きな気配を捉えた。
シダ植物の草陰に隠れながら気配がする方向を注視すると、そこでは3体のオークがブヒブヒと鼻を鳴らして、こちらに向かって歩いてきていた。
おそらくオークの下位種なのか、これまでルジェが目にしてきたオークよりもかなり小さく、全長は1.7メートルくらいだろう。
「3体か…………ちょっと多いかしら?」
相手は前に戦ったオークよりも格下っぽいが、安全を取るなら最初は1、2体を相手にしたいところだ。
戦うべきか退くべきかルジェが悩んでいると、
「私がやつらの背後に回るから、挟撃したらどうだ?」
アイラが鼻息荒く提案してきたので、その作戦を採用することにした。
いずれは彼女の実力も把握しなければいけないのだし、アイラがどこまで戦えるのか、早めに確認しておくのも悪くない。
「……気づかれずに回り込めるの?」
念のためにルジェが確認すると、アイラは自信満々に頷いた。
「任せてくれ、それこそシャドウエルフの得意分野だ」
そしてアイラが目を瞑り、集中力を高めると、周囲にある影が彼女の身体へと纏わり付いていく。
『おおっ……!?』
「これはっ……!」
やがてアイラの顔と手足がすっぽりと影に覆われて、巨乳と巨尻だけが宙に浮いているような状態になった。
「ふふっ……どうだ! これで私の姿が見えなくなっただろう?」
アイラは自分の状態を把握していないのか、完全に闇に紛れたつもりになっている。
「え…………」
『いや……乳と尻がね…………』
たしかに顔は隠れているが、身体の一部が隠れていないせいで、むしろ悪目立ちしている気がするのだが……。
いやいやいや。
アイラはあんなに自身満々だったのだから、これはきっと目の錯覚かなにかだろう。
もしかしたら自分の位置がわかりやすいように、あえて仲間にだけは身体の一部が見えるように設定しているのかもしれない。
いくらなんでもこんな痴女みたいな恰好で、オークの前に出て行く美少女なんているわけがないのだ。
「……気のせいよね……きっと気のせいよ…………」
ルジェはブツブツと頭を振って、脳裏を過った邪念を振りほどく。
今のアイラを見ていたら、オンラインゲームで地雷プレイヤーと組んだ時のような不安を感じたのだが……これもきっと気のせいに違いない。
「私がやつらを裏手から急襲するから、ルジェもそれに合わせて動いてくれ」
乳と尻だけになったアイラがカッコイイ台詞を残して移動を始める。
闇の中に浮かんだ巨乳と巨尻がオークに向かっていく光景は、あまりにも非現実的で、嫌でもそちらに意識が持っていかれた。
「ブヒッ!?」
「ブゴッ!?」
「ブホォッ!?」
そして意識を持っていかれたのは私たちだけでなく、3匹のオークたちも同様だった。
「気づかれてるわよね……」
『ああ……オークたちも乳と尻をガン見している……』
「あれはああいうネタなのかしら……?」
『いや、それは痴女としてハイレベルすぎるだろ……』
幸いにもオークたちは宙に浮かんだ乳と尻に見惚れているため、今のところは騒がれそうにないが、アイラが性的な意味で襲われるのは時間の問題である。
「あの子……まるで潜伏の才能がないわ……」
どうりで幼女からクソ雑魚扱いされるわけだよ……。
むしろあれを真剣にやっているとしたら、お笑いの才能があるかもしれない。
オチまで見たい気もするが、このまま放置しておくわけにもいかないため、ルジェと私は急いで戦闘態勢を整える。
私はルジェが手にしていた錆びた剣と、インベントリから取り出した数本のナイフと包丁を、【操血】スキルで宙へと浮かべた。
ルジェは腰を低く落として、いつでも飛び出せる体勢になっている。
ちょうどアイラが呆然とするオークたちの横を通り過ぎたおかげで、敵さんの視線はこちらから外れているし、今のうちにアンブッシュしたほうが有利に動けるだろう。
『左右は私が殺るから、真ん中を頼む』
「おけ」
短く互いの動きを確認して、私は血塗れの刃物を飛ばした。
上級まで成長した操血スキルによって鋼鉄の刃は凄まじい加速を得て、左右にいるオークの肺や喉へと突き刺さっていく。
「ギッ!?」
「ガッ!!?」
空気の通り道を潰されたオークから短い濁音が漏れるが、彼らが発することができた音はそれだけだった。
