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10.暴露の恋愛対象

「リーシャ様、お座りになって。きっとそのうちさっきの騎士が戻って来ますもの。立っていても疲れますわ」


 肝が据わっていますね。

 むしろ、なんかとっても楽しそうで何よりです……。


 まずはわたしに説明どうぞよろしくお願いします。


「ふふふ、リーシャ様は皇宮内――というよりも社交界の繋がりに疎いですものね。少しご説明しますわ」

「ぜひお願いします」

「まず、先ほどの騎士は皇女殿下の護衛騎士です。よく連れまわしているので、すぐに分かりました。皇女殿下はリーシャ様は知らないと思っておいでなんですね。間違いではないですが、わたくしが一緒だという事は想像できなかったようですね」


 確かにわたし一人だったら、警戒しつつも信じると思う。

 だって、まさか近衛騎士がこんな事するって思うはずないでしょ?

 一応騎士様よ?

 高潔な騎士様――なんてこの世にはいないのね。

 分かってた。

 だって騎士様も人だものね……。


 でも、ミシェル嬢?

 あなた、知っていて付いて行ったの?

 もう巻き込まれる気満々だったんじゃない!

 教えてよ! 巻き込まれる前に回避するからさぁ!!


「これは良い機会なのです、リーシャ様。千載一遇の。さすがにリンドベルド公爵夫人に手を出してしまったら、両陛下でも皇女殿下を庇う事は出来ないでしょう。公爵閣下もお許しにならないでしょうし。ふふふ、リーシャ様は愛されておりますものねぇ」


 いえ、全く。

 愛されているどころか、旦那様に非道なことされていますけど?

 え、周りから見たら、愛されているように見えるわけ?


 あー、でもそっかぁ。

 お茶会ではそう見えてもおかしくないわ。

 一応わたしの事庇っていたし、手を出すなって牽制してくれてたしね。


「それとイブリード卿というのは皇女殿下の崇拝者筆頭です。皇室派ではありますが、過激派でもあるので、皇女殿下の憂いを取り除くのは自分の務めだと自分に酔っている少し妄想癖のあるお方ですね」


 辛辣ですねぇ。

 でも説明ありがとうございます。


 そんな敵陣地にわざと乗り込んで楽しそうにしているミシェル嬢、わざと乗り込んだんだから、何か考えがあるんだよね?


「ミシェル嬢、このままここで誰か来るのを待つのですか?」

「正直、少し肩透かしですの。お部屋の中ですでに幾人もの殿方とかいらっしゃって、わたくしどもを手籠めにしようと企んでいるのかと」


 えーと、それは小説の読みすぎでは?


「ほかにも、意識を失わせてどこかに運ばれるとか、奴隷として売られるとか……」


 それは今はやりの小説の展開ですよ……。

 わたしも侍女たちに勧められて読みましたので、分かっていますとも。


「と、まあ冗談はさておき、公爵閣下がいいタイミングで来てくださるとよろしいんですけど」


 ……え? これもしかして旦那様の仕込みなの?

 もしかして、わたしをおとりに使っているの?


 ありえる。

 あの旦那様ならありえる……。


 皇女殿下と戦わなくていいって言ってたけど、おとりにしないなんて言ってない。

 ミシェル嬢、あなたを信じてた。でも旦那様のお味方の可能性が高まったわ……。


 せっかくお友達になれると思っていたのに。


 というか、あの男!

 もしそうなら、お茶菓子一年分じゃ割に合わないんですけど!?


「あら、戻ってきたみたいですね」


 戻ってきたみたいですね、じゃないですよ。

 もう、どうしてそんなに楽しそうなんですかね?

 

 がちゃっと鍵の開く音と同時に開く扉から男性が三人ばかり入って来る。


「あら! 当たらずとも遠からずですね! はじめにいるのではなく、後から来るが正解だったようですね!」

「そうですね……」


 わたしは一体どこに突っ込んだらいいのやら……。


「おやおや、悲壮感が漂っているのかと思えば、のんきな事だ」


 一番前にいるのは――……ってすごっ!

 ゴテゴテ着飾って、物理的に輝いてる。

 なんていうか、逆にすごすぎて、語彙力無くなるというか、びっくりだよ。これが本当の言葉を失うって事なのかぁ! 違うけど。


「リーシャ様! あちらの先頭にいる方がイブリード卿ですよ。すごいでしょう?」


 こそっとミシェル嬢が教えてくれる。

 うん、すごい。

 ある意味、彼すごく目立てていいね。それでぜひ皇女殿下を振り向かせてください。


「何を話しているんだ!」


 声を大にしてイブリード卿という人物が怒鳴る。

 ここは普通怯えるところなんだろうけど、なんでだろう? 全然怖くないんだけど……。

 むしろ呆れる? いや馬鹿馬鹿しい? うーん……とにかく早く終わんないかなぁって気持ちが大きい。


「いいか! お前たちのような下賤な女を僕がわざわざ相手してやるんだ、光栄に思うがいい!」


 今度はわたしからこそっとミシェル嬢に聞く。


「この人の身分は?」

「宮廷伯の三男坊で、切り捨てるにはちょうどいい感じの人ですね」


 なるほど、なるほど。

 でもね、ミシェル嬢。


 一応わたしたち非力な女子。

 男三人がかりで来られたら、さすがにちょっとまずいんじゃないかなぁっと思うんだ。

 その辺どう思う?


「おい、お前たち。そこの女どもを押さえろ! まあ、見た目だけは僕の相手にはふさわしいから、我慢してやろう」


 いえ、結構です。

 

 ミシェル嬢をちらりと見れば、相変わらず微笑んだまま、突然すくっと立ち上がる。

 そして、近づく男たちからわたしを守るように、その前に立った。


「わたくしは結構です、そもそも男は趣味ではありませんので」


 えっと、ミシェル嬢?

 今、男は趣味じゃないって言いました?

 

 見上げる横顔は、なんだかとっても凛々しく勇ましく見える。


「わたくし、正真正銘恋愛対象は――女性でしてよ!」


 ミシェル嬢は声高に自分の性癖暴露して、手に持つ閉じた扇を近づいてきた騎士のみぞおちに思い切り突き刺した。

 さすがに騎士と令嬢。

 それなりに鍛えているであろう、騎士には大した事ない攻撃。

 力の差は歴然、そんな軽い攻撃では――――と思っていると、騎士がいきなり昏倒した。


 あ、あれ?



 

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