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27.とりあえず、旦那様に丸投げしよう

 困ったような困惑したような、想定外の事が起こったかのような顔をしてわたしを呼ぶミシェル。

 一体何事かと思って、店の外に出ると、その光景に言葉をなくす。


 というか、これどういう状況よ?


 店の前には、先ほど出て行ったイリーガル、そしてムッとしているカルナーク。

 それに――……。


「ロザリモンド様、マードックさん! あの、これはどういうことでしょうか?」

「様子を見に行く途中で、戻って来る三人に会った。事情を聞きたいのはこっちの方だ」


 イリーガルが肩をすくめる。


「村の奴らも一緒だったが、今日の所は家に戻ってもらった」


 さて、一体どういうことなのか。

 ロザリモンド嬢に聞いたところで答えが返ってくると思えないので、マードックの方を見る。

 全員の視線が彼に行った。

 

「見間違えたんだ」

「えっと?」

「カルナークは俺と彼女が一緒にいたところを見ていたが、目を離した一瞬の間に姿がなくなっていたから、てっきり炭鉱の中に入ったんだと思ったんだそうだ」


 カルナークの説明では、ロザリモンド嬢が中に入って行って、それを追いかけてマードックが中に入って行ったという事だったが、ロザリモンド嬢への心象が悪い結果、自分勝手に振る舞い勝手に中に入っていたと悪意ある方に考えたという事らしい。


「俺は彼女が一人で現れたので、行動を共にしていた。森も今は危険だったからな」

「この方はとても親切でしたわ」


 にこりと微笑むロザリモンド嬢に、ミシェルが疑問を投げかけた。


「そもそもどうやってこちらに? 馬車が無ければここまでは来れないかと思いますが?」

「準備してくださいました」


 誰が?


 そう問いたくても、なぜかそれを口に出すのが躊躇われた。

 ロザリモンド嬢が今まで見たことが無いような目でこちらを見ていたからだ。

 何か、訴えたいような、でもここでは出来ない、そんな感じだった。


「彼女は中に入りたがっていたが、危険だったので周辺を見せていた」

「わたくしだって一人で入るような無謀はしませんわ」

「その言葉を誰が信じるんだよ」

 

 カルナークが刺々しく返すが、ロザリモンド嬢はそんなカルナークの態度に気分を害すどころかふふっと笑う。全く気にしていなさそうだ。


「いい意味で色々と分かりましたので、わたくしとしては満足です。それに貴重な体験もできました」


 その色々をぜひ聞いてみたいけど、聞いたら聞いたで頭を悩ませそうなので聞くのが怖い。


「まあ、でも被害者は誰もいなかったという事は喜ばしい事だと思いますよ」


 この先は旦那様の判断待ちという事らしい。


「ちなみに、旦那様には?」

「すでに伝令を送りました。出発直後ですからすぐに戻ってくると思いますが、どんな顔で戻って来るんでしょうね?」


 あー……うん。

 絶対に言えることは、無事でよかったなんてにこやかに笑っている姿なんて想像できないって事だけどね。


「ああ、そうだった。森の事だが――」


 この状況下でもマードックは報告はしっかりするようだ。


「やっぱり何かいるな。こちらの様子を窺っている気配を感じた。だが、敵意があるかというとそうでもない。だからと言ってこちらを襲ってこないとは限らない」

「警戒は必要という事だな」

「この地は北に位置しているし、あまり食料が豊富とは言えない。どこからか勢力争いで追い出されてきたのなら、ここに居つく可能性はある」


 イリーガルはマードックの言葉を信用している様だ。

 正体が分かっても、そこの信頼関係は崩れていないらしい。


「なんだ?」

「いえ、信頼しているんだなと」


 わたしの言葉に何とも言えない顔になって、ふいっと顔を反らせた。


「こんな時に嘘をつくような奴じゃないからな。真面目なやつだから」


 長い間に培われた関係だという事だ。


「まあ、でもその野生動物も領主様がどうにかしてくれるかもしれないけどな」

「……なるほど」


 一瞬顔をしかめたマードックの姿に、イリーガルが睨んだ。


「あの人が来たんだな」

「認めるのか」

「はじめから隠していたわけじゃないが、話さない方がいいこともある。お前は知ったら排除すると思った、当時は特に」

「そうだろうな。結果として、それは正しかっただろうな。おかげで比較的安全に掘れたし」


 感謝する反面、もどかしい思いもあるようだがお互い感情的になって殴り合いで解決するような性格でもない。

 静かな対話は結局お互いの事を認めていた。


「悪かった」

「謝られるようなことはされてない。嘘つかれていたわけでもないしな。こういうのは、お互い様なのかもな」

「俺はこの先もこの村で暮らしたい」

「俺が駄目だという権利はないな」


 マードックは黙っていたことに後悔はしていなかったようだが、知られた時の事も覚悟していたようだ。


「そうか」


 男二人の間で話はまとまった。

 そんな二人を見てロザリモンド嬢がまたとんでもない事を言い出した。


「わたくしもここで暮らしたいですわね」


 と。


「お前――!」


 どうどうカルナーク。

 絶対無理なのは分かっているから、落ち着いて。


「リーシャ様は無理だと思いますか? わたくし、頑張ってクロード様を説得します」


 にこやかな決意は、どことなく本気だ。

 果たして、旦那様が了承するか……。


 許可しなさそうだけど。


「ちょうど戻って来たようですし」

 

 その言葉に驚いてロザリモンドの視線を追いかけると、確かに馬車が戻ってきた。

 えっ! 早くない!?


「僕、さっき伝令送ったばかりですよ。こんなにすぐに戻って来るなんて近くにいたとしか考えられないんですけど……」

「何かあったとか?」

「何があったんでしょうね?」


 わたしに分かるわけないよ、ミシェル。

 でも、とりあえず問題発言をしたロザリモンド嬢を止めることが出来るのは旦那様だけなので、全部お任せしましょう。




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