仲間の異変に気づいた真ん中のオークも叫ぼうとするが、
「――【鋭爪】【怪力】」
口を開く前に、背後から強襲したルジェの手刀によって喉を貫かれる。
そして【操血】によって大量出血したオークたちから血液を吸い取れば、あっという間にオークを無力化することに成功した。
〈――戦闘に勝利しました〉
〈――【豚鬼族・見習い剣士】から16SPを吸収しました〉
〈――【豚鬼族・見習い剣士】から15SPを吸収しました〉
〈――【豚鬼族・見習い盾士】から18SPを吸収しました〉
〈――行動経験により2SPを獲得しました〉
〈――行動経験により【鋭爪・基礎】が【鋭爪・初級】へと成長しました〉
〈――【見習い剣士】の職業スキルがアンロックされました〉
〈――【見習い盾士】の職業スキルがアンロックされました〉
〈――職業【見習い剣士】が選択可能になりました〉
〈――職業【見習い盾士】が選択可能になりました〉
獲得できたSPも【豚鬼族・放浪者】の1/10くらいだったし、やはり今のオークたちは下位種で間違いないようだ。
ひとまず敵が弱かったことに胸を撫で下ろし、こちらにプルプルと寄ってくる乳と尻を出迎える。
「おいっ! ルジェ! これはどういうことだ!? 先に私が攻撃する計画だっただろうっ!」
イラッとしたルジェは影の中に浮かぶデカ尻を、
「あんたがクソ雑魚だからケツ拭いてやったんでしょうがっ!」
思いっきりぶっ叩いた。
「ひぎぃっ!?」
●◇●◇●
その後。
お尻に小さな紅葉を作ったアイラから事情聴取を行うと、彼女が潜伏を苦手としている理由はすぐに判明した。
「……は?【サキュバス】の力!?」
涙目のアイラから漏れ出た単語に、ルジェが思わず訊き返すと、アイラは顔を真っ赤にして「これだけは言いたくなかったのに……」と、恥ずかしそうに答える。
「うぅ……私の父はシャドウエルフだが、母親がサキュバスの上位種で……だから私には超強力な【魅了】の魔力が宿っているんだ……私のお乳とお尻が隠せないのは、おそらくそのせいだと思う……」
なんでも彼女の種族はシャドウエルフとサキュバスのハーフらしく、それが原因で影を纏うことが上手にできないのだとか。
「なるほどねぇ……どうりで乳がデカいわけだわ……」
「……いや、それは父方の祖母に【乳牛人】がいるせいだが…………」
次々と出てくるエロ要素に、流石のルジェも呆れるしかない。
「やっぱりあんたエロフじゃん」
「エロフではないっ!!」
しかし困った。
ここまでアイラがクソ雑魚となると……いっしょに戦うこと自体が難しくなってしまう。
ただのエロフではオークに勝てないだろうし、今ならエルフ村の皆さんが彼女を必死で止めた理由がよくわかった。
「とりあえず、今のアイラはクソ雑魚よ。そのことだけはしっかり認めなさい」
「うぅ~……体術なら自身があるのに…………」
「……寝技が得意なの?」
「変な邪推をするなっ!? ……いや、まあ、得意だけれども……」
たしかにアイラの寝技は凄そうだが、森の中では使えないから他の戦い方を考える必要がある。
どうしたもんかなー、とルジェが顎に手を当てて悩んでいると、アイラは乾いた笑いを発して呟いた。
「ハハッ……なんならいっそのこと、私がオークたちを身体で釣ろうか……? この無駄にエロい身体が貪られている間に、ルジェがとどめを刺せばいい……」
その呟きを聞いたルジェの脳裏に、ピコンと昭和の豆電球が灯る。
「そいつは悪くないアイデアねっ!」
「え……?」
そして顔を青褪めさせるアイラへと、ルジェはメスガキの笑顔を浮かべて宣言した。
「キャハッ! 今からアイラには、黒くて硬くて大きいのをプレゼントしてあげるわ!」
「えぇ…………」
●◇●◇●
新規取得職業:【見習い剣士】【見習い盾士】
《職業一覧》
見習い:【見習い格闘家】【見習い盗賊】【見習い剣士】【見習い盾士】
初級職:【格闘家】
中級職:【狂戦士】【放浪者】
固有職:【吸血姫】
《取得スキル一覧》
◆職業
【体術・初級】【軽業・中級】【気配感知・基礎】
◆種族
【吸血・基礎】【再生・中級】【操血・上級】
【並列思考・中級】【潜影・基礎】【鋭爪・初級(UP!)】
【怪力・基礎】【聖邪吸収】
◆固有
【金月神の祝福】
《保有魂素量》……51SP